魔王と親衛隊――暴走するヤツら
「じゃ、ちょっと行ってくるから」
「お気を付けて……必ずミリーさんを連れて来てください」
元魔王様は、現魔王の溢れ出る妄想がウザいことこの上ないので、ミリーを連れ帰るまで魔界への立ち入りを禁じた。
元魔王がアスランに敗れたのもこの妄想が原因だ。
本来人間ごときに遅れを取るような魔王ではないのだが、突然流れ込んできた「ピーーーー!」な妄想に怯んだ隙にやられてしまったのだ。
元魔王様は至って普通の成人男性である。よって、いくら成人していても10才くらいにしか見えない少女にあんなことやこんなこと、成人女性にもやろうと思わないことを平然と妄想できるアスランに負けた。
「はぁ……これで、しばらく羽を伸ばせる」
アスランに付き従うのは親衛隊だ。アスランのミリーへの愛(という名の妄想)に感銘を受け、その恩恵に与る精鋭たち(少数派)だ。どのような恩恵に与っているのかは、また別の話。
永遠の少女ミリー(親衛隊命名)こそが魔王の妻に相応しい、と陰ながら応援していた彼らが、大手を振って魔王を応援できる機会を得てしまった。
「陛下、いよいよですな!」
「我ら親衛隊の名にかけて、ミリー様を我らの王妃に!」
「ロリー万歳!」
はっきり言ってしまったウッカリさんがいるが、大義を目前にした全員の異様な熱気の中では些細なことであり、誰もが笑って見逃した。
そんな能天気な一行は、リース村に一番近いダンジョンへ向かった。もちろんここで特筆すべき冒険はなかった。彼らにとって、ダンジョンなどただの通過地点に過ぎない。
*
リースの村人が見慣れぬ一団を遠巻きで見物していると、一団は村外れのミリーの家へ真っ直ぐ向かっていった。
「小さくてミリーみたいに可愛い家でしょ」
小さな家は荒れていて、外から見ても無人と化していることが分かる寂れようだ。だが、桃色がかった脳内で現実がよく見えていないアスランは、人の家のドアを突き破ってミリーの部屋へ突入した。
親衛隊員たちは感動の再開を二人きりで分かち合って貰おうと、村人を追い払いながら小さな家の前に張り付いていた。
「ミリー……?」
泣きながら駆け寄ってくるミリーを想像していたアスランは、ミリーが出てこないことに首を傾げた。
「なるほど……迎えに来るのが遅くなったから拗ねているんだね?」
「ほんとに可愛いんだから」などとニヤつきながら家探しを開始するアスランは、どこか焦っているようにも見える。
小さな家の隠れる場所など決まっている。わき目も振らずにミリーのベッドへダイブするアスラン。
「そんなに僕が待ちきれなかったんだね、ミリー? さ、かくれんぼはお終いだよ、出ておいで」
毛布を捲るがそこには誰もいない。
だが、アスランはシーツや毛布に顔を埋めてミリーの残り香を嗅ぎ取っている。どんなに薄まっても残っていれば嗅ぎ取れる男、それがアスラン。
しかも髪の毛が一本でもあれば十分だ。何に十分かは、永遠に語られることはないだろう。
とりあえず、ミリーの本体抜きでアレやらコレやらな男は、やはり本体なしでは満足できないことを悟り血眼になってミリーを探し始めた。
「ミリー……出ておいで? ミリー、出てこないと……どうしようかなぁ……?」
「ミリーなら出て行ったわよ」
アスランの爽やかな声がおどろおどろしくなってきたところで、若い女性の声が聞こえた。振り返ると、少女が立っている。濃い金髪にミリーをきつくしたような顔立ちだが、雰囲気がミリーとは全く違う少女だ。更にミリーよりも背が高く、年相応の発育をしている。小さい頃、ミリーに似ているというのが気に入らずに、一番にミリーを苛めていた少女だ。
少女は腰に手を当てて、高慢そうな態度でアスランを見ている。
「……誰だよ?」
「リサよ。幼なじみの顔も忘れたの?」
「ああ、あっそ。それより、ミリーが出て行ったって?」
「そうよ、三か月くらい前かしら」
「どこに行ったんだ?」
「教えるから、私も連れて行ってくれる?」
「別に良いけど? みんな、移動だ!」
アスランは急いでリサを馬に乗せた。そしてかなり気が急いているアスランは、リサがニヤリと笑ったのを見逃してしまった。
「で、ミリーはどこへ行ったんだい?」
「アスランのことを追うって言ってたわ」
「……じゃ、王都だな! みんな、目的地は王都だ!」
「おおー!」と鬨の声を上げながら馬に乗った親衛隊員はアスランの馬を囲み王都へ向けて出発した。




