37.なんで。あなた、が——?
ざわざわと騒がしい教室の間を縫って、僕は自席に向かった。
「陽太さん、おはようございます」
「おー、おはよう月飛」
にかっと太陽みたいに明るい笑顔を浮かべて、陽太さんが挨拶を返してくれる。
そして貴月さんの姿も見つけて、僕と陽太さんは一緒に彼に挨拶をした。
「貴月さん、おはようございます」
「貴月、はよー」
「おはよー……あ! 月飛と陽太、昨日はごめん……! 寝ちゃってたわ……」
「いやいや、いいよ。疲れてたんだろ」
「はい。全然気にしてませんよ」
2人で安心させるように微笑むと、貴月さんもふっと微笑んだ。
「さんきゅ」
「ん-」
ちょうどチャイムが鳴って、僕たちは自分の席に戻った。
「あとちょっとでテストだからなー。対策しとけよー」
「えー」
ブーイングが沸き起こって、教室が途端に騒がしくなる。
「あ、そういえばさ……月飛って、シャーペン見つかったの?」
「ああ、それが……まだなんです」
少し困ったような笑顔を浮かべて、僕は貴月さんの質問に答える。
「そっか……」
自分のことのように考えてくれる貴月さんに嬉しくなりながら、僕は先生の話を聞いた。
「あれ……?」
「ん、どうした? 月飛」
「いや……教科書が」
「はぁ⁉ 次は教科書かよ……シャーペンだけなら月飛の不注意かも、ってなったけど、教科書はさすがに……なあ」
心配そうな目で見てくれる貴月さんに、僕はんー、と考えながら答えた。
「まあ、探してみます」
「陽太さん」
「……ん?」
ふっと目を上げた陽太さんに、僕は言った。
「今日、空いてますか?」
貴月さんがカラオケに行こうと誘ってくれて、僕が陽太さんを誘うことになったのだ。
「……ごめん、今日は無理」
「……そう、ですか……じゃあ、次に行くとき楽しみにしてますね!」
にこっと笑うと、なぜか陽太さんは歯切れ悪く頷いた。
カラオケからの帰路。
僕は碧に『今から帰ります』と連絡を入れて、てくてくと歩いていた。
すると。
「——あれ……陽太、さん?」
街灯の下で、陽太さんと誰かが話している。
「陽太さ、」
「——月飛さぁ」
え、と立ち止まる。
なんだろう。僕の……話?
「急に表れて、澄瀬先輩の義弟になってさ。俺の方が先に澄瀬先輩と仲良くなったのに、義弟だからって澄瀬先輩に気にかけてもらって。ほんと、むかつくんだよな」
「え、何陽太って澄瀬先輩のこと好きなん?」
「……ん……まあ。澄瀬先輩にさ、助けてもらったんだよな」
え……?
陽太さんが……碧のことを、好きで。
そして……僕が、むかつく……?
にわかには信じられなくて、僕は耳を澄ませる。
陽太さんが、そんなこと……言うはず、ないんだ。
「澄瀬先輩はさ。そん時、『またしんどくなった時は、いつでも私に言ってね』って言ってくれたんだよ」
「うわ、優し」
「だろ? だから多分さ、月飛に同情して優しくしてんじゃないかなって思って」
「あー」
「しかも。月飛って養子じゃん? だから、遠慮してるとも思うんだよね」
……嘘、だ。嘘だよ。
陽太さんが。僕のことを——
こんなに、悪く言うはずは。
「シャーペンも教科書も、俺なんだよね。俺だとも知らずに、俺に相談してきてさ」
「ふはっ、マジで陽太性格わっる。女子にこんな一面見せてもさー、ぜってぇ信じねぇだろうな」
「まあなー。俺モテるんで」
「ウゼ―」
笑い合う彼らの会話が、信じられない。
なんで? なんで……陽太さんが。僕の、ことを。
……いや。
僕が……急に、出て来て。碧と……仲良く、なって。
陽太さんよりも。気にかけて……もらった、からだ。
「澄瀬かわいそー。一番の友達にこんな言われて」
「はは、確かに。でもま——」
その会話を聞いていられなくて、僕は耳をふさぎながら走って逃げた。
「月飛くん、おかえりー」
碧が温かく出迎えてくれて、僕はぴたりと立ち止まった。
ん? と碧が——いや。
……碧音さんが首を傾げて、僕の顔を見ました。
「ただいまです、碧音さん」
「……え?」
弾かれたように顔を上げて、碧音さんが声を漏らします。
彼女は傷ついたような表情をしていて、僕は見ていられなくて目を逸らしました。
「ご飯よー」
「はーい」
「はい」
碧音さんと僕は、とんとんとんとリズムよく階段を下ります。
「「あ……」」
碧音さんと目が合って、僕たちの間には沈黙が流れました。
気まずい空気が流れ、先に碧音さんがふいっと目を離して食卓に向かいました。
……ああ。僕の、せいか。
これで、碧音さんも僕のことを嫌いになるのかな。
そして、僕もふっと俯いて、食卓に向かいました。
衝撃的な回になりましたが……
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