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英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
堕落した戦姫編
24/68

9話 美味い!もう一杯

 私の脳裏にはいつも、あの父親の顔が映っていた

 ああ、なんで私はあの男を父親と呼んでいるのだろう

 それでも、今更後悔しても仕方がなかった

 こんな醜い姿を戒めにして私は生きている

 私は化け物になった

 私は、あの日から化け物になった

 背中には大きな翼がはえ、尻尾には別の意思を持った蛇がつき、これが私だとは到底思えなかった

 そんなある日、私は餌を見つけた

 とても小さい、とても弱そうな2匹の人間

 その人間はどこかへ逃げていくので、私はそいつらを追いかけた

 追いかけているうちに、なんだか楽しくなってきた

 私は天に向かって吼えた

 天が裂けるぐらい、大地が割れるぐらい

 そして私は人間を追い詰めた

 人間は武器を取った

 どこからか取り出した、変な武器を

 私は低く呻った

 私は警戒していた

 それでも私は死んでしまった

 視界が二つに割れた

 痛かった

 泣くぐらい痛かった

 それでもなぜか解放されたような気がした

 ありがとう

 私はそう言って、永遠の眠りについた・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 ・・・本当にあいつは空気が読めない

 俺たちは今とあるビルの物陰に隠れていた

 数分前に魔王城に行こうとしたとき、あの勇者はやってきた

 味方も引き連れずに、一人で

 ここまで休まずに走ってきたのだろうか

 息が上がっていて、額から汗があふれ出ている

 そして誰か(俺だろうけど)を探しているかのように無理して辺りをきょろきょろ見回っていた

 で、俺らは今隠れている

 どうせ暇だったから隠れている間、『善意ジキル』さんが言っていた合成獣キメラの記憶を見ていた

 それにしてもあいつは人工的に作られた奴だったのか

〖人工的に魔物を作り出すのは私たちでもできますよ?〗

 そうなんですかね?

〖ええ、『物体創生』で体を作って、『多重人格ケルベロス』で魔物の性質に近い人格を生み出せば魔物の完成です〗

 簡単そうに言ってますけどそれ何時間ぐらいでできるんですか?

〖3分です〗

 なんと!

 魔物が某料理番組と同じ時間でできる、だと・・・

{そういえばあの勇者バカはどうするんだ?}

 まあ、どっかに行くまで待つしかないな

「ね、ねえ、まだどこかに行かないの?あの子」

 死にかけの声でリリム姉さんが聞いてきた

 てか、貴女まだ回復しないんですか・・・

「まだですね、もう少し待ってから行きましょう」

「分かったわ。それより、もう一本もらえる?」

「・・・はい」

 例の瓶をリリム姉さんに渡すと、蓋を親指で開け、豪快に一気飲みした

 なんかだんだんがさつになっていくなこの人・・・

 会った時とは大違いだ

 さてさてあいつはっと・・・げ!

 再びあいつの様子を見てみると、なんと仲間が来ていた

 ガネーラさんが瞬を思いっきり叱っている

 遠いからあまり聞こえないが、「勝手に行って・・」とか言われてたから、勝手に俺を探しに来たんだろう

 あ、連れてかれた

 どうやらあいつらも魔王討伐が目的らしいな・・・

〖あの時に言ってませんでした?〗

 そうだっけ?

 まあいいや、もう行けるよな?

〖あと5分待ちましょうか〗




 ・・・はい 

 『善意ジキル』さんの言うことを信じて、ここで5分待機した

 その間に瓶を2本リリム姉さんから要求された

 頼んでくるその眼は、どこか虚ろになっていて、頬も赤く染まっていた

 ・・・もしかしてこれ危ない成分含んでない?

〖私が作っている回復薬の中に、魔物のみに効く快楽物質は含まれていますがそれの影響でしょうかね?〗

 絶対それです

 ちなみにその快楽物質って危ないあれじゃないよな?

〖違います〗

 違うらしい

 とりあえずその成分は抜いておいてください

〖・・・了解しました〗

 これで大丈夫だろう

 そう思って、リリム姉さんを見てみると瓶を持ちながらぶっ倒れていた

〖あ~、ちなみに、元の世界にいたエナジードリンクの成分をもとにしています〗

 ・・・なあ、『善意ジキル』さん

 エナジードリンクって飲みすぎると死ぬって知ってるか?

〖やりすぎましたか?〗

 はい、やりすぎです

 とりあえずなんだ・・・

「リリムさ~~~~~~ん!!!!!!!!」

 俺の大声が、天に響いた

 幸いなことに、あの勇者パーティーに聞かれることはなかった





「はぁはぁはぁ、ありがとう。もう少しで死ぬところだったわ」

 顔を真っ青にして、リリム姉さんは立ち上がった

 顔が吐瀉物にまみれているせいで、少し不快そうな顔をしている  

 俺は原始的な方法ながらもリリム姉さんの口に指を突っ込んで、液体を全部吐かせた

 ただ、それでは意味がないといわれたので、結局『善意ジキル』さんの指導の下、『物質操作』を使って、成分的なあれを取り出したわけだが・・・

 少し心配ではあったが、無事にやってくれたようだ

 ・・・そういえば、あいつらどこら辺まで進んだんだ?

〖そうですね、大体城の真ん中あたりでしょうか?〗

 ふぁい?

 あの城はビルと比較して大体5~60階ぐらいの高さがある

 その真ん中あたりっていうとかなり進んだな

 確かあれから30分もたってないから・・・

 マジですごかったんだな、あいつの仲間パーティー

「さて、じゃあ行くとしますか」

「行くって?ああ、お城ね」

「はい。ただ、あの勇者パーティーが入っていく様子が見えたので気を付けてくださいね」

「・・・はい」

 そう言うとリリム姉さんは立ち上がり、

「そう言えば、私魔法使えるのよね」

「え?ああ、はいそうですけど。それがどうかしましたか?」

 そう言うとリリム姉さんは目を瞑り、下を向いた

「えと、あの?リリムさん」

「・・・」

 無視された

 静かに黙り込み、どこか集中しているようにも見える

{そういえば、合成獣キメラの魂が解析できたから、『超嗅覚』『毒牙』を獲得したぞ。効果は、}

 ああ大丈夫

 名前から大体わかるから

{そうか。で、そこの姉ちゃんがやってることだけど、『千里眼』っていう技能スキルを使って、あの城の中をのぞいてるみたいだぞ}

 そ、そこの姉ちゃんって・・・

 お前リリム姉さんより年下だろ

{まあそうだけど、技能(俺達)には年齢なんて関係ないからな}

 まあそうですけどもね

「大体わかったわよ。あの坊やたちは城の上あたりにいるわよ」

「え゛!?」

 リリム姉さんが急にしゃべりだしたかと思うと、驚くべきことを言い出した

 確かさっきから5分もたっていないのに、城の中間あたりからもう最上階近くに行っていた

「どうしたのよ、急に・・・で、行くんでしょ?」

「ああ、あうん。はい、行きましょうか」

 動揺を100%表に出しながら、城へと向かった

技能スキル『千里眼』を獲得しました〗

 ・・・

 『善意ジキル』さんのことを完全にスルーしつつ、城に向かった




 

「おい、もっと来たぞ!早く対処しろ!!」

「ちょっとまって、魔力が切れかけて・・・」

「ガネーラ!はいこれ!」

「せ、精霊結界!!」

「紅双激!」

 激しい音が部屋の一室で鳴り響く中、俺はため息をついた

 どうして、こうなった・・・

 涙を流しながら、この一件を振り返ってみた




 あれは集落を出て10分したぐらいだった

 後頭部に激しい衝撃がくわえられ、俺は動揺した

 敵かと思い剣を構え振り返ると、固く拳を握ったガネーラがすごい形相でこちらを見ていた

 後ろにはパララやタライトや、俺の仲間がいた

 汗一つ搔いてなさそうだから、移動用の魔法でも使ったんだろうか?

 そんなのがあるんだったら、あの門のところで使ってほしかった

「何やってるの?死にたいのかしら?まったく・・・」

 視線がさらに鋭くなった

 視線だけで殺されそうだ・・・

「え~、あの~これには事情がありましてですね・・・」

「事情?勇者様が勝手にどこかに行っていい事情がもしあるなら聞いてみたいものだけど」

 そう言うと、手をならし始めた

 パキポキと音がなり、後ろの仲間の顔がゆっくりと青くなっていく

 そんなにならすと指が太くなりますよお姉さん・・・

 そんなふざけた心境が伝わったのか、だんだんとガネーラの重い怒りが殺意に変わっていっているような気がする

「あら?なんで言わないの?貴方私たちがどれだけ心配したかわかってる?」

 あれ?今一瞬ガネーラの顔が般若に変わったような・・・

 しかも後ろにはおっかない武器を持った人の形をした何かがいる

 筋肉ムキムキで高身長、タライトと力比べをしても余裕で勝ちそうだ

「ねえ、聞いてる?それとも、殺してもいいの?」

「あ~まず理由を、」

「理由なんて関係ないわよ。さっさと死になさい」

 そう言ってどうやって入っていたのか、懐から大きなナイフを取り出して、こちらにゆっくりと歩み寄ってきた

 その風貌はまさに鬼だ  

「ちょ!それはまずいですって、ガネーラさん!」

「そうだ。一回落ち着け、ガネーラ」

「そうですよ。とりあえず理由を聞かないと話になりませんよ!!」

「そうだそうだ。だからな?な?やめようぜ?」

 皆が口々に言い合い、ガネーラを止めようとする

 しかし、ガネーラはその歩みを止めない

「黙らっしゃい!!私はこいつを殺さないと気が済まないのよ!!」

 ガネーラは大声で宣言し、ナイフを舐め始めた

 もうなんか鬼っていうより、狂人って感じだ

 この人こんなにキャラ崩壊してたっけ? 

 とにかくここで止めないとまずい気が・・・

「お、俺はただ、あいつを探しに来ただけだ!」

 そういうとガネーラは立ち止まり、顔を覆っていた殺意が晴れていく

 後ろに見えていたなにかも今は見えなくなっている

「あいつ?ああ、もしかしてあの魔人のこと?ならいいわ。じゃあ、さっさと行きましょ。あの城にいるんでしょ?」

「は、はいそうです!!」

「じゃ、行きましょうか。ね?皆」

 そう言いながらガネーラは振り向き、にらんだ

 もうこの人こえ―よ

 皆はビクッと震えながら「は、はぃ」といった

 パララに関しては半泣きになっている

 こんな状況を他の人に見られたらきっと追剥にあってるように見えるだろう

 って、ほかの人で思い出したけどあいつは?

〔ああ、あいつならあのビルに隠れてますよ〕

 ・・・どのビルだ?

 ここはビルが多いからどれだかわからない

〔ほら、あのビルですよあのビル。あの、壊れかけの〕

 ここら辺のビル全部壊れかけのビルなんだけど・・・

〔チッ・・・・あの黄色い看板が下に落ちているビルです〕

 いや、それよりお前今舌打、

〔してません〕

 そ、そうですか

 えっと、黄色い看板は~・・・あれか。

 確かに黄色い看板が下に落ちているビルがあった

 あとはどうやってガネーラの目を盗むかだけど・・・

 そう思っていると、襟をガネーラに掴まれて、

「よし!皆行くぞ!!」

 と大声掛けてきた

 なんとか手を離させようと抵抗したが、そんな抵抗もむなしくそのまま城まで引っ張られた

 2、3回ほど意識が飛びかけたが、まあ気のせいだろう

 できれば、気のせいだと思いたい

   

 



 目を覚ましたら、途端に鼻に異臭が入り込んできた

 うつぶせにされているのか目の前には紫色のじゅうたんがある

 俺は起き上がって状況を確認してみた

 え~まずなんだ

 俺が行こうとしたら確かガネーラが首根っこ掴んできたんだっけ?

 で、そのあと気絶して・・・どうなったんだっけ?

 頭の中にあったはずの記憶がすっぽりと抜けている気がする

〔そのあと、大量の魔物に襲われたんですよ。覚えてますか?〕

 大量の、魔物?

 そんなことがあったのか・・・

〔なんで覚えてないんですか・・・そんな記憶とぶようなことはなかったですよ?〕

 そんなこと言われてもなぁ・・・

 そう言って周りを見渡してみて初めて気づいた

「あれ、みんなは?」

 そう、仲間がいなかった

 タライトさんもガネーラもパララも

 誰もいなかった

 ただ、先の見えない廊下がまっすぐあるだけだった

〔・・・本当に覚えていないようですね。ここは、敵が作り出した空間です〕

 作り出した空間?  

 何言ってんだ?

〔しょーがないですね、ちょっと待ってくださいね。今見せますから〕

 いや、見せるって何を・・・

 そう思っていると、俺の視界が闇に染まった

「は*くしなさい。**、死ぬ*よ」

 ガネーラ?

 暗闇の中で、どこからかガネーラの声が聞こえた

 ただ、振り返っても、上を向いても、かがんでみてもどこにも彼女の姿は見えない

 何もない暗闇しか広がってはいない

「そ**すよ。無*して*んじゃ**どうす*んですか」

 今度はパララの声が聞こえた    

 どこか間抜けなあいつの声が

 いったい、どこから聞こえてきてるんだ?

「そう*。ほ*、さ*さとこれで*飲め」

 今度はタライトの声だ

 そういえばだんだん声がクリアになっているような・・・

「あ、あそこに*があり*すよ。行ってみ*しょう」

 今度はトサチスさんの声か

 行く?ってどこに行こうとしてるんだ?

 そう思って、なんとなく足を進めてみた

 途端に脳に情報が送り込まれる

 そして、俺の目の前でそれが組み立てられていく

 これは・・・

〔これは、ご主人が気絶する前の記憶です。さすがに数十分前の事ですからね。私といえどこれくらいは楽勝ですよ〕

 そ、そうか

 これが気絶する前の記憶

「しっかし、ここまできれいに再現できるものなのか?」

 目の前にはガネーラがいた

 しかし動きは止まっていて、なぜだか恐怖さえ覚える

 周りにはちゃんとタライトたちもいる

 で、なんで止まってるんだ?

〔この状況を少しでも慣れさせようと思いまして・・・〕

 そっか

 なら、進めてもらえる?

〔はい〕

 そして時間は進みだした

 さて、何が起きたか見させてもらおうか

 

  

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