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英雄になれると思いましたか?  作者: 蔵餅
前日譚 「夢落ちなんかじゃ終われない・・・」
10/68

九話 さあ彼女を探し出そう

※'16 12/14 言い回しなど変更しました

      公園のシーンを追加しました


 ああ、また同じ朝だ

 橋谷楼花・・・・

 本当に厄介な奴だ

 そう思いながら隣を見てみると、昨日と同じように姉はいなかった

 スマホをつけてみると、7:03の数字が表示された

 とりあえず下に降りてみると、昨日と同じように姉は仕事をしていた

 カタカタとキーボードをたたく音が聞こえる

 とりあえず声をかけようとすると、姉は何かを食べていた

 あれは、たぶん食パンだろう

 昨日は飯を食っていなかったから、これも並行世界パラレルワールドの影響か?

{・・・よしっ、確認終わったぞ。ちゃんと『生け贄』は使えるからな}

 了解

「おはよ」

 そう言うと姉は振り返った

 やっぱり目の下には大きなくまができている

「あ、おはよー。今日は早いじゃん。どうしたの?」

「ちょっとね」

 そう誤魔化して、顔を洗いに行った

 さっぱりした後、

「ご飯はいる?」

 と聞いた

「いや、これがあるからいいよ」

 そんな返事が返ってきた

 それじゃあ飯を作るとしよう




 飯を食い終わって後片付けをしていると

「ねえ、ちょっと来て」

 居間のほうから姉の声がした

「なんだよ」

 食器洗いを置いて居間にいくと

「中学3年生の子の問題なんだけど、こんな感じでどうかな?」

 ああ、テスト問題か

 こんなことはよくあって、姉の作った問題を俺がお試しでやっている

「うん、いいと思うよ。基本この時期は1,2年の復習のテストがあるから、その問題が一番いいと思う」

 やっぱり自分以外の年上(先輩)の意見は貴重なようだ

「そっか、分かった。ありがとう」

 うれしそうな顔をして、また問題作りを始めた

 俺は食器洗いを終えると、姉の邪魔をしないようにしながら自室に戻った




「しかし、橋谷楼香か。面白そうだし会ってみたいな」

 俺は階段をのぼりながら独り言(会議)を始めた

 はたから見れば危ない、もしくは痛い人だがそんなのを気にしている余裕はない

{そうか?「あなたが私を殺そうとしたのね!!」とかいって殴りかかってきそうだけどな}

 そうか?

 この世界の橋谷楼花はそのこと知らないんじゃないか?

〖分かりませんよ。相手がどんな技能スキルを持っているかは不明ですし、もしかしたら別の世界に干渉できる技能スキルを持っている可能性もあります。〗 

 そんな技能スキルもあるのか・・・

{まあ技能スキルの中には法則を無視するレベルのものもあるからな。こっちを敵として認識してくる可能性があっても不思議じゃないぞ}

 法則無視って・・・

 本当に厄介だな!

 まあ、天童さんほどではないが・・・

 9日の死亡の間接的な原因のほとんどは彼女といっても過言ではないからな

{それに関しての否定はしないが、さすがにかわいそうだと思うぞ}

 俺にとっては難敵でしかない

 少なくとも彼女と仲良くなれるのはもう少し後になりそうだ

 そんなことを思いながらふと、テレビをつけてみると昨日のビルの倒壊事故について話していた

 画面には負傷者30人以上!原因は工事会社の設計ミス!?と映し出されていた

 設計ミスで俺は死んだのか・・・

 しかしあれだけの事故で(俺を除いた)死亡者がいないのが驚きだ

 あまりニュース番組は見ないから、30人という数字が多いのか少ないのかはわからないが、あの地震の負傷者とかと比べれば、少ない方だろう

{まず地震とただの倒壊事故とを比べる方がおかしいんだよなぁ}

 それもそうだけども・・・

 そうやって、ふとテレビを見てみると7時32分をキャスターさんが知らせていた

 あと1時間だ

 とりあえず『生け贄』を発動するとして、あとは天に祈るのみだ

〖了解しました・・・・・・・・・・・〗

<『生け贄』を起動しました 対象{忍原 央樹(しのはら ひでき)}に使用・・・成功しました。これにより本日の堀山 真司の死亡は取り消されました>

 よし、成功!

 そういえば忍原?

 どっかで聞いたことがある苗字だな?

{お前の家の近くにそんな表札の家があったぞ}

 ・・・・・・・・・・?

 あっ、そうだ思い出した

 あのいっつも野良猫に餌やって町内会からめっちゃ悪い目で見られてたあの忍原さんか

 そうかそうかあの人が死んじゃうのか

 正直悪いイメージしか持ってなかったとはいえまあ悲しいっちゃ悲しいな

{で、本音は?}

 ・・・ぶっちゃけていい?

{存分に}

 なら・・・コホン

 本当ありがとござまーす!!

 いやーあの人まだ生きててもらって助かったわー

 確か今87歳だっけかなあの人

 ホントいつ死ぬかわからないとかささやかれてたからな

 言ってはいけないとは思うが本当にあの人がまだ死ななくて助かった

〖それはちょっと・・・・〗

{さすがに言い過ぎだと思う}

 なんとでも言え!!

 今回ばかりはどう対処しようと思ったけど一発で解決したわー

 ホント『生け贄』さんマジ便利っすわー神っすわー

 最初は酷いだの外道だの言ってすいませんでした

 本当すいませんでした

{ああ、確かに最初そんなこと言ってたな。でも意思のない技能スキルに話しかけるやつってどうだ?}

 意思がある『二重人格(おまえ)』のほうがおかしいんじゃなかったっけ?

{まあそうだがな}

 まあとりあえずそんなことはおいておいて、計画でも練るとしようぜ

〖計画、ですか?〗

{いや、死は遠ざかったってのに今度は何の計画たてるんだよ}

 これから先の計画だって

 もし栄養失調からの餓死とかだったら対処の仕様がないからな

 それまでに非常食とか、簡易トイレとか寝床とか火とか買わないといけないし・・・

 地震ってのは起きた後が一番大変だからな

{まあそうだけども、もっとひ}

 ハイハイ黙っとけ

{・・・あーハイハイ分かりました黙っときますよ}

 とりあえずこの喜びは隠し切れないな

 そう思いながら、俺は鼻歌交じりに階段を下りた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 魂の内部

 この体の持ち主さえも干渉できないところに『善意ジキル』と『悪意ハイド』は居た

{たっくもー頭おかしいよなあいつ}

〖まあまあそういわず。それよりいいんですか?嘘なんかついて〗

{ああ、あのことか。別にいいよ、あれぐらい}

〖それならいいんですけど・・・〗

{あ、そろそろ終わるぞ。気を引き締めろ}

<・・・魂の解析が完了しました。スキル『解析』を獲得しました>

{よっしゃ。これで俺たちも幾分か楽になったな}

〖そうですね。ふー、それにしても疲れました〗

{ああ、そうだな。じゃあ少し休むとするか}

〖ええそうですね〗

 本人の知らないところでまた新しいスキルを手に入れた堀山真司だった

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 あの後、昨日と同じように家の隣にある物置やキッチンから携帯食料とテント、あとあるものを持ち出し、ザックに入れた

 そして、姉を散歩ついでに買い物に誘った

 眠気覚ましにということで姉は快くついてきてくれた

 とりあえずこれで姉も無事だろう

 そして時間は進み今は8時09分

 姉と一緒に荷物を袋に詰めているところだ

 そうやっていると、まあ当たり前のように彼女と出会った

「あれ、おはようございます。堀山君と智里さん」

「あ、おはよー!澄羽ちゃんも買い物?」

「はい、そうです。朝ご飯の材料が足りなくて・・・」

「そうなんだ、偉いね~。そうやって真司も一人でやってほしいものだよ」

「・・・・・」

 姉は天童さんと話す時、俺と話す時と同じテンションで話す

 大学内では静かというかおしとやかというか

 それこそ天童さんのような感じにふるまっている

 でも、彼女と話す時だけはそんな自分を捨てている

 姉も天童さんのことを信頼しているんだろうか?

 それとも・・・・・

 まあいいか

「7030円です」

 天童さんが使っていたレジスターから無機質な声が聞こえる

 ってあれ?なんか増えてるような・・・

 よく見るととても高級そうなお菓子が大量にかごの中に詰められていた

 彼女は顔を真っ赤にして万札を流し込むと、「さ、さようなら」の言葉を残しながら、また走り去っていった

 姉は驚いたように「あ、待って!」と叫んだが、彼女には聞こえなかったようで足を止める様子はなかった

 そのまま彼女は見えなくなってしまった

「なんか、すごい量のお菓子買ってたね・・・」

 静かに姉はつぶやいた




 8時29分

 スーパーと家の間辺りにある公園で俺たちは一休みしていた

 近くに自販機があったのでコーラを片手にこの辺りを探索してみることにした

 公園の端っこの方にあるジャングルジムに腰かけてみると、意外と高かったのか周りが一望できた 

 まばらに部屋の電気がついているマンション

 今にも崩れそうな廃墟

 大きな木が生えている神社

 遠くの方には高速道路に囲まれたショッピングセンターも見える

 そんな風に周りを見ていると、姉がトイレから出てきた

 冷たい空気を肺一杯に吸い込むとジャングルジムの上から飛び降りた

 そのままレジ袋を分け合うと、また歩き出した 

 ちらりと時計を見てみると、もう31分だった

 あと5分か・・・

 そう思いながら歩いていく

 そういえばこうやって二人並んで歩くのは久しぶりだな・・・ 

 最後にこうやって歩いたのはいつぶりだろうか

 中学生になってからは姉と一緒に外出なんてした覚えがない

 確か小5の時に叔母さんの所に行く時が最後だったか

 小5・・・

 あれは嫌な年だったな

 特にあのアホが鬱陶しかった

 そう思いながら、俺は親友アホとの思い出を思い出していた

 そうやって思い出にふけっていると、

「そういえばこうやってさ、二人並んで歩くのって久しぶりだよね」

 姉も似たようなことを考えていたようで、そんなことを言ってきた

「そうだっけ?」

 素っ気なさそうに返すと、

「そうだよ~。ちっちゃい頃はいっつも私の手を握って歩いてたよ~」

{お前そんなことしてたのかニヤ(・∀・)ニヤ}

 黙れ

 結構余計なことを『悪意ハイド』に言われたが、姉は結構昔のことまで覚えていたようだ 

 その点俺は・・・

{兄弟でも似ないことがあるんだな}

 そうだな

 そういえば忍原さんが死んだらまた『善意』と『悪意』(お前ら)みたいなのが増えるのか?

{さあ?}

 なんで疑問形なんだよ!

{別に確定で俺達みたいなのが生まれるわけではないんだって。たまたま連続で俺たちが生まれたってだけで、実際は天文学的確率に等しいぞ}

 天文学的確率って・・・

 かなりぎりぎりのラインでお前らは生まれたのか・・・

 ふと腕時計を確認してみると、もう34分になっていた

 あと2分か

 家の近くにあるコンビニが見えてきたので家まであと少しだ

{そういえば橋谷楼香に会ってみたいって言ってたよな?}

 言ったがそれがどうかしたか?

{一応居場所調べてみたらこの町に住んでたぞ}

 あ、そうなのか!?

〖まあ、顔見知りでもない限り指定される人物の範囲は小さいですからね〗

 大体どれぐらいなんだ?

〖1000㎢ぐらいが範囲対象です〗

 いやでかいよね、それ?

 東京都の半分ぐらいは対象範囲になるよそれ

 この町どころかあの葬式やった市も余裕で含まれてるって

 あーだからあの時大原の妹さんが選択されたのか・・・

{まあお、そうだろうな}

 ん?お前今何か言いかけなかったか?

{いや、別に何も。それよりいいのか?}

 何がだ?

{時間。もう1分切ったぞ}

 嘘!?

 時計を見ると、秒針はゆっくりと12に向かおうとしている

 これはもうそのまま避難所に行ったほうが早いな・・・

 よし、そうと決まったら早速・・・

 そうやって覚悟を決めていると、人生3度目の地震がやってきた

 



 地面は揺れ、アスファルトが激しい音をたてて亀裂を作っていく 

 姉なんか驚きと恐怖でパニックになりながら俺の服の袖をつかんでいる

 さっき買ってきた物はほとんどが揺れのせいが潰れたりしていて、特に卵なんかは大変なことになっていた

「ちょっと!揺れてる。助けて助けて」

 姉が怯えた声で助けを求めてきた

 気分が悪いのか手で口を押えている

「あんま喋んな舌噛み切るぞ」

 そうやって注意すると姉は何も言わず首をただ上下に振った

 よし、いま何分だ?

〖現在8時37分です〗

 よし、死からの回避は成功だな

 せめて安らかに眠ってくれよ忍原さん

〖そうですね〗

 おっ、揺れが収まってきたな

 そう思った矢先、電柱が目の前に倒れてきた

 かなり激しい音を立てて倒れてきたが、幸い二人とも無事だったが・・・

 ・・・正直ちびった

{だっさいな~}

 さすがにあれは急展開過ぎて許容不可能だって!

 横を見ると姉はへたりと座り込んでいた

「姉ちゃん、大丈夫か?」

「あ、あふ、あああ」

 どうやら混乱しているようで、眼はあちらこちらに動き、言動もおかしなことになっている

 そして、突然電池が切れたように静止した

 気絶、してるんだよな?

 死んでないよな?

 そう思って息をしているか確認してみると、ちゃんと生きているようで安心した

 とりあえず姉を背に背負いつつ荷物を取りに向かうとしよう



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

{よっす。解析はできたか?}

〖はいできましたよ。えっと技能スキルは『物質操作』ですね〗

{『物質操作』か。この世界では雑魚中の雑魚になる技能スキルだな。しかし橋谷楼香は自分が覚醒していることに気づいているのか?}

〖それは・・・残念ながら本人に接触しない限り断定はできないでしょうね。とりあえず橋谷楼香は厄介な人物だ、ということを念頭に置いて接触してみましょうか〗

{ああ、そうだな。ただ問題なのは、橋谷楼花がいくつ技能スキルを持っているかだな}

〖もし読心系の技能スキルを持っていたら、私たちの存在がばれそうですしね〗

{そうだよな。読心系技能スキル抵抗レジストできるよう、ちょっといじるか?}

〖最悪私まで消滅しますよ・・・〗

{まあそうだな。しゃーない耐性が来るまで粘るとするか}

〖そうするとしましょう〗

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 家に帰ると、家の中はかなり大変なことになっていた

 まず“自主規制”の匂いが家の中に漂っていて、水道も壊れたのかあたりが水浸しになっている

 少し進むだけで床はぎしぎしと音が鳴り、キッチンをのぞいてみると案の定大惨事になっていた

 まあ家に帰る途中で崩れた家が何件か見かけたし、家が崩れなかっただけ良しとしよう

 テントと非常食とか入ったザックは・・・お、あったあった

 ザックにも水がかかったようでぐっしょりと濡れていたが、そんなこと気にせずさっさと家を抜け出した

 さて避難所へ急ぐとしよう




 向かっている途中で姉が起きたので、2つあったザックの片方を持ってもらって、やっと避難所についた

 避難所である近くの小学校にはやっぱり結構な人数が集まっていた

 中には体育館にはびこってこんな非常事態なのに暢気に酒を飲んでいるおっさん達までいた

 とりあえず姉に場所を取らせに行って、俺は支給品があるかどうか聞いてくるとしよう

 少しつま先立ちをして周りを見渡すと、人が群がった場所を見つけた

 そこへ近づくと、

「落ち着いてください!とりあえず一列に並んで、一人ずつ要件をお聞きしますので!」

 受付のお姉さんの悲痛の叫びともいうべき声が聞こえた

 これは・・・関わらないほうがよさそうだ

「ちょっと、誰か、たすけ・・・」

 お姉さんが人の波に飲まれていくなか、俺は別の人を探しに行った





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