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英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
前日譚 「夢落ちなんかじゃ終われない・・・」
13/68

一二話 スキルだって怒ります

※'17 1/10 言い回しなど変更しました

序章最終回です

ありがとうございました

「やっぱりここら辺は被害少ないですね」

 天童さんが窓を見ながらそうつぶやいた

「そうだな、まあ震源から遠かったてのもあるけどな」

「私たちの町は近かったからね~」

 ああと返事だけして、窓の外を見てみると、夜景がとても綺麗だった

「・・・綺麗だな」

「ええ、そうですね」

{でもさー考えてみろよ。今の時間帯的にビルの明かりとかほとんど残業してる人だぜ?かわいそうだとも思わないか?}

 うん、確かにそーだけどもさ

〖私ならこの場合、社会の闇を感じます〗

 社会の闇って・・・

 何?お前らは何が言いたいんだ?

〖確かにこの夜景は綺麗ですが、やっぱりこんな夜遅くまで働かされている人がいるということを自覚しないといけませんし・・・〗

 やめろ

 ってかなんだろう。それ以上言っちゃったら怒られそうだから。

 てか『善意ジキル』さん、なんか怒ってないか?

〖怒ってなんていませんよ?別にお肉が食べれないからって怒っていませんよ?〗

 怒ってんじゃん!!

 ちょっとまて、明日になったら肉が食えるから、な?落ち着こう、いったん落ち着こう

〖・・・わかりました。そのかわり、明日お肉が食べれなかった場合【人格交代】を使って、マスターの頭を自分でねじ切ります〗

 おっそろしいな!!

 はい、わかりましたわかりました

 絶対に食わしてやるから待ってろ

〖はい、約束ですよ!〗

 そう言って話していると姉が、

「そういえばこれからどうするの?」

 と俺らに聞いてきた

「これからって言ってもなぁ」

「学校があるかもわかりませんしね」

「そっか、じゃあ連絡が来るまで待たないとね」

「ああ、そうだな」

「あ、そういえば。真司くん、携帯ひらいてください」

 そう言って天童さんは自分のスマホを取り出した

「もしかして連絡交換?そういえばしてなかったな」

「はい、覚えてるうちにやっておこうと思ったので」

「じゃあえっと電話番号がっと、ほら」

 そう言って画面を見せた

「はい、えっと・・・登録できました。じゃあこっちも、はいどうぞ」

 そう言って画面を見せてくれた

 なんかかわいいな

 プロフィール画像には小さい頃の写真だろうか?

 ニカッっと笑ったツインテールの幼い少女の写真が載っていた

「はいおっけ、登録できたよ」

「これで連絡も便利にできますね」

「ああそうだな」

 そう言って二人で笑いあっていると、突然あの場面(・・・・)を思い出させる爆音が、暗い夜空に響き渡った

 シートベルトを外し、音がした方の窓を全開にした

 そこから見えたのは、黒い煙を巻き上げて燃えるスーパーだった

 しかも大きく爆発したようで、1~2階の大部分が消滅していた・・・・・・・




「なんですか、あれ」

 怯えているのか、天童さんが震えた声でつぶやいた

〖あの爆発から推測して、一般人が作れるような爆弾ではありません。確実に何か目的をもって行われたテロだと思われます〗

{しかもあれ、よく見てみろよ。さっきまで俺らがいたとこだぜ。少し出発が遅れてたら爆発に巻き込まれてたぞ}

 ホントだ。確かにあの駐車場も巻き込まれている

「そうだ、姉ちゃん。テレビ!テレビつけて!!」

 そう言って車についているテレビを姉につけさせる

「えっとニュース番組は・・・・でた。えっと爆発した原因は今のところ不明。おそらく無差別テロの可能性があるって言ってる」

 やっぱりテロの可能性が高いのか・・・

〖・・・マスター知らせが1つ〗

 なんだ?

〖死亡時刻の変更を確認しました。死亡時間は1時29分、死因は爆死です〗

 爆死?どういうことだ?うちの近くにもテロの犯人が来るのか?

{お前さ、そろそろ分かれよ}

 え?

 その瞬間、俺は聞いてしまった

 横から聞こえた「チッ」という小さな舌打ちを

 俺の鼓膜を大きく揺らしたであろう、その舌打ちを・・・・・





 俺はひどく驚いた

 恐怖から俺の体温がゆっくりと下がっていくのがわかる

 だって、その舌打ちは天童さんから漏れ出ていたからだ

「っ!?」

 そのとき俺は何も言うことができなかった

「とりあえず、帰ろっか」

「あ・・・はい、そうですね」

 車の空気が少し重たくなり、そのまま家へと戻った





 やっと家に着いた

 行きは20分くらいで着いたのだが、爆発したのが原因か道路が混んでいて、50分ほどかかってしまった

「さて、じゃあ澄羽ちゃんお願いしていい?」

「はい、分かりました」

 そういって天童さんは家へと入っていった

「さて、荷物運ぶわよー」

「・・・ごめん、姉ちゃん。ちょっと気分悪いから部屋で休んでていいか?」

「え?いや、別にいいけど・・・大丈夫?」

「ああ、ちょっと休んだらすぐ良くなるって」

 まだ俺の頭の中で、あの舌打ちがリピートされている

 部屋に入ると気分が悪くなり、そのままベットに潜り込んだ




「お風呂、準備できましたよ」

 甘い声が耳元で聞こえて、俺は目が覚めた

 このイベントはかなりの男性が望むイベントであろう

 しかしあの甘い声は、俺にとって恐怖の象徴でしかなかった

 体のあらゆるところから冷や汗がにじみだす

 ゆっくりと目を開けると天童さんが笑顔で部屋を出ようとしていた 

 彼女が着ていた服はどこか薄汚れている気がした

 気のせいか?

〖気のせいではありません。どこか汚れた場所に入ったようです〗

 そっか

「あの、そんなに風呂汚れてた?結構一生懸命洗ったつもりなんだけど」

 とりあえずこれでぼろを出すか試してみようか

 俺が問いかけると彼女はドアノブを閉めようとしていた手を止め、こう答えた

「え?いや、綺麗でしたよ?ピッカピカでした」

 ・・・・予想通りの反応だな

「そうか、ごめん気のせいだった」

「いえ、別にそれならいいんですが・・・」

 天童さんは困ったような反応を見せた

 ・・・可愛いな

マスター、何を思っているんですか!?〗

 やっべ!なんかまた怒ってらっしゃる!!

{自業自得だな}

 ちょ、マジで助けて?

 俺死ぬかもしんないよ?

〖死んだっていいんじゃないですか?どうせ生き返るんですから〗

 『善意ジキル』さんこわ!!

〖いっそのことこの家ごと自爆してしまいましょうか・・・〗

 なんかまたおっそろしいこと言ってらっしゃる

 とりあえずやめてくれよ?

 そんな周り巻き込んでの自爆なんて、そんなの人として恥ずかしいだろ

 人間、寿命で死ぬのが一番いいんです

{そんなこと言いながら事故ってたけどな}

 それは言わないお約束

 とりあえず風呂に入るとしよう

「まあいいや、ありがとう。さっぱりしてくるよ」

 天童さんに話しかけると、ぼーっとしていたのか一拍おいてから

「あ、ああ、分かりました。行ってらっしゃい」

 って言って階段を下りて行った

 しかし久しぶりだな、天童さんがぼーっとしてるところを見るの

{・・・・・}

 どうした『悪意ハイド』?

 何か言いたげだけど

{いや、いい}

 なんだ?

 なんか怪しい気もするけど・・・まあいいか

 特に心配する必要もないだろ

 そう思って俺は足早に浴室へと向かった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

{どう思う?}

〖やはり予想は的中していたようですね〗

{ああ、あとは最悪な展開にならなけりゃいいが・・・}

〖そればかりは運ですからね。実際今まで外れていたのがラッキーなくらいです〗

{そうだな、一応保険(・・)をかけておくか}

〖保険?〗

{ああ。これをこうやってっと}

〖ああ、なるほど。確かにこうすれば一回だけはセーフですね〗

{あとはこいつがどうするか、だ}

〖ええ、あとはマスターに任せるとしましょうか〗

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 一日置いての風呂はとても気持ちよかった

 昨日は一日中校庭だったから風呂にすら入れなかったし

 正直べたべたして気持ち悪かったから風呂に入れてよかった

 断水なんかしていたら絶望だからな~

「おーい、風呂あがったぞ」

 居間にいる二人に向けて声をかけてみたが、返事はなかった

「おい、なんで返事してくれな・・・」

 ドアを開け中に入りながら声をかけようとするとそこには、赤く染まった包丁を持った天童さんと、血の海に沈んだ姉の姿があった

「っ!?」

 また俺は言葉に詰まった

「ドッキリ、だよな?」

 俺は状況をまだ呑み込めずにいる

「なあ、そうなん、だろ?」

 俺はこの現実をまだ信じようとしないでいる

 勿論天童さんの返事はなく、赤く染まった包丁をじっと見つめてうつむいたままだった

「悪質だ、よ、こんなの。もう、姉ちゃんも早く、おきろって」

 そういって姉の体に触れると、その体に、人のぬくもりは残っていなかった

 触れ、その温度を確認したとき、いつのまにか俺は泣いていた

 自分の涙で目の前が見えなくなるほどだった

「あ、あ、あああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 俺は雄たけびを上げた

 姉がいなくなった悲しみは俺を一瞬で絶望の淵へ叩き落した

 そして天童さんはそんな俺を見て、笑っていた

「なにがっ、なにがぞんなにおぼしろいんだ!!」

 大量に出た涙のせいか、鼻声になっている

「だって、面白いじゃありませんか。あんなに落ち着いていたっ、真司君が、あはは、こんなに焦ってるんだから」

 血に染まったナイフを眺め、笑いながら答えた

「ぐっ、ぐるってる。ぐるってる!!」

「ええ、狂ってますよ」

 俺の悲痛の叫びに天童さんはあっさりと答えた

「ねえ、知ってますか真司君。私、人の心が読める(・・・・・・・)んです」

「!?」

 え?

 どういうことだ?

 ずっと心を読まれていたのか?

 天童さんに?

 もしかして『悪意ハイド』が言っていた奴って・・・

 だめだ、頭がまたパンクしそうになる

 ちょっと解説おしえてくれよ『善意ジキル

<上位技能『善意ジキル』は、『蛇妃メドゥーサ』によって封印されています。また、『悪意ハイド』もおなじく、封印されています>

 封印って・・・

 じゃあ、橋谷楼花は・・・・・

「橋谷楼花?誰ですかそいつ。それにずっと前から気になってたんだけど。ジキルとかハイドってだれです?友達ですか?」

 ああ、なるほど

 こいつが、こいつが犯人か

 こいつが・・・・俺を殺したのか

「・・・ホントに心が読めてるんだな」

 考えているうちに俺は落ち着きを取り戻していた

 どうせ俺はここでは死なないはずなんだ

 だったらここで焦っても仕方なかった

「殺した・・・そういえば前に「死んだ」とも言ってましたね。貴方は頭がおかしいんですか?って、それは私もか」

 そう言うと彼女はまた高笑いした

「教えてやるよ。『善意ジキル』や『悪意ハイド』ってのは、俺だ」

「それはどういうことだい?」

「それは俺にもわからない。俺が知っているのはそれだけだ」

「じゃあ、大原君を殺したってのは?」

「それは・・・」

 それも知ってたのか

 正直スキルの効果だってのは言いにくいしな・・・

「スキル?なにそれ?もしかして、私が心を読めているのもその『スキル』ってやつの影響なのかな・・・」

「そうかもな。『悪意ハイド』が言ってくれたんだよ。スキルってのは現代で説明できない現象を引き起こすものが多いって」

{そんな説明したか?}

 してくれたじゃん

 とりあえずお前は黙ってろ

「まあ、スキルってのはごく少数の人間しか持ってないみたいだけどな」

〖・・・そろそろ言ってもいいですか?〗

{うん、さすがに言ってもいいと思う}

 ちょっとお前ら静かにしとい・・・

 あれ?

「なんでお前らいんの!?」

 俺は急に叫んだ

 不意を突かれたようで、天童さんも肩をびくつかせた

{はぁ?何言ってんだよ。俺らは最初からお前の中にしかいないぞ?}

〖私たちがどこかに行くと思ってるんですか?〗

 いや、そうじゃなくて

 封印されたって聞いたんだけど?

〖ああ、それなら『二重人格ジキルとハイド』の会話機能を中継して話しかけているんですよ〗

{ほんと大変だったぜ}

 なんというかたくましいっす

 本当見習いたいなその精神

「ちょっと?一人で何話してるんですか?」

「え?いや、ちゃんと話し相手はいるんだけど・・・」

「はぁ?いないですよ。一方通行で話してるじゃないですか」

 どういうことですか?

〖簡単に言うと天童澄羽の読心スキルとは、道の端にいる通行人の会話を盗み聞きしているようなものです〗

 ・・・わかりやすいようなわかりにくいような

{で、今の俺らの状況はお前が道の端っこで携帯電話で会話している感じ。お前の声は聞こえても、通話している人しか相手の声は聞こえないだろ?}

 ・・・?分かりません

「ちょっと、また無視して。やめてください。刺しますよ」

 そういって、持っていた包丁の刃の部分を指でなぞり始めた

「わかった、なんというかな、『善意ジキル』と『悪意ハイド』ってのは俺の深層心理の中の存在ってやつで、お前が持っている心を読むスキルはあくまで表層心理を読むスキルってやつらしい」

 『悪意ハイド』たちの声が聞こえないことをいいことに軽く自己表現を織り交ぜた説明をした

〖案外あってるんですけどね〗

 そう『善意ジキル』さんは言ってくれたからなんだかうれしくなったのは秘密だ

「つまり、私のスキルでは二人の声が聞こえない、と」

「そういうことだ」

〖それよりいいんですか?〗

 なにがだ?

〖・・・・・智里さんの事は〗

 うっ・・・

 そのことを考えると、また怒りが再燃してきた

「今度はこっちの番だ。なんで姉ちゃんを殺した」

 憤った声で天童さんに質問した

 するとまたクスクスと笑って

「わからない」

 そう答えた

 瞬間、目の前が真っ赤になった

「は?なんで、なんでそんな理由で、」

「この世に理由のない悪なんてごまんとありますよ。なら聞きますけど、なんで貴方は大原君を、その妹さんを殺したんですか?」

 彼女は泣きながら答えた

「それはっ・・・」

「ほら、理由なんてないでしょう?それとも何ですか?スキルのせいとでも言いたいんですか?」

{あながち間違ってはない}

 そんなこと言っていいのか・・・

{ほとんど暴発みたいなもんだからな、大原優也に関しては}

 ・・・それでも、心の奥底ではそう思ってたのかもな 

「そうだ。私のお母さん、なんで死んだか知ってますか?」

 とても楽しそうに天童さんが聞いてきた

「地震じゃ、ないのか?」

 怒りを抑えながら答える

「ざんねーん、はーずれ。お母さんとお父さんはね、私が殺したんです」

 まるでなぞなぞの答えを自慢げに言う子供のように、楽し気に彼女は答えた

「ころ、した?」

「はい、鬱陶しかったから殺したんです」

 少し前にも見せてくれた以上の満点の笑みをこちらへ向けてきた

「鬱陶しかったからだって?おまえ、ふざけんな!」

「ふざけんな?じゃあ貴方にはわかるんですか?」

「はあ!?」

「人間のどろどろとした部分である心が、欲望が!ずっと頭の中に流れ込んでくるんですよ?狂うにきまってるじゃないですか・・・いや、狂わないとやっていけいけませんよ。そこに何ですか母親あいつは。不幸なんか知らないような顔して、狂うことを知らない顔して、なんであんなに平然と生きているんですか!!!!」

 そうやって自分の心の内をさらしている天童さんの顔からは笑みが消え、狂気と哀しさがあふれ出ている

 俺はどうするべきだろうか

 彼女の心に寄り添うべきなんだろうか

「・・・てんどうさ、」

「貴方に何がわかるっていうんです!!!!!何も知らない貴方に、なにが」

 慰めようとしたが失敗した

「そんな時、私は大原君を見つけました。彼は、彼だけは頭の中に流れてくる心がきれいでした。わたしは彼が大好きだったんです。もちろん、たまたま同じ学校に入ったっていうのも嘘です。ちゃんと狙って入ったんです」

 狂気に満ち溢れていたはずの天童さんの顔はいつの間にか穏やかな、元の天童さんの顔に戻っていた

 そして彼女は、昔を懐かしむようにそう語った

「・・・天童さん。俺は君の苦しみを理解することはできないし、する気もない。でも俺のこともちゃんと見ろよ!!!俺だって気が狂いそうな状況で、それでも人の心だけは捨てず、ここにいる。ここに立って生きている」

「一体貴方は何を言ってるんですか・・・気が狂いそうな状況?そんなのあるわけ、」

「あるんだよ」

 今度は俺が言葉を遮った

「俺は、何度も死んでいる。頭がおかしいわけでもない。俺だって狂いそうな状況を、何度も正気を保ってやり過ごしてきたんだよ!!」

 まあ隠す必要もないからな

{人の心だけは捨てなかったってお前、忍原さんの時にはもう捨ててなかったか?}

 だまらっしゃい

 あれはまだセーフ

 ぎりぎりセーフ!

「えっ、それっていったいどういう・・・」

 思った通り動揺している

「そのままの意味さ。俺は何回も死んで、その痛みを味わい、そして何度もよみがえってきた。もちろんその時の記憶を俺以外は持ってないけどな。2~3回ぐらいは天童さんを助けようとしたんだぜ?」

 ここぞとばかりにかっこつける

 本当は今すぐにでも姉ちゃんの下によっていつまでも抱きしめていたいんだが、そんなことすると末代までの恥としてさらし者にされそうだ

「・・・何でですか?」

「え?」

「なんで私なんか助けようと思ったんですか?」

 なんで、か

 まさかそんなこと聞かれるとは思ってなかった

 まあいい。真実を、気持ちを伝えるだけだ

「好きだから」

〖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〗

 真実を包み隠さず、ありのまま天童さんにぶつけた

 天童さんのほほが赤く染まっている

 やっべ、今更だけど心の中で今の天童さんの事「かわいい」とか思っちゃてたよ

 後どこかからか厳しい視線を感じる気がする・・・

「す、す、好き?私の、こと?」

 ものすごく動揺していらっしゃる

 目線もあちらこちらに飛び交っている

 たぶん告白、というか人に好かれるのには慣れてないんだろうな・・・

「ああ、好きだから助けた。ただそれだけだ」

「なら、ならもし、それが智里さんでも助けたの?」

 ・・・・・・・・

「いまさら何言ってんだ?もちろん、助けるさ。天童さんでも、姉ちゃんでも。だって、俺が好きなんだから」

 きっぱりとそう答えてやった

「そっか・・・」

 そう言うと、天童さんは持っていたナイフで自分の首元を切りつけた

 瞬間、血が噴水のように噴き出しあたりを黒く染めた

 彼女の血と姉の血が交じりあい、そして混ざり合っていく

 「馬鹿野郎!!!」

 そんな俺の叫びが届く前に、彼女は膝から崩れ落ちた

 俺は倒れる彼女のもとに行き、抱きかかえるように体を起こす

「なんでこんなことするんだよ!!!」

 再び俺は天童さんを怒鳴りつけた

「・・・・・・・・」

 彼女はずっと目を見開いたまま、何も言わなかった

 天童さんの体からどんどん血が抜けていき、顔の血の気が引いていく

 握られていたナイフも床に落としていた

「ふざけんな!なんで、なんでお前も、なんでなんだよ!!!」

 やり場のない怒りがこみ上げてくる

「ふふ、やっぱり真司君は、やさしいね」

 穏やかな表情をした彼女は、ゆっくりと目を閉じていく

 くっそ、おい『善意ジキル』!天童さんはどうすれば助かるんだ?

〖・・・・・・・〗

 その質問に返事は来なかった

 おい『善意ジキル』!おい!

〖・・・・・・・〗

 何度聞いても、その答えは同じだった

「ありが、とうね。真司く、ん。さよな、ら。あと、に・・・・・・・・・」

「勝手に一人で逝かせるか馬鹿野郎!!ちょっと待ってろ、今救急車を・・・」

 その瞬間、天童さんの体から半透明な何かが抜け出ていくのが見えた

『ごめんなさい』

 その何かに、優しく甘い声でそう言われた気がした

 気づくと、涙がどんどんとあふれ出していた

「なんで、なんでなんだよぉ」

 俺はそのまま天童さんに覆いかぶさるように倒れた

 ゆっくりと、本当にゆっくりと天童さんの体から温度が消えていくのを感じた

 胸のあたりに手を当ててみても、心臓の鼓動は感じ取れなかった

 これが夢だったらいいのに・・・

 そう思っていると、いつの間にか眠ってしまっていた





 目が覚めたのはいつ頃だろうか

 体に急に来た鈍い(・・)痛みで目が覚めた

 なんだ?かすかに焦げた何かのにおいがするような・・・

 そう思って目を開けると、そこには、都市部には珍しい広い星空が広がっていた

「・・・きれいだな。ほんと、今までのことが嘘みたいだ」

 そう言えば家の中にいたはずなのになんで外にいるのだろうか

 なんだか周りが騒がしい

 そして、動こうとしても足が動かなかった

 その理由はすぐに分かった

 そして後頭部に生暖かい液体が触れたことを感じ取り、背筋が凍りついた

 いやな予感がした

 想像したくない、そんな出来事を思い浮かべてしまった

 それは皮肉にも当たってしまったのだった

 ふと、足元を見てみると腰から先の部分がなかった

 元からそこになかったかのように消滅していた

 痛みを残して

「っがああああああああああああああああああああああああああああああ」

 再び闇夜に絶叫が広がる

 どんどんと血が腹のあたりから絶えず溢れだしていく

 臓器もいくつか露出していて、吐き出してしまいそうだ

 痛みには慣れたはずなのに、それなのに苦しみが俺を襲った

 そのうち体が寒くなってきた

 視界もかすんできた

 ああ、また死ぬんだな

 死の間際にまた俺は姉のことを考えていた

 あの笑顔をもう見れない

 そう思うとまた泣けてくる

 しかし涙は流れなかった

 もう枯れてしまったのだろうか

 俺の心は

 俺の感情は

 そこで俺の意識は消滅した
























技能スキル過去移動さかのぼり』は、封印されたことにより使用不可能です。代理として【永劫記憶】による予備記憶バックアップを作成・・・成功しました。これより転生を開始します〗




 俺の冒険は、ここから始まった・・・・・


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