03
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それは、初等部最後の年。
ジリジリとした熱が照りつける、とある夏の日。
授業が終わり、下校時刻となった直後。
ケルナはアリオーネの取り巻き達に囲まれた。
「アリオーネがあなたを呼んでいるの。ついてきて。」
(またか……)
クラスの誰もが、関係ない体を装うのはいつものこと。
しかも、ついてきてと言うが、こう囲まれては逃場も無く強制でしかない。
(今日は何をされるんだろう。早く終わればいいな。)
魔法が使えない。話せない。それだけでいじめられる自分。
なんで苛められるのか正直不思議で仕方ない。
人と違うのなんてそこだけだ。
話せなくても、身ぶり手振りで。
文字を覚えてからは、書けば伝達もスムーズになった。
でも、当たり前に出来る者達にとってはやはり異質なのだろう。
だからこんなことになっているわけだが。
「来たわね」
裏手に絶壁を持つ、薄暗い校舎裏。
彼女に目をつけられる前は、クラスに馴染めてるとは言えないが、ここまで浮くようなことはなかった。
次第に出来なくなる、「おはよう」や「宿題やった?」などの何気ない会話。少しずつ始まる嫌がらせ。無いものとして扱われる自分。
正直落ち込まないわけではない。
けれど、彼女の家の話を聞けば仕方ないとも思える。
家の考え方に彼女が疑問を持たないかぎり、訂正できるわけがないのだ。
そして、一定時間外から隔離されてしまうこの施設の中で、彼女をやり過ごすのは無理だと、抵抗するだけ酷くなるのだと学んだのだ。
やり過ごす代わりに決めたのは、いくら酷い目に合わされても「屈してやらない」その1つだけだった。
いくら痛め付けられようとそれは上部の自分なのだ。
ただそれだけ。
離れていく人間は、自分への関心などその程度なのだ。
いちいち気にして心を痛めるより、やりたいことを多いに楽しんだほうが良い。
それでも、嫌がらせはなるべくなら穏便なものが良いが……
今日は確実にハズレだろう。
何故なら、自分を呼び出した時、いつも苦々しそうな顔で睨み付けてくる彼女が、すっきりとした晴れやかな顔をしているのだ。