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再会

2話めです。

 午前9時

いつもより早めに起きた俺は母親との間に流れる微妙な空気に耐えつつ朝食を頬張っていた。


「お昼のお金、ここ置いとくからね。」

「あ…うん。」


母親がなにか言いたそうにしている。

多分今日の事だろう。

そう、今日俺はアルバイトの面接の予定があった。

いつまでもニートをしているわけにはいかない、と言うのは建前で、実は欲しいゲームがあったからだ。

ニートという身分手前、まさか親にねだる訳にも行かないし、仕方なくバイトをすることにした。



「今日…面接なんでしょ?」

ほらきた。

「あ、うん…。雑貨屋の…。」

なんだか顔を合わせるのも久しぶりなので緊張してしまう。


母親はニッコリと笑って、

「そっか、頑張ってね。」

と言ってくれた。

なんだか申し訳なくなって、なにも言えなかった。


少しして、

「じゃあ母さんお仕事行くね!面接頑張ること!」

「ん。いってらっしゃい。」

短く言葉を交わすと、母親が家を出る音がした。


「はぁぁ…。」

緊張した。

普段あまり話さないため、たまに話すとどうしても気を張り詰めてしまう。



 さて、面接は11時。

まだ少し時間に余裕あるが、まぁ、たまには早く外に出るのもいいだろう。

自転車に乗って駅に向かう。


外に出ないのでわからなかったが、季節はすっかり秋色に染まっていた。

夏の風とは違い、冷たい空気が顔に当たる。

秋冬は好きだ。

厚着をして、殻にこもるようにしていれば、周りから見られなくて済むような気がしたから。他人の目から離れられる気がしたから。

…情けない。


そんなこんなで駅についた。

学生の頃の定期は期限が切れてしまっているので、電子マネーにお金をチャージする。

時刻は10時。次の電車は10分後だ。

売店に行こうか悩んだが、また優柔不断癖が発動しても困るので辞めておいた。


柱にもたれ掛かってイヤホンをつけ直す。

外ではイヤホンをつけるのが身体に馴染んでしまっている。

これも自分と周りの壁を作って閉じこもるためだろうか。そう考えると悲しくなってくる。


ふと、視界の端に女子高生の制服が映る。

遅刻して急いで学校に向かっているのだろうか、それともまた別な理由があるのだろうか。俺には関係のないことだ。

とは言ったものの、また知り合いだったら嫌なので、そっぽを向いて、音楽の音量を2つ上げた。

耳元でかき鳴らされるエレキギターの旋律は俺を外界とシャットアウトしてくれた。


 すると突然、その旋律が止んだ。

そして耳に違和感。これはまさか…。


「やっぱり!!朋也くんだ!!!」

イヤホンをむしり取られて外界にさらされた耳元で叫ぶ女。

これだから小さい町は嫌なんだよ…。



「いやぁ、びっくりしたよー。」

声の主は中学時代の同級生、相田奏(あいだかなで)だった。

なんでも、病院に行って遅刻して学校にいく途中だったらしい。

「ちょっと風邪っぽいだけなんだけどね。」

ニコ、と笑う彼女はその上品な笑顔から、育ちの良さを滲み出させていた。


「朋也くんどこまで乗るの?」

「ん?○○駅までだよ」

「そっかー。じゃあ途中まで一緒だね」

「ああ」


彼女の通う高校は大学までエスカレーターで行けるとても頭のいい学校だった。

きっと想像も付かないような努力をしてるんだろう。

俺とは大違いだ。


「朋也くん○○駅までなにしに行くの?」

まぁ、気になるよな。

嘘を付くのも気が引けたので正直に話すことにした。


「バイトの面接でな。」

「アルバイト?」

「そう。実は高校辞めちゃったんだ。だからとりあえずバイトやろうかなってさ。」

言ってから後悔した。

自分はお先真っ暗だと言ってるような物じゃないか。

さぁ、笑うか、憐れむか?この社会底辺を。


「そっかぁ~。偉いなぁ。」

…え?

「なんでだよ」

少し笑いながら言う。

「私ね、最近勉強もなんだか上手くいかないし、学校だって何のために行ってるのかわかんないの。だから、そうやってちゃんと大変なことに立ち向かっていける朋也くんは偉いなぁって。」


恥ずかしかった。

俺はただゲームが欲しくてバイトをやろうと思い立っただけだ。

大変なことなんてしてないし、毎日勉強尽くしでテストの点数に追われる学生の方が何倍も大変だろう。


「いやいや、奏さんのほうが大変だよ」

「さん!!!」

「え?」

「さんやめて!」

「わかったよ…」

不思議な子だ。


そんなことよりも、彼女は笑わなかった。

それどころか褒めてくれた。

心のなかなんて分からないけど、今まで笑われてバカにされ続けた俺は、それだけで嬉しかった。

学歴や地位が変わったわけじゃないけど、何でも頑張れそうな気がした。


「じゃあ、私ここだから降りるね。」

「ああ、ありがとな。」

「ううん!面接頑張ってね。応援してる。」

「ありがとう。奏…も学校頑張ってな。お大事に。」

「うん!バイバイ~。」

ヒラヒラと手を振る彼女はおっとりと笑っていた。



まずは、面接を頑張ろう。


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