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英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
失われし憤り編
46/68

25話 これから毎日家を焼こうぜ

 バイクの運転は、そんなに甘くなかった

 一分程度でちゃんと制御できるだろうと思ったが、まぁ前述の通り失敗に終わってしまった

 ところで皆さんは、バイクで転んだことはあるだろうか

 それも足を擦るように

 俺はある

 しかも今だよ今!!

 もうなんか文章では形容できない(というかしたくない)有様になっている

 再生こそあるものの、それを間近で見た時の喪失感というか、拒絶反応がすさまじかった

 腕一本足一本どころか、首一本持っていかれたことのある俺ではあるが、無くなる怪我より残る怪我の方が恐ろしいって、初めて認識できた

 なんだったか、ふと事故防止の標語が頭をよぎった

 そんなことはともかく、やっと目的地に着いたわけだが、ここは思ったよりは村々しかった

 どうやらここは目指していた街ではなかったようだ

 とはいえさっきの焼け野原とは大違い

 なぜなら数軒だけとはいえ家はちゃんとその形を保っているのだから

 さて人はいるかな……

 適当にそこらにある家屋の扉を軽く開けた

 と同時に、家からありえないほどの悪臭が放たれた

 とっさに服で口元を覆うと、後ろに跳ねた

 何だよこの臭い!

 まるで姉ちゃんの部屋じゃないか!

 その臭いというのはとても独特で、どこか印象的だった

 まさか、な……

 ここに入るのは全力で遠慮しておきたいが、においの発生源はつぶしておきたい

 数秒の葛藤の後、意を決して家に入ることにした

 何か出てこないかを注意しながら、半開きになっている扉に手をかけ―――――

「ガタンッ!」

「ーーーーっ!!!!」

 俺は声にならない悲鳴を上げた

 突然、扉は重力に身を任せるように地面に倒れこんだのだ

 再びバックステップを決め、恐る恐る倒れた扉に近づく

 調べてみると、この臭いが原因かどうかはわからないが、蝶つがいが腐っていた

 口に服を当てていて呼吸しづらいという要因もあるだろうが、俺の心臓はもう限界に近かった

 胸に手を当ててみると、彼はいつもの分間70ビートを正確に刻んではいない

 乱れに乱れ、全身の血管が燃えるように熱くなっている

 落ち着け、こういう時はあの言葉を使おう

 誰の家でも簡単に侵入できるあの言葉

 まさかここ異世界で使うことになるとは思わなかった

 一回、二回と深呼吸し、そして、

「ちわっす、三河屋です!!」

 と、体育大会ではよく見る選手宣誓の如く右手を大空に掲げながら俺は住居に侵入した

 そこで待っていたのは、一家全員の顔が同じな海鮮家族、なわけなかった

 そこで待っていたのは、まあ予想通り血にまみれた死体の山だった

 


 

 今度は絶句した

 さっきの選手宣誓が馬鹿らしくなってくる

 とはいえ別に、死体の山に驚い(ビビッ)たわけではない

 というかむしろ落ち着いていた(・・・・・・・)

 落ち着いている俺に、俺自身が恐怖し(ビビッ)ていた

 どうやら俺の心臓はワラキアの王様みたいな趣味をしているらしい

 自己のプロファイリングを終え、気分を切り替えて気配をうかがってみるが、死体が動くようなことはなかった

 ……不死者アンデットみたいなのになられても困るし、処分するか

 家の中をあちこち探しまわってみると、都合よく油らしき液体とジッポーに似たものを見つけた

 これで焼けるだろうか

 とりあえず瓶のふたを開き、そのまま死体の山に投げつけた

 いい感じにしみ込んだのを確認すると、ジッポーに火を灯――

「カチッ」

 あれ?

「カチッ、カチッ、カチッ……」

「……空じゃねーか!!」

 とうとうしびれを切らして、ジッポーを床に投げつけた

 代わりになるものがないかと再度調べてみるが、結局このジッポーの相棒であろう数本入った煙草の箱しか見当たらなかった

 もーいいか、『善意ジキル』さん

〖……あー、マスター?〗

 急にどうした?

〖そのジッポー、あのバイクと同じでマナを燃料にしてるんですけど……〗

 ア、ソウナノ? 

 『善意ジキル』さんの言うことを信じて、床に転がっているジッポーを拾い上げ、バイクと同じ要領でマナを込めた

 そして、もう一度ホイールを回す

「カチッ」

 今度はうまくいき、ジッポーからは太陽のようにぎらぎらと燃える炎が現れた

 というか早く言ってほしかったな、その情報

{黙ってる方が面白いだろ?}  

 そっちはな?

 ともかく、火のついたジッポーを死体の山に投げ込んだ

 ほんの数秒で火は油に引火し、ゆっくりと死体を包んでいった

 そして家屋は激しい熱気に包まれた

 まさかこの異世界でサウナを体験できるとは思わなかった

 さて、この死体に混ざりたくはないので、さっさと退散させてもらうとしよう

 土産として煙草をポケットに入れると、その場を立ち去った




 立ち去ったとはいっても、まだ確認作業は残っている

 まず誰が殺したか、だ

 集団自殺の線も考えたが、ああやって積み重ねられていたのは少し違和感があった

 自殺にしては床がきれいすぎた、と言うべきだろうか

 まるで別の場所で殺された後、ここまで運ばれたかのように……

 試しに2軒目の家も見ていることにした

 …………おっと、少し冗談交じりに言ったつもりが本当だったようだ



 家の中では、さび付いた鉄のにおいを放った、人の形をしたもので出来た山があった

 

 

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