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つぎのつぎ!

 ふみふみふみふみ…。


 俺の心を労るようにハニーが俺の腹を前足で踏みつけている。


「……癒される」


 そして、泣ける。


「遥くん、猫にばかりかまけてないでご飯食べちゃいなよ。食べないと塩鮭、花ちゃんにあげちゃうよ?」


 叔父さんが何かうるさい。いま、ストレスの解消中なのに。しかし、許せん。


「花たんに塩分を取らせる気か!?」

「……遥くん、学校で花たんとか言わないようにね」

「言わないよっ!俺、クールキャラを演じようとしてんだから!」

「……全然駄目だったよね」


 双葉の理事長が憐れみの目を…っ。


「いつか、返り咲いて見せる!」

「いや、意味わかんないから。夕飯食べて。それから、君、若干頭がお花畑だと思われてるよ」

「なんでだ!?」


 


◇◆◇◆◇



 昼休みに食堂に行く途中、比奈川と赤城が廊下で追い掛けっこをしているのを目撃した。

 鬼は、比奈川の方で赤城が半泣きだ。


「あーはっはっはっはっ!」

「止めろ!まじで、オレ、カエルは駄目なんだって!!」


 バカ女ーっ!!と叫びながら、走り去っていく赤城の後ろから握り拳に突き立てながら走る比奈川をちょいちょいと、呼び止める。


「何してんの?」

「ああ、あんたに近づくな。って偉そうに言われたから、『あんたがカエルかピーマン克服できたらそうする』って返して、ちょうど身近に居たカエルを捕まえて追い掛け回してた」

 ほら、と比奈川が拳を開くとゲコッと鳴く蛙。


「……生き物はかわいそうだな」

「まあな。……明日から、あんたの弁当ピーマンにして持ってこいよ」


 比奈川が蛙を窓から投げ………あ、ちゃんと地面に着地した。だ、大丈夫だよな。


「お前の嫌がらせのために……?」

「何言ってんだ。あんたも嫌がってあいつも嫌がる。一挙両得じゃん。あたしの」


 真顔で、何言ってんの!?


「そういえば、ヒロインに会った?」

「いや、一人で会いに行くの恐怖しかなくて」


 だって、肉食系貴腐人を目指してる人なんか怖すぎる。


「なんだ……」


 がっかりしたように肩を落とす比奈川。

 う゛……確かに自分自身の事なのに比奈川に頼りきってる間が半端ないな。


「悪い。比奈川、行ってく……」

「せっかく、『穢れてないはるきゅん☆にハアハアしたい』って言ってたから、二人きりで会わせたらものすげえトラウマになりそうだって……残念だよ。クロ」

「おいいいいっ!」

「いや、待て。やっぱりその瞬間をこの眼でーーよし、クロ行くぞ」

「行かねえよ!」

「え?」

「『え?』じゃない!!」


 何故、心底残念なものを見る眼を。俺の方ががっかりだよ!


「あたしのお母さんがよく言ってるんだけど」

「なんだよ」

「『やるなら徹底的に☆』って」

「お母さん!?」


 知らない人だけどとんでもない人間を誕生させるんじゃない!


「前世の親友は、『気に入らなきゃ殴れ』だったかな?」

「ろくでもない事言う人しかいねえのか!」

「だから、お前の顔、絶望に染め上げてやんよ☆」


 指差して、バッチーンって、ウィンク…。


「助けてくれんじゃなかったんか!?」


 思わずツッコンでしまったが、そこで比奈川がハッ!と驚いた顔をした。


「わりぃ。あんたを見てるとこの顔が絶望に染まった瞬間を指差して笑ったら気分爽快だろうなって」


 最 低 だ 。


「俺の事嫌いなんか!」

「いや、顔は大好きだぞ」

「顔は!?」

「性格はちょっと騙しやすくて高い壺を買わせやすそうだなって」

「なんで犯罪者目線!?」


 喉を痛めるくらいにツッコンでしまった。思わず咳込むと、比奈川があーっ、と頷いた。


「ジュース持ってるからやろうか?」

「は?……あー、でも悪いし」

「遠慮すんな」


 ほらって、……よくよく考えたらどこに缶持ってたんだろうと思いつつ、渡されたジュースが……………炭酸だ。


「一息で」

「出来るかっ!喉痛めてるし、お前さっきさんざん走り回って缶ふってんじゃねえか!なんだ。この悪い方向でのベストチョイスは」

「おー、ワンブレス」


 ぱちぱちと手を叩かれた。俺、怒ってるのになんで平気そうなんだ。そして、なんか自分の手を見たと思ったら、


「あ、あとカエル触った手だった」


 最 悪 だ 。


 ぷるぷると体を怒りに震わせていると食堂方面から何かを探すように歩いてきたジャージ姿の体育教師が比奈川を見て、声をあらげた。


「あ!ここに居やがったな!比奈川!!」

「げ、生活指導の」

「黒田!そいつを捕まえろ!!」

「はい、先生!」

「ははん。あたしの足の速さをなめんなーっ」


 ひゃっはーっ!と高らかに笑いながら、……どんどん遠ざかっていく背中。お、おかしい。俺、陸上部にすら走りで勝てるのに高笑いしながら走り去っていく小柄な女に負けてる。


 ーープライドがズタズタだ。


 そして、喉が乾いたからうっかりと手元にあったジュースを…………。

 炭酸まみれになった俺は、アホなんだろうか。



◇◆◇◆◇



 期末テストが終わり、テスト順位が廊下の壁に貼られるとさっそく見に行っていたのか結果を凝視している黄瀬田がいたので話しかける。


「よう、黄瀬田。また、学年トップか?」


 初恋相手は?事件以来、ちょっと話しかけずらかったがこういうタイミングなら良いだろうと肩を叩くと、振り向いた黄瀬田の顔が真っ青だ。


「ど、どうした…っ」

「一位が…」

「は?一位?何、お前じゃ…」


 俺が張り紙に目をやると、ーー!?


「あー…、天才ってつらいわー」


 後ろからぼりぼりと頭を掻きながら現れた比奈川を俺は凝視してしまう。

 認めたくない事実に俺が戦いてしまった。


「お、おまえ…い、いちいって……」

「あー、あんた、十一位?………どんまい☆」

「なんでだよ!?」


 いや、いつもならトップテン内なのに何故だ。しかも、黄瀬田の三位。……小さくなってる。腹黒副会長の背中が小さく丸まっている。おのれ、前世の記憶持ちだからか。ーーじゃあ、俺に恩恵は!?

 目の前の現実を直視したくなくて俺が若干現実逃避していると、比奈川が黄瀬田に向いている。


「よう、黄瀬田」


 比奈川に話しかけられた黄瀬田がビクーッと肩を震わせた。


「じゃあ、さっそく三回回ってわんな。」

「なんでだよ!!」


 思わず肩を掴んで止めると、比奈川が、んー…とって首を傾げた。


「いや、あたしも特に興味はないんだが」

「じゃあ、止めろよ」

「でも、黄瀬田が『遥に近づくなら、私以上の学力を得てからにしなさい。ーーはっ、君に負けるようだったら三回回ってわんでも、土下座でもしてやりますよ』って言うから、せっかくの権利をわくわくしながら行使しようかな。と」

「最悪だよ!だいたい土下座の強要は」

「クロ、」


 くいくいっと服の裾を引っ張られた。なんだよ。

 つんつん、と黄瀬田を指し、


「こいつの自爆だぞ」



 確かに!!反論の余地もないが、しかし、…………っ、


「もーっ!」

「お、牛か」

「わん。も、土下座もダメに決まってんだろ!?」

「そうか。特に見たい訳じゃないから、止めろよ。黄瀬田」


 はあはあ、と、俺が全力で止めてるのにあっさり……確かに比奈川が悪いわけじゃない。黄瀬田が相手を舐めた結果だ。

 なんとなく気まずい空気の中、比奈川がふーん…と、


「まあ、あれだ。黄瀬田」

「……なんですか」


 屈辱に震えているらしい黄瀬田に比奈川は、ウィンクしながら、



「三位でどんまい☆」



 空気読まずにトドメ刺した!


「黄瀬田ーっ!しっかりしろーっ!!」


 しくしく泣き始めた友人の背中をさすりながら思う。

 俺は、絶対比奈川を敵に回してはいけない。とー…、しかし、味方して貰ってる筈なのに胃が痛い。



◇◆◇◆◇


 もふもふもふもふ…と、ダーリンの腹を撫で回す。


「ダーリン、また太ったねー。お腹が床についちゃうよー。あ、レディーったらなんてセクシーポーズなんだ!そ、そんなはしたないポーズでお腹なめなめなんて…っ、そんな子に育てた覚えはないぞ!花たん!子猫ちゃんをどこに連れ込もうとしてるの。いかがわしい!」

「遥くんの表現がいかがわしいよ」


 叔父さんが何か言ってる。うん、特に問題ないな。


「だって、撮影会だから、おにゃんこ様にはいい気分でいて欲しいじゃん」


 比奈川がムービーを欲しいというので、猫様たちにリビングに集まってもらった。……鰹節の力は偉大だが、塩分過多にさせたくないのであまり使いたくない手だ。


「かわいいねー……うん、理由なんかない。かわいいねー」

「遥くん、なんだか目が死んでるよ」

「……叔父さん」

「どうしたんだい?」

「俺、いま、悪魔と友情と痔のお薬の間で揺れてるんだ」

「……………とりあえず、病院へ行こうか」


 なんでだ。

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