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1 旅立ちの空

 345年、四国平和協定が結ばれ、四国が終戦を迎えた。歴史書によると始めは一つの国しか存在しなかったが、何者かによる反乱で四つに分裂したという。とは言っても国民は元々四つの種族に分かれており、共に暮らしていたのが、ある日を堺に争いが始まった。その四つの国はダイヤ、ハート、クローバー、スペードの種族から成り、それぞれの国に王と女王と多くの国民が存在する。ここ数十年間、大きな戦いは無く、平和と言える日々が続いている。



-425年スペード王国エース村-



「今日も疲れたな」


「そうだね。覚える事が多すぎて明日の試験が不安だよ」


エース村で生まれ育った彼らは、学校に通うことが村の掟で義務付けられている。学校では、まだ二十を迎えていない若者が、国民である以上学ばなくてはならない国の歴史や、戦い方、能力スキルを学ぶ。


「ユウ、明日までの歴史書の課題見せてくれないか?」


「セノ、まだやって無かったのかい?」


 国民は、生まれた直後に祭師から名を授かる儀式を受ける。呑気に下校中の二人にも名が与えられており、一人はセノ・アレニクス、もう片方がユウ・ジレンである。

 

 このエース村はスペード王国の中でも、1番貧しいエースの人達が暮らしている。エースは貧しいこと以外にも、覚えられる能力が少なかったり、戦闘力に欠けたりする。そのため、上の人達の命令には背くことができず、酷い始末を受けながら生活をしている。

 

 けれど、その生活から抜け出せないわけでもない。どの国民も、レベルが一定に上がれば、上のランクに昇格することが出来る。上の階級に上がるほど条件が難しくなる。しかし、上がれるのは極小数の人達だけであるのも確かだ。


「早くこんな暮らしから抜け出したいよな。せめてエースからセカンズに昇格して」


「無茶なこと言うなよセノ。昇格の希望が持てるのは専門学校に通える裕福な人だけなんだから」


「分かってるよ、そのくらい」


昇格に必要な経験値は戦いから得なくてはならない。エースのような本格的な戦闘もできない人達は専門学校に行き、訓練を積んで戦いレベル上げをするしか方法はないのだ。


「じゃあ、俺はあっちだから」


「うん、またね」


 いつもの田んぼの道で二人は別れ、それぞれの家に向かった。エース村に住む多くの人々が農民で、セノの母親もその一人である。父親は数年前に亡くなったのだが、セノがまだ小さかった頃の出来事で、母親はその原因をまだ話していない。


「ただいま、親父」


 そう言って、いつものようにセノは手を合わせた。目を開け立ち上がると、奥の方から鍋のいい匂いが漂い、セノの腹が大きく鳴る。


「ただいま、母さん」


「おかえりセノ」


「今日の夕飯は…」


「見ての通り鍋よ」


 母メルカはそう言うと、自慢げの顔をセノに見せつけた。


「明日は試験なんでしょ?だから応援の気持ちに作ったわけ」


「そ、そうなんだ、ありがとう…」


 嬉しい気持ちの半面、明日が試験の日であることをまた思い出させる。これで酷い結果を残したらどうなるのやらとセノは俯いて想像していた。


「冷めないうちに食べな」


「う、うん」


 この貧しい環境では滅多に頂くことのない鍋を堪能し、セノは明日の試験に備えた。



‐翌日‐



「これより425年度エーススキル試験を始める!」


 午後二時、全校生徒が広場に集まった。


「セノ、今日は充分な備えができてるかい?」


「まあ、大丈夫だろ」


「ホントかな…」


 ユウが心配そうにセノを見つめる。そして一列に並び、審査員を務めるセカンズクラスの教師の前で次々に技を披露していく。セノより先にユウの順番がやってきた。ユウは前に出ると深く一礼し、呼吸を整える。


「試験番号七十五番、ユウ・ジレン!」


 静寂の広場にユウの声が響き渡った。セノも親友の演技を見守りながら、自分のコンディションを確認している。


「いきます…第三奥儀、セインスラッシュ!!」


 ユウがそう言い放つと、右手に所持する刀が青く光り、空にめがけて閃光が放たれた。それは誰から見ても、とても綺麗な裁きだった。技を終えるとユウは審査員にもう一度礼をする。そして、セノの番が訪れた。


「よし、行ってくるか!」


「気を付けてくれよ…」


 やる気に満ちたセノに反し、ユウは不安げに見つめている。


「試験番号七十六番、セノ・アレ二クス!」


 刀を振り回しながらセノが名乗った。礼も行わず技の準備をする姿に、ユウは勿論のこと審査員や他の生徒たちも驚きの顔を隠せない。


「第四奥儀、ハイレント!!」


 エース村の生徒もそうだが、スペード王国の国民は刀が主流である。どの戦闘スキルにも刀が用いられている。ちなみにダイヤが剣、ハートが弓、クローバーが斧である。それぞれの武器に奥儀と呼ばれるスキルが存在し、ランクによって覚えられるものが異なる。


「これは…!」


 ユウが思わず声を漏らす。なぜなら、セノが繰り出した技は明らかに第四奥儀ハイレントでは無かったからだ。ハイレントは込め技で大きく振りかざして放つ技だが、セノの刀から放たれたのは放射状の閃光だった。


「こいつは…」


 審査員も立ち上がる。技を終えたセノは礼をする気配もないままユウの所へ駆け寄った。


「ハイレントのはずだったけど、ために入りすぎておかしくなっちまったよ」


 ははっ、と頭をかきながらにこやかに笑う親友の顔を見てユウは呆れてしまいたくなったが、そうともいかない。


「それよりセノ、さっきの技は何だい?」


「俺にもよく分からん」


 きっぱりと言い返された。すると審査員が不思議そうな面持ちで話しかけてきた。


「先程の技は第六奥儀、アミテラード。込め技の一種で空中に放射状の閃光をばらまく技だ。第六奥儀であるからエースのお前には覚えられないはずだが…」


「第六奥儀ねぇ」


「僕らエースには第五奥儀までしか学ぶ権利がないし、そもそもそんな力持ってないのに、どうしてセノは…」


 もう少し話をしたかったが、次の試験もあり、セカンズの審査員は持ち場に戻っていった。試験を終えてしまった二人は帰宅の準備をし、家に向かい始めた。


「何か月も練習したのに、君があんな簡単にも第六奥儀を見せつけてくるなんて…」


「そう落ち込むなよ。お前のセインスラッシュも、どの生徒よりも一番綺麗だったぞ」


「そんなの慰めにもなってないよ、セノ…」


 試験の評価は後日報告される。どの生徒よりも努力家で優秀なユウであったが、いつも無気力で礼儀のレの字も知らないセノがこうも簡単に、しかもエースが使えるはずが無いと言う第六奥儀を繰り出してしまい、少し落ち込んでいる様子だ。二人が学校と村を繋ぐ森を歩いていると、突然、遠くから悲鳴の声が聞こえたのだった。


「えっ、なに!」


「あっちだ、行くぞユウ!」


 考える暇もくれないまま、セノが走り出した。ユウも慌てて背中を追いかける。二人が到着した先には、エース、セカンズをも上回るトリプスの騎士が二人と、この国の住人とは思えない、自分たちと同じ十四、十五ほどの綺麗な女性がいた。


「た、助けて…!」


 見知らぬ女性が声をあげると同時にトリプスの二人が刀を抜く。ユウは何が起こっているのか全く分からなかったが、考えるよりも先にセノが前に出た。


「おい、お前ら何やってんだ」


 トリプスに向かって何て口をと言いたくなったが、ここは我慢して見守る。


「あ?お前さん何もんだ?今は構ってる暇は無いんだ」


「俺はお前たちに聞いてるんだ」


「貴様、そこの田舎町の住人だな?」


 トリプスの二人は女性から離れ、セノに近づく。俺はもう一度問いかけた。


「お前ら、こんなところで何してんだ?」


 トリプスの片方が刀を抜いた。


「てめぇ、エースの分際で何て口を!」


「待て、少し話を聞こうじゃないか」


 もう片方が止めに入り、会話が始まった。


「私たちは見た目で分かるとは思うが、トリプス騎士だ。職の任務でわざわざエース村までやって来て、見回りをしていたわけだが、そこで我が国の住人ではない人物を発見したのだ」


「法則によれば、冷戦状態である現在、他国の人物が国に侵入した場合、罰せられることが決まっている」


「そして、我々はこの娘を捕らえようとしていたわけだ」


 説明を終えた二人は分かったかと言うような顔で俺を見つめていた。


「でも、男二人で女一人を相手するのはあまり好きじゃないな」


「貴様、我々を邪魔するつもりか?それこそ法律に違反することになるぞ」


「法律?知るか。俺は俺のしたいことをするだけだ」


 そう言うと、セノは刀を抜き、戦闘の準備に入った。それを見て相手二人はニヤリと顔を合わせ刀を構えた。ユウはただ立ち尽くしているだけで、助けを呼ぶべきか悩んでいるところだった。しかし、すぐさま戦闘が開始された。


「第四奥儀、ハイレント!!」


 セノの放った閃光が二人めがけて走り出す。直撃で食らうも、大きなダメージは見られない。続いて、トリプスの二人が動き始めた。


「第十一奥儀、斬月!」


 同時に振りかざされた刀が強力な奥儀を放ち、セノに襲い掛かる。しかし、セノの回避術は凄まじく、かすり傷一つもなかった。


「こいつは強い。このままだとさすがに…」


 するとセノは突然見たことのない技を放った。


「特殊奥儀、スモーク!」


 言葉の後、大量の煙が全員を覆う。


「ユウ、早く行くぞ!」


「う、うん!」


 何が起こっているのか分からないユウであったが、セノと一緒に見知らぬ女性を連れてひたすら逃げる。特殊奥儀、国ごとの違いが無く、普通の奥儀とは違い、誰でも覚えることが可能である。しかし、覚えるためには大量の時間が必要であり、学生は学ぶことを禁じられているはずなのだが…とユウは考えたが今はそれどころではない。気が付くと村から遠く離れた裏山まで来ていた。


「ここなら大丈夫だろ」


 セノが息を切らしながら立ち止まり、女性を引っ張ていた手を放した。ユウも続いて立ち止まる。女性はまだ少し怯えているのか、なかなか喋ろうとしなかったが、ようやく口を開いた。


「た、助けてくれてありがとう。あなた達は…」


「俺はセノ!」


「ぼ、僕はユウです!」


 名乗りを終えると、女性は話し始めた。


「わ、私はハート王国、セカンズ生まれのエリス。エリス・クレセリドです」


 続けてエリスは話した。


「先日、私の暮らす町で姉上の結婚式が行われたんです。そして次に父上は私に結婚の話を持ちかけたんですが、無理やり婚約者を探し始めた父上と私は喧嘩になりました。クレセリド家を継ぐ上では大事なことだと重々承知していたのですが、どうしても許せなくなり、抜け出してきたわけです…」


「でも、どうして国を移動なんか…」


「私は強くなりたかった…。自分一人で生きられる力が欲しかった…。そこで死んでも構わないと我が国を捨て旅だったんです。けれども、強気でいられた時間は短く、スペード王国のトリプスに見つかってからはすっかり弱気になってしまいました。そして、死にかけたところをあなた方に助けて頂きました…」


「本当にありがとう…」


 半分涙を浮かべながら礼を言う彼女は綺麗であった。見るもの全てを恋に落とすかのように…。


「え、えっと、まあ、助けたのはこいつだけどね…」


 そう言ってユウはセノを指さす。


「俺か?まあ、あの時は夢中になっていたというか何というか…」


 この男がおかしいのか、こんなにも綺麗な女性に礼を言われているのに何の反応も示さない。そして、セノはエリスに問いかける。


「エリスはこの後どうするんだ?」


「私はえーっと…」


 少し悲しそうに俯きながら答えた。


「このまま旅を続けると思います。例え死ぬとしても…」


 ユウも少し暗い顔をしながら俯いていた。何か自分に出来ることはと考えているかのように。すると、思いがけない台詞が飛び出した。


「じゃあ、俺も一緒に行こうか?」


 えっ、という顔をしながらエリスとユウがセノの顔を見つめる。


「セノ、君は一体何を言っているんだい?つまり、村を捨て自力で世界を彷徨うということ?」


「あぁ、どうせトリプスへの反抗の際に顔を特定されちゃったしな。ここにいても捕まるだけだ」


「ユウ、お前は村に残って学んでくれていいんだぞ」


 うーん…と考えるユウはしばらくして答えた。


「ううん、君がいない村で一生一人で過ごすなんて、出来っこないよ…。僕は君と共に行動したい」


「ユウ…お前…」


 セノの目には光る滴が溜まりかけていた。


「後で後悔してもしらないからな」


「うん、勿論だよ」


 二人の友情を再確認し、本題のエリスに目を向ける。


「本当にいいの?…」


「あぁ、勿論だぜ」


「ありがとう、セノさん、ユウさん…」


「俺たちのことは呼び捨てでいいし、敬語なんかいらないからな」


 セノがエリスにそう言うと、改めてエリスが話し直した。


「じゃあ、これから宜しくね!セノ!ユウ!」


 話を終えると、セノとユウの二人は一度急いで自宅に帰った。荷物を整え、親に強化合宿とだけ伝え、実質最後の別れをした。裏山に再集合し、ここで一夜を過ごす。テントを広げ、焚火を作り、夕飯を頂いていた。


「飯も今はたっぷりあるけど、いつかは限界がきてしまうから、どこかで調達しないとな」


「そうね、どうにか食べ物を確保しないと…」


 焚火の明りに顔を照らされながら三人は会話をしていた。夕飯を終えるとユウが食器の片づけを始めた。


「申し訳ないんだけどセノ、ここの近くで体を洗える場所はないかしら。ずっと歩きっぱなしで体が泥まみれだから…」


「そうだな…そこを降りた場所に川ならあるけど」


「ホント!良かった…」


 そう言うとエリスは所持していたタオルと予備の服を出した。


「じゃあ、ごめんね。すぐ行ってくるから」


 エリスがいなくなると、セノはユウに問いかけた。


「俺、正直他の国の住人が迷い込むなんて思ってもいなかったぜ…。これからどうする?」


「え、どうすると言っても同行すると言ったのはセノじゃないか」


「まあ、そうだけど…。しばらくは戦闘力を鍛える旅を行うか…」


「そうだね。そのためにも食材を集めないと」


 セノが深く考え込んでいるとユウが道具のメンテナンスでテントに戻った。一人になったセノは満点に広がる星空を眺めていた。


「これから俺たちどうなるんだろうな…」


 すると突然セノの目の前に何者かの光が訪れた。良く見るとそれは白く輝く蝶であり、森の中へと飛んで行った。珍しい生物を発見したと喜ぶセノは蝶のあとを追いかける。テントの見張りはユウにすっかり預けてしまったようだ。


「こいつめ!捕まえてやる!」


 そう言って飛び込んだ先は軽い崖になっており、セノは転がり落ちてしまった。蝶はそのまま夜の森へと羽ばたいていく。


 気づくとセノは川に転がり落ち、ずぶ濡れであった。何てこったとため息をつくセノだったが、目の前には川で体を洗い、露出した肌をタオルで拭いているエリスの姿があった。


「えっ、せ、セノ!?」


 驚きを隠せないエリス。当たり前である。裸で体を拭いていたところに同い年くらいの青年が突然現れたのだから。


「あ、いや、これは、その…///」


「うぅ…///」


 数秒の沈黙だったが、セノにとってはとても長い時間に感じられた。そして…


「せ、セノの、バカ~~!!!///」



-数分後-



「遅かったね、二人とも。あれ…」


「た、ただいまユウ…」


「ふんっ…//」


「お、おかえり。二人とも顔が真っ赤だよ。特にセノは手跡みたいなのがついてるけど…」


「あ、ああ、気にしないでくれ…」


 焚火を消し、就寝の準備に入る。三人はそれぞれ自分のテントの入り口を開け、話をしている。



「明日から俺たちの冒険が始まるな」


 満天に広がる星空を見上げながら、セノが呟く。


「そうね…」


「不安そうな顔するなよ、何かあったら俺が守って見せるから」


「ふんっ、言っておきますけど私の階級はセカンズ。あなた達より上よ」


「そ、そうだった…」


「セノは昔から大変なことをサラッという人だもんな…」


「まあ、何がともあれ明日から宜しくな」


「うん!」


 セノの呼びかけに二人が反応し、この日は終わった。



-翌日-


「よし、準備はできたな」


「準備バッチシ!」


「私も大丈夫よ!」


「じゃあ、冒険の始まりだ!!」


 こうして三人の、とても長くて短い冒険の物語が始まったのであった。

 最後までご通読ありがとうございました。この作品は連載を予定しております。もし宜しければ感想、評価などを頂けると幸いです。

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