表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
失われし憤り編
40/68

魔王目録 『嫉妬』の章

なんとなくの2本目です

 今から1000年以上も前のこと



 彼、いや彼女も、元は悪魔族デーモンだった

 彼女はある日、一人の騎士に召喚(よば)れた

 騎士の名は グレゴリトル·ビラチヤ

 彼は悪魔族デーモンに力を欲した

 彼はある一国の騎士だった

 彼の父親は聖騎士で、彼は父を尊敬し目標としていた

 しかし、彼は精霊に好かれず、大いなる力を手に入れることは無理だった

 そんなとき彼はある一冊の本が目に入った

 それは、悪魔を使役し、恐れられた魔人に関する物語だった

 彼はそれを参考に、悪魔を召喚した

 そして彼は、

「俺の名はグレゴリトル·ビラチヤ。今日からお前の主だ。とりあえずお前はこれにでも入っとけ」

 そう言って、悪魔の顔前に自分の剣を突きつけた

 聖騎士は己に宿った精霊の力を武器に纏わせて戦う

 それを応用して、彼は悪魔を武器に封じ込め、その力のみを体現する方法を思い付いた

 悪魔はなにも言わず首を縦に振ると、剣に手を当てた

 その瞬間刀が光輝いた

 光が収まった頃、そこに悪魔の姿はなく、剣は黒く変色していた

「やったの、か?」

 そう呟きながら安堵する

 このときまだ彼は安心していた

 しかしその安心は、いつしか消え去っていった




 家に帰ると、妻と娘が料理をつくって待っていた

「お疲れ様」

 そう言って妻はスープを皿に注ぎ、テーブルにおいた

 彼は無言でスプーンを取り、スープを口に運んだ

「·······うまい」

 彼の口数は多くない方だ

 妻はその一言で十分満足していた

「お風呂も沸いてるから、後で入るといいわ」

 そう言って、皿に乗ったパンを持ってきた

 パンをひとつつまみ上げ、スープにつけた

 その瞬間、椅子の横に立て掛けていた剣が、鈍く光輝き始めた······



 彼女は悪魔族デーモン

 名前はまだない

 今日、誰かに呼ばれたような気がして、現世へ飛び出してみると、一人の男が彼女を欲していた

 彼女は彼を見て、ほほを赤く染めた

 簡単に言うと一目惚れというやつだ

 そしてその彼はと言うと、剣を抜き、目の前につきだしながら「今日から俺がお前の主だ」と宣言していた

 剣に入れと言われたので、彼女は首を縦に振ると剣に手を当てた

 そして、精神体を剣に移植させた

 この現世で精神体は長く存在することができない

 そのすべてが魔素へと変換されてしまうからだ

 現世で悪魔や精霊が活動するには、体が必要だ

 そして彼女は今、体を手に入れてしまった

 これにより、彼女はまた進化を始めた····




 風呂に浸かりながら彼は天井を見上げた

悪魔(ちから)を手にすることができたのか」

 そう呟いた

 本当はおかしいのだ、悪魔があんなに無口なのは

 悪魔は基本戦闘狂であり、その死なない体をいかして、魔界で争いを繰り広げているらしい

 そんな悪魔が、あそこまでおとなしいとは思ってもいなかった

(見た目が女だったことも関係しているのか?)

 風呂から上がり着替えていると、鉄臭いにおいが鼻に入ってきた

(なんだ?このにおい)

 服を着て、キッチンのほうに行ってみると・・・

 妻と娘が血の海に沈んでいた

 男はうずくまり、吐き気に襲われながら妻と娘だったものを強く抱きしめた

 ・・・そのせいで、自分の剣が血に染まっていたことに気づかなかった




 剣から周りの様子を見てみると、知らない女が映っていた

 女は笑いながら料理を差し出していた

 憎かった

 女が憎かった

 自分だって男に優しくしてもらいたいのに

 そう思っていると、幼児が、男に抱き着いた

 羨ましい

 自分だって触れたいのに、抱き着きたいのに

 それを平然とできている彼女らが羨ましくて、とても憎かった

<上位技能『嫉』を獲得しました>

 気づいたら、自分は2人を殺していた

 男が風呂に入り、女がじぶんをつかんだとき、剣が光り輝き精神体だった時の自分が肉体を持ちながら現れた

 剣を握ったままだったので、それで2人を殺した

 ただそれだけだった

 殺した後、気づくと剣に戻っていた

 男が風呂から出てきて状況を見た時、泣いていた

 なぜ泣いてるのかを、彼女は理解できなかった




 翌日、彼はこのことをギルドに報告した

「謎の死、か」

「はい、家にはだれかが侵入した形跡もなかったです」

「魔法かもな」

「その線が有力化と」

「とりあえず、お前は帰れ。気に病んでいるだろうからな」

「・・・・・ありがとうございます」

 そういって男はギルドを後にした




 男は帰り道に、行きつけの店に立ち寄っていた

「・・・なるほどねぇ。それは大変でしょ」

「はい、妻も娘も死んで、もういっそのこと、自分も死にたいっていうか、なんていうか」

「だめよ、死んじゃ。奥さんたちの分までちゃんと生きなきゃ」

「ありがとう、ママさん」

「いいのよ、はいこれ。サービスよ」

「・・・・」

「もし何か困ったことがあったら、何でも言ってちょうだいね」

「ああ」

 男はママさんが出してくれた酒を飲みながら、涙を流していた




 また知らない女性が出てきた

 彼は私だけのもの

 だから私はまた殺した

 彼が家に戻って寝てから、体を具現化させて店ごと彼女を殺した

 まだ客がいたようだけど関係ない

 私は彼女を殺した

 ただそれだけでよかった




 次の日、悩んでいてもしょうがないとギルドへ向かう途中、人だかりを発見した

 人の波をかき分けてみてみると、昨日言った店が潰れていた

 がれきの中心あたりには、赤く染まった腕が助けを乞うように刺さっていた

 また彼は、言葉を失った




 それ以来、町では謎の事件が多くなった

 なんでも女性のみを狙う変態だとか、女に恨みを持った男だとかささやかれていた

 その事件は、街の女が全滅するまで続いた




 懲りずに女は出てくる

 もううっとうしくなってきた

 この町にはマスターを誘惑する輩が多い

 ならいっそ全員殺しちゃおう

 そういってまた、体を具現化させて暴れた

 女が全員死ぬまで、その暴挙は続いた

 それでも、不安になってきた

 ならいっそ、マスターも取り込んでしまおう

 彼女はそう考え始めたのだった




 朝、目が覚めると見知らぬ女性がベットに腰かけていた

「・・・?お前は、だれだ?」

「あ、やっと目覚めたんですね、マスター。さあ、早速、一つになりましょうか」

 そういって彼女は男の胸に手を置いた

 途端に男の力は抜け、女を振りほどこうとした腕はだらんとベットから落ちた

「お前!?いったい何を!?」

精気吸収エナジードレインですよ。この世界であなたが生きるには心配なんです。だから私と一緒になれば、ずっと一緒でいられるし、寂しくないし、安全なんです」

「だからお前はいったい・・・!?」

 やっと思い出した

 こいつは、あの時剣に憑依させた・・・・

「やっと思い出してくれたんですね、マスター

 そういって彼女は男と接吻した

(!??!?!?)

 その瞬間ものすごい脱力感が彼を襲った

 彼女は少しうれしそうに笑った

(もう、だめなのか?)

 その笑いが、彼に死を予言させた

(あいつの分まで生きるって、きめて、た、のによ・・・・・)

 そうして男の意識は、闇へと葬り去られた

<上位技能 『嫉』が、罪 『嫉妬(エンヴィー)』に進化しました。これにより、魔王種への進化を開始します>

 この言葉を残して・・・・・




 新しい魔王が、今誕生した

 剣には「トラス」と銘打ってあったので、彼女はトラスと名乗ることにしたらしい


 彼女の名はトラス

 1人目にして、『嫉妬』の魔王となった




――――――――――――――アーテス・ミルヴァ著 『魔王目録』より抜粋

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ