14.5話 一方そのころ・・・
今回は少し時間をさかのぼります
まあ早い(メタイ)話、次回以降の伏線回です
気が付くと眠っていたようで、体を起こすとそばには彼の死体があった
彼の、サラトの死体が
床を見ると多くの魔法陣が、彼を囲むように書きなぐられていた
しかし、その行動も無駄に終わったようで、依然として彼に変わりはなかった
「結局、か・・・」
そんなつぶやきさえも、重く俺の心に突き刺さっていく
何度体を揺さぶろうと、何度話しかけようと、サラトはピクリとも表情を変えず、乾いた眼で天井を見つめ続けていた
俺が、俺がもっと強かったら、サラトを救えていたはずなのに・・・
俺が、もっと強かったらルエルさんも・・・
・・・いや、何言っているんだ俺は
『後悔なんてするな。後ろばっか見つめてたら、いつか転ぶぞ?』
そうやってよくサラトに言われてただろ?
そうだ、しっかりしないと・・・
「ごめんな・・・天国ではルエルさんと幸せにな?」
そうやって俺は詠唱を始めた
一語一句間違わないように、丁寧に、感謝の念を込めながら
「さようなら、サラト。聖滅」
その言葉とともに、サラトの体は足先からゆっくりと灰になっていく
やがて、最初からそこに何もなかったかのようにサラトの遺体は消滅した
「ごめんね、君にこんな役目を担わせて」
気づくとタイトさんが隣にいた
え?ってかいつから居たのあんた
さすがに目上の人にそんな言葉をかけるわけにはいかないし、俺も決断したとはいえまだ心残りがある
「・・・いえ、大丈夫ですよ。ルエルさんの時も俺がやりましたし」
「それが問題さ。本当に悪かったと私たちは思っている。まさか両親である二人を、君に任せることになるなんてね・・・」
「そんな。むしろ嬉しいんです、俺。家族も、知り合いも、そして記憶さえ無かった俺を、優しく家族として迎え入れてくれた二人に、恩返しができたみたいで・・・」
「そうか、ならよかったよ。さて、まずは対策でも練ろうか。あの化け物について」
そう言うとタイトさんはそそくさと部屋を出ていった
あの人ってあんなに大人びていた人だっけ?
そんな疑問を持ちながらも、俺も部屋を出ようとした
と、一つやり残したことがあるのを忘れていた
人は死ぬと体から魂が抜けだすものだ
しかしその時、魂は分裂する
その分裂した魂も天国に送ってやらないと・・・
そう思いながらまた呪文を唱えはじめた
正直言ってこの魔法は好きではない
送っている人の記憶が脳内に再生されて、なんだかもどかしい気分になるからだ
それでも、サラトの記憶は違った
己を磨き上げようと、必死に努力していた記憶
大切な人を守り、そして愛した記憶
俺と、サラトと、ルエルさんの3人で食卓を囲んだ記憶
全部が全部、俺の宝物のように思えてくる
ああ、あとこれは・・・
リリム、さん?
その記憶には、現在行方不明中のリリムさんの姿があった
彼女はなぜかあの化け物と一緒にいる
何か話している?
残念ながら記憶は視ることしかできない
なので何を話しているのかなどを知る術がない
しかし、サラトの難しい表情からして、かなり緊縛した場面なんだろう
その結果を知ることなく、また記憶は移り変わっていく
喜びの記憶、悲しみの記憶、幸せの記憶、絶望の記憶
それらがだんだんと一つの塊になっていき、そして・・・
っ!?
そこで俺は見てしまった
サラトが殺された記憶を
違う
なんで、違うんだ
なんで、あなたが・・・
「あ~らら、ばれちゃったみたいだね」
そんな間抜けが声がして、ぐさりと俺は後ろから刺された
鉄臭い味が舌を撫で、やがて視界が暗転していく
それでも、なんとか気力を振り絞りそいつと距離を置きながら、俺はゆっくりと回復していく
「ま、それも計画の内なんだけどね。あの方の復活のための。ね?」
そいつは笑顔でこちらに向かってくる
ここはそいつが入ってきたドア以外で脱出する術はない
「まあ、ここで死ぬ君に知る必要はないんだ。じゃあね!ハル君!」
そいつはそう言うと、剣を振りかざした
とても歪な、音が聞こえた
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「ん~遅いね。二人とも」
重い会議の空気を癒すかのように、そんな間抜けな声が聞こえた
「・・・ミンクン、私語は慎め。一応会議中じゃからの」
「いや、皆黙っていたら会議なんてできないでしょ~。だから、僕みたいな奴が一人ぐらい居た方が、会議もスム~ズに進むと思うんだよ~」
「それはそうじゃが・・・」
バルトが言葉を詰まらせると、皆は笑い出した
「相変わらずだなバルトさん。やっぱり孫には甘いようで」
「そうやってるから、こんな性格になっちゃったんですよ?」
「そうは言ってものう・・・」
「ま、あの大異変の件があるからな。それぐらい甘やかしておいてももいいんじゃないか?」
「そうは言っても、孫である前に一人の士じゃ。厳しくするぐらいがちょうどいいんじゃよ」
「もう会議の空気じゃないね~。お茶でも入れてくるよ」
そう言って少女は立ち上がった
軽くスキップをしながら、少女は会議室を後にする
「しかしあれだな。この2日でいろいろあったせいで、かなり疲れたよ」
「その様子を見ると、まだまだ大丈夫そうじゃがのう」
「それより、少しでも会議を進めましょうか。半分ほどいないんですがね・・・」
女の一声が入り、男を除いた全員が手元の紙に目を落とした
「ああ、そうだな・・・まず、この資料を見て分かる通り、おそらくあの魔人が出現したのは一昨日から昨日の間だと予想されるんだ」
その一言は、ここにいる全員を震え上がらせた
「昨日!?生まれたてであの強さは以上じゃぞ!」
「でしょうね。でも、魔物の謎の行動、そして不死者が集めた情報からして、それが真実なんですよ」
説明を入れるとするならば、生まれたての魔人は、基本的に弱い
人と同じように、知能も、力も持ち合わせていないからだ
そして技能さえも・・・
だからこそ異常なのだ
あの魔人は、この世界の理を外れた存在なのだろう
そうでなければ説明がつかない事実なのだ
あくまで、この世界では・・・
「で、ここからが本題だ。あの魔人をどうするか、だが・・・」
「何かあったの?」
男が口ごもったの女は不思議そうに、不安そうに問うた
「実は・・・あの勇者様が言うには、魔王様のところに向かっているらしい」
2度目の衝撃の一言に、今度は一同唖然とした
「これは、まずいの」
「でしょうね。魔王様が死んだら俺たちも道連れですし・・・」
「それの対処は?」
「勇者様が向かったらしい。倒せるといいが・・・」
そう言いつつも不安なようで、男は軽くうつむいた
「無理じゃろうな。儂の剣で殺せなかったのじゃ。倒せる奴はおらんよ。一人を除いて、じゃがな」
「いるんですか?文字通りの化け物を殺せるような人間が」
「いや、彼女は人ではない。化け物を殺すには、化け物をぶつけるしかない、ということじゃ」
「まさか。北の魔女、ですか?」
「そうじゃ。おそらくじゃが、彼女しか殺すことはできないじゃろう」
「そんな・・・あいつが力を貸すとでも?」
「ないじゃろうな。だからこそ手の打ちようが、」
「お茶入ったよ~」
重い空気を払拭するかのように、少女は戻ってきた
「「「・・・・・・」」」
「あれ、どうしたのお爺ちゃん?」
少女は不思議そうに首をかしげると、全員にお茶を配りだした
「ミンクン。今、重大事項の対策をしてるんじゃ。邪魔をするなら孫とて容赦はせんぞ?」
バルトはそう言うと、刀の柄をちらつかせた
「まあまあ、お爺ちゃん落ち着いて」
それを何とも思わないのか、少女は焦り一つ見せずお茶を配り終えた
「そうだそうだ。私からも一つ報告があるよ~」
「何かあったのか?」
「なんか衛兵の人が、『大きな魔力反応がここの上空を通り過ぎたんです』って」
「大きな魔力反応?そんなもの感じた覚えはないがのう・・・」
「みんなが言うにはお城のある方向に向かったらしいよ」
「城・・・あの魔人と何か関係性はあるかのう?」
「さあ?わかんな~い」
「まあ、それは頭の隅にでも入れとくとして、結局どうだ?何か思いついたか」
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長い沈黙が、部屋を覆った
15話は前回の通り27日に投稿予定です




