つぎのつぎのつぎ、で!
お腹痛くて保健室に行ったら竜と龍が頬を片方はグーの形でめり込ませ、片方はパーの形で赤くさせていた。
「「くろたん、あの女ひどい」」
知ってる。
話を聞けば、どっちがどっちかを当てろという双子鉄板のネタをやって、当てれなかったら俺から離れろ。と………比奈川じゃないが、確かにお前ら自分の傷口を開く行為ばっかするな。
「そしたら、あいつ『わかった。じゃあ目印入れるから』って、龍を殴って」
「竜をビンタしたんだよ」
「「普通躊躇するよね!?」」
普通じゃないし、普通の思考じゃないのもわかっただろ。
「「呆然としてたぼく達をさんざん笑って、おいて突然『飽きた』って、真顔で。ひどいよー」」
しくしく泣き始めた双子にこれにこりたら、どちらか髪型でも帰ればと、慰めてから胃の薬を貰ってから保健室から出る。
「…………はあ」
今から、無我の境地に至る為の修行に出ようかな。
◇◆◇◆◇
「おーい!クロ」
教室へ入るとぶんぶんと手を振って比奈川が俺に近寄ってきたので思わず身を引きそうになったが耐える。
危ない。
「なんだ。比奈川」
「あんたのくれた動画、きもかったぜ☆」
「なんで!?」
俺が思わず声をあげるとクラス内の視線が一気に集まる。は、静かにしなければ。
しかし、比奈川はその視線をあっさり、と無視する。
「え、あんたが『ハニー』とか『ダーリンにはあはあしちゃうよーっ』とか『俺の子猫ちゃん』とか言ってるのがマジキモくて」
「みんな可愛かっただろ!?」
「可愛かったけど、あんたの声はいらねー。まじ、『レディーったらはしたないポーズを』とかいらないな」
ざわざわと、比奈川の言葉とともに教室内が騒がしくなっていく。……ん?女子が俺に対して軽蔑の眼差しを送ってくる。何故だ。
「次は、鳴き声だけでな」
今度は、男子がざわっとざわつき始めた。
「じゃあな。よろしくー」
言いたいことだけ言って、去って行く比奈川。
何故かみんなの視線がいろんな意味で痛い気がするのは気のせいだろうか。
◇◆◇◆◇
灰村に昼飯に誘われた。……避けるのもおかしいので、購買でパンを買ってから屋上に行こうとしたのだが、途中で比奈川と桃色の髪をした垂れ気味の目をした可愛らしい女子に引き留められた。
「あー…灰村くんとはる……風紀委員さんだー」
今、桃色の女から発生した空気に悪寒が走った。
なんだ。ここには居てはいけないような。もう、ーー逃げないとやばい。
「おー、クロ。紹介するぜ。色彩豊だ」
「!?」
俺は思わず咳き込んでしまった。
さらっと紹介してきたが、お前が教えたヒロインの名じゃねえか。
「こんにちわー。初めましてはるきゅ……風紀委員さん☆」
今、はるきゅん☆って呼ぼうとしただろう!?まだ、穢れてない俺にハアハアしてるんだろ。やべえ!本性知らなかったら、まじ好みで攻略されてるっ!ヒロインさん、容姿的な意味で天使。中身腐ってるけどな!!
脳内ツッコミを全て口にしかかり、思いっきり笑顔を作る。我慢だ。俺。
「あ、お前の痔の話はしといたから」
「比奈川さん!?」
しれっと、なに話してんの!?
「今はー、その点心配ないグッズが多いですよー」
にこっと綺麗な笑みを浮かべるヒロイン。
胃 が 痛 い ね ☆
「ど、どうした。黒田。痔って……そ、その薬買ってこようか?」
灰村の優しさだけが救いだよー。
「胃痛薬をー…っ」
「それがそのうち………ぽっ」
頬を染めて夢見がちなヒロインさん。やめて。俺、不登校になりそう。
「豊、黒田と知り合いなのか?」
「いえー、風紀委員長さんで皆に愛され系でー、ちょっと、流されやすくてチョロいんだってことしか知りませんよー」
なんか笑顔でひどい事言われてるっ!灰村も、若干引きながらも、そうだな…って。お前となんか絶交したるーっ!!
しかし、どうやら、灰村とヒロインさんは親しいらしい。若干流れている桃色な空気……俺には不穏なものに感じる。
慌てて、比奈川に視線を送る。逆ハーを築くのを止めてくれと目で訴えると、比奈川は応えるように頷いてくれた。
「今日のAランチはまじオススメだ。おばちゃんのからあげがまじやばいぞ」
「聞いてねえよ!!」
「それにタルタルソースとかすげえよな」
「おいしそうだけど!」
「あ、……」
急に悲しそうな顔をする比奈川に俺も焦る。ど、どうしたんだ。
「食堂のカレー、なんで鶏肉なんだろ。……あたし、牛派なのに」
「コストの問題じゃないかな!?」
本気でどうでも良かった。もう疲れた。胃がむかむかする。
「だ、大丈夫か。黒田」
灰村が俺を心配してくれてる。友情だよな。……なんか、どうでも良くなってきた気がー…っ。
「あ、そういえば灰村」
「………なんだ」
怪訝そうに比奈川を見下ろす灰村。……耳を塞いだほうがいいぞー。
「豊やクロと並ぶと、老けて見えるな」
……………灰村君が石化した。俺は、慌てて解呪魔法っていうか必死にフォローの言葉を並べる。
ヒロインさん。モエーッとか言って写メ撮らずにフォロー手伝えや。
俺が必死に言葉を並べて、気を取り直した灰村に向かって比奈川は、なんでもないことのように、
「そういえば、あんたのベッド下の黒田にちょっと似てるグラビアアイドル、事務所の社長と付き合ってるから」
ーー灰村くんが死んだ魚のような目をしてるんだが、それは、ゲームの流れを邪魔するうえで、口にするべき内容だったのだろうか。
俺なら、自分の性癖ばらされたら泣くけどな!
「そうだねー。灰たんは、頭のゆるい巨乳が大好きだもんね。だから、ヒロインな私も巨乳だもん☆」
ヒ ロ イ ン !?
「さすが、シナリオ製作者あざといな!」
比奈川も何アハハッと同意してんだ!?
「あと数日で夏休みだねー。楽しみだね………毎週のデートが重ならないようにスケジュールチェックしなきゃ。チッ、同じ待ち合わせ場所をし続けると、鉢合わせとか面倒なイベを作んなきゃ良かったよ。システム制作する側はヒロインの立場になれよな」
なんか黒い事をぶつぶつ言ってる!
「な、言った通りだったろ」
「何が」
「あのヒロイン、トラウマになるだろ。」
「なんでそんなに嬉しそうなんだ!泣くぞ!?」
俺、下手したら攻略されんだぞ。なんで、期待にわくわくとか嬉しそうとかそんな表現が似合う笑顔なんだ。
「なんて言うかさー」
「なんだよ」
「あんたの為に色々、調べたんだけど」
「っ、」
比奈川が俺のために何かを調べてくれた事実に感動した。
「な、なに」
声音が弾んでつい、つい頬が緩んでしまう。なんだ。何を調べてー…っ
「灰村の好みって黒髪・黒目のショートカットなんだぜ。アンタ、超当てはまんな」
ガターンッと、何にもない場所なのに灰村が転けた。………うん、
「その情報がどう俺に有利に働くんだ!?」
「え?あとは巨乳がくっつけば最強だなって。……盛るか?」
「盛らねえよ!」
「女装はるきゅん☆オイシス…」
ジュルッて、何か聞こえる。
「比奈川ーっ」
「あー、わかった」
助けを求めた比奈川は、ヒロインさんに視線を向けて、
「じゃあ夏休みに予定決めてやろうな」
「なんにもわかってねえよ!!」
◇◆◇◆◇
夏休みになった。
携帯をジーッと眺め、びくびくする日々が続く。比奈川から連絡が有ったとき、なんの予定もなく、断るのも気が引け、友達に誘われるままに海へ行ったり、夏祭りに行ったり、プールに出掛けたり、……山に登ったり、一泊二日の旅行に行ったり……お猫様の機嫌を取ったりと……攻略キャラの皆に夏休みの後半辺りにそれぞれと遊びに行くと比奈川との異常な遭遇率とトラウマに塩をねじ込んでくる上に蹴り倒してくるので、今では、過去の傷より今の傷ーー比奈川が新しい恐怖対象だと愚痴られた。…………うん。俺、一回も遭遇してない。
そんな愚痴をメールや電話を受けつつ、夏休みが終わる日。
俺は、家の中でも携帯を常備しながら、ハニーの肉球をぷにぷにぷにぷに……と一心不乱に揉む。
「今年の夏休みは遥くんは充実してたねー」
「……うん」
「毎年、コミケにしか出掛けないって、姉さんに愚痴られてたから、……ひっきりなしにお出掛けなんて、遥くんは本当に人気者だね」
「ー…こなかったけど」
「ん?」
叔父さんが俺がぼそっと呟いた言葉を拾った。拾ってしまったからー…、俺は心の底からさけんだ。
「女装のお誘いがこなかったけどね!!」
「来ないほうが良くないの!?」
◇◆◇◆◇
「あ、わりぃ。すっかり忘れてた」
新学期の始まりに同じクラスの比奈川に俺は半泣きで話しかけた。というのにケロッと返された。
ーー泣いたりしない。
「あー、そうだ。ほらこれ。お土産」
そういって、手渡してきたのはどこにでも売っているのど飴で………。
「なんで、のど飴……?」
「ん?あんた、いっつも喉辛そうにしてんじゃん」
…………………。
◇◆◇◆◇
生徒会メンバーに会いに行くと比奈川にすっかりと精神的な制圧が終了している様子だった。
「女、こわい」
「もう、あの女以外かわいく見えます」
「「ぼく達、もう関わりたくない」」
「……あの女に比べたら、家族と仲良くなった方がマシだ……」
生徒会室のメンバーは共通の天敵を得て、昔のギスギス感もなくなり友情が芽生えたらしい。……夏休みは、ヒロインさんどころじゃなかったらしい。双子もお互いに髪型を変えたり、持つ小物を変えたりしている。……うん、相談できそうだ。なので、比奈川から貰った飴を渡しつつ、俺の相談に乗って貰うことにした。
皆が俺の話を聞くのに体勢を整えてくれたので、俺は口を開く。
「あのさー、胸がむかむかして」
「んー?」
「胃がキリキリして」
「……病院に行きなさい」
「常に吐きそうで」
「「お医者様に行こう。くろたん」」
「頭からとある人が離れないんだけど」
「待て……、その症状、俺たちにも当てはまるんだが」
「相手、比奈川なんだけど」
皆の表情が一気にひきつる。
「恋かな?」
「「「「「絶対、違う!!」」」」」