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つぎ!

 比奈川みかんと手を組んでから数日。

 さっそく組んだ事を後悔し始める。


「あのさー…」

「んー?」

「ヒロインに転生者かって聞いてきたけど」

「!?」

「ストーリー製作者だった。まじ、腐女子☆」


 パチン!とウィンク。


「どんだけ、勇者!?」

「あと、あんたの知り合いって言ったら『是非、痔の薬を持って嫁に来てください』って言ってたよ」

「逆ハー狙い!?」

「前世はさー、普通の喪女だったから、今回は肉食系貴腐人を目指すんだって。『はるきゅん、まじ天使。リバ可なんておいし☆』」

「なあ、追い込んで楽しいか!?」

「え…………」


 半泣きになりながら、肩を掴むと、何故か驚いた表情をする比奈川。


「どっちに転んでも得だよ。って、慰めてたんだぞ」

「お願いします。俺、女の子が好きなんです!そっちに行きたくない!!」

「女好きか。ーーこの女の敵め」

「そこだけピックアップすんな!」


 駄目だ。話が通じない。


「でもさー、好きなゲームの理想の展開なんだよ」

「う゛………っ」


 そう言われると、辛い。やっぱり、ファン心理としてヒロインの応援をしたいと思うのは……間違ってるけど、わかる気がする。

 真面目な顔で思案している比奈川には悪いが、ここは現実なんだと、言わなければー…、


「逆ハー築いたヒロインの泥沼化する人間関係と老いを得てなお、ヒーローどもからの寵愛を得れるのか。最初の数年は楽しかったがひとり、またひとり離れていき…ついにヒロインはー…。的な展開を超希望してるんだが、どうだ。クロ」


 真剣な顔でどこでその破滅のタイミングが見れるんだろうって。


「ヒロイン嫌いだろ!?」

「まさか、野次馬としては大好きだ」


 堂々と他人宣言されたぞ。ヒロインさん。


「ふー、話してても進まないな。じゃあ、さっそく攻略キャラ達の」

「ゲーム知識からトラウマを治す方法を教えてくれるんだな!」

「え…………?」

「え?」


 何故、そんなに馬鹿をみる目をするんだ。


「あんた、ヒロインやりたいのか?」

「なんでだよ!?」

「えー、トラウマ治したら、あんたにさらになつくんじゃね?」


 確かに。……なんて事だ。アイツ等のトラウマを治したら、さらに俺の身の安全が……っ。いや、待て。強い心で拒めば良いだけなのになんで俺はこんなに必死なんだ。


「NOと言える日本人だぞ。俺は」


 嫌なことは嫌だと言える人間だと主張したら、へーって比奈川。


「あ、黒田ーっ、勉強今日も教えてくれ」

「は?今日も。明日は知らないって言ったばっかりだぞ……まったく、お前って奴は」


 急に通りかかった友人と昼休みに勉強を教える約束をし、戻ってきた俺にビシッと指をさし、ゲラゲラ笑い始める比奈川。


「ギャハハッ!あんた、絶対流されそーっ!」


 人の不幸をこんなに楽しそうに笑う女、初めてだ

「あー、お腹いたい。さて、さっそく生徒会室に行くか」

「は?」



◇◆◇◆◇


「しつれいしまーすっ」


 ガラガラッとノックもせずに戸を開ける比奈川に俺は、ギョッとした。ば、バカ!


「あー…なんだ。全員居ねえのか」


 あーあー、と頷く比奈川。俺が慌てて比奈川の後ろからいる人間を覗き見てみる。

 生徒会長の俺様赤城武と副会長の腹黒メガネ黄瀬田優が比奈川を唖然とした表情で見つめている。


「く、黒田。またソイツか」

「遥、友人は選びなさい」


 金髪の黄瀬田は眼鏡でも隠しきれない鋭い目付きで比奈川を睨んでいる。普通の女子なら、怯えるんだろうが、比奈川は、平気そう………なんで鼻唄を歌えるんだ。この状況で。


「えーと、俺様ぼっちの生徒会長と腹黒良いとこどりしたい卑怯者の副会長な」

「「はあ!?」」

「おぃいいいいっ!!」


 思ってても口に出さない慎ましさはないのか!?


「な!誰が俺様ぼっちだ!!」

「聞き捨てなりません。誰が卑怯者ですか!?」


 いきり立つ二人をなんとか怒りを沈めようと俺が口を開く前に比奈川が。


「あ、そうそう、あたし、クロと付き合うことになったから、バーイ」


 俺の腕を引いたかと思うとガラガラガシャーンッ。と、戸を閉めてしまった。

 ………戸を閉める瞬間の赤城と黄瀬田が顎が外れるくらいにぽかーんとした、中学からの付き合いだが初めてみる表情だった。



◇◆◇◆◇



 何を考えてるのかがわからない比奈川の横をぐったりしながら、歩く。

 いや、駄目だ。逆ハー……阻止しよう。うん、冷静に考えたら、友人が破滅しかない道に行くのは駄目だ。もし、アイツ等から告白されたとしても断ればいいんだし。

 それに比奈川も、協力をしてくれてるんだ。そうか。きっと、俺がヒロインに攻略されない為に孤独にさせないためにも、一緒にいて不自然じゃないように彼女って事にしてくれたんだ。なんて良い奴なんだ。

 空気読めないとか思ってごめんな。比奈川。

 と、隣を…………



 歩いてねえ!!


「比奈川!?比奈川、どこだ!?」


 辺りを見回してもあのオレンジの頭の旋毛は見えない。

 まさか、どこかで恨みを買って教室に連れ込まれたか。性格が災いして、どこかで囲まれてるのか。


「おーい。クロー」

「比奈川!大丈夫か!?」


 後ろから、ぶんぶん手を振って走ってきた比奈川にほっと安心する。


「ん?ちょうどムッツリ会計が居たから、さっきの会長たちに対して言った台詞言って来たんだけどさー」


 俯いて顔色が悪い。


「どうしたんだ。何か灰村に言われたのか?」

「いや、あんたの顔を見たら、ちょっと後悔して」


 ああ、友情が壊れるとかそんな心配をしてくれたのかと、比奈川の優しい気持ちに感動…、


「やっぱり、あんたも連れてけば良かった。あんな間抜け面、あたしだけ見て笑い転げたりした罪悪感が」


 最 悪 だ 。

 思いやりという言葉から圧倒的にかけ離れているらしい比奈川に俺は、絶望した。


「お、俺は悪魔と手を組んでしまったのか…」


 顔を覆って考えてしまう。


「さ、後は双子だけだ。行くぜ。楽しい時間が待っている」


 ……俺、これからもアイツ等の友人で要られるんだろうか。


「クックックッ、すべてをぶち壊して見せる」


 泣くかもしんない。



◇◆◇◆◇



 お猫様の写メで癒されつつ、放課後、比奈川と共に生徒会室に呼び出されたので、比奈川を伴って生徒会室に入室すると五人の目が一斉に比奈川に集中した。俺ですら、引く状況に比奈川を心配して、視線を向けると。


「おー、すげぇ壮観」

「まさかの余裕っ!?」


 図太い。


「「くろたんを解放しろ!」」


 書記のーー男子にしては小さめな一年の忠犬双子、青木竜・龍が比奈川に詰め寄ったかと思うと、比奈川は、ひとつ頷いて。


「あんた等、まじ顔そっくりで見分けんの無理そうだな」

「「ガーンッ!」」


 軽い調子で傷を抉っただと!?


「ひ、比奈川、それ竜と龍のトラウマ…っ」

「ああ、そういえば。母親にまで間違われたんだっけ。でもさー、同じ顔に同じ格好されて髪型も一緒って狙ってるとしか思えないなー。あ、わかった。」


 パチンッと指を鳴らす比奈川。


「傷口に塩待ちのドエムだな!」

「比奈川!?」

「わかるわー。二人ともそれ系の顔してるわー」


 ケラケラ笑い始める比奈川に双子が酷い!としくしく泣き始めた。

 ひ、ひでぇ…。


「女の癖に口が悪すぎないかっ!?」


 赤城が立ち上がってキレた。

 しかし、それに比奈川は、爆笑した。


「あはははっ!あんたがそれ言う。ないわー。」


 ………ひどい。

 赤城が思わず詰まった。というより引いた。旗色が悪いせいではなく、比奈川の性格にドン引きしたようだ。


「く、黒田……その、女のどこが良くて……」


 大柄で少しいかつい顔をしている灰村が恐る恐る俺に聞いてきた。……いや、そんな心配そうな顔をされても。まさか、痔の薬のお世話になりたくないからって言うわけにはー…っ。


「そんなの決まってるじゃないの」


 キリッとした表情で何を言うつもりだ。比奈川。まさか、痔の薬の話をする気じゃ。


「あたしが、美人だからよ!」


 胸を張ってとんでもねえ。

 …………流れる静寂の中で五人の白い眼が俺に注がれる。美人は確かに否定できねえからな。


「黒田、女は顔じゃない」

「遥、容姿が良いからと眼を瞑ってはいけない実態もありますよ」

「「くろたん、正直残念だよ」」


 灰村は、何も言わずにただただ残念なものを見る眼だ。お前ら、俺が初恋相手ーーもしかして、ゲームとは違うんじゃあ。そうだ、俺って、転生者だし。ゲームとは性格違うって比奈川も言ってたし、そして、もしかしたらここがゲームの世界って比奈川の狂言かも。コイツの性格だから後から「からかっただけー、ぷぷ、騙されてやんの」とかあり得る。うん、そうだよな。皆とこれからも普通の友人で居たいし。


「な、なあ、お前たちにちょっと質問があるんだけど」

「「なあに。くろたん」」


 双子が先に聞き返してきたので俺は、思いきって質問する事にした。


「お前たちの初恋が、俺だって比奈川が言うんだけど、まさか、ー…」


 な。で締めようとした言葉は最後まで言えず仕舞いだった。

 皆が一様に視線を反らしたからだ。………空気が重い。


 俺のケツを蹴飛ばし、生徒会室から出るぞと指示する。比奈川に肩を落としつつ着いていく。



 しばらく、廊下を無言で歩き、下駄箱の辺りまで来たところで比奈川が口を開いた。


「なあ、クロ」


 ポンッと背中を叩かれた。



「自爆したかったのか」


 さすがにドエムの面倒は見切れないという真剣みのこもった声にそっと顔を覆う。違うんだ。


「心の平穏が欲しかっただけです」

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