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第11話 交渉の舞台裏
セレストの準備は緻密を極めた。
招請状は各国の心理を巧妙についた。
オルテニアの地理的優位性をほのめかしつつ、協調の利益を謳った。
レガリア帝国には「財政負担の軽減」を、ヴァルドラント侯国には「大国と対等に渡り合う歴史的機会」をそれぞれ強調した。
会場は国境に近いオルテニアの古城。
セレストは自らセキュリティと議事進行を設計した。
廊下の幅は、偶然の対話を促すよう計算されていた。
席の配置は、対立を緩和する角度で決められた。
休憩時間の長さは、焦りと寛容のちょうどよい間隔。
すべてが交渉の心理に影響する要素だった。
壁の色、窓からの光、食事の温度さえも。
彼女は、石造りの城そのものを、無言の交渉相手に変えようとしていた。
鍵は、彼らが気付かないうちに、こちらの土俵に立っていると錯覚させること。
セレストは、冷たい石壁に手を当てて、そっと笑った。
舞台は整った。
あとは、役者たちが来るのを待つだけだ。




