32.ガチ勢……でっす! なんと……言われても……!
「へっ?」
月飛くんは、私の言葉に変な声を出した。
「ん?」
私が微笑んだまま首を傾げると、月飛くんは考え込むように俯く。
そして、10秒後にぱっと顔を上げた。
「き、着ます! 着てみたい……です!」
「おお! じゃあ着よう!」
「ありゃ、あおちゃん着るの?」
「うん、着る。ゆゆは?」
そうやって聞いてくるということは着ないのか、と思いながら聞く。
「ん? 着る」
「……あ、そう」
「陽太、着る?」
「俺は着ないかなー」
「俺も。でも、月飛は着るんだと」
「へー。ぜってぇ似合うじゃん」
來山くん、佐野くんは着ないんだ。
絶対似合う……ああ、卒倒する女子が出て来るか。
「でも、結構着る人いるんだね」
「やっぱり女子多いねー」
「あんたもその一人だよ」
「あおちゃんもだよー」
「知っとるわ」
軽口をゆゆと叩き合っていると、月飛くんがおずおずと見上げて来た。うぐぅっ⁉ な……なんという、破壊力……! うるうると潤んだ瞳で……上目遣い、だと……!
「碧音さん、行きましょう」
「っ……そ、そうだね……い、行こうか……」
胸を押さえている私を、月飛くんは不思議そうに見つめていた。
「よしっ」
私が着替えて出ると、月飛くんはもう待ってくれていた。
「月飛くーん、ごめん、待った?」
「いえ、今来たところです」
なんか恋人みたいだな、と思いながら、私は月飛くんの隣に並び、歩き出す。
……なんか、隣からすっごい視線感じるな……?
「つ、月飛くん……どうしたの、そんなに私を見つめて」
「ふぇっ、い、いやっ、……碧音さんが、すっごい……綺麗すぎて……」
「んぐふっ⁉」
思わず吹き出してしまった。
……き、綺麗……綺麗、かぁ……
真っ赤になった顔を隠しながらも、嬉しさと喜びが抑えられない。
ちらっと月飛くんを見ると、こちらも真っ赤っかだった。
2人とも頭から煙を出しながら、私たちはそっと指を絡めた。
「ね、射的行かない?」
「射的……ですか?」
きょとんとする月飛くんに、私は簡単に説明する。
「射的っていうのは、銃みたいなのにコルク玉を詰めて、そのコルク玉で景品を撃ち抜くの。倒れた景品をもらえるのよ」
「へぇっ、楽しそうです……!」
きらきらと目を輝かせて、月飛くんはにこにこ笑う。
可愛すぎる。バグってんじゃないだろうか。
「じゃ、見本として私からね」
銃にコルク玉を素早く詰めて、構える。
ダンッ!
高速で出た玉が、ウサギの可愛いぬいぐるみを撃ち抜いた。
……わぁ、可哀想。
ぱたんっとあっけなく倒れたそのぬいぐるみを、射的屋担当の生徒会役員がくれた。
「私、ちっちゃいころからの射的ガチ勢なんで。どやっ」
どや顔をすると、月飛くんは素直にぱちぱちと拍手してくれた。
「碧音さん、すごいですっ」
「むふっ、むふふっ」
いやぁもう、笑みが抑えきれませんぜ。
「じゃあ、月飛くんもやってみて」
「はい」
月飛くんは不慣れな手つきで銃にコルク玉を入れて、ぎこちなく構えた。
……絶対未経験のはずなのに、なんか堂に入ってるのはなぜなのだろう。
「い、いきますっ……」
「頑張れー、月飛くん」
月飛くんは狙いを定めて、少し鋭利になった瞳で引き金を引いた。
バンッ、と音がして、真っ直ぐコルク玉が手作りっぽいビーズブレスレット2個に当たった。
……うっそぉ。え、マジで未経験っすか……?
「しかも2個……ただでさえ取りにくいビーズブレスレットを2個……」
ぼそりと生徒会役員の人が嘆いているのが聞こえた。
……お疲れ様です。
「次どこ行くー?」
「ん……金魚すくい、とか?」
「いーじゃん、行こ行こ」
次は、金魚すくいに行くことになった。
そして、金魚すくいの屋台につくと、ゆゆ、來山くん、佐野くんがいた。
「あ、あおちゃん」
「おー、月飛、澄瀬先輩」
ひらひらと手を振り返して、私はゆゆたちの元に近寄る。
月飛くんも私についてきて、來山くんと佐野くんに話し掛けた。
「陽太さん、貴月さん、こんにちは」
「ああ」
「月飛、射的ですっごいことしたんだってー?」
「ふぁっ? す、すごいこと……? そんなことしてないと思うんですけど……」
うん。したんだよ。君はしたんだ。すごいことを。
突然、ゆゆが自分の体をぎゅーっと抱く。
「え、何どしたん」
「いやぁ、弟くんの言葉が怖くて」
「怖いけど」
怖いけど。怖いけどさ。
自分の体抱くほどか?
「自分の体抱きたかっただけ?」
「何それどゆこと⁉ 自分の体抱きたかったってどんな人⁉」
「え、危ない人」
「あたしを危ない人だって言ってんのぉ⁉」
「ずっとゆゆは危ない人だなって思ってる」
口を限界まで開けて、ゆゆはかくんと俯いた。
あ、ダウンした。
「そういえば、ゆゆたちは金魚すくいもうしたの?」
「まだだよ」
「じゃあさ、一緒にやらない?」
「いーじゃん。よーちゃん、きづっち、あおちゃんたちと一緒にやろー」
……よーちゃん? きづっち?
「……ああ。來山くんと佐野くんのことか」
相変わらず変なあだ名つけますな。
そして、呼ばれた2人は同時にひょいと振り向き、言った。
「いいですよー」
「俺も。あ、競争しません? 誰が一番金魚をとれるか」
「いいじゃんー! じゃ、個人戦ね」
「きんぎょすくい……?」
あ。そっか、月飛くんは金魚すくいわかんないのか。
それに気づき、私は彼に金魚すくいを教える。
「金魚すくいはね、プールを泳いでる金魚を、紙が貼られたこういうの……『ポイ』っていうんだけど。これですくうの。すぐ破れちゃうから、破れてもうとれないってなったら終了ね」
「へぇ……」
興味深そうにポイを見つめて、月飛くんはプールに向かう。
すると、彼は予想外の言葉を口にした。
「……金魚が可哀想です」
「へっ」
……ぐっ。ダメージがっ。
私は夏祭りで射的の次に金魚すくいガチ勢なんだっ。
月飛くんは、きゅっと眉根を寄せて痛ましげな表情をした。
……そっか。この子、優しいんだ。あんな辛すぎることがあっても優しくいられる、すごい子だったんだ。
「じゃあ、私もやめよう」
「えっ」
私がそう言ってポイを返すと、月飛くんはあからさまに狼狽えた。
「い、いや、碧音さんはっ、」
「月飛くんの言う通りだなって。金魚が可哀想だもんね。ゆゆたちの試合を見ときましょ」
「……」
まだ納得していないような表情だったが、月飛くんはしばらくして「はい」と言った。
金魚すくい担当の生徒会役員が、ダメージを受けたようにうなだれていた。
……すみませんだけどウチの月飛くん優しいだろー。すごいだろー。
とても長く続いているのにも関わらず、ここまで追ってきてくださっていること、ほんとにありがとうございます!
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