22話 幻痛
……ん?もう朝か
まぶしい日差しが俺の目元を照らし、俺の意識は目を覚ました
けど何でだろうか
体を起こそうとしても、腕や足がうまく動こうとしない
何かに縛られているわけでもないのに、なぜ動かないのだろうか
……理由は、すぐわかった
「あ、あぁぁぁぁ!!!」
両腕が、両足が、まるでそこに何もないのが当たり前だと言うように消滅していた
短い悲鳴を上げると、傷口がチクリと痛んだ
「くぁっ……」
必死に悲鳴をこらえ、俺は思考する
いったいどうなった
ここはどこだ
しかし、必死に考えようとしても、答えのない問ばかりが頭の中を埋めていく
と、そうやって呻っていると、突然頭上から扉の開く音がした
「り、リリムさんか?」
おそらく人であろう相手からは返事がなかった
ただ、不気味に鳴る床の軋みだけが聞こえている
首を傾け周りを見てみても、部屋にはだれもいなかった
床の軋みは、俺のすぐそばでやんだ
「………ごめんね、真司」
突如として、彼女は現れた
誰もいなかったそこに、泣きながら現れた
「なんで、なんでいるんだ……」
痛み何かもうどうでもよくなって、俺は無い腕を動かし起き上がろうとした
そうやってもがいていると、突然頭に強烈な痛みが走った
視界はだんだんと暗くなっていく
なんでいるんだ
なんで、なんでここにいるんだよ
「姉ちゃん………………」
そこで視界は閉ざされた
間違いない、というより間違えられない
そこにいたのは紛れもない、堀山智里本人だった
「っぐぁ!!」
その第一声とともに、俺は跳ね起きた
腕は、ある
足もちゃんと残っている
あれは夢だったのかそれとも、実際に起きた現実なのか
今になってそれを知る術はないが、それでもあれが現実となってほしくはない
いや、でも……
なんて情けないことを考えていると、背後からドアの開く音がした
姉ちゃんか!?
少しびくつきながらも振り返ると、
「お、やっと起きたみたいだね。いや~ごめんごめん。これは全部私の責任だよ」
そこにはいつもみたいにへらへらと笑っている、魔王さんが立っていた
「なんだ、魔王さんか……」
「なんだとはご挨拶だねぇ。何ならリリムとかのほうがよかったかい?」
「いや、逆にあんたの方がゆっくりできるよ」
「それならよかった。でも、3日も眠ってしまうとは思わなかったよ」
「3日?結構眠ってたんだな、俺」
……あんまり聞きたくはないけど、聞いておくか
「なぁ、その……」
「残念ながら49人だ」
「……さっきも思ったけど、よく覚えてるな。死んだ人の数」
後察しもいいな
「これでも魔王だからね。それに悪魔でも、平和は望むものさ」
「平和なぁ……」
確かにこの町の人は、みんな笑顔で輝いてたな……
この人、いっつもおちゃらけてるように見えるけど案外すごい人かもな
「君も人の上に立てばわかるさ。しっかし、ほんと彼女と瓜二つだな」
「彼女って?」
その問いに魔王さんは何も言わず、向かい側の壁に設置された鏡を指さした
見ろってことであってると思うが、でもなんで鏡なんか……
頭の上で?マークを量産しながら、鏡をのぞいてみると、
「え……。誰だ、これ」
見覚えのない顔が映っていた
これが俺か?
確かに俺の顔だと言われれば、少しばかり橋谷楼花の面影はあるおかげか、そうだといえるだろう
しかし、以前の俺とは別人のようだ
目の色は変わってないが、髪は碧く変色していて、何より顔が少しばかり女性らしくなっている
「まさかそこまで似るとはね。リリムも驚いていたよ」
「驚くって……。俺はいったい誰に似ているんだ?」
そういうと魔王さんは目を閉じて、何か大切なものでもを思い出すように言った
「『夜叉姫ミルヴァ』、彼女はそう呼ばれていた。私の、そしてあの魔王 ルスス君の数少ない友人さ。そしてリリムの親友でもあった」
リリムさんの親友……
「でもなんで俺にその名前を……」
「雰囲気が似てるから、だってさ。それほどに君は彼女にとって大きな存在ってことだよ」
「そのせいで俺はそのミルヴァって人と瓜二つになったとでも?」
「だろうね。どうせだ、名前も見た目も一緒だし、彼女の影武者として、生きてみたらどうだい?」
「冗談がきついな。俺はそのミルヴァって人じゃない。代替品になることはできても、彼女になることはできやしないさ」
「そうかいそうかい。だけどこれだけは覚えておきな。リリムにとっては彼女も君も、同じぐらい大切な仲間だってことを」
それだけ言うと魔王さんは部屋を出ていった
大切な仲間か……
たった三日の付き合いなのに、それほど大きな存在になるか?
{あの人にとってはそうなんじゃないか?人の感覚なんてものは、本人にしか分からないものだからな}
そうなんだろうな~
そういえばさっきから気になってたんだけどさ
{なんだ?}
これ、『あれ』だよな?
そう言って俺は胸元に2つある、大きな塊を指さした
{まあ何とは都合上言えないが、『あれ』だろうな}
何があったかはわからないが、この3日の間に色々とあったようだ
そうやって、『あれ』を眺めたり、触ったり、揉んでみたりといじくっていると、
「そういえば、先にリリムは向かったからね……って、何してんのさ」
魔王さんが戻ってきた
しかも一部始終をばっちりみられた
「えっいや、あの、これは……」
顔を熱くしながら、俺は弁解を始めようとする
「まあ中身は男の子だからね。うん。大丈夫大丈夫。私は誰にも言いふらしたりとかはしないから」
そうやって真顔で魔王さんは今度こそ出ていった
あーびっくりした……
というかちょっと待て
さっきリリムさん先に行ったって言ってたような……
もう恥ずかしさなんてどうでもよくなってきた
駄目だって
駄目だってそれやっちゃ
だってそれってさ
完全に事件巻き込まれフラグになるじゃん




