第三話 不束者ですが。
お待たせしましたー
今回は、いえ、今回も遅かったですよね。すみません。
ギャグぅ・・・漫画だったらテンポ良くかけるんですが、それを小説にするのって難しいってことがよくわかりましたww
少年がとんっ、と地面に着地すると同時に、刀が光り、ひゅん、に空に舞った。着物も同じように消え、後にはTシャツとジーパンだけが残った。
魔法を見てるようだ、と葵は思った。思ってから、さっきの緊張感は何処行ったと呆れた。死を覚悟したにしては暢気すぎる。
「えっと・・・遠藤君?ですよね?」
少年が振り返った。いつの間にか髪が黒くなっている。そして顔を見て葵は気づいた。こいつ美形だ。かっこいい。と。
「あ、普通に遠藤でいいから」
(以外に喋るなこいつ)
心の中でそう呟いて、
「立花、葵・・・です。ふ、不束者ですが、これからっ、よろしくお願いします!」
(うわー恥ずい。あがった!最後あがった!)
「そんなかしこまんなよ。年同じだろ」
葵は言われて、そういやそうだったと思い出した。
「あ、そっか。ごめん」
(あれ?なんで謝ってんだろ私。うわ、いやだー)
彼はいかにも面倒くさそうに頭を掻きながら、
「とっとと帰るぞ。今日は暑いからな」
「あ、う・・・ん?あ」
葵の声に、どうした?と彼女の視線を追う。
道路に無残に破壊されたケースが転がっていた。少し中身が散らばっている。
「やられたのか?」
彼女がこくりと頷くと、彼はそれの傍まで行きひょいと拾い上げた。
「えっ、あっ、ありがとう・・・」
そう言うと、彼は葵の目をちらと見てから、すぐ前を見て、
「なんか足りねぇものがあったらおば・・・藍子さんに言やどうにかしてくれっから」
(今こいつ完全におばさんって言おうとしたな)
「あ、うん」
葵は歩き出した狼助の後をとことこついて歩いた。
「遠藤は妖怪なの?」
単刀直入の質問に、狼助はあぁ、と答えた。
「半分、な」
付け足し情報に、葵は今どき珍しいと思った。まぁ私もその口だけど、と。
妖怪――今ではほとんど迷信になってしまったけれど、それらは確かに存在する。
先程葵を襲った奴もそうだし、狼助も、葵自身も妖怪である。
ただし、葵も狼助も純粋な妖怪ではない。葵は母が人間だ。
葵がハーフを珍しいと思った訳は、何も妖怪の数が減ったからではない。妖怪が見える人間の数が減ったのだ。そうなれば、妖怪と結ばれる人間も減り、妖怪の血が混じる人も減る。その上ハーフは二代目だ。クウォーターなら、妖怪の寿命は長く、江戸時代まで遡ることができるので、一番多いはずであるが、ハーフはきっと昭和時代くらいが限界ではないか。昭和になれば妖怪の目撃情報もめっきり減ってしまうし、戦後ということでかなり忙しい時期を過ごしている。
しかも、中学生なのだから、珍しいで済む話ではない。
とは言っても、葵自身もハーフなので驚けないのも無理はないが。
「一つ聞いていいか?」
遠藤はやはり前を見ている。そんなに大事なことではないのだろうか、と思い、葵は「何?」と言った。
「お前、ここで何があったか知ってんのか?」
彼女は答えかけて、一瞬戸惑った。質問の意味は分かる。けど意図が分からない。何故そんな質問をするのか。考えて、やめた。分からないから、素直に答えた。
「知ってる。1931年の・・・妖怪狩りのことだよね?」
1931年は昭和時代である。
道はカーブに入った。そこまで急ではないが、カーブの先は木々で見えなかった。
妖怪狩り――とは、名の通り妖怪が次々に消滅させられる事件である。
反応を示さない彼に、彼女は思わず付け足した。
「仲間を次々に殺された妖怪たちは戦いを挑んだ。人間を、殺そうとした」
カーブを抜けた。一気に周りの景色が晴れ、目の前には空が広がっている。
(その主となった場所がここ、八重咲町)
少し行ったところに下に行く階段がある。八重咲町は地面より下にあった。そこだけ、大きなスコップか何かで掘られたようだった。
(相変わらず低いな)
葵は足元に広がる町並みを見て思った。
「敵は陰陽師」
狼助の呟きに、葵が反応した。
「妖怪の敵はいつだって陰陽師でしょ?」
「まぁな。けどそれしかわかってねぇ」
そういう彼の声には、少し憎しみがこもっていた。けれど葵には分からなかった。そこが彼と彼女の唯一の違いだった。彼女は、憎む前の愛を見つけていなかった。
彼は養子だ。両親はもう居ないのだろう。何故亡くなったのか。理由は簡単。妖怪狩りのせいだ。
こんな簡単な推理に、葵は自分で呆れた。
そして彼を羨ましいと思った。何故彼女が憎しみを抱かないか。理由は簡単。彼女は父親の顔も声も知らなかった。
狼助は階段を降りた。葵も後に続く。ここまで来れば、彼女の記憶が正しければ、家はもうすぐそこだ。
階段の前に、道路を挟んで公園がある。道路と言っても車一台通れないくらい狭い。まぁ、事故が少く安全なのだろう。公園は入らず左へ。直進する。
町を離れたのは幼い頃なのに、結構覚えていて驚いた。
階段はいわば裏道だ。車道は、階段の手前で右へ曲がり、カーブと坂を隔て町へ入ってくる。
細い道はすぐに大通りに直面した。と言ってもせいぜい車二台が関の山だ。
この辺りで彼女は、キャリーバッグが気になった。ずっと持たせっぱなしである。この辺りから人も多くなるし、危ないし、かといって家まで五分もかかるまい。
(どうしよう・・・)
と、手を出しかねていると、彼が急に振り向いた。
「着いたぞ・・・ってどうした?」
びくっと肩をあげ硬直し、汗を掻いている葵に問いかける。
「いや、何も」
彼は不思議そうな顔をしつつも、門を開け中へ入った。
まるで幽霊屋敷だ。葵は心底そう思った。江戸時代かっつーの、とも。
それくらい家は広かった。門の先には石でできた道があり、その先に玄関の扉がある。
彼は玄関の扉をがらっと開け放ち、ただいまと奥へ呼びかけた。
暫くして、ばたばたっという足音が近づいて来た。奥から現れたのは、黒い髪を後ろで一つにまとめ、薄い黄緑色のエプロンをつけた、若い20代前後の女の人だった。
20代前後といったが、多分実際50年くらい生きてるのだろうと葵は推測する。
「あの」
「いらっしゃい!葵ちゃん」
葵が何か言おうとする前に、彼女は笑顔でそう言った。
「来てくれてありがとう。さっ、あがってあがって」
そして今度は口を開くまもなく、葵の手を握り、奥へ引っ張る。
「あっちょっ」
急いで靴を脱ぎ、急ぎ足で廊下を歩く。
「あの、えと、藍」
「さっ、ここよここ。座って」
またもや声を遮られ通された場所は、部屋の真ん中に机があり、左右に二つずつ座布団が敷かれている。
その片方に葵は座らされ、向かいに女と後から付いてきた狼助が急かされながら座った。
彼らの後ろにテレビが見える。今で言うダイニングのような部屋なのだろう。
「ごめんなさいね。今真人さん用事で居なくて。あぁでもほんと、来てくれてありがとう。クッキーでもあればいいんだけど・・・煎餅でよかったら食べてね。あぁでもなんか緊張するわね。子供が・・・」
と、ぺらぺらと喋り通すのはいつもの癖なのか、狼助は机に有った煎餅を無言で食べている。
(口挟みにくいっつーかしゃべり過ぎじゃね!?遠藤全くの無視だし!ていうかこの人藍子さんであってるんだよね?早く話終わんないかな・・・)
しかし女の話はいつの間にか違う方へ転換し、全く終わる気配がなかった。
(どうしよう。私まだ何も話してないんだけど・・・って)
彼女の視線の先には、煎餅を口に挟み背を向けるや否や、ぽちっとリモコンでテレビをつける狼助の姿が。
(ちょっとは自重しろやぁぁ!!いやあんたの家だけどさ!おっさんか!やることが休日のお父さんだわ!あんた中学生だろうが!!)
叫びたくなる気持ちを必死にかみ殺す彼女の肩は震えていた。
(ぐちぐち言ってらんない・・・)
彼女は心底そう思った。
(こいつらの空気に呑まれちゃいけない!)
彼女には、彼女なりの計画があった。でもきっと、このままいけば・・・
(実行できない。今変えないと。今私のペースに持ち込まないと)
「それでね、そしたらその人が」
「あのっっ!!」
葵の叫びに、女はきょとんと、狼助は首だけを動かして葵を見つめた。当の本人は自分の膝元を見つめ、
「い、いいきなりのことだったのに、こ、快く私を迎えてくれてありがとうございましたっ。ふ、不束者ですが、今後ともよろしくお願いしますっ」
と勢いよく頭を下げた。
部屋に、ごっという鈍い音と、ちょっとした沈黙が流れた。
「あっ、葵ちゃん!?」
「立花・・・?」
机につたる赤い液体に、女が真っ先に反応した。
「きゃっ、葵ちゃんしっかり!い、いま手当てするからね!?狼助薬箱!」
「お、おう・・・薬箱どこ?」
「え?えっと多分・・・」
ばたばた、とあわただしい足音をぼんやりと聞きながら、葵は畳の上に仰向けに横たわり考えていた。
(何とかなった。緊張したなー・・・それにしても・・・)
額に手を当てる。ぼこっとした感触がそこにあった。
「いったぁ・・・」
設定的なもの
ただの落書き↓
笑えましたか?
こんなんでも笑ってくれたらうれしいです。
最初「女」って打つの抵抗あったんですが、慣れるとそうでもないですね!
挿絵挿入に使う記号分からなくて苦戦したぜ・・・