41.月飛を、見つけてあげてね
私たちが月飛くんを探し始めて、3時間が経った。
街はほとんど探しつくしたはずだ。なのに、月飛くんは見つからない。
「電車とかバスで……どこかに行った?」
陽太くんが推測を話してくれるけど、月飛くんは電車もバスも乗ったことがない。多分乗る方法も、何に乗るのかもわからないだろう。
しかも。
「お金は持って行ってないはずよ。お母さんたちは月飛くんにお小遣いあげてないし、お母さんやお父さん、私のお金は全部あったもの」
「ん……じゃあ、どこに……?」
2人で首を傾げながら考える。
月飛くんが、絶望した時に行きそうな場所……それだったら、思い出の場所?
月飛くんの、思い出……
月翔くんが……亡くなった、場所。
「わかった……かも、しれない」
私がそう呟くと、陽太くんはぱっと顔を上げた。
「どこですかっ」
「月翔くん……月飛くんの双子の弟さんを、亡くした場所……?」
陽太くんは、私の言葉にふっと目を見開く。
「たし、かに……そうかも……! 碧音先輩、行ってみましょう!」
力強い瞳で言われて、私もうん、と強く頷き返した。
「……とは、言ったものの。月飛が弟を亡くした場所って、どこですか……?」
「んー……多分、廃墟だとは思うんだけ、ど……って、あ」
……もしかして。
——「そして、僕はその晩、月翔の小さくて冷たい体の傍で寝ました。そんな日々が1年ほど続いて——僕が10歳ほどの時、僕は警察に見つかりました。そして児童養護施設に引き取られ、そこで3年——須磨子さんたちに引き取られるまで過ごしました」
月飛くんは、見つかるまでずっと……月翔くんの、そばにいた?
「児童養護施設に聞けば……分かるかも、しれない」
「児童養護施設……ですか」
多分、陽太くんは何のことかわからないだろう。
でも、彼は私を信じて、「行きましょう」と言ってくれた。
私たちは、月飛くんが3年間過ごした児童養護施設に向かった。
「すみません」
「は~い」
ぴんぽん、とチャイムを鳴らす。
すると、柔和そうな50代くらいの男性が出てきた。
突然現れた私たちに、彼はぱちくりと目を瞬かせた。
「……ええと、君たちは……?」
「あの、月飛という男の子を覚えていますか。10歳から13歳までこの施設にいた」
「月飛? ああ、覚えてるよ。浮浪児だって言う割にすごく丁寧で礼儀正しくてね。でも、毎晩自分の部屋で1人で泣いてたなぁ。見回りの時にね、いつもか細い泣き声が聞こえてくるんだよ」
「「……」」
月飛くんが……泣いてた。
私は……あの子が泣いてるところ、1回しか見たことがない。
「あぁ、いや。君たちが聞きたいのは、違うこと?」
「はい……って。聞いてくれる、んですか? お忙しくありませんか?」
「今は人が足りてるし、子供が少ないからね。いいよ、こんな夜に来た『子供』を放っておくわけにもいかないし」
いたずらっぽく笑って、男性は快く施設内に入れてくれた。
「それで……どうしたのかな?」
「あの……月飛くんが、家出して。多分……弟の月翔くんを亡くしたところに、行くんじゃないかって思って」
「……家出、」
「……はい。月飛は自分を責めやすいから、もしかしたら……」
陽太くんはそこまで言って、ぐっと拳を強く握りしめた。
すると、男性は優しく口を開く。
「……そうか。君たち、頑張ったんだね。……それで、月飛が発見されたところを教えてほしい、と?」
「「……はい」」
私たちが頷くと、男性は頷き返した。
「僕はね、あの子の担当者だったんだ。だからね、彼のことはよく知っている。勿論、月飛が発見された場所は覚えてる」
「「っじゃあ、」」
2人でぱっと顔を上げると、男性はふるふると首を振る。
「……この施設では、施設にいる子、もしくは出ていった子のプライバシーを保護するために、個人情報は教えないようにしている。だから、その場所を教えることはできない」
もう少しで組み立て終えそうだった希望が、ガラガラと音を立てて崩れた。
……また……1から?
絶望している私たちを見て、男性はなぜかふっと微笑んだ。
「……だから。これは、“施設の職員”としてじゃなく、“僕”が教えるよ」
彼はそう言って、茶目っ気たっぷりにウィンクした。
……え、
「ほんとですか……っ⁉」
「っ、ありがとうございます……っ!」
2人でがたっと立って、深く頭を下げる。
……っ、よかった……!
「あ、言っとくけどこれ内緒だよ? ……月飛が見つかった場所は、前は市民センターだった、誰にも使われなくなった廃墟だよ」
ぱさりと地図を広げて、男性はここ、と指を指した。
そこは、比較的この施設に近い場所だった。
「……っ、ありがとうございます……! これで、月飛くんを見つけられるかもしれません……!」
もう一度深く礼をして、私たちは男性と共に施設を出た。
「はい。地図、あげるよ。……月飛を、見つけてあげてね」
優しく微笑んだ彼に、私たちは力強く頷いた。
「……陽太くん……あれって、人じゃない?」
「……そうかもしれない……。行ってみましょう」
そうして私たちは、人影に向かって走り出した。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
物語も終盤ですが、まだ続きますので最後まで応援よろしくお願いします!




