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英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
堕落した戦姫編
29/68

13話 ベホマズン!!

「おまえも、なにしてるんだ!」

 そう言って少女は、瞬の腹を殴った

 その威力はすさまじかったようで、着ていた鎧は大破し、瞬の姿は闇の中へと消えていった、わけだが……

 明らかにそのパワーはおかしいよね?

 いくらファンタジー世界とはいえ、あのか細い腕で男一人飛ばすどころか鎧を大破させるって……

 どこの美食屋だよあんた!

 いや、そういえばこの世界には魔法があるんだったか……

 だったら強化魔法とかバイキ〇トとかス〇ライとか、そういう攻撃力が上がる魔法の一つや二つあってもおかしくはない

 とりあえず危険だということはすでに理解したが、さてどうしようか

 なんせこんな危険な状況だというのに技能スキルが使えないのだから

 まさかこんなところであだになるなんて…… 

「お母さん?まあなんだ、落ち着けって。お前のお母さんがどんな奴か知らないが、俺はお前のお母さんに対して何もする気はないから」

「うそ。わたしにはわかる。おまえが、おかあさんをころすところ。わたし、みた」

 そう言うと少女の姿は消えた

 けど今度はあの男とは違う

 消えたというよりは……

「だから、わたしがおまえころす!」

 バキッという何かが折れる音がした

 熱い何かがのどの奥からこみあげてくる

「好戦的、過ぎるだろ……」

 血を吐き出しながら俺は倒れた

 やっぱり、違った

 消えたんじゃなかった

 ただ、見えなかっただけだ

 相手が早くて、目が追い付かなかっただけだ

 いや、これは言い訳か

 俺が、相手を舐めていたからこそ俺は殺されたんだ

 なんという屈辱 

 なんという恥辱

 これほどまでに恥ずかしいことはない

 ああ、かっこ悪いな 





{お前がダサいのはいつも通りだろ?}

 ……誉め言葉として受け取っておくよ

{そうか、じゃあ俺は今度からお前のことをミスター・ポジティブと呼ぶことにするよ}

 酷いネーミングセンスだな

〖そんなことより早くしないと、マスター死んじゃいますよ?〗

 おっと、すまないな『善意(ジキル)』さん

 さて、反撃だ




 目を見開くと、今度はリリム姉さんが追い詰められていた

 やっぱりこの人、近接戦闘には弱いな

 一応魔法で攻撃しているが、一発も当たっていない

 紙一重というより、まるでそれが分っているかのように少女はするリぬるりとリリム姉さんの攻撃を避けていく

 両者とも戦いに集中しているようで(ほとんど一方的ではあっても)、俺が起き上がったことに気づいていなかった

 しかし見事に開けられたものだ

 腹のあたりにはおそらくあの少女に開けられたであろう、大きな風穴があった

 いや、決して比喩とかそういうものではない

 まんま風穴、もしくはトンネルが、俺の腹で開通していた

 そこからは臓器がコンニチハしていたり血液がサヨウナラしていたりと、かなりスプラッターな状況になっている

 とりあえず『自己再生』でも……

〖了解―――ですけど『自己再生』だと少し心もとないですね…………〗

 ん?何か言ったかね『善意ジキル』さん

〖ちょっと待っててくださいね〗

 あ、ああ

 そういえば『善意ジキル』さん一気に人間らしくなったような…… 

{進化したってのもあるんだろうが、やっぱり元が人だからな。そりゃ人に近くもなるって}

 そういうものか

{そういうものだ}

 なんて『悪意ハイド』といつも通りの会話をしていると

<『自己再生』が上位技能『高速再生』に進化しました>

 これまたいつも通りの言葉が聞こえてきた



 ……いやダメダメダメダメ!!

 また何勝手にやってんのさ『善意ジキル』さん!

〖え、でもこっちの方が便利でしょう?〗

 そうですけどもね、便利ですけどもね

 実際、進化した瞬間に風穴はすっかり塞がりましたよ?

 でもさ、ルールというか決まりというか

 そういうのをちょっと無視しすぎじゃありませんか?

〖いいじゃないですか、便利なんですから〗

 うん、前言撤回するよ

 こいつ人間以上に人間らしい!

 これ絶対後で破滅とかするやつだ、神の怒りに触れるやつだ    

{確かにこれはあれだな。便利以前に恐怖を感じるな}

 だろ⁉

{それより、気づいたみたいだぞ。あいつ}

 やっとか……

 サポートはよろしく頼むぞ?

{任せろ}

〖ご武運を〗

 よし!じゃあ戦るか!




「いきてる……ひとじゃない?」

 少し驚き交じりに、少女はつぶやいた

 そういえば俺も一応少女だよな

{んあ?ああ、確かにそうだな。でもお前生後2日ぐらいなんだし、この場合赤ん坊なんじゃねえのか?}

 赤ん坊って……

 あー、でも確かにそうなるのか―――意識がはっきりしてるやつを果たして赤ん坊と呼べるのかは知らないが

 まあともかく、

「ああ、人じゃないさ。俺は吸血鬼ヴァンパイアってやつだ」

 と、どや顔で、あの親友のように言い放った

 対してその少女は眉一つ動かさなかったが、まあいい

「次はこっちの番だよな?」

 にやりと笑うと、大きく手を掲げた

「こい、エクスカリバー!!」

 俺の声に反応するように、部屋全体が光に包まれた

 あらゆる物質が塵となって、俺の手元に集まっていく

 そして剣は完成する

 誤算だったのは、どうやらあの男を縛っていたロープも吸収してしまったことだろうか 

 だが自由になったのにもかかわらず動こうとしなかったのは助かった

「さ、第二ラウンドといこうか」

 そう言って剣先を少女に向けた

 これは……勝てるよな? 

 そんな不安とともに



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