16話 もはや反則
ここに入って30分ぐらいだろうか
俺はようやく理解した
手のひらどころか腕さえ見えないこの暗闇の中、明かりもなしに進むのはやはり無謀な行動だったようだ
しかし、ライトを創ろうにも周りには何もない
『物体創生』は、あくまで1を2や3に変化させる技能であり、0を1にすることはできないようだ
まあ服を分解すれば作成は可能だろうが・・・・・・・
さすがに恥ずかしい
暗いしどうってことないとは思うが、やっぱりね?隣にリリムさんもいるからね?
そんなわけで今現在、闇雲に部屋を探索中なのだ
「ん~、なかなか見つかりませんね」
「そうね。こんなに濃い黒マナじゃ、感知魔法もろくに発動できないし」
「感知魔法?」
「感知魔法っていうのはね、この空間に存在している魔素の流れを読み取って、周りとかを把握する魔法よ」
なにそれ便利
で、濃い黒マナか・・・
そりゃ当たり前だけどな
だって、
「誰だ?」
「「ッ!!」」
突然暗闇に、酷く疲れたような、それでも恐ろしい声が響いた
「見つけた、って感じか?」
「おそらくね」
その時、一瞬の静寂が訪れた
「客人、ね。何年振りかしら」
その声に反応して、闇が光に塗りつぶされていく
「我の名はクラトキ・ラス。この国、クラテル王国の王にして、『怠惰』の魔王よ」
だって、そこには
この事件の張本人が、そこにいるのだから
「で、何かしらね。見たところ貴女たち人間ではなさそうだけど」
早速ばれた
いやまあ、別に隠すつもりもないのでいいんだけど
それより気になるのは・・・
この世界の女性って、見た目年齢の詐欺多くね?
リリムさんは見た目30代前半ぐらいで、娘のヤクスさんも大学生ぐらいだし
詳しくは知らないけど、恐らくベルも100歳は超えてるだろうし・・・
そして目の前に悠然とした態度で椅子に座っている魔王と思しき人物も、見た目20代前半・・・
恐ろしっ!!
{かく言うお前も生後2日でその見た目だけどな}
そういえばそうだったな
{それにお前が上げたやつらの大半が悪魔族なんだし、見た目と実年齢が違ってて当然だって}
・・・・・ってことは、この中で魔王さんだけか、悪魔族じゃないの
え~と、とりあえずここは無難に自己紹介でもするか
「俺は、」
{ああ、そうそう}
急にどうした
{今更だけどお前、前の名前もう名乗れないからな?注意しとけよ}
え?なんで?
{なんでって・・・お前のその体は、堀山真司の体ではないだろ?つまりはそう言うことだ}
でも魂は俺、堀山真司のものだろ?
{魂一つ一つに違いはないぞ?ただ持っている記憶が違うってだけで}
・・・そうなの?
{そうだよ}
じゃあなんて名乗ろうか・・・
{「名前はまだない!」でいいんじゃないか?}
ふざけてるよな?それ
{それか、「名なんてもう捨てた・・・」とか}
どんな辛い過去を俺に背負わせたいんだよ
{じゃあ「名前は・・・ない」で}
む~、それが一番ましか
「俺は、通りすがりの吸血鬼だ。名前は、まだない」
{結局まだない使うのな}
それが一番しっくり来たからな
俺が自己紹介を終えるとそれに続くようにリリムさんも軽く会釈をして、
「で、私はリリム。タルシタ王国から派遣された諜報員です。とはいっても、任務は監視だけですけどね」
自己紹介をした
「そうかそうか。まあ歓迎するわ。して、目的は?我を殺すこと?この国を救うこと?」
「一応救うことだな。この国を、そしてあんたを」
「・・・救えると思っているの、こんな我を。闇に墜ちた我を」
哀しそうな顔をしながら、魔王さんは言った
「やらなくて後悔するよりは、やって後悔したほうがいいだろ?」
「・・・そう。じゃあ見せてもらうとしましょうか。一体、どうやって我を救ってくれるのかしら?」
「簡単だよ。ほら、これ飲んで」
そう言って俺は、とある錠剤を魔王さんに手渡した
「えっと、これは?」
「薬」
「いやそうじゃなくて」
「じゃあ錠剤?」
「名詞を聞いてるんじゃなくて!」
魔王さんは今にも立ち上がりそうな勢いで叫んだ
というか立てばいいのに、さっきからなんで座りっぱなしなんだ?
魔王としての威厳でも示したいのか?
それか部下の悪戯で椅子にボンドでも・・・
「この薬は、どんな効果があるのかって言ってるのよ!」
「ああ、そのことか。えっと・・・頭痛、発熱の鎮静。便秘改善。栄養補給もそれ一粒でできて、ついでに、」
俺はいつものようににやりと笑い、
「体外に排出される魔素の量が減る」
言い切ってやった
「それって!」
「大丈夫大丈夫、嘘じゃない。信頼できる奴に作ってもらったしな」
「・・・・・・・・・」
「信用できないか?」
「さすがに無理ね。ついさっき会った魔人をすぐに信用するなんて」
「だよな。まあ万一毒が入ってたとしても、魔王だし大丈夫だろ?」
「その決めつけもどうかとは思うけど・・・、貴方の言うとおりね」
意を決した表情で魔王さんは錠剤をのみ込んだ
「毒、では無いようね。効果は・・・」
よかった!
『善意』さんの事だからまたなんか細工してるんじゃないかって心配してたけど
〖さすがに私でもわきまえますよ。それに彼女を殺すといろいろと面倒ですからね〗
理由はどうあれ、また一歩成長してくれて俺は嬉しいよ
と、効果のほどは・・・?
あれ、あんまり変わってな・・・・・
その時感じたのは、すさまじいほどの吐き気だった
思わず床に倒れ込むと、コンクリートらしき建材でできたそれは、暖かかった
陽の光も当たっていないのに暖かいのはどういうことかと思ったが、理由はまた目の前にあった
「我から出ていた黒マナが、消えた?凄い・・・礼を言うよ!えっと、通りすがりの吸血鬼君!」
そこには、まぶしいぐらいに輝く鎧を着ながら、軽く狂喜乱舞する女性がいた
「え・・・、あれって魔王さん?」
「そうよ?だけどあそこまでテンションが上がっている姿を見るのはかなり久しぶりね」
え~、なんかイメージがぶっ壊れたんですが
ま、薬も効いて一件落着
さて、ベルを連れてくるとしよう