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最初

 記憶がある前世が猫が飼えない環境だったから次に生まれ変わるなら、猫をたくさん飼える環境に生まれたいとは確かに願った。黒田遥。てっきり平凡で良い名前だと思っていた。交流関係以外で。

 だから、通う高校ーー双葉学園の多少の違和感も無視し、裏校舎で毎日親猫とその子猫と戯れつつ、仲が悪いので有名な生徒会のメンバーの仲裁に唯一入れるコミュ能力の高い風紀委員長を二年の水無月まで続けた……と云うより、その日常をぶっ壊す存在がいきなり転入してきた。



「ああ、………ぶ、あはははっ!この世界乙女ゲーかよ。あんた、ちょうかわいそーっ!!」



 オレンジの癖っ毛と碧眼の小柄でしかし、目付きが悪い美少女は、廊下で俺様生徒会長と談笑する俺の姿を見るなり指でさしていきなり大笑いしたかと思えば、俺の腰の辺りを……つーか、ケツを叩くんじゃねえ!を叩いてから、ポケットに手を突っ込んでノシノシと去ってしまった。ーーなんだありゃ。

 しかし、乙女ゲー………?



「なんだ。あれは…知り合いか。黒田」

「あー…知らないけど」



 大丈夫と俺は思わず俺様生徒会長の頭に目を向けた。あー…赤城だから赤い髪なんだ。


◇◆◇◆◇


 確かにカラフルな頭多いなーっと違和感を感じていたのは、前世の記憶が有ったかららしい。そして、多分、攻略キャラは生徒会のメンバーだろう。

 奴等は揃いも揃って美形だわ、金持ちだわ、トラウマ持ちだ。……話しやすい性格の俺にそのトラウマを話しては、「秘密な」と弱った表情を見せる。まあ、吐き出せる所があるなら良いだろう。しかし、俺もあんまり付き合いが良い方ではないので、気晴らしに遊びに行きたいは断固拒否している。何故なら、家が俺の至福の楽園だから。


「ハニーッ!ダーリン、花、レディー!!」


 もふもふと我が家の猫様をもふる。皆、俺が拾ってきたおかげかなついてくれている。俺の日課は、にゃんこを膝に乗せて、漫画を読んだり、ゲームをする事だ。まさか、学園一のコミュ能力を誇る俺が薄い本にまで手を延ばすオタクだとバレてはいけない。今は市民権を得ていると言う奴もいるそれは、ライトなオタクだ。………俺は、グレーゾーンだ。嫌いな奴ははっきり嫌いだと言われるタイプだ。

 にぃーにぃーっと鳴く新しく家族になった子猫にキューンッと胸が高鳴る。


「くぅ…っ、お前には、そのうち可愛い名前付けてやるからな!叔父さんに任せると変な名前ばっかで……っくそ、超可愛いな!この気まぐれ子猫ちゃんめッ!!」


 魅惑のもふもふタイプを存分に堪能し、この世界が乙女ゲーでも、まあ俺には関係ないかと楽観していた。


◇◆◇◆◇


「あんたさー、隠しキャラなんだよねー」


 優等生の皮を被り、問題児である比奈川みかんが持たされたクラスの宿題ノートの半分を持ってあげると、じゃあお礼に情報あげるーっとさらっと述べられた内容に俺は、ちょっと安心した。


「なんだ。じゃあ、俺、逆ハーレムメンバーじゃないんだな」


 その手の話は、雑食系活字中毒なので何度か読んだ事があるが、隠しキャラは大抵ハーレムメンバーではない。優先度も低い事があるので、大抵はメインと同時に攻略はしない。なら、俺は大丈夫と安堵していると琥珀の瞳を心底同情的な色を加えたと、思った瞬間、ニヤーッとニヒルに笑って見せる比奈川。


「この『ドキドキ☆俺様初恋革命学園』略して、ドキ革☆で」

「タイトルださっ!そして、長い!?」

「コミケで売ってた個人作品だし。主体ストーリーは、生徒会メンバーの初恋の相手を諦めさせるって奴でさー」


 にやにや、何が楽しいのか。こいつ。


「生徒会メンバーの初恋ってあんただよ。」


 バサバサッと俺がノートを落としても悪くはないはずだ。


「なんで、俺!?」

「アイツ等コミュ能力皆無じゃん」

「確かに」


 どいつもこいつも性格拗らせてる癖に能力高くて面倒なんだよ!


「で、口悪くて人間関係すぐギスギスすんじゃん。唯一、立場的にも性格的にもなんでも話て良いのあんただけだから、超愛されてんぜ☆」


 バチンッとウィンクしてくる比奈川に俺は、サーッと血の気が引く。


「ひ、ヒロインが諦めさせてくれんだよな!?」


 ガシッと肩を掴んで、救われたい一心で比奈川に泣きつくと、あー…と…、


「まあ、正当攻略なら一人は諦めるな」

「生徒会役員五人なんだけど!?」


「良かったな。残り四人から重たい愛を……あ、そういえば、あんた。一応、それっぽいような。でも、煮えきれず的な設定だったのに……何?転生でもした?」

「したよ!」

「御愁傷様です」


 パンパンッと手を叩いて拝むな!


「違うよ!助けてくれよ!!」

「え…………」

「なんで、そんながっかりした表情をするんだよ!?」

「やべ、超楽しいって眺めてちゃダメなの?」

「最低だよ!」

「ヒロイン、頑張って逆ハー目指してるのに人の努力の邪魔しちゃダメだって親が」

「そうか!逆ハーだッ!!」


 光明が見えた気になった。そうだ、ヒロインに逆ハーして貰えば、アイツ等の俺への恋心も全部ヒロインが鷲掴んで持っていってくれるんだ。


「よし、比奈川、俺、ヒロインさんの協力を」


 そうとわかれば、早くノートを職員室へ運んでヒロインに会わなくては、と俺がノートを拾い始めると、比奈川が、ピューッと口笛を吹いた。


「え、何痔の薬用意して欲しいの?」

「真顔で何いってんだよ。お前は!?」

「だって、あんたの攻略ルートって逆ハーした上での展開だもん」


 持ち直したノートをまた落としてしまった。


「は、……はあ!?」

「ヒロインに自分が大切にしていた友人を全部持ってかれたあんたが寂しさと虚しさでポツンッと秋からの学園行事をしている所から、あんたのメインのストーリーが始まるんだよ。多分、ストーリー製作者腐女子と思う。それか、貴腐人」

「どっちでも良いよ!」


 むしろ、何その爛れ具合が満載した展開。


「文化祭であんたから友人を奪ったヒロインが『黒田くん、一緒にまわろ』って」

「なに、そのヒロインこわっ」

「あんたも最初は不審げだったけど、『みんな、生徒会のお仕事で忙しくて』」

「怖いよーッ、女の裏の顔で半端なく俺を狙ってるー」

「そして、最終的にあんたの気持ちをわかったように『愛の形は自由だよ。わたしなら…、黒田くんの全部を受け入れてあげるから』」

「なんかいい感じで終わってない?」


 言葉だけ聞くといい感じに終わったの。話の流れとして不穏な空気感が半端ない。


「そうだな。男たちの愛も女の愛も手に入れたリバ可な美青年の誕生するぜ☆あ、最終スチルは超色気たっぷりでヒロインを抱き締めてるけど、後ろから顔の見えない男に抱き締められてるあんたが…」

「あーあーあーっ、なんも聞こえないです!っていうか。本気で助けてください。俺、ノンケです。無理です。ヒロイン、怖い」


 比奈川にお願いします!と、頭を下げる。しかし、相手は無情にも頭をボリボリ掻いて、うーん、と悩んでいる。


「そこまで、怯えられるとこのまま放置してみたい気持ちに」

「なるなよ!?」

「きゅんッ♪」

「お願いします。会話してください!!」

「ファン待望の展開が」

「わくわくしないで!」


 すっかり、泣き叫びツッコミすぎて喉が痛い。


「ライバルキャラは……」

「あんただぜ☆」

「もう、負けゲーしてる上に攻略されたら、社会的にも倫理的にもアウトだよ!?」

「……あー……」


 そこでようやく、比奈川が何かを考えてくれたらしい。


「ミジンコ並みにはかわいそうに思えた」

「もっと、同情してくれよ…」


 ぐったり、と肩を落とすと我が家のお猫様の声がスマホから響く。

 にぃー。にゃー。みぃー…と、俺、編集の元響いた声に慌ててスマホを取り出すと、叔父さんからメールだった。……夕飯、いらない。とか今、まじでどうでもいい。


「比奈川」

「おい、クロ」

「いきなり、あだ名!?」

 もう一度助けを求めて、頼んでみようと思ったら比奈川が真剣な顔でスマホを見ている。

「今の猫の鳴き声くれたら、協力をしてやっても良いぜ」


 キリッと真剣な顔で後写真もあるとなお良いって……。


「猫、好きなのか?」

「ああ、次生まれ変わったら猫を大量に飼いたいと思うくらいに」



 この瞬間だけ、意思疎通は確かになった。




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