水源調査~1
いつものようにギルドに行くと冒険者が一人もギルドに来ていない。いつも何人かいるのに今日は静かだ。
「今日は冒険者さんたちいないんですね?」
「皆でウォードラゴン退治に行ってるのよ」
「そうなんですか……良いな、良いなぁ。あたしも行きたいなぁ!」
ちょっとだけレベルアップしたミリーは気が大きくなっている。だが、ウォードラゴンはレベル100を超える大物なので、レベル4のミリーではプチッと踏み潰されて終わりだ。
「ミリー! 『水が干上がったから調査してください』だってニャ!」
ミーシャが慌ててミリーの気を逸らすために、一番新しい依頼を読み上げた。
「そうなのよ! 南のルキ町の井戸や川が干上がって……冒険者皆出払ってるでしょう? 困ってるのよ!」
お姉さんも慌てて口を合わせた。
「水が無くなったら大変じゃないか!」
ハインリヒも尻尾を振りながらミリーの気を引こうと一生懸命だ。調査なら危険はない。
「たいへん! きっと町の人たちとっても困ってるよ。早く行かなきゃ!」
「うん! ニャ」
ミリーの気が変わらないうちに依頼を請け負った。この依頼でできるだけ時間を稼いでウォードラゴンのことを忘れさせなければならない。
『町の水源が干上がってしまいました。原因を調べてください! 調べたのですが原因が全く分かりません。なんとかしてください、お願いです。報酬は20000ゴールドお支払致します』
***
ルキ町へは馬車で一日の道のりだ。三人は馬車を借りて、おばさんが持たせてくれたビスケットやチーズ菓子を食べながら出来るだけ急いだ。
ルキ街道へ入ったのは日が昇り始めた頃だった。もうそろそろ町へ入るころ、馬車を駆っていたミーシャが目を細めて馬足を緩めた。
「なんニャ……」
街道に道を塞ぐようにして男が数人立っている。手にはそれぞれ得物を持って物騒な空気を纏っている。
「盗賊だな。一気に片づけるぞ」
ミーシャが頷いて馬車を停めて三人が馬車から降りた。
盗賊たちは得物をこれ見よがしに振り回しながら三人に寄ってくる。人間相手に戦うのは初めてのミリーだが、深呼吸するとクルッと回り「えぃっ!」と杖を振った。これで盗賊の動きは止まるはずだ。
そう、止まるはずだった。
ほとんどの盗賊の動きは止まったのに、何故か一人加速した。それはそれはものすごい速さでミリー目掛けて走ってきたのだ。
「魔女っ娘……魔女っ娘!」
男は寸分の狂いなくミリーを捉えると肩をガッシリ掴んだ。体術に長けているミーシャが止められない速さだ。
「きゃあぁぁぁっ! 怖いよー!」
「しまったニャ! 逆効果だった!」
「はぁはぁ……はぁはぁ……ねぇ、飴玉舐めさせてあげるから。おにいちゃんとアッチ行こうよ」
「しかも言い方がエロくさい! きさま、ミリーに触るんじゃない!」
男はミーシャやハインリヒの攻撃に怯むことなく、ミリーを連れ去ろうとしている。
「アメくれるの!? この人良い人だよ!? 盗賊じゃないよ!」
「こら、ミリー! 騙されるんニャない! 『おにいちゃんのニャン玉も舐めさせてあげる』とか訳分からんことを言うに決まってる!」
「ニャン玉ってなにー!?」
「ワン玉のことだ! あとで見せてやるから逃げるんだ! ミリー!」
ミリーを守ろうと、ヘンタイに応戦しているうちに盗賊たちが我に帰って動き出した。
「お、おい待て! 俺たちは盗賊じゃない!」
「ルキ町の自警団だ! 止めっ、引っ掻くな! イテッ!」
「調査に来てくれた冒険者を迎えに来たんだ!」
「「「え……?」」」
*
「リーダのミハイルニャ。そっちの犬がハインリヒで彼女はミリー。宜しくニャ」
「ミハイルニャさんか」
「ミハイルニャじゃなくて、ミハイル、ニャ」
「……ミハイル・ニャ?」
「……ミーシャで良い」
「分かった……。なぁ、こう言っちゃなんだが、君たちで大丈夫なのかな」
絵的にはとても可愛らしく癒されるが、依頼した側としては不安になる三人だ。
「おいおい、見た目で判断するなよ。こっちは列記としたギルドの冒険者なんニャから」
ミーシャがプレートをぷらぷらさせながら言うと迎えの男たちは頷いた。それからミリーにチラっと視線を移した。
「大丈夫です! あたしだって不思議な塔でレベルアップしたばかりだから!」
「んー……よし、分かった。宜しく頼む。早速だが、水源まで案内する」
自警団のリーダが言うと、全員その後に付いた。大所帯で山の中の獣道へガサガサと入っていく。
「おい、こんニャに大勢で行く必要あるのか?」
「いや、最近魔物が増えてるからな。用心に越したことはない」
「ああ。だから全員武装してたのか」
うんうんとハインリヒが頷いている。ミリーは草に足を取られながら、歩くのに一生懸命で会話をする余裕はない。そうしているうちにペチョンと転んでしまった。
「大丈夫かい? お嬢ちゃん」
「おにいちゃんが、抱っこしてあげる……はぁはぁ」
「お前は引っ込んでろ」
ヘンなおにいさんは皆に白い目で見られている。
「すまんね、お嬢ちゃん。アイツちょっとアレでね」
「『アレ』なんですか? それは大変ですね」
『アレ』がなんなのかミリーにはよく分からないが、分かったフリをしてそう言っておいた。
一悶着起こしつつも一行はお昼前には目的地の湖に到着した。