3話 悲報 息子消滅
立ち去った後、もともと目的だった場所へ向かうことにした
もうめんどくさいから『善意』さんが教えてくれた固有技能『影移動』とやらで一気に向かうことにした
ついてみると、会議中だろうか?
多くの人が話し合っていた
壁に耳をつけて聞いているから良くは聞こえなかったが、途中2回ほど殺気を感じた
まあ、気のせいだろう
・・・しかしどうしようか
このまま出ていくのもあれだからな~
いっそのこと吸血鬼だし、逆さになって話しかけてやろうか
〖それでいいんじゃないですか?いっそのこと皆殺しですし、かっこつけたところで誰もうわさしたりしませんよ?〗
『善意』さんがおっそろしいことを言っているのはスルーするとして、ならどこに足を引っかけるかだけど・・・
そう思いながら探していると、なぜかドアが開いていた
正確にはドアが壊されていた
蝶つがいも真っ二つに折られている
どうしてこうなった
まあいいや、ドアのところに足でもひっかけるか
そう思っていると、どうやら会議が終わったらしい
全員が椅子から立ち上がり外へ出ようとしているのが見えた
ちなみに今、俺は『屈折』を使ってるから見えていない
ちょうどぶら下がれたし、『善意』切ってくれるか?
〖了解しました〗
そう言うと何もない空中から人の形をした俺が浮かび上がっていく
「これはこれはお偉いさん方、どこへ行くのでしょうか?」
にやりと不敵な笑みを浮かべながら俺は話しかけた
・・・まあ、挑発の意味も込めて
そんな俺の様子に、赤髪の少年は俺を知っているかのように、
「おま、お前はっ!!」
そう叫んだ
刹那、俺と出ていくはずだった10人ほどの集団との間に閃光が走った
何事かと腕を構えてみたが、それはもう遅かった
視界が揺らぎ、後ろで何かが落ちた音がした
その何かの正体は、自分の体だった
落ちていく頭でよく見てみると、白髪のじいさんがどこからか取り出した刀を振ったようだ
どうやら俺は、そいつに首を落とされてしまったらしい
だんだんと目の前が暗くなってくる
そして転生後の俺の人生は、ここで幕を閉じた・・・・・
「なわけあるかぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!!!!」
思いっきり叫んだ
この結構丈夫そうな建物も吹き飛ばすぐらいの勢いで
・・・ん?叫んだ?
首が落ちたら人間って声が出せなかったような・・・
そう思っていつの間にか閉じていた目を開けてみると、先ほどまで目の前に立っていた10人ほどの集団が倒れていた
そして、なぜか俺の首の下には元から切られてなどいなかったように体が生えていた
「・・・『善意』さん『善意』さん、今度は何をしたのかな?」
そういって聞いてみるとなんと、
〖【人格交代】により、この体を制御して彼らを倒しました。もちろん、要望通り殺してはいません!!〗
「へーそうなんだ。で、この体はどうしたのかな?おおかた、『物体創生』でも使ったんだと思うけど」
〖いえ、今回は固有技能『自己再生』を使いました。『物体創生』でもよかったのですが、こちらの方が早いので〗
・・・・もうついていけません
「もうさ、俺が持ってる技能全部教えてくれないか?」
さすがにここまで好き勝手使われたら、知っておきたくなった
〖了解しました。少しお待ちください〗
そういって、何やら作り始めた
〖・・・完成しました。[ギルドカード]です〗
『善意』さんがギルドカードとか言ったものを作った
それは、大体10×6センチぐらいの大きさの銀色のカードだった
〖これに遺伝子情報を認識させれば、そのものの持っているスキルや、大体の身体能力の数値、名前、称号などが見れるようになります〗
「遺伝子情報、か」
確か血液とかほほの裏擦って遺伝子取り出すって学校で習ったな
〖ほかに唾液でも遺伝子情報を読み取ることは可能です〗
そうか、なら
そうおもって、カードをぺろりとなめた
冷たい感覚が下に伝わったとき、カードが光りだした
驚きつつカードを見ていると、だんだんと文字が現れていく
〈種族名 吸血鬼
名前
性別 女
称号 「死神」「時を司る者」
ランク
所持技能
上位技能
『多重人格』・・・【永劫記憶】【人格交代】【技能・魔法補佐】【人格創生】【解析】【完全人格】【人格付与】
『時間移動』・・・【魂移動】【肉体移動】【死の回避】
『死神』・・・【魂喰】【誘惑】【魅了】【死亡変更】【魂強奪】【事象変化】
『蛇妃』・・・【蛇眼】【技能封印】
固有技能
『物体創生』『自己再生』『影移動』『屈折』『擬態』『威圧』『精気吸収』
技能
『言語理解』『物質操作』『読心』
耐性
『精神操作無効』『爆発耐性』『毒無効』『日光無効』『石化耐性』〉
・・・長いな
しかも『二重人格』と『過去移動』と『生け贄』は進化?してるし
しかも称号も死神ってなんだよ!!
{それよりさぁ、もっと注目すべきところがあるだろ}
・・・何のことでしょうか?
{目そらしてんじゃねえよ。性別、よく見てみろ}
・・・見たくないんですが
{俺が言おうか?}
・・・はっちゃけていい?
{存分に}
「・・・・・なんで女なんだよ!!!!!うん、大体気が付いてたよ?なんか下半身のあたりに違和感があったから大体わかったけど、それでも必死に目をそらしてたよ。見た目も男っぽかったし、嘘だと思ったんだよ。なのになんでだよ!!!なんで女になってんだよ!!」
〖転生したので、性別が変わってもおかしくはありませんよ?〗
「そうだけどもさぁ!?女になったってのは結構ショックだぞ?結局童貞のまま死亡って・・・しかも今度は女だから卒業できるのは当分先ってことになるし・・・最悪の状況だ!!!!!!!」
{いや、性別あるだけでもラッキーな方だぜ?吸血鬼ってのは基本吸血行為でしか子孫や眷属を作らないからな。必要ないってことで生殖器とか性別はないんだよ}
そう、なのか?
{おう、俺が嘘をついたことがあったか?}
しょっちゅうあったな
{・・・そうだっけ?}
・・・・・
「しかしこいつらどうするよ?このまま気絶させて放置ってわけにもいかないし」
そうやって文字通り頭を抱えて悩んでいると、おかしなことに気が付いた
「あれ、1、2、3、4・・・・こいつら全部で10人しかいない・・・確かもう1人いたはずなのに」
{そうか?『善意』が一気に殲滅してたからよく数えてはなかったけど}
「そういえばなんで『悪意』と『善意』が消えてんだ?」
〖・・・主が死ぬ前に、『二重人格』を通して会話してたのは覚えてますよね?〗
「ああ、たしかに『善意』と『悪意』が封印されたからだったよな」
〖はい。そして、私たちが『二重人格』につながったまま進化が開始されたので、その時に吸収されてしまったんです〗
「・・・なるほど。じゃあお前らは『多重人格』に吸収されてこの【完全人格】ってやつになったのか?」
〖はい、恐らく〗
「そうか・・・まあ、いつもと変わらないし大丈夫、か」
{それはいいけど、お前が言ってた逃げ出した1人ってやつの反応があったぞ。どうやら転移系の魔法を使って逃げたっぽいから、すぐに足はついたけどな}
急な『悪意』の報告に驚いたが、まあいい
その逃げ出したやつに会いに行くとしよう
目が覚めない程度に『物体創生』を使って作った回復薬を全員に飲ませておいて、俺は崩れかけの建物をそっと抜け出した
・・・寝てる間に崩れないことを祈るとしよう
崩れかけたビル街の中、この場所に似合わない衣装に身を包んだ一人の女性がいら立ちを隠せない様子で歩いていた
「っち、なんなのよあの化け物!?」
彼女は舌打ちをしつつ、近くにあったバイクのような乗り物を蹴り飛ばした
それは高く飛び上がり、大きな音を立てながら空中で爆発した
「とりあえず魔王様に報告しないと」
そういって持っていた袋から連絡用の水晶を取り出している途中、元いた場所から大きな悪寒を感じた
「まさか、もう目覚めたっていうの!?」
彼女はここに来る前、一匹の化け物を目にしていた
尋常じゃないほどの生命力
圧倒的な力
そして、強大なる魔法にも屈しない精神力
もはや化け物としか言いようがなかった
「いや、あれは化け物なんかじゃないわ。確かにあれは、災厄ね。彼が言ってた通りだわ」
その災厄は、一瞬で自分たちを倒していった
なんとか自分の強力な睡眠魔法で眠らせることができた
そして逃げ出すことに成功したが、これではもう遅いのかもしれない
もしかしたら、もう家に帰ることは無理かもしれない
でもせめて、あれが来る前に報告だけはしないと・・・
そう思い彼女は水晶に魔力を込め始めた
すると、だんだんと水晶は淡い光を帯びていった
「・・・報告します。私が潜入していた集落に、異常な力を持った魔人が襲撃してきました。なんとか逃げ出すことは成功しましたが、すぐに追いつかれて死ぬかと思います。あと、これは私の娘に。貴女に辛いこと思いさせてしまうお母さんでごめんね。今も、そしてこれからも、ずっと愛しています。・・・報告は以上です」
水晶は光を失っていく
そして、彼女の目からでた涙がほほを伝っていく
「ごめんなさい、ごめんなさい」
そういいながら袋に水晶をしまい、代わりにナイフを取り出した
「・・・ずっとずーっと愛してるね」
そういって彼女は目をつぶり、のど元にナイフを突き刺した
赤い鮮血が溢れだし、鈍い痛みが彼女に襲い掛かる・・・はずだった
いつまで立っても来ない痛みに疑問を感じ、目を開けてみると刺さっていたはずのナイフは、刀身を失っていた
「・・・自殺なんてして誰が喜ぶのかね。あ、魔人とかの風習か?それ」
驚いている彼女に聞き覚えのある声が耳に入った
「よ、話に来たぜ」
その声の主は先程あった、一つの災厄だった―――――
あっぶね!!!
まさか『影移動』で移動した先で追ってたやつが自殺しようとしてるとは思わなかった
とっさに『物体創生』で手頃な投げナイフを作って投げて、運よくナイフを折ることはできたけど・・・
位置がずれてたら自殺を止めるどころかそれを押し勧めるところだった
『よ、話に来たぜ』とカッコつけたものの、内心汗だらだらだった
「話に、来た?何言ってるのかしら?」
・・・ん?何か勘違いしてないかこいつ
〖おそらく逃げた自分を殺しにきたと勘違いしているようです〗
あ、なるほど
それならさっき自殺しようとしてた理由もつくな
「何って、俺はただ話したいだけだって。ここがどこかとか、あんたが誰だとか」
ついでに、『ずっとずーっと愛してるね』とか言って死のうとした事についての説教もな
そんな悪意?が伝わったのか、元からか少し怯えながら口を開いた
「わた、私はリリム。貴方と同じ魔人よ。・・・ここは、クラテル王国。今は荒れ果ててるけど、元はとても住みやすい土地だったらしいわ。私が話せる情報はそれだけ」
リリムと名乗った女性はそう言うと、また口を閉じてしまった
「そうか。で、ほんとのところはどうなんだ?」
まあ、さっきの情報が嘘ってのは丸わかりだ
どうやら『読心』の効果で、その言葉が真偽かどうかだけは分かるらしい
完全に読むことはできないが、なんとも頼りになるスキルだろうか!!
・・・まあ、天童さんが持ってた技能よりは貧弱だけど
リリムと名乗った女性は、俺が言ったその言葉に戸惑いを隠せないようで、
「な、何のこと!?私は真実しか・・・」
なんて分かりやすい嘘を言ってきた
こんなん技能使うまでもないな
「ざんね~ん。俺はその言葉が真実かどうか知ることができるんだ。さて、死にたくなかったらさっさと情報を吐いてくれ」
そういってのど元に創造ったナイフを向けた
この人は酷く俺を怖がってたし、これをやるだけで十二分に脅しの効果はある
どうやら秘密を守るのは諦めたらしい
結構素直に自分に関して、そしてこの国に関して話してくれた
どうやらこの人、夫と娘がいるらしい
そのことも含めてその後に小1時間説教してやった
まずリリムさんについて簡単にまとめると、どうやらこの人とある国のスパイだそうだ
そんでもって正体は受肉した悪魔らしい
滅亡してしまった国の内情を知るために派遣されたとか
家族持ちの人(悪魔)妻を危険なとこに派遣するって、その国も結構ブラックだな・・・
次に、この国は実際にクラテル王国という、魔王が治める国らしい
とても美しい都市だったらしいが、数年前に急激な黒マナとやらが増え、魔物やらなんやらが湧いて出て滅亡一歩手前まで追い込まれたらしい
しかも隣のプラネリ王国とやらも、生き残っている人の助けに耳を貸さない連中ばかりで、ここのやつらも全滅しかけているらしい
まあ、向こうも黒マナに侵食されてるらしいから、ある意味ざまあみろではあるが・・・
んで、生き残った人達は、魔王様がお怒りになったとか、とうとう人類殲滅を開始したとか、結構ネガティブシンキングになってるんだとか
たしかに急に魔物が町中に現れたりしたらそりゃ精神崩壊待ったなしだわな
あの衛兵の表情の意味もようやく理解できた
さて、あと驚きだったのはリリムさんの素性だ
どうやらこの人、500年以上生きたご年配らしい・・・
女性なのにそんなオープンに重要な事実を言ってもいいのかと思ったが(半分ぐらい無理矢理言わせたのもあるが)、どうやら外的要因がない限り死なないため年齢気にする必要がないらしい
そして一番驚きなのがこの人、魔王に仕えていて、俗にいう所の魔王の左腕という立場らしい
俺におびえてはいたが、この人俺より強いんじゃ・・・
そう思って『善意』さんに聞いてみると、
〖いえ。魔法の使役などでは魔人の中でもトップクラスでしょうが、肉体が成長しておらず、近接戦闘には向いていません。もし、主のような筋力がなければ、優位性はリリムにあったでしょう。また、怯えていたのは『威圧』の効果が大きいです〗
だ、そうだ
そうか、あそこまで優位に立ち回れたのはここまで筋力があったからか
そんなまとめを終えた後、『善意』さんに頼んで、『物体創生』で[魔力抑制腕輪]とやらを作ってもらった
それは黒い枷のようなもので、何やら側面に文字が書かれていた
『善意』さん曰く、これは名前通り腕輪をつけている相手の魔力を抑制して魔法や技能を行使できなくするものだ
ついでに発信機のようなものもついているから、物理的に逃げようとしてもどこまでも追いかけていける
さらに無理に外そうとするとお約束の如く爆発するから、結局俺から逃げることはできない
なんて物を『善意』さんは作ってしまったんだか・・・
そう思いながら腕輪を通そうとすると、穴が小さすぎて腕輪に腕が通らなかった
ちなみにこれは、リリム姉さんの腕が太かったってわけではない
どうやってつけようかと悩みつつ、ふざけて腕輪をリリム姉さんの腕に当ててみると、急に液体に変化したように通り抜け、がっちりとはまってしまった
「・・・まじか。こんな簡単にはまるもんなんだな。なあ、これってどうやったら外れるんだ?」
「・・・え?知らないわよ!?私そんなの・・・」
どうやらリリム姉さんが勘違いをしてしまったらしいが放っておこう
〖え?外れませんよ?〗
はい?
「外れないってマジかそれ!!!!!!」
「!!?」
なんかまたリリム姉さんが焦っているが無視しよう
〖はい、爆発させるしかありません〗
まじっすかー
どこの天才爆弾魔ですかそれ?
俺の爆弾は誰にも解除できないアートってか?
{ならさ、『物体創生』でも一回作り直したらどうだ?}
〖・・・させませんよ『悪意』。たとえあなたが相手でも、私は主を害するものを排除することをやめません〗
{お前は毎回やりすぎなんだよ!!少しは自重とやらを知ったらどうだ?でないと、主とやらに嫌われるぞ}
〖!?自重、ですか。・・・はぁ。不本意ながら、少しは学ぶことにします〗
何か大きそうで意外と小さい戦いが俺の中で終わり、一段落着いた所でリリム姉さんがつけていた腕輪が光り輝いた
もう彼女は何が起きているかわからず、ただただ放心状態だ
だんだんと光が落ち着いていった
完全に光は落ち着いたが、特に腕輪に変化はなかった
・・・どういうことですか?『善意』さん
〖主のみが解除できるようにしました。主が、腕輪から半径1キロ以内にいる場合に限り、主の意思で解錠することができます〗
なるほど、『善意』さんも少しは反省したって認識でいいのか?
{ああ、そう思っとけ}
なんか不安だけど・・・いいや
「さて、じゃあ行きましょうか」
そういってまだぼーっとしているリリム姉さんに呼びかけた
「ふぇ!?あ、ああうん。で、どこに行くの?」
あ、この人寝てたな
その証拠がくっきりと口元に現れているが、面白そうだしスルーしよう
「どこって、あの建物ですよ。もともと俺は、話をしに来ただけですしね」
そう、忘れていたが俺の目的は話し合いだ
そろそろ彼らも起きていることだろうし、さっさと行くとしよう
「じゃ、歩きましょうか」
「え?ちょっとなんで?」
リリム姉さんが不思議そうに尋ねる
「だって、貴女魔法使えませんよね?」
「あ・・・・・・」
すっかり忘れてるし・・・
この後、突然変異の魔物に出くわしたり、不死者に追い回されたりで、結局あの集落についたのが次の日になってしまった
そして、その集落で待っていたのはまた面倒くさいことだった・・・