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42.泣いてくれて、よかった

「——月飛、くん……?」

 囁くような声で、人影に呼びかける。

 月飛くんでありますように……そう思いながら、陽太くんと一緒に近づいていく。

 すると、人影はぱっと顔を上げた。

「っえ、」

 呆然と目を見開いて、人影は——否、月飛くんは声を漏らした。

「……碧音、さん……? 陽太、さん……」

 か細く、涙まじりの声だった。

 1人で、こんな寒いところにずっといたのか。

 そう思い、私はぎゅっと顔を歪ませた。

 そして、手を広げて駆け寄ろうとした、その時——

 隣を、風が横切った。

 え、と驚いて見ると、それは陽太くんだった。

 ぽつりと涙の滴が落ちて、地面を濡らした。

 彼はふわりと月飛くんを包み込み、しゃくりあげながら想いを言葉にする。

「っごめん、ごめん……っ、月飛……! 俺、最低なことして、月飛をここまで傷つけて……! 碧音先輩と仲良くしてる月飛が羨ましいからって、勝手に嫉妬して、嫌がらせとかして……! っあの悪口は、月飛に聞かせて月飛から離れてもらうつもりだったんだよ……! 月飛がむかつくとか、碧音先輩は月飛に同情して遠慮してるんだとか、思ってない……! 思ってる、わけがない……‼」

 陽太くんは、頬から大粒の涙を止めどなく溢れさせながら言い切った。

 月飛くんは彼のその言葉と涙に、戸惑ったようにぱちりと目を瞬かせる。

「……っえ、陽、太……さん……? どう、し……」

 そして彼は、少し手をふらふらと迷わせて、ぎこちなく陽太くんの背中に手をやった。

 そして——

 ぽん、と陽太くんの背中を優しく叩いた。

 え、と陽太くんが月飛くんの顔を見上げて、月飛くんは目を彼から逸らす。

「……悪口……が、うそで……僕から、離れてもらうつもり……?」

「……そう、だよ。っごめん……ほんとに、ごめ……!」

「バカなんですかっ⁉」

 月飛くんが、声を荒らげた。

 弾かれたように顔を上げた陽太くんに、月飛くんはくしゃりと顔を歪める。

「……え、」

「言ってくれればよかったのに! 碧音さんのことが好きなんだって、羨ましいって、言ってくれれば! 僕だって、碧音さんと陽太さんが仲がいいこと、知ってる……! 誰も傷つくことなんてなくて、ただ僕が碧音さんと陽太さんを応援して、碧音さんと距離を置けばよかったじゃないですか‼」

 前半は、私は同意しながら聞いていた。

 温厚な月飛くんが声を荒らげたことに驚きながらも、言えばよかった、っていうことは同じ思いだった。

 ……けど。

 「僕が碧音さんと距離を置けばよかったじゃないですか」——この言葉は、絶対に見過ごせない。

「そんなわけないっ‼」

 ぴくっと月飛くんの肩が動いて、彼と陽太くんはぱっとこちらを向いた。

「私と距離を置けばよかった、なんてっ、そんなわけない……! 言えばよかった、ってところは同じ気持ちだよ。でも……っ、でもさ! 私と距離を置けばよかった、ってさ……! 私が月飛くんと距離を置きたくない、って気持ちは、尊重してくれないの⁉」

「っ、」

「私はさ! 陽太くんも、月飛くんも、すごいなって思ってるし! ずっと一緒にいたい子たちだって思ってるよ! 私は! あなたたち2人に、出会えて! 

 ——幸せだったんだもの……‼」

 ぱらぱらと、いつの間にか涙が瞳から散っていた。

 いつか、月飛くんが言っていた。

 「月翔が笑っていれば、僕は幸せだったんです」

 そう、まさにこの感情はそれなんだ。

 月飛くんが、陽太くんが、ゆゆが、クフが、クヒが、クハが、佐野くんが、お母さんが、お父さんが、樹貴さんが、尋貴くんが、きいとくんが、笑っていれば。

 私はいつも、幸せな気持ちになったのだから。

「……月飛くんは、違う? 私たちといて、幸せじゃ……なかった……? 私と簡単に別れられるほど。私たちのこと……好きじゃ、なかった?」

 あぁ、なんて。

 なんて、いじわるな質問だろう。

 自分の質問に、そう自嘲する。

 月飛くんは泣きそうになりながら、声を絞り出した。

「……っ、幸せじゃっ、なかった……わけ、ない……! 初めてのこと、ばっかりでっ、それを体験させてくれるっ、碧音さんたちが、好きじゃないわけが、ない……っ‼」

 途中から、月飛くんの目から涙があふれていた。

 透明な涙がはらはらと舞って、ぽたり、ぽたりと地面にこぼれた。

 ……ああ、よかった。

 また、泣けたんだね。

「……ねぇ、月飛くん」

 私は、まだ頬に涙を伝らせながら言った。

 月飛くん、覚えてるかな。

 月飛くんが、辛いことを話してくれた時。

 私が言った、“おかしなこと”。

「おかしなこと、言ってもいい?」

 あの時みたいに、ふっと柔らかく微笑む。

 はっと月飛くんが目を見開いて、その目からまた、ぽろぽろと小さな滴がこぼれ落ちた。

「泣いてくれて、よかった」

 月飛くんがくしゃり、と顔を歪めて、その唇からかすかな声が漏れた。

 そして、腕を広げた私の腕にくるまって、私の肩に顔をうずめて。

 小さなこどもみたいに、泣きじゃくった。

 号泣して、号泣して、号泣して。

 陽太くんも、それに触発されたかのように静かに涙をこぼして。

 私も、止まらない涙を流して。


 3人の泣き声が、沈黙の廃墟に響いていた。

感想をいただけると、この話を続ける励みになります。

ぜひ、送って下さいね。待ってます。

そして、碧音たちが一緒に幸せになることを、願っていただけたら嬉しいです。

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