病弱な幼馴染みを優先する婚約者殿。なる程……看病すると愛も芽生えるものなのですね!
病弱な幼馴染みを優先する婚約者と婚約破棄をし、ざまあするお話です。
婚約者の応接間の重厚なドアの前で、ジルコニア伯爵の弟マロウ・ジルコニアは、憂鬱な気分であった。
あー、面倒臭い、煩わしい。
今日は週に1度、婚約者に会わなければならない日であった。
こんなに無駄な事に時間を当てるよりも、一刻も早く病弱で儚げな幼馴染みのもとに帰りたいのだ。
気持ちとは裏腹に、ドアをノックし応接室の中へと入る。
すると、マロウは一瞬ギョッとして、先程までの憂鬱さがぶっとぶのであった。
応接室には、婚約者のアリス、婚約者の両親、マロウの兄2人ユージインとジョージアがいたのであった。
婚約者のアリスの普段の髪型は、長い髪の毛をひとつに束ね、冷ややかな印象であった。
しかし、今日のアリスは銀色の少し紫がかった綺麗な髪の毛を下ろしていた。
心なしか表情もいつもより柔らかに見えるのであった。
♢♢
マロウの婚約者のアリス・デスモントは、デスモント伯爵の一人娘だ。
デスモント家は、由緒ある家柄というだけでなく大商会も経営しており非常に裕福であった。
そして、マロウのジルコニア伯爵家も10年程前に、前伯爵の父と母が馬車の事故で亡くなり、一時期ジルコニア家の存亡が危ぶまれる程に経営が破綻しかけたが、長男のユージインの手腕と同じく優秀な次男ジョージアとで傾きかけた家門を立て直すことが出来たのであった。
近年ではジルコニア領から、ある鉱物が採掘されたこともあり、その鉱物を使用した商品を製造しているデスモンド家との縁談が持ちかかったということである。
マロウは三男ということもありデスモント家の入婿になる予定なのだ。
♢
応接室は多くの人がいるにも関わらずシンとしており、重苦しい雰囲気が流れていた。
アリスの父デスモント伯爵が、その重い雰囲気を撃ち破るかのように、低い声で話し始めた。
「では、先程話し合った結論で、皆相違ないね。」
デスモント伯爵が、見渡すとマロウ以外の者は、全員頷いた。
すると、デスモント伯爵は、マロウに向き直った。
とても威圧感がある。
流石は、帝国でも指折りの商会を経営しているだけあるのだ。
「マロウ君。我が娘アリスとの婚約は破棄させてもらうよ。」
そう告げられたマロウは大きな目を更に見開いた。
「えっ…。な、何故ですか?と、というか良いのですか?私が婿養子にならなければこの商会の跡取りはどうするのですか?それにうちの鉱物を優先的に卸すという件もあるというのに!」
思ってもみなかった事を告げられたマロウは次々と婚約破棄に対しての疑問や反論を口にした。
そんなマロウをデスモンド伯爵はジロリと睨み付けた。「君は……えらく幼馴染みの女性に執心しているようだね。」
マロウは一瞬たじろいたが、すぐに反論した。
「そ、それはエリーは病弱でして。それで看病も兼ねて会いに行っているだけです!」
マロウはデスモンド伯爵越しにアリスを睨んだ。
アリスめ……あの女!
俺とエリーとの関係を羨み嫉妬するあまり伯爵に…自分の父にチクったのだ!
なんて、なんて、心の狭い冷酷な女なのだろう。
幼馴染みは病弱なのだ。気を遣うのは当然だろう!
「フム…。病弱な幼馴染みの看病ねぇ。」
そう言うとデスモンド伯爵はパチンッと指を鳴らした。すると、どこかで見たことのある1人のメイドが伯爵の隣に歩いて来たのだ。
「この者は我が家の者なのだが、君の幼馴染みの男爵家での事を報告してもらっていたのだよ。」
あっ…マロウは小さな声をを出した。このメイドは見たことがある。
そうだ!最近幼馴染みエリーの専属メイドになった者だ。
マロウは途端に罰の悪そうな顔をした。
「君は……。君の看病は過度なスキンシップをすることなのだね。」
そ、それは…そんなことは…モゴモゴと急に口ごもる。
「自宅にも帰らず、ほとんど病弱な幼馴染みの家に入り浸っていたそうじゃないか!
そして、あろう事かこちらが渡した結婚の支度金で、その病弱な幼馴染みとやらの婚約指輪を購入したということも聞いている。」
な、っ。そんな事まで調べたのか?
マロウは咄嗟にアリスを睨んだ。
マロウとアリスは商売上の…家同士の政略結婚なのだ!お互いに利益があるから結婚するだけの事。それだけの関係なのだ。
病弱でか弱い可憐な幼馴染みの方が可愛いのは当然だろう。
誰が好き好んで商売優先の冷酷で、損得勘定しか考えていない浅ましい女を好きになるものか。
形式上は結婚すれど心までは縛られぬ。
♢
婚約者のアリスの普段の髪型はきっちりと一つに束ねて、隙のない髪型をしている。
対してエリーはピンク色のフワフワな髪でとても可愛らしく愛らしい。
アリスは何て可愛げのない女だろう。全く女を感じさせないのだ。
普段のきっちりとした髪型からも、全てを物語っているようだ。
常に計算ばかりしていて、なんの面白味もない。女としてはなんの魅力も価値もない奴なのである。
そんな女の家の婿養子に入ってやる男など自分の他にいるのだろうか?
きっとこの結婚は誰も婿養子になる相手がいないアリスに、デスモンド家が切望してする事になった婚約に違いないのだ。
マロウは再びアリスを睨んだ。
すると、長男のユージイン・ジルコニア伯爵が、突然立ち上がった。
右足を怪我したのか、足を引きずりながらマロウの元に行き、そして……思いっきり殴ったのだ。
ユージインは怒りのあまり顔が紅潮しワナワナと震えていた。いつも男らしく少し厳しい顔つきがより厳しくなっていた。
マロウは兄に初めて殴られて驚いた。
殴られた箇所がジンジンと痛み咄嗟に自分の手で押さえた。
マロウは何をするんだと、兄に抗議をしようと思い兄を見たのだが……。
兄は深々とお辞儀をしてアリスとアリスの両親に謝罪していたのであった。
「本当に、本当に申し訳ない事をしました。」
ユージインは、自分の事のように誠意を込めて謝った。ユージインの体格の良い体が小さく見えるほど深く深くお辞儀をして謝っているのだ。
マロウは、さっぱり理解できなかった。病弱な幼馴染みの看病をしただけで咎められるのならば、こちらからそんな婚約願い下げであろう?
何故兄はそんなに必死に謝っているのだ。
マロウは兄に殴られた頬をおさえながら心の奥で疑問に思いアリスに対して憤慨していた。
「愚弟が申し訳ございませんでした。私が、私が甘やかしたばかりにとんだ勘違い野郎になってしまい、本当に…。」
ユージインは怪我をした足と腰の痛みに耐えながらも必死に謝罪した。
……すると、そんなユージインの元にアリスが駆け寄った。
今までマロウが見たこともない優しげな表情で、そしてユージインに心配そうに声を掛けメイドに椅子を持ってこさせ、その椅子に座らせていた。
「無理をなさらないで。まだ完全に治ってはいないのですから。」
「そうだよ。君はアリスが馬車に轢かれそうになった所を助けてくれた命の恩人なのだから。
そして……我が愛しの娘の大事な婚約者殿なのだから。」
♢
♢
それは1ヶ月ほど前のことであった。
アリスは婚約者の数々の奇行に悩まされ、ぼんやりと町中を歩いていたのたが、気付かないうちに馬車に轢かれそうになっていた。
その時、たまたま近くにいたユージインに助けられたのであった。
その際、ユージインは怪我をしてしまいアリスは看病を申し出、デスモント家で療養をしていたのであった。
アリスはユージインを甲斐甲斐しく看病しユージインはせめてものお返しということでデスモント商会の簡単な書類仕事などを手伝ったのであった。
看病というエッセンスも加わり、日常を密接に過ごした、。
そういう風にしてお互いの事を少しずつ知り、惹かれあい、愛が芽生えたのであった。
「なるほど…。マロウ様の奇怪な行動も理解できました。看病をすると愛も芽生えるものなのですね。」
アリスはスッキリとした表情で美しく微笑みながら、そう言ったのであった。
♢
幸せそうな2人を見て、ジルコニア家の次男のジョージア・ジルコニアも嬉しそうであった。
兄のユージインは両親を馬車の事故で亡くしてからというものの、自分自身の事は考えずに、ジョージアと弟のために身を粉にして働いてくれたのであった。
ジョージアは、そんな兄の手助けをしたいと思い、少しずつ家業を手伝っていた。
兄の強い勧めもあり、ジョージアは最近結婚をしたのだが、その妻も大変有能な者で、最近兄が怪我をしてデスモント家に療養していた時も、なんとか自分と妻とで家業を切り盛り出来たのであった。
そんなこともあり、自分の幸せを置いてけぼりにしていた兄が愛を育み幸せを見つけれた事もあり、皆で話し合いジルコニア伯爵家当主の座を兄のユージインからジョージアに譲り渡して、兄のユージインは婿養子に入る事となったのであった。
ユージインとアリスは12歳年の差がある。
ユージインは年の差がありすぎるということで、最初は消極的な部分もあったが、アリスはそんなことは気にしなかった。
ユージインに助けられた時の、男らしいふるまいと細やかな気遣いに惹かれていたので、年齢など全く気にしていなかった。
元婚約者のマロウには、よく損得勘定していると軽蔑の眼差しを向けられていたのだが、なる程そうかもしれない。
ユージインに対しても自然と損得勘定しているのだ。
ユージインは、商談のまとめ方がうまい……得だ。
書類仕事も丁寧で正確だ…得だ。体格もよく一見怖そうだが実は優しい…得。大きな胸に大きな手…得、得。少しタレ目で栗色の瞳っっ………得!あと、声も低くて素敵!っっ得っっ!
私には年齢が近くスラッとして、一見優しそうな男よりどっしりとした男の方のが得なのだ。
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♢
ユージインも、最近結婚した弟達の仲睦まじい姿を見て妻という存在を羨ましく感じ始めていたのであった。
アリスの事は、勿論弟の婚約者として接していたのたが……。
今思えば仕事で関わっていた時から惹かれていたのであろう。
若くてし商才に長けているアリスの事が心の奥では気になっていたようだ。
ジルコニア領で採掘できる鉱物もアリスの特許製法があってこそ生かされるのだ。
アリスの美しい紫がかった銀髪と知的な紫色の瞳も好きであった。
それが、たまたま町であった時に、その美しい瞳に影を落としていたかのように見えたのであった。
声を掛けようか迷っていたその時アリスが馬車に轢かれそうになった為、咄嗟に助けたのであった。
ユージインの両親は馬車の事故で亡くなった。
その時の記憶が、まざまざと蘇ってきたのだが、自分の腕の中の小さくか弱い女性が助かった事に安堵して、その可憐な女性をヒシと抱き締めたのであった。
──アリスは最初は状況把握が出来なかった。
馬車に轢かれそうになった所をユージインが助けてくれて、ユージインがヒシと抱きしめてくれる。
男らしく逞しい胸の中にいると、今までに味わったことのない感情がアリスの心の中に広がっていくのであった。
♢
婚約破棄宣言の後、アリスとマロウは無事に婚約破棄をし、ユージインとアリスは程なくして結婚をした。
デスモント家は、ジルコニア家とも引き続き良好な関係を続け、商売の方も益々発展していったのだ。
♢
♢
そして、マロウとエリーは爵位を剥奪され市井へと落ちる事となった。
実はエリーの実家の男爵家でもエリーの扱いには困っていたのだ。
確かにエリーは元々は病弱であった……。
次女で病弱ということもあり甘やかして育ててしまい病気が前ほど悪くなくなってからでも、やりたい放題の我が儘し放題であったのだ。
特にエリーの姉の物はなんでもクレクレで、遂には姉の婚約者にも手を出そうとしたのである。
男爵家もエリーの事を持て余していた事もあり、ジルコニア伯爵家と相談して、2人から爵位を剥奪して平民にする事にしたのであった。
市井で暮らす事になった2人のその後どうなったのだろう……。
誰もその後は知らない。
だが、今までなんの努力もしようとせず、他人の物を当然のように奪って楽に生きてきた者達が厳しい平民の暮らしを、たった2人で乗り越えていく事は至難の業であろう……。
♢
♢
ユージインとアリスが結婚をして数年が経ったある日の事であった。
ベッドには3歳くらいの、栗色の髪の毛の男の子が寝ている。
その男の子の額に冷たいタオルを載せたり、汗をふいたりと看病をしているアリスがいた。
アリスの目の下にはうっすらとクマが出来ている。
部屋のドアがノックされ、栗色の髪の毛の体格の良い男性が入ってきた。
夫のユージインだ。
ユージインが心配そうな表情で部屋に入って来たのだ。
「あまり寝てないだろ。交代するよ。」
優しげに声を掛けられる。アリスはコクンと頷いた。
「アリスの看病のお陰で熱も下がってきて大部良くなったよ。数日もすればまた元気になるよ。」
ユージインは、栗色の髪の息子が、紫色の瞳を爛々とさせ元気に遊んでいる姿を想像し、アリスの頬にキスをした。
「ありがとう。」
アリスは肩に置かれた大きくて温かな手に、そっと自分の手を重ねた。
看病は、心配するし大変だけれど、大事な人が大事だと再確認できる機会でもある為、そんなに悪い事ばかりでもないなと思うアリスであった。
──終わり──
お読みいただきありがとうございます!
ざまあの部分が、なかなか難しいですね。あんまりやり過ぎるとこちらの胃がよじれてしまいます。
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どうぞよろしくお願い致します。




