第二話 出会いの話。
読み直して、は?と思ったので修正しました。
ていうか完全に話違ってます。
とある山の中に整備された街道がある。それは都市と町とを繋ぎ、一時間に一本決まってバスが来る。山の中腹くらいまで来るとバス停でUターンし、都市に帰っていくバスだ。
今日も同じようにバスが来て、珍しく一人の客を降ろして行った。少女だった。手にキャリーバッグを引きずっている。彼女は二、三度辺りを見渡すとバスが走り去った方と逆に歩いて行く。
その先にある町を目指して。
彼女の名前は立花葵という。葵といえばピンクや白などが多いが、彼女の髪は黒かった。
少し青みのある黒色。それを背中の真ん中辺りまで伸ばし、左右に揺らしながら彼女は歩いた。
「暑・・・」
思わず呟いてしまうのも仕方ないほど暑く、坂は急だった。しかし人の手が入ったところとはいえ山の中。時々吹く風は葉をさわさわと揺らし、熱気を紛らわせる。
(道は整ってるのに何でバスがないのよ・・・)
彼女は心中そう愚痴る。
これはもっともだ。道は、左右に歩道があって、車道もきちんと二台、通ることができる。
なのにバスは山の中腹までしかこない。
向こうの街までは、道でしか繋がっていない。
風が吹く。その度に彼女は髪を手で押さえた。
どうすればいいか分からなかった。何がどうなってるのか、何故こんなことになったのか。電話が来たのはそんなときだった。
途方に暮れていた私は、それにすがるしかなかった。電話の向こうで柔らかな声が喋る事はとてもややこしく感じられた。私は大事なことだけをメモに取り、家を出た。後のことはあちらがやってくれるそうだし、とりあえず彼女らに会うことが最優先と思った。
あちらへ行く途中、ずっと何故こうなったのか考えていた。だってあの人達が病院に行ったところなんて見たことなかったし、やっぱりただの発作なのだろうか。けど二人同時にとはどういうことなのだろう?確かに場所は違っていたけど、それと夫婦が同時に発作を起こし死に至る確率と何の関係があるのか。そんなおかしなことをあの医者はさらりと言ってのけた。おかしな人だ。心底そう思った。
でもやっぱり考えて分かることじゃないな。そう思って考えるのをやめた。私はただの中学生で、医者でもないし、心霊的なものを信じる気にもならない。それを信じるだけの材料は揃っていることは確かなのだが。
考えるのをやめて次に思いついたのは彼女らのことだ。彼女は遠藤藍子と名乗った。彼女もまた私の親戚・・・だと思う。血なんて何処で繋がってるか分からない。夫の方は真人というらしい。一人、狼助という養子がいる。狼助なんて変わった名前だと思った。この人がバス停まで迎えに来てくれるらしい。
私は幼い頃に両親を亡くした。住んでいた家は売られたと聞いていたが、まさかそれを買い取った人達の家で暮らすことになるとは。
つまり、私はもと居た家で、まったく知らない人達と暮らすのだ。
バス停に迎えは無かった。まぁでも前住んでたし。迷わないだろうと結論付けて歩き出したのはいいが、これがまた遠かった。私が居た頃からそうなのだろうか?葵は考えて、前は車で送ってもらったんだと思い出した。
もうすぐ上り坂が終わるというところで、彼女は異様な気を感じ取った。腕に鳥肌が立つ。
「寒い・・・?」
なんで?彼女は思った。夏に入ったばかりのはずなのに。
いつの間にか蝉の鳴き声も聞こえなくなっていた。代わりに、ざわざわ・・・と音を立てて葉がゆれる。
彼女は一瞬、歓迎されてねぇな・・・と思った。それが暢気すぎたと、彼女はすぐに知る。
後ろで殺気を感じた。
身をかがめ、道路脇の草むらに飛び込む。
「っ!?」
後ろを振り向くと、道路――さっきまで葵がいたところに大きな切れ込みが出来ていた。勿論、鞄も無事ではない。
世界中探しても見当たらないであろう大きな刀で斬られたようだった。人の力ではあるまい。
(どうする?)
一旦木の陰に隠れはしたものの、どうにも逃げ切れそうな相手じゃなさそうだ。今まで以上に強力で邪悪な「気」がする。
(なんで私ばっか・・・)
考えてどうにかなるものではないが、やっぱり毎回思ってしまう。前にこの町を出るまではそうじゃなかったのに、と。
(もう、いや・・・)
そう、ぎゅっと目を瞑った時だ。
風が吹いた。頭の上を通り抜ける。
同時に、横でずどんっと音がなった。
木が倒れたのだ。
振り返る。
風で舞う髪の間から、人のようなものが見えた。
刀を掲げるそれは、狂気に呑まれていた。
「やっ・・・」
間に合わない、そう分かっていても逃げようとした。前は見ない。目を瞑って、死を覚悟しながら逃げるのだ。
ざしゅっ、奇妙な音が耳元で聞こえた。
「伏せてろ!!」
誰かの叫び声で我に返る。
先程の音は幻聴だったと気づくのに時間は掛からなかった。
振り向くと、葵の目の前には少年がいた。灰色の髪と、紺色の着物の裾を風に靡かせ、斬り株の上につとと立ち、刀を振るう。
刀は、相手の首を完全に打ち落としていた。
切り離された塊は、空中で砂のように消えていった。
「うそ・・・」
葵が呟いた時には、彼は刀を鞘に収めていた。
葵には、それらが一、二分にも感じられたが、実際はもっと短かった。しかし、このたった二、三秒の出来事が葵の人生を大きく左右することになったのだ。このことに、彼女らは気づかない。




