6話 悲しみの決断
一体どうすればいいんだ・・・
真司と話していると、急にガネーラの首をつかんで壁に押さえつけた
いきなりの事で俺も全く状況についていけていない
真司は言った。「俺は敵だ」、と
そんなことあるはずないのに、そんなこと信じたくないのに
だけども今、俺は真司におびえている
俺は真司を敵として認識してしまっている
いやなのに、いやだというのに・・・・
〔で、どうするつもりですか?ご主人〕
・・・なあ『神通人』俺はどうすればいいんだろうか
〔いや、そんなこと言われても私は知りませんよ?これはご主人とそのご学友の問題ですから〕
ああ、そうだよな
こんな決断はしたくなかった
この時こんな決断をしなければ俺は、苦しむことはなかったのかもしれない
でももう遅い
やっと、俺の運命の歯車が激しい音をたててゆっくりと回りだした・・・
『神通人』は俺の技能だ
もともとの効果は【未来予知】と【神言】だった
それがいつの間にか【神の子】という効果まで追加されていた
それを獲得して以来、彼女は俺に話しかけてくる
〔むっ、なんだか私が迷惑みたいな話し方ですね・・・〕
まあまあ落ち着けって
で、いつ『神通人』を手に入れたかっていうと、異世界転移する前にはもう獲得していたらしい
『神通人』が言うには、元の世界では一応全員が技能を獲得しているらしい
ただ、魔素(空気中を漂う、魔法を使うために必要な物質)が、元の世界にないから技能が体現できないらしい
まあ、たまに元の世界でも技能を体現できる人がいるらしい
俗にいう超能力者とかは、本物なら技能を体現できているんだと
〔そんなことより決断は済んだんですか?〕
・・・ああ、もう、迷わないよ
俺は剣を構えた
それは明らかな敵対行動
その行動に真司は、
「・・・せーかいだよ、瞬。さあ、そこからどうする?俺を殺すか?」
明らかな挑発をしてきた
そうやって、真司の出方をうかがっているとなんとか腕を外そうともがいていたガネーラが急におとなしくなった
みると、腕は力なくだらんと垂れ下がっていて、目からもいつものような光が消えている
「まさか・・・・」
そうつぶやいたとき、目の前が真っ赤に染まった
体が熱い、心が熱い
そして俺は、切った
怒りの赴くままに、真司のもとへ跳び一撃で首を落とした
体の力が抜けたようで、ガネーラがだらしなく倒れ込む
俺は急いでポケットから回復薬を取り出し彼女に飲ませると、肩をつかみ思いっきり揺すった
「おい!ガネーラ起きろ!おい!おい!おい、お、い」
そうやって揺すってると、急に力が抜けてきた
足首に何かが当たっているような気がしたので、そっちを見てみるとなぜか頭を失った真司の体が俺の足首をつかんでいた
いつの間に・・・
そう思っていると限界が来たようで、そのまま俺は深い眠りについた・・・
いや~よかったよかった
ここで瞬が甘いこと言いだしたらもう止められなかったんだよな~
決断したところでさらに怒りでの後押し
これで俺を殺さないほうがおかしいな
勿論ガネーラさんは死んではいない
『精気吸収』を使ってちょっと眠ってもらっただけだ
そしてついでに瞬にも、な
瞬が倒れたのを確認すると、『自己再生』で体を再生させる
それに気が付いたようでパララさんはまた、こちらに剣を向けてきた
「・・・なんでお前、生きてるんだ?確かに勇者様が首を落としたはずなのに」
おお!ものすごくうれしい反応だ
「さあな、なんで生きてると思う?・・・まあいいや、ただ言えることはお前らに俺は殺せないってだけだ。あと、二人とも死んでないから安心しろ」
そういうと、『影移動』を使ってその場から逃げた
勿論リリム姉さんと一緒に・・・
「ちょっとどういうことかしら。転生?意味が分からないんだけど私に教えてもらってもいい?」
移動した後、リリム姉さんはさっき瞬と話した会話について詳しく聞いてきた
「ああ、そう言えばそんな約束してたっけ。じゃあ話すとしますか・・・」
念のため天童さんとか智里のことも含めて、俺が転生してからリリム姉さんに会うまでを簡単に話した
「死後に記憶をなくして甦る、ね。そんなことが実際は起きてたなんて驚きだわ」
「え?この世界ではそういう概念はないんですか?例えば神への信仰とか・・・」
「ああ、それならあるわよ。神様とか、天使様とかいうやつでしょ?ただね、この世界では生物は皆、死んだあと天界っていう場所に行くと定められているのよ。だからね~、そんな仮説にも満たない証明なんてこの世界の偉い人は考えもしなかったのよ。それに異世界か・・・そんなものもあるなんてね~。やっぱりこの世界はまだまだ知らないことだらけね」
転生はこの世界では考えられなかった考え方なのか・・・
〖意外ですね。しかも異世界の事も知らなかったようですし、そのことを考えると案外主は特別なのかもしれませんね〗
{まあそれの原因は『二重人格』を獲得したからなんだけどな}
確かにそうだよな
【永劫記憶】なんてものを持ってたら、そりゃ嫌でも記憶もちで転生するもんな
そういえばだけど天童さんと姉ちゃんがどうなったのかが気になるな・・・
〖おそらく主と違って記憶を失って転生したのだと思います。もしかしたらこの世界にいるんじゃないですか?〗
って言われたから、異世界転生なんて意外と普通なんだなと思った
「・・・なるほどね。ってか貴方女だったの?そうなら初めからそう言ってくれればよかったのに・・・」
「いや言ったところで、別に変わるわけじゃないし大丈夫かな~と」
・・・少しばかりの沈黙が走る
「で、よかったの?彼にあんなことさせて」
リリム姉さんは全てを察したような口調で聞いてきた
「この世界で生き残るためには、あれぐらいしないとだめでしょう?」
「確かにそうね。でもこれで貴女は友を失った。次は何を失うの?仲間?それとも心?」
「俺に失うものなんてありませんよ。仲間も、心も失うものなんて・・・」
「そう、つまらない人ね」
そう言ってリリム姉さんは俺の頬を思いっきりしばいた
パチンッといい音が雲一つない空に広がった
そのビンタに、俺は何も言うことができなかった
ただ、まだ痛む赤く染まったほほを押さえることしか俺はできなかった
「そんなこと言ってかっこつけてんじゃないわよこの餓鬼。心なんかない?ならあの時見せた笑顔はなによ?演技だとでもいうの?ほんっと馬鹿じゃないの貴女・・・」
リリム姉さんは泣きながら崩れ落ちた
・・・なあ俺に心なんてもんはあるのか?
〖理解不能です。その質問をする意味が分かりません。主にはちゃんとあるじゃないですか。とても清らかな他人を思いやる優しい心が〗
「・・・」
呆れた。確かに馬鹿みたいだ
「・・・優しくてなにが悪いの?、か」
ふと、小学校の頃を思い出した
俺と瞬が出会った頃のことを・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・?
「あれ?思ったより覚えてないな」
どうやら俺の頭の中では約10年前の記憶はほとんど残っていないらしい
{一応幻視体験的なことはできるけど、やるか?}
時間があったらでいいです
「えっと、出会ったときから思ってたんだけど貴女って頭大丈夫?」
「え?」
「だって、急に独り言を始めたり、いきなり叫んだりするから、その・・・」
「あ~・・・えっとですね・・・なんて言うか・・・」
こんな時言うべき言葉が思いつかない
どういったことを言えばいいんでしょうかね?
〖それは分かりませんけど主。後ろ後ろ〗
え?後ろがどうかし・・・
『善意』さんに言われて振り返ってみると、少し先に不死者がいた
うん、つまりなんだ。今一番取るべき行動は、
「逃げろ!!!」
逃走だった
素早く立ち上がり倒れているリリム姉さんの手をつかんで、引っ張り上げる
そのままお姫様抱っこをして、走った
合成獣の一件で、これが一番早いだろうと確信したからだ
リリム姉さんは何が起きているのかわからず、俺の腕を引き離そうとした
まあ、貧弱(肉体的に)な魔法使いがバリバリ武闘派な奴に力比べをして勝てるわけがないということで、結局不死者が見えなくなるまで終始無言の気まずい空気が流れた
リリム姉さんのことを抱え走って15分
全力ダッシュをしたせいでさすがに疲れてしまったが、なんとか例の目的地にたどり着いた
そう、あの集落に
今は門番の攻略方法を近くの廃ビル内で考えている途中だ
ここに来る途中であれやこれやの面倒ごとに巻き込まれてしまったので、結局着いたのは予定の半日遅れという・・・
友達との約束とかだったら相手はガチ切れ状態だ
まあ待たせたりはしていないが、先日の一件があるからどう入っていいか迷うな・・・
「ねえ、なんで私をその///あんな風に運んだのかは聞いてもいいかしら?」
あれ、この世界にもお姫様抱っこという概念があるのだろうか?
とても恥ずかしかったのか顔が真っ赤になっている
「いや、あれが一番運びやすかったからですけど・・・」
中学の頃の話だ
陸上部でエースだった俺は、この低身長のせいで棒高跳びをミスってしまい、足の骨を折ったことがある
その時同じ陸上部だった瞬が医務室まで連れて行ってくれたのだが、その時になぜかお姫様抱っこで連れていかれた
廊下も全力で走ったらしく処置が早く始まったことで、結果すぐにギプスをはめてもらえた
そのあと、なぜお姫様抱っこをしたのか聞いてみると、「あれが人を抱えて速く走れる方法だからな」と教えられた
それから半年ほど、俺らが付き合っているというデマが学年で流れたのは言うまでもないだろう・・・
そんなわけで、別にふざけてやったわけではない
あくまで早く運ぶためだ
人工呼吸をキスとかいうやつがいるが、あれもあくまで人命救助だから気にする必要はないというやつもいる
さっきのもそんな感じだった
そうリリム姉さんに説明すると、本日二度目のビンタを両頬に食らった
こっちのほうが威力が高く、バチンッ!!といった音がビル全体に響いた
物凄く痛かったです
どんなドМでもこれはご褒美にはならないだろうと思った
俺?俺はもちろんSですがなにか?
まあSM談義なんてのは置いておいて、どうやって侵入するかだ
『屈折』を使おうとも思ったが、どうやらスキルの効果対象は俺にしかないらしくリリム姉さんが入れない
あとは『影移動』があるが、さすがに連発しすぎると『善意』さんに負担をかけてしまうため、これ以上はダメだろう
・・・しょうがないな、一番したくなかったプランBを使うとしよう
というわけで『善意』さん。お願いします
〖了解しました。『物体創生』を起動します・・・〗
そして、またあの現象が起きた
周りの物体が俺の手元に集まってくる
そして、だんだんと剣の形を形成していく
だが、今回はそれだけではない
それはリリム姉さんの腕輪もだんだんと光始めた
俺たちがいるビルの一室がまばゆい光に包まる
流石に外にも光が漏れるだろうから、もうそろそろ終わってほしい
〖・・・完成しました。[魔力抑制腕輪・改]です。主の要望通り、主に攻撃する、主から半径一キロ以上離れる、無理矢理外そうとすると爆発するようになりました。その代わり、所有者が魔法・技能をある程度使用できるようになります。また、制限はこちらで管理できます。あと、[聖剣 エクスカリバー]に、追尾斬撃、誘眠の効果を加えました〗
『善意』さんのその声とともに、光がやんだ
望み通りの効果を『善意』さんがつけてくれたので安心だ
ただ、爆発する危険が増大したのは言うまでもないが・・・
あと、なぜか勝手に聖剣に謎の効果が加えられていた
頼んでいた誘眠(切った相手を眠らせる効果 ドラ〇エのま〇ろみのけんみたいなもの)はいいとして、追尾斬撃って・・・
たぶんホーミング効果が付いた斬撃を飛ばすって感じだろうけど、そんなの頼んだ覚え・・・
〖え?頼みませんでしたか?私に〗
あ~昨日のあれか。もしかして、「それはいいんだが・・・」を頼んだと思い込んだらしい
まあ、誘眠と重ねて使うとスゴイ効果を発揮しそうだしいいか・・・
そう思って今更ながらリリム姉さんの方をちらりと見てみると、なんか白目をむいていた
肩をもって揺さぶってみる
それでもどこかを虚ろな目で、ってか白目なのに物凄い視線でこちらを見ていた
こうなったらあれだ、伝説のあの技を使うしかないわ
やり方を説明するとまず、手を合わせます
それを唇につけ、力をためます
つぎに、手を放してあの仏像のポーズをとります
そして肩が外れるぐらい手を後ろに引きます
最後に、手を勢いよく相手の頬に向かってたたきつけます
はいビンタです本当にありがとうございます
というわけでやってみようか、『悪意』君
{やめてやれ。お前死ぬぞ}
・・・でも攻撃はされないから大丈夫じゃないか?
{爆発範囲は大体この国ぐらいの大きさだよな?}
〖はいそうですが、どうしましたか?〗
俺死んじゃいますね、やめましょうか
しかしならどうしようか・・・
!そうだ、面白いこと思いついた
なあなあ『善意』さん。『物体創生』で“ごにょごにょ”を作ってくれない?
〖・・・?はい、わかりました。主の記憶をもとに作成しておきます〗
{お前、スキルを困らすなよ・・・}
面白そうだからいいんです
ちなみに、さっきの光を見て衛兵が来ることはなかった
パアン!!と何かが割れる音を聞いて、リリム姉さんは目覚めた
その寝ぼけた顔に、冷たい液体が触れた時、リリム姉さんの意識は一気に覚醒した
「げほっ・・・うう゛、ばなに水が・・・」
俺が用意したのは、水風船と針だ
まあなんだ、寝かせたリリム姉さんの顔の上で水風船を割っただけだ
そのおかげで、起こすことができたようだ
なんかすっごい恨みがましい目でリリム姉さんがこちらを見ている気がするが気のせいだろう
「・・・ちょっと、貴女何してんのよ」
びちゃびちゃに濡れた頭を起こし、ガンを飛ばしてきた
やっぱり怒ってるな・・・
{そりゃ怒らないほうがおかしいからな。寝耳に水ってレベルを越えてるし}
そうそう、めっちゃ苦しいんだよなこれ
{いや、なんでお前知ってんだよ}
瞬にやられました!
{なるほど察した}
〖それより行かなくていいんですか?かれこれ30分ぐらいここにいますけど〗
ああ、そうでしたね
じゃあ行くとしよう
「そんなことより、さっさと行かないと日が暮れますよ?」
「・・・貴女ねぇ、ちょっと座りなさい!!!」
とうとうリリム姉さんが切れた
そのあと2時間こってりとしぼられました
女って怒らすと怖いね
{前にも言ってたよな?それ}
全く記憶にございません
{・・・・・}
「ちょっと!話聞いてるの!!」
おっとっと
これ以上はマジで殺されそうだし真剣に聞くとしよう
リリム姉さんの怒りが収まったところを見計らって、作戦の説明をした
まず、俺が特攻して門番二人を眠らせる
その後、リリム姉さんの案内のもと、あのテントにいたリーダーとやらに話をつける
この作戦なら、まあ大丈夫だろう
「じゃ、行きましょうか」
「・・・・・」
おおっと、リリム姉さんはまだお怒りの様子だ
「そんなに怒らないでくださいよ~。そうだ!これいりますか?」
そういって、『物体創生』でシュークリームを作った
シュークリーム、それは小麦の生地を外はカリカリ中はふわふわに焼き上げ、中に甘くとろとろなクリームが入った女性や子供に大人気なスイーツだ
予想通り食べたことがなかったようで、とても気に入ってくれた
それのおかげで、機嫌も直ったようだ
「さて、じゃあ行くとしましょうか」
「ええ、そうね」
そうして俺たちはビルの五階の窓から飛び出した