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お姉さんの依頼~3

 ミリーはお腹の辺りがものすごく重たくて目が覚めた。

 あまりに重くて体を起こせず、それでも何とか布団を捲ると、寝るときに着せられたネグリジェというワンピースのようなものが捲れあがっている。そして剥き出しのお腹に何かが乗っかっている。


「さ、寒いニャ」


「寒い……」


「……寒いのぅ」


 三人がミリーのお腹に乗って「寒い、寒い」と言いながらスリスリしているのだ。三人も乗っかったら重いに決まっている。


「み、みんな、重たいよぅ……!」


 頼りない声を出すと余計に三人はスリスリしてくる。ハインリヒなど寝惚けて「お肉、お肉」と言いながらお腹をベロベロと舐めている。まだ薄暗い中みんなを起こすのは忍びないが、あまりの重さに耐えられなかった。


「ねぇ、起きてよ、みんな! 重いよ?」


「フゥー……寒いニャァ」


「うー。お肉ーお肉ー」


「ここは、コキュートスか……? シャーッ!」


「起きてってばー!」


「どうなさいました!?」 


 騒ぎを聞きつけたジャンヌが寝巻のままやってきて、ミリーは何とか救出された。



*


「ごめんニャ。寒くって」


「あんまり寒くて布団に入ってしまったんだ、ごめんよミリー」


「すまんのぅ……昨夜は寒かったんじゃよ」


「そ、そっか。風邪ひいたら大変だもんね」


 今朝のちょっとした騒ぎを聞いたお姉さんは、愛玩動物のフリをする三人に軽蔑の眼差しを惜しみなく送った。


「……ま、良いわ。朝食に行きましょう」


「……はい!」


 今日は昨日より裾が長く襞をたくさん取ってあるクリーム色のワンピースを着せられた。やはりミリーは「エロじじいエロじじ」と呪文を唱えながら用心深く歩き始めた。


「おはようミリーちゃん」


「……エロじじい!」


 歩き辛い服のせいでミリーは足元に注意を取られてあまり回りに気付いていない。そのためデルヴェーヌ夫妻にまったく気が付かなかった。


「は? 何かな、それは?」


 お父さんはミリーの呪文にギクッとした。純粋無垢そのもののミリーに愛らしい声で「エロじじい」と言われると、何かものすごく後ろめたい気分になってくる。


「……ミリーちゃん?」


「あ! おはようございます……エロじじいエロじじい」


「いや、あのねミリーちゃん……私はエロじじいではないよ。まったく否定は出来ないが、いや。私だって、男だしね、男っていうのはエロスを求める生き物――ぐふっ!」


 生真面目なお父さんはミリーの呪文に生真面目に答えて、お母さんに肘鉄を食らわされた。

 こうして、朝食前にちょっとした騒動があったが無事終えて、コンテストの準備が始まった。



*


「困ったわねぇ」


 お姉さんもお母さんももルドヴィクまでも眉間に皺を寄せてミリーを見つめている。


「はぁ……本当に……困ったわ……」


「あ、あの、あたし……ごめんなさい」


 ミリーは、そんな大人たちにショボーンとうなだれて謝った。


「ミリーちゃんが悪いんじゃないのよ!」


「そうよ! お洋服が悪いのよ!」


 何を着せても可愛らしくて、ドレス選びに難航しているのだ。デルヴェーヌ家、ひいてはバフォメット族の安泰がかかっている。

 お父さんはメイドさんの服を持って、さきほどから何か言いたそうにウロウロしていた。


「困りましたねぇ……そうだ、そちらの三人」


 ルドヴィクが何か思いついたように三人に声を掛けた。


「な、何ニャ!?」


 ちょっと飽きてソファでゴロンと寝そべって肘枕をしながら鼻をほじっていたミーシャは慌てて起きた。ミーシャの前でナーガの尻尾をネコじゃらしよろしく振っていたハインリヒも振り返った。


「いつもミリーさんと一緒にいるあなたたちなら、何が一番似合うかご存知でしょう?」


「そりゃ、まぁ……」


 三人はミリーを見てから首を傾げて、ドレスをゴソゴソと漁り始めた。




***


「今回のコンテストはフランベル家が首位で決まりね」


 ツヤツヤ光る黒髪を巻いて、薔薇色のビロードのドレスを着た綺麗な少女が鏡の前でうっとり呟いた。幅の広いレースの前立ての胸元から谷間がチラッと見えて、エロスを醸し出している。


「本当に! わたくしたちのシャロンの美しいこと。ねぇ、あなた」


「ああ。コンテスト首位どころか、王妃の座も狙えるな」


 自分たちの娘を見ながら満足そうに笑うのは、やはり綺麗な男女二人組。どこか悪そうな微笑みを浮かべている。


「デルヴェーヌ家はどうなのかしら?」


「ああ。何でも人間の娘を拾ってきたらしい……」


 男が悪そうな微笑みを浮かべると、女も少女も馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「いずれにせよ私たちのシャロンほど美しいものはいない。さ、行こうか」


「はい、お父様」



***


「コンテストの審査はどうやってやるんだ?」


 コンテスト会場の王宮へ向かう馬車の中、ハインリヒがお父さんに尋ねた。


「特殊な装置を使って、会場内の血圧を測定するんだ。もちろん陛下の血圧も測定される」


「王様ですか!?」


 ミリーは「陛下」という言葉を聞いてドキドキしながら、頭に王冠を載せた口髭で赤いマントのちょっと小太りのおじさんを思い浮かべた。

 アスランが読んでくれた絵本の王様の挿絵はそんな感じだが、なぜかその息子の王子様は似ても似つかないハンサムなのだ。


「眠くない、ミリーちゃん?」


「お昼寝したから大丈夫です!」


 満場一致でミリーの衣装が決まったあと、夜に備えてお昼寝をしたためミリーは気力が満ちている。が、自分の衣装を見てソワソワしている。


「でも、これで大丈夫なのかなぁ」


「大丈夫です、自身を持ってください」


 ルドヴィクが鼻で笑いながら言うと、ミリーは自身が無くなってきた。


「ごめんなさいね、ミリーちゃん。ルドヴィクは感性を刺激されると鼻で笑ってしまう習性を持っているのよ。馬鹿にしているように見えるけど違うのよ」


 どうでも良いが、それを聞いたミーシャとハインリヒが何故かルドヴィクから視線を逸らした。実は先ほど昨日の失礼な態度のお返しに、ほじった鼻クソをルドヴィクのズボンにペタッとくっつけたのだ。


「わ、分かりました!」


 そんなことを知らないミリーは大きく頷いてルドヴィクを見つめた。


 ほどなくして馬車の速度が緩んだ。ミリーが窓から外を見ると、煌びやかな光景が目に入ってきた。

 大きな湖の真ん中に建つ、煌々と照らされた美しい建物。建物に繋がる橋は様々な色の灯りが灯され湖に映し出されている。



* 


 受付を済ませると、案内係が出場者と付き添いを控室に案内する。


 ミリーはお姉さんに付き添われて控室に向った。出場者たちは公平を期すため、全身をマントですっぽり覆って見えないようにするのが決まりだ。控室内にはマントを被った人とその付き添いで賑わっている。


「リヨンではないか。久しぶりだな」


「ご無沙汰しております、フランベル公爵。夫人も、お元気そうで何よりですわ」


「ああ、そちらがデルヴェーヌ家の出場者かい?」


「ええ。そちらはシャロンが出場しますの?」


「ええ、そうなの! わたくしたちのシャロンの美しさと言ったら!」


 この親馬鹿に聞こえる会話はバフォメット族では通常だ。美しい物は美しいと褒めて自慢するのが彼らだ。

 控室内でみんなで会話が盛り上がっていると、案内係が入ってきた。


「みなさま、時間になりました。会場へご案内致します」


 ミリーは緊張しながらいつものクセでお姉さんの手をニギニギしながら向った。




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