7話 詐欺上等!!
ぱっと窓から飛び降り、手に持っていた剣を二回降った
落ちた時の音で門番がこっちに気が付いたようで、こちらを向いた
片方の門番は「誰だ貴様ら!!」というつもりだっただろう
だがそれを言い終わる前に俺の斬撃は届いてしまった
当たると同時にぱたりと門番は倒れ込んだ
ってかもう一人の門番には物凄い顔して怯えられたんだけどもしかして・・・
{ああ、前回来た時にいた門番だこいつ}
ですよねー
まあいいか、取り合えず
「行きましょうか、リリムさん」
そう言って振り返ると、倒れながら地面に血を垂れ流しにしている女性が目に入った
「・・・あの~リリムさん?」
返事はない
ただ、ぴくぴくと小刻みに動いているだけだった
ここで取れる最善の手は・・・
〖分かってますよ。回復薬ですよね。ちょっと待ってください〗
そう言って『善意』さんはいつも通り回復薬を作ってくれた
本当毎度毎度『善意』さんには頭が上がりません
〖はい、できましたよ〗
気が付くと、手には緑色の液体が入った瓶が握られていた
瓶を地面に置き、まずはうつぶせに倒れているリリム姉さんを仰向けにひっくり返した
骨でも折れたのか、右手が曲がってはいけない方向に曲がっている
あと、内臓が潰れているようで口から吐血した
そして驚くことに、いやある意味流石というべきか、『善意』さんが作った[魔力抑制腕輪・改]は傷一つついていなかった
そこに驚きながら、瓶のふたを開け、リリム姉さんに少しずつ飲ませた
全部飲ませると、物凄い音をたててあらぬ方向に曲がっていた右手が元の美しい腕に戻った
っていうか、いったいどんなものを作っているんだか・・・
これを売りになんか出したら1億はくだらない気がする
〖まあそうでしょうね。これを飲めば生きている限り完全復活しますから。骨折ぐらいならすぐに直せますよ〗
・・・・・なんだろうね。聖剣の時も恐ろしかったけど、やっぱり『善意』さんに『物体創生』を使わせたら、チート級のものしか作らないと思う
{奇遇だな。俺もそう思っていたところだよ}
〖む・・・二人とも失礼ですよ!!別にいいじゃないですか。自分の主に喜んでもらえるために努力することぐらい〗
ならたぶんこの子は努力の方向性を間違っているんだろうな
もうなんか喜びを通り越して恐怖を感じてしまう
もし『善意』さんが敵になったりしたら勝ち目がないだろうな
〖私は主のためだけに存在しますので、主の敵になんかなりません。たとえ全世界の生物が主の敵だったとしても、私だけは主の味方ですよ〗
そうか、ありがとな・・・?
おかしいな、うれしいことを言ってもらっているはずなのに素直に喜べない
なんでだろうか?
{さあ、疲れたんじゃねえか?}
確かにそうかもな
なら、リリム姉さんが目覚めるまで軽くひと眠りでも・・・・・
ってかなんで俺ここにいるんだっけ?
〖確かリーダーとかいうやつと交渉するとか言ってませんでしたか?〗
ああ、そうだそうだ
ならさっさと行かないとな
というわけでリリム姉さん
「ごめんなさい!!!!!」
そう言うと俺は、手を合わせそのまま手を握った
そしてそのまま振りかぶって、振り下ろした
ゴスッと重い音が鳴り、ちょっとやりすぎたか?と心配になっていると、リリム姉さんが少しピクリと動いた
「お!聞こえますか!!リリムさん。起きてください!!」
リリム姉さんの肩を持ち、揺さぶる
それよりこの動作、今日で何度目だろうか?
何だか今日だけで結構している気がするんだけど・・・
そう思っていると、またピクリと小さく動いた
もしかしてこれ・・・
そう思った瞬間、左の口角が思いっきり吊り上がった
「あ~息をしていない。しょうがないな―ここは人工呼吸だ」
若干、というかかなり棒読みで、そんな嘘を言い顔を近づけた
俺の唇がどんどんリリム姉さんの唇に近づいていく
あと2センチ、あと1センチ、あと0.5セ、
「何すんのよ!!」
急に眼をぱっちりと開け、おでこをつかまれながら逆に地面に押さえつけられた
「いった!!後頭部いった!!」
リリム姉さんの手を無理矢理でこから離すと後頭部を押さえ、さすった
「いきなり何すんだよリリムさん」
「何すんだよはこっちのセリフよ!!寝込みを襲おうとか男としてどうなのよ!!」
「ああすいません。そっち系の趣味はないので・・・」
「えあ?ああ、そう言えば貴女女だったっけ。口調が男っぽいし、見た目も男の子だからよく間違えるのよね、ごめんなさい」
「まあ、確かにふざけた俺も悪いんですけどね」
なんだかわからないが、とりあえず和解し、笑いあった
「さて、じゃあ行きましょうか。ちゃんと案内してくださいよ?」
そう言って立ち上がって、手を差し出した
リリム姉さんはそれを使って立ち上がり、
「ええ、分かったわ」
笑顔でウィンクをしながら言ってくれた
本当、最初のころと比べてかなり表所が柔らかくなったなこの人
最初、あの自殺しようとしてた時なんか怯えの色一色だったし、合成獣に襲われた時も驚いていただけだったから、かなり信頼されたと認識していいだろう
そうやって、柔らかい表情をしているリリム姉さんを眺めていると、
「何じろじろ見てんのよ・・・ほら、さっさと行くわよ」
そう言って、一人でさっさと門のほうへ歩いて行った
「あ、ちょっと!離れすぎたら爆発するんで離れないでください!!」
そう言いながら走って追いかけた
その台詞を聞いて、わざわざ俺を立ち止まって待ってくれていたのはまあ、言うまでもないだろう
「甘いんだよ、お前は」
そんなこと言わないでくれよ、真司
「なんでお前の言うことを聞く必要がある?俺とお前は敵同士だぜ?」
違う、俺とお前は親友で、
「そう思ってるのは、お前だけだ」
え?
それって一体どういうことだよ
その言葉に、俺の目の前にいる真司はくるりと向こうを振り向いた
「俺はもう人じゃない。お前らと、しかも勇者なんかと慣れあうなんてのはごめんだ」
真司は向いた方向へゆっくりと進みだした
おい、待ってくれよ!!
俺は、真司のもとへ行こうとした
でもそれは、いつの間にか腕と足についていた鎖に阻まれた
「その鎖はお前の心の中の本当の、正直な意識だ。やっぱりお前は心の奥底で、俺を嫌っている。いや、もしかしたら気が付いていないだけかもしれないな。それか、無意識に目をそらしているか、か。とにかく、お前に俺と会う意思がないってのは自分でもわかるだろ?じゃあな瞬」
一度立ち止まった真司は、また歩き出した
何もない暗闇へと
それを俺はただ悔しそうに見つめることしかできなかった・・・・・
「や・・・ろ、いか・・・でく・。しん、じ。や・・てく・・れ。もどって・・・きてく・れ。真司!! 」
そこで、俺の意識が覚醒した
ここはどこだろうか
そこは木製のドアがあるだけの部屋だった
窓もない、家具もない
ただあるのは木でできたドアだけだった
そこに、布団で寝かされていたらしい
いやな夢を見ていた
夢の事を思い出すと、眼から出た雫が手にこぼれ落ちた
「みっともない」
そうつぶやくと、俺は布団から起き上がり、ドアを開けた
ドアの向こうには、ガネーラを除いた皆が円をつくように座っていた
俺が起きたのを見ると、パララはすごい勢いで立ち上がり腰のほうに抱き着いてきた
「よかったです・・・貴方が無事で、本当に良かったです・・・」
かすれた声で、そう言ってくれた
よく見れば彼の目の下には、大きなくまができている
よほど俺のことを心配してくれたんだろう
「・・・ガネーラは?どこ?」
その言葉に、タライトは立ち上がりもう一つの扉を開けた
そこには布団が敷かれていて、ガネーラが寝かされていた
まるで、死んでいるかのように寝ている彼女に生気は感じることができなかった
「無事、なのか?」
「ああ、大丈夫だ。それにお前が心配するようなことじゃねえよ」
「そんな・・・これは全部俺のせいだ。俺の決断が遅かったばっかりに・・・」
タライトは励ましてくれた
でも、その励ましは俺の心にぐさりと突き刺さった
あれは全部俺のせいだ
俺が甘さを見せたばっかりに・・・
「俺は、そんな甘いお前が好きだぞ?」
俺が自らを責めていた時、ふと懐かしい情景が浮かんできた
俺は、小学生の時いじめられていた
何をされようとすべてを許して、いつもへらへら笑っている俺を、クラスのリーダーを気取っていた奴は気に入らなかったらしい
結局、そいつの圧力で皆は俺のことを嫌うようになった
そんな中、真司だけは俺の味方をしてくれた
いつも真司は俺をかばってくれた
そして、俺がいじめられて泣いたとき、いつもそう言ってくれていた
そう思うと、少し心が温かくなった
「・・・まあ、あの化け物に言われたことが少しは響いてんだろ。大丈夫だって、気にするな。別に甘くたっていい。お前がお前であれば、まあ、俺たちは満足だ」
「タライト・・・ああ。ありがとう」
また励まされた
こんなのが世界を救う勇者だとか笑えねーよな
「でも、気を抜くなよ。行っちゃあ悪いがもうあいつはお前の友達じゃない。ただの人類の敵だ。そこだけはしっかりしとけ。ほら、まだしんどいだろ。もうちょい休んどけ。ガネーラが目覚めたら起こしてやるよ」
「ありがとう。じゃあ少し休んでくるよ」
そういって、また布団に潜り込んだ
俺は、また真司に剣を向けることができるだろうか・・・
あの後悔をまた背負うことができるのだろうか・・・・
ってあれ?俺は確かに切ったような・・・
「なあ、あの後どうなったんだ?」
ドアが壊すような勢いで蹴り破った
皆が驚き、こちらをにらむ
よく見ると、パララが赤くなった鼻を押さえて足元を転げまわっていた
「・・・何してんの、パララ」
「ドアが鼻に当たったんですよ!!あ~ちくしょっ。鼻血が出てきた・・・」
そういってパララは鼻をつかみながらうちのパーティーの法術師である、トサチスのもとへ向かった
彼女は1年前、俺がこの世界にやってきたときに親切にしてもらった人だ
彼女は出会ったとき、なぜか独りぼっちだった
彼女の夢は「仲間たちと楽しい冒険をすること」だと、いつも一緒に飲んでいるときに教えてくれた
その夢を知り、俺は貴族に頼み込み、なんとか勇者パーティーに入れてくれた
それぐらいしか、俺にできることがなかったからだ
それ以来、彼女の笑顔は増えていった
それが本当にうれしかった
「で、お前が気絶した後だよな?」
「ん?ああ、そうだよ。もしかして、まだ生きてるの?」
「そうだ、じゃあ話すとするか・・・・・」
そしてタライトは話してくれた
それはとても恐ろしい内容だった
やっぱりあいつは人を捨てたのだと俺は確信した・・・・・・
・・・?
なんだか貶された気がするのは気のせいだろうか
まあいいか
今はリリム姉さんに集落を案内されながら、リーダーの家を目指している
やっぱり交渉はリーダーとやらと話をするのが一番いい
リリム姉さんの話によると、ここには人のほかに美精族という長寿な種族がいるらしい
もし機会があったあってみたいものだ
そういえば、あの小屋に子供がいたけどもしかしたら彼が美精族なのかも・・・
「ほら、着いたわ。ここが私たちのリーダー、サラト・カラキスの住まいよ。で、どうする?まず私が入りましょうか?」
考え事をしていると、リリム姉さんが立ち止まり、案内してくれた
「ああ、いいよ。ここは俺が話をつけてくるから、リリムさんは外で待っといて」
そう言って家についているドアノブに手をかける
しっかし大きな家だ
ここらへんの住居の中ではトップクラスの住まいだろう
ただ、家は全部石材でできているから、異世界人の家というよりは原始人の家といった感じだ
どうやら木は黒マナに長い間さらされると腐ってしまうらしい
だからこの集落で木の家はごく少数しかないらしい
一応そこでは腐っていく時間を遅らせる魔法を使っているらしいが、もうそれなら全部石にしろって話だろう
まあ、いいか
ここまで人の家にケチをつけるのも失礼だ
そしてノブをひねり、ドアを思いっきり開けた
「すいませーん!サラトさんはいらっしゃいますかー!!」
そんな間抜けた声を上げて
後ろでリリム姉さんが頭を抱えていたが、見なかったことにしよう・・・
この状況に、頭が付いていかなかった
どうして、どうしてこうなった
目の前では化け物が血の海の中、一人立っていた
返り血を浴びたのか、化け物の服が真っ赤に染まっている
「さて、交渉しようか」
そういって化け物は座った
そのせいで、化け物のズボンは真っ赤に染まった
化け物はそれを気にしていないようで、にやにやとこちらを見上げて笑っている
「こ、交渉?なんだ?うちに、うちには取引できるようなものはないぞ?」
「そうかもしれないな。ここには本当に何もない。あるのは住んでいる人々の笑顔位、か」
「・・・お前は、何を望む?」
話しているうちに少し落ち着いてきた
奴は俺に対して警戒を全くしていない
それをチェックすると、手首に仕込んでいる暗器の用意をした
「望みねぇ。俺はただ平和に暮らせればいいと思う。そこで交渉、いや取引だ。彼女と約束を取引しようじゃないか」
化け物はそういうと、指をぱちんと鳴らした
すると、ドアが開いた
そこに立っていたのは化け物に連れ去られたリリムだった
首には奴隷がつけているような首輪がはめられ、眼にはうっすらと涙を浮かべている
「彼女の首には爆弾をつけている。俺が念じれば一発でドカーンといく代物だ。もちろん彼女は死ぬ。10秒やろう。彼女を見殺しにするか、俺に対して危害を加えないことを約束するか、好きな方を選べ」
「ちょっと待て!お前、そんな、」
「10」
俺の言葉は化け物のカウントにさえぎられた
10秒だなんて少なすぎる
いったいどうすれば・・・
「9」
勿論彼女の命は大切だ
だが、ここであの約束をしてしまえばこの集落の人間が皆殺しにされる可能性がある
「8」
大義のための犠牲か、特別のための死か
それを選ぶのには時間が少なすぎる
「7」
くっそ、いったいどうすれば・・・
どうすればいいんだ!!!
「6」
・・・
「5」
・・・・・
「4」
俺はおそらく許されないだろう
自分の意見を優先させてしまうなんて、リーダー失格だ
「3」
でも、それでも助けてやりたい
泣いている女を見捨てる男ではないんだよ、俺は
「2」
「決めたぜ」
「そうか」
そういって、化け物は大きくにやりと笑った
「なら、答えを聞こうか」
ほんの数秒にも満たない時間
それが俺には一生のように感じた
まだ、俺は心のどこかで迷っているのかもしれない
でも、男の道ぐらいは貫き通す
「約束しよう。お前に危害を加えないことを・・・」
「正解だよ、サラトさん」
そういうと、化け物はリリムの背中を押した
そして、立ち上がりどこかへ行ってしまった
「これで、本当に良かったの?」
リリムは心配そうな顔をして聞いてきた
「ああ、大丈夫さ。すべての責任は俺が負うつもりだからな」
「そう、ならいいんだけど・・・」
そういうと、リリムは化け物が外し忘れた首輪に手を当てた
そして、
「解錠」
とつぶやいた
その言葉とともに、首輪は粒子となって消えていく
「え?なんで、え?おま、それ外せ、え?」
俺は、とにかく状況が呑み込めなかった
言葉もおかしいことになり、脳が働かくなる
そうやって焦って、周りを見ていると、おかしなことに気が付いた
血が、床に敷いたカーペットについていたはずの血の海が、体が赤く染まり倒れていた無数の使用人たちがどこかに消えていた
部屋には何も残っていなかった
あの化け物が入ってくる前の状態に戻っていた
そうやって頭を抱えながら疑問を次々と浮かべていると、
「じゃあね。約束と取引してくれてありがと」
そう言って状況をいまいち吞込めていない俺を放ってリリムはどこかへ行ってしまった




