不思議な塔~装備を整えよう
「俺が18、ハインリヒが20でミリーが3。問題ないと思うんニャが」
「そうだな。三人で食べる分には困らないくらいの仕事はできると思うが?」
「ん……でも、あたしもレベル上げたいな」
「もしもの時は、俺かミーシャがミリーを守れば良いだけだろう?」
一般村人の平均レベルは6~8で、村人より弱いため本人はレベルアップしたいのだが二人は遠回しに反対している。ミーシャもハインリヒもそんなミリーを危険なところに連れて行きたくないのだ。
「ねぇ、三人とも。仕事じゃないけど町の北西に塔があるのよ」
三人で額を寄せ合っていると、お姉さんが声を掛けてくれた。
「塔ですか?」
「そう。ときどき外観や中が変わる不思議な塔で、ちょっとした魔物が出るのよ。ミリーちゃんでも大丈夫よ。そこでレベルアップすると良いんじゃないかしら?」
三人は顔を見合わせた。
「行ってみようよ! そこ行ってみよう? ね、お願い」
ミリーの首を傾げてのお願いに二人はあっさり折れた。
「うーん、そうだニャ」
「まずは準備してからだな」
「分かった! 宿のおばさんに頼んでお弁当作ってもらうね!」
「それもだけど、ミリーの装備を少し揃えるんニャ」
ミリーの顔がパァッと輝いた。「装備」、なんて冒険者らしい響きなんだろう!
「既製品で良ければここを出て右に三件目に、クーガの武具店があるわよ。急ぎならそこが良いと思うわ」
うずうずしているミリーにすぐに手に入る武具店を教えると、「ありがとうございます!」と言いながら嬉しそうに走って行った。
「待った! 走ると転ぶニャ」
二人も急いでミリーの後を追って行った。
*
「何が良いかなぁ?」
ミリーはワクワクしながら武具店をキョロキョロ見ている。
「ミリーの武器は何が良いかニャ……素質が分からないからニャァ……」
たくさんの武器に囲まれてミーシャは溜息を吐いた。今まで戦闘系の仕事をしたことがないため、ミリーに合う武器が分からないのだ。
そうしているとハインリヒがミーシャの肩を叩いた。
「俺に任せてくれ、ミーシャ。ここは俺の得意分野だ」
ハインリヒは店内をスタスタと見て回り、ミリーとミーシャはその後に付いて行った。しばらく見ているうちにある装備の前でハインリヒがピタリと止まった。
「……よし、これだ。店主、ちょっと試着させてくれるか?」
「おう、良いぞ」
ハインリヒは自分の見立てた装備一式をミリーに渡した。
ミリーの見たことのない装備で、ハインリヒに手伝って貰いながら装備した。膝上丈の茶色の半ズボン、紺色の腿までのマントと大きなトンガリ帽子に杖だ。
「うん、良いな。それでクルッと回ってから「えぃっ!」と、言いながら杖を振るんだ」
ハインリヒが身振り手振りで説明すると、ミリーはその可愛らしさに見とれてしまった。ちょっとはぁはぁしている。
「ね、ねぇ。今のよく分からなかったからもう一回やってくれる?」
「よく見てるんだぞ。こうだ!」
ハインリヒは頷きながら再び同じことを繰り返した。
「もう一回、もう一回だけ!」
「良いか、ミリー? こうニャ」
それを見ていたミーシャも混ざって二人で回りながら「えぃっ」とやると、あまりの可愛らしさにミリーは「堪らん!」と言いながら悶えている。一しきり悶えたあと、ハインリヒに促された。
「さ、やってみるんだ!」
「分かった! えぃっ!」
両手で杖を持って言われた通り上から振り下ろすと、ハインリヒとミーシャの動きが止まった。しばらく止まっていたかと思うと、今度は二人でゴロゴロと床に転がり始めた。
「思った以上に良い!」
ハインリヒは頭を抱えて尻尾をブンブン振り回して悶えている。
「くぅっ……そう言うことか!」
ミーシャは床をてしてし叩いて「うなーん、うなーん」と唸っている。それから二人は起き上がると固い握手を交わしてからガッチリと抱き合った。
「半額にしてやるからゼヒ買うと良い!」
後ろで止まっていた店長も、何故か二人に混ざっている。ミリーはその意味不明の行動をキョトンと見ていた。
「決まりだ! 戦闘が始まったらミリーは俺たちの後ろでそれをするんニャ!」
「それで敵の動きが少し止まるはずだ!」
ミーシャとハインリヒが言うとミリーは目をパチクリして杖を見た。
「も、もしかして魔法!?」
「まぁ、そうか……ニャ」
「店主、このまま装備して行くから会計頼む」
「毎度! 「魔女っ娘セット」一式半額で550ゴールドだ」
お金を払い、装備も揃った三人はご機嫌に手を繋いで塔に向った。