第1話 悪役王妃に転生
愛河亜弥は、現代日本で「完璧なキャリアウーマン」と呼ばれた女性だった。
東大卒、外資系企業の最年少執行役員、語学は5カ国語を流暢に操り、交渉では常に勝利を収める。
彼女の人生は計画通り、計算尽くされた成功の連続だった。
しかし、ある日、取引先との重要な会議に向かう途中、トラックに衝突される。
意識が遠のく中、「これでやっと……休める」とふと思った。
目を覚ますと、豪華な天蓋付きのベッドの上だった。
周囲は大理石の柱と絹のカーテン、そして跪く侍女たち。
頭に流れ込むのは、見知らぬ記憶——この身体の主は、「オルテニア王国の王妃セレスト」であり、国王からも宮廷からも嫌われ、悪役として歴史に名を残す運命の女性だった。
「王妃様、お目覚めになりましたか」
侍女の声に、亜弥——今はセレスト——は冷静に周囲を観察した。
記憶によれば、この王妃は嫉妬深く、無能で、政治にも宮廷儀礼にも無関心、ただ贅沢を楽しむだけの存在だった。
国王アルフォンスは彼女を冷遇し、側近たちは嘲笑い、民衆からは「贅沢虫王妃」と陰口を叩かれている。
「今日のスケジュールは?」
セレストはベッドから起き上がり、侍女を驚かせた。
これまでの王妃は、昼近くまで寝ているのが常だったからだ。
「え、ええと……午後は貴族の婦人たちとの茶会が……」
「キャンセルして。代わりに王国の財政報告書と、最近の外交問題に関する文書を私の書斎に持ってきなさい」
セレストの声は冷静で、現代の取締役会で部下に指示するときと同じトーンだった。
侍女たちは呆然としたが、命令に従った。
数時間後、セレストはオルテニア王国の状況を把握していた。
財政は逼迫し、隣国との関係は緊張し、宮廷内は派閥争いが絶えない——まさに経営危機にある企業のような状態だ。
「面白い」
セレストの口元がわずかに上がった。
現代では、彼女は倒産寸前の企業を次々と立て直してきた。
この王国も、同じように「立て直せる対象」に見えた。




