27話 油断大敵死亡の元(私が言うか)
隙か油断かは知らないが、気づいた時には殺してた
顔が犬の奴だ
その良い毛並みが、血によってどす黒く染まっていく
そういえば前に[魔封じの首飾り]の効果を打ち消したことがあったよな
あの時はどうやったんだっけ?
〖あの時は私が制御してましたね。今回もやりましょうか?〗
とりあえず後で頼むな
〖了解しました〗
さて、彼らの様子を見てみると、何が起きたのかわからないって顔してるな
「ワンコロ!!」「貴様ぁ!!」
とはいえ理解することのできる頭は持ち合わせているようで、血相を変えて臨戦態勢に入りだした
というか、え?ワンコロ?
こいつの名前だとしたなら、なんともお笑いだな
思わず笑いそうになったが、それだと怒りを買ってしまうかもしれない
ここは落ち着いて、剣を構え、
「ぷほっ」
やっぱ無理だ
短い空気漏れのように、笑い声が出てしまった
それが彼らの逆鱗に触れたようで、彼らの目にようやく殺意の火がともった
よかったよかった、本気じゃない相手となんか戦いたくないもんな
「じゃあ、戦ろうか」
[魔封じの首飾り]を封印した
と同時にそれはそれは濃厚な妖気が溢れだした
そこでやっと彼らは気づいたようだ
自分たちが相手にしていた存在の強大さを
自分たちが招いた愚かさを
その証拠に、彼らの目からは怒気が消えうせていた
そこに残っているのは後悔と絶望だけだろう
中には腰を抜かした奴や、悲鳴を上げて逃げ出そうとしたやつもいた
でも、もう遅い
紅色の球体が、無慈悲に逃げようとしていた男の胸元を貫いた
一瞬、胸に手を当てて苦しそうにすると、そのままがっくりとうなだれるように動かなくなった
「で、次は誰が死ぬ番だ?」
笑顔で、彼女のように笑顔で人を殺した
そういえば『死神』での殺人を除いたら、初めて人を殺したことになるのか
何だろうな、人殺しって
こんなに、簡単なことだったのか
そう思っている俺は、彼女と同類なのかもしれないが
それでも大丈夫だろう
だって俺もすでに、狂っているのだから
さて、軽く笑いかけるのはどうやら失敗だったようだ
どうも、相手が諦めたらしい
まったく、この笑顔が彼らにはどう見えたのだろうか
悪魔、いや鬼かもしれない
どんな化け物に見られていたのかは知らないが、さすがにもう人として見下したりなどはしていないだろう
逆にこんな圧倒的に追い詰められた状況でそんなことをしていたら、かなり肝が据わっているか、ただの馬鹿かだ
ともかく、人以上の鬼以上の悪魔以上の恐怖の対象として見られてしまったのは、ある意味嬉しい誤算だった
なんせ、殺す手間が省けたのだから
彼らは何かに憑りつかれたのように持っていた小刀で腹を切り裂いた
まさか自決用の刀まで持っているとは驚きだが、そこまでする必要はあるだろうか
こんな一兵士がそんな大層な情報を持っているわけでもあるまいし
まあいい
おっと、まだやることが残っていた
先程殺す手間が省けたとは言ったが、腹を切ったぐらいで人は死なない
さらにここは異世界だから、少し目を離した隙に回復されて逃げられる、なんてこともあるだろう
そんな可能性がないとしてもかわいそうではないか
ちゃんと切腹をした後は介錯をしてあげないと、な
スパンッ、スパンッ、スパンッ、と
初めの人は少し失敗してしまったが、剣を痛めることもなく介錯することができた
そして肉体から離れた彼らの顔は―――
人のものとは思えない、恐怖に包まれた異形の表情をしていた
さて、どうせすぐ応援が来るだろうから、さっさとリリムさんを見つけよう
剣をいったん分解すると、適当な物陰に隠れた
そうだ『善意』さん
〖何ですか?〗
服って変えることできるか?
〖服、ですか。可能ですよ〗
じゃあ変えてくれ、今更だけどこの服動きにくいんだよな
高そうではあるけど
〖なら早く言ってくださればよかったのに…… まあいいです。動きやすそうな服だと、そうですねバトルドレスとかどうです?〗
バトルドレスか……
女性らしくていいかもな
じゃあそれで
〖了解しました。じゃあ始めますね〗
その開始とともに、俺は全裸になった
いや別に脱ぎたがりとか露出癖とかそういう変わった趣味は持ち合わせていない
それだけは先に言っておこう
うん、当然と言えば当然だ
だって服を作り変えるんだ
一時的に服がなくなることぐらい当たり前じゃないか
しかし恥ずかしながら、この時の俺はそのことを理解していなかった
ならその時俺はどうしたかって?
そんなの、決まっているだろう?
急に全裸になったら、たとえ男だろうと女だろうと誰一人の狂いもなくこの反応をするはずだ
つまりは叫んだ
しかも結構大きな声で
このとき、もし未来の私が過去の俺と話すことができたのなら、
「いや、お前ホラー映画のヒロインにでもなったのか?」
なんて言って苦笑してみたいものだ
とはいえこの状況でまともに話ができるとも思えないし、それ以前にこれでは敵が来てしまう
羞恥心と焦りが俺の中で一致団結を果たしたころ、とても長いようで短かった全裸タイムが終わった
〖できましたよ。バトルドレスです〗
ところで疑問に思ったことがある
『善意』さんが作ってくれた服
それはとても女性が着るようには見えない、どう考えても軍人が着るような服だった
さて、ドレスってなんだったっけ?




