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不思議な塔~レベルアップ


 不思議な塔はナキ町の北西の森を抜けたところにある。そちらの方向は町や村がなく、人里から少し離れるため野生動物がたくさんいる。

 森に入るとハインリヒが鼻をヒクヒクと動かして、動物の臭いを嗅ぎ取り避けるようにして進んでいた。


「こっちはダメだ」


 ハインリヒが言うと、三人は足を止めてミーシャが目を凝らしてそちらの方向を見た。ミリーには見えないが、白い長い耳がチラリと見え隠れしている。


「ミリーこっちは危ないニャ! さすがヘルドッグ。鼻が利くニャ」


「あの動物には俺たちでは太刀打ちできないからな」


 どう見てもウサギさんだが、ミリーが見たら「可愛い」とか「連れて帰る」とか言いかねない。自分たちの地位を死守するため、ハインリヒとミーシャは暗黙の了解で手を組んだ。


「分かった、ありがとう二人とも」


 何も知らないミリーを真ん中に三人で手を繋ぎながら森を用心深く進む。

 そうこうしているうちに突然拓けた場所に出て、目の前に天辺の見えない塔が現れた。ミリーは初めての冒険にドキドキしながら二人の肉球をぷにぷにした。

 

 三人で用心深く塔の入り口に近づくと、扉に不思議な図形が彫り込まれている。


「コレ何だろう?」


「おいハインリヒ……これ」

 

「ああ、へブル文字だな」 


 線と小さな丸で形作られた不思議な図形は文字のようだ。二人は額を寄せてヒソヒソ話を始めた。


「おかしくないか? なんで扉に『ようこそミリー! 怪我しないようにね』なんて書かれてるんだ?」


「何かの罠かもしれニャい……」


 ハインリヒはクンクンと鼻を鳴らして怪しげな匂いを嗅ぎ分けようとしている。


「……なんか、どこかで嗅いだ匂いだが……どこでだ?」


「ねぇ、二人ともこの記号知ってるの?」


「うーん。まあ、知っているというか……魔族が使う文字ニャ」


「なんて書いてあるの?」


「うーんと、その……『求めよさらば開かれん』?」


 ミーシャはミリーを怖がらせないように適当なことを言っておいた。だがそれはミリーにはとても魅力的な言葉だった。


「うわぁ! 冒険っぽいよ! ね、早く入ろうよ!」


「あ、ああ。塔に入ったら縦一列に並ぶニャ。俺が前、ミリーが真ん中でハインリヒが後ろだ」


 ミリーの前後を固める隊列で三人は塔に入っていった。




*


「また前方から魔物が来るぞ!」


 ハインリヒが言うと、ミリーは後ろに下がって杖を構えた。かなりの数の敵を倒して既に十階まで上がってきている。


「ほぇー。ぼぇー」


 しばらくすると間の抜けた声が聞こえてきた。知能はほとんどなく、動いているものに攻撃をするアンデッド系の魔物だ。動きは遅いが力が強くて毒の息を吐く。火以外の魔術に耐性があるのでミーシャとハインリヒの肉弾戦だ。


「ほぇぇぇぇ! ぼぇぇぇぇ!」


 ゾンビは三人を見つけると声を大きくしながら早歩きで向ってきた。敵が5メートルくらいまで近づくと、ミリーはクルッと回り「えぃっ!」と杖を振り下ろす。そうするとゾンビの動きが止まるのだ。

 その間、二人が殴る蹴るの暴こ……攻撃を加える。ゾンビが動けるようになるころには虫の息だ。


「もぇぇぇぇ!? もえっ!? 魔女っ娘モエーッ!」


 そうして奇妙な叫びを上げながらシュワシュワーと消えていく。後にはキラキラと光る結晶体が残ることがある。

 「わぁい!」と喜びながらそれを拾うミリーを見ながらミーシャが首を傾げた。


「おかしいな。魔物は必ず前方から出てくる……」


 ハインリヒも首を傾げている。魔物が後ろや上から突然襲ってくることがないのだ。必ず「出ますよー」と言う合図を出してから三人の前方からやってくる。


「まぁ、ミリーも喜んでるし怪我もないから良いけど……おかしいニャぁ」


「あ……ミリー! 大丈夫か!?」


 結晶体を拾って立ち上がったミリーがふら付いた。少し顔色が悪い。


「疲れたんニャ。そろそろ帰ろうニャ……そんな顔してもダメ」


「また来れば良いだろう? な?」


「……うん。分かった」


 普段より動く量が多く、しかも初めての戦闘にかなり興奮して疲れてしまったらしい。三人は手を繋いで塔の出口へ向かった。




*


「北西に塔なんてあったか?」 


 ところ変わってギルドではお姉さんの話を聞いていた冒険者が首を捻っていた。「不思議な塔」なんて見たことも聞いたこともない。


「さっき私が作ったのよ。ミリーちゃんのために」


「そうだったのか……なんでそんなことを?」


「楽しいものも用意しておかないとねぇ。ミリーちゃんが余所の町に行ったら寂しいじゃない?」


「確かにそうだな……じゃ、俺たちは塔に行かないようにするよ。他の連中にも言っておく」


「是非ともそうしてちょうだい」


 お姉さんは「ふふふ」と笑いながら目を妖しげに光らせた。



*


 無事に塔を降りて、(ミーシャとハインリヒにとって)危険な動物を避けながら森を抜けて原っぱに出ると三人は休憩を取ることにした。


「おばさんが、おやつ用意してくれたニャ」


「わぁい! 木の実のパイだ」


 クルミや干した果物がギッシリ詰まったパイだ。ミーシャには小魚のパイ、ハインリヒにはミートパイとそれぞれに用意してくれたようだ。


「良いおばさんだな……宿代もまけてくれるし」


 三人でおやつを食べながら拾った結晶体の数を数えはじめた。全部で8個ある。


「ずいぶん手に入ったな」


「だいぶ魔物やっつけたしね! あたしもレベルアップしてるかなぁ?」


「あ、うん、そうね……ニャ」


「わぁい! 楽しみ!」


 ミリーがニコニコしながら言うと二人はなんとなく目を逸らした。


「早くギルドに行こうよ!」


「そうだな――あっ!」


「急に大声出してどうしたの? ハインリヒ」


「いや、なんでもない」


 「ふぅん」と言いながらミリーは後片付けを始めた。


「どうしたんニャ? ハインリヒ?」


「あの塔の匂い……ギルドのお姉さんの匂いだ」


「どういうことニャ?」


「ん……お姉さんが作ったんだろう。理由は聞くしかないな」


「さ、行くよ。二人とも」


「うんニャ」



*


「ただいま、お姉さん!」


「お帰りなさい、どうだったかしら? 怪我はしてないわね?」


 三人でギルドに入ると、お姉さんはニコニコしながら迎えてくれたが、ミリーの恰好を見ると目を輝かせて頬に手を当てた。


「まあぁぁぁ、可愛いらしい! 魔女っ娘ちゃんね!」


「えぃっ!」


 褒められて嬉しくなったミリーはクルッと回り「えぃっ!」とやってみせた。案の定お姉さんは固まった。それからミーシャとハインリヒを見ながらグッと親指を立てた。

 ミリーはそんな大人のやり取りに気付かず首に下げたプレートを服の中から引っ張り出して透明の石に置いた。


「レベルアップしたかなぁ? ドキドキするなぁ」


 ギュッと目を瞑りながら両手に持って、少しずつ目を開くミリー。


「えっと……ミリー・ケイン……レベル4! やったぁ! 上がった上がったよ! ほら、二人も早く早く!」


 飛び上がって喜ぶミリーから目を逸らしながらミーシャとハインリヒもプレートを置いた。それから二人のプレートを見るミリーのニコニコ笑顔が「ぼぇぇぇぇぇ……!」となった。


「ミーシャは? ぇ……レベル25? ハインリヒは……レベル26? えっ!? なんで!?」


「さぁー……なんでかニャぁ?」


「ふ、不思議だワン……」


 実は直接戦闘に加わらないとそんなにレベルアップできないのだ。「ぼぇぇぇぇ」という顔で愕然とするミリーの肩に二種類の肉球が乗った。


「……レベルアップなんかする必要ないニャ」


「……ずっと俺たちが守ってやるからな」


「ふ、二人とも……ありがとう……大好き!」


 ぐすぐすと泣きながらミリーは二人に抱き着いた。頭を撫でたりホッペを舐めながら二人は内心ホッとしている。


――ミリーはこのままで良いんだよ。俺たちがずっと一緒にいて守ってあげるんだから





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