2.養子をもらった。
私の名前は澄瀬須磨子。結婚して変な名前になったけど前は結構好きな名前だった。そして夫とともにもう40手前で、16歳、高校2年生の娘がいる。
そんな私と夫は、もう1人子供が欲しいねと言っていたことがあった。その時は娘がまだ小学生だったので断念したが、今はもう高校生。そろそろいいかと思い出して、私たちは養子をもらう決断をした。
「亮介さん」
「ん?」
「今日、だったわよね? 養子の子」
「そうだね、今日の……夕方、だね」
「ふふ、緊張してきたわ。今から」
「はは、確かにそうだ。というか、須磨子さんが言ってから自覚してしまったよ」
「あら。それはごめんなさい」
「——こんにちは。月飛くん、だよね? これからよろしくね」
私たちが引き取ることになった子は、月飛くんという13歳の男の子だった。
彼はとても痩せていて、警戒心が強く、どこか怯えたようで、しかし綺麗で整った顔立ちをしていた。まるで野良猫のようだった。
物腰は表面上柔らかく、浮浪児だったと言う割には頭も良く丁寧で礼儀正しかったが、分厚い壁を作られているように思えた。私たちはなるべく安心させようと、できるだけ優しく、穏やかに、柔らかく接しようと決めた。
「あ、月飛くん。言い忘れていたんだけど、私たちには1人子供がいるの。あなたの3歳上なのよ」
私たちがそう言うと、彼はなぜか目に見えてぴくっと反応した。
「……つき、と」
月飛くんは、誰かの名前を呼び、顔を歪ませ、瞳を揺らした。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに作り笑いに戻した。
彼が作り笑いじゃなく、普通に、心から笑える居場所を、うちにしたい。そう思った。
「月飛くんって、好きな食べ物とかあるかな」
「、え? 作ってくれるの……?」
至極当然のことを聞くと、なぜか月飛くんは素で驚いた。……もしかして、浮浪児になる前からご飯は自分たちでしていたのだろうか。そう思うと、私はぐっと拳を握る。……なんて、理不尽なんだ。
すると、夫があっけに取られてからすぐにまた笑顔を取り繕っているのが見えたので、私も慌てて笑顔に直した。子供は大人のこういう感情に影響されやすいのだ。まして目の前にいるこの子はずっと辛く悲しい思いをしてきた子だ。遠慮してしまうかもしれない。これから家族になるというのだから、遠慮させるようなことはしちゃだめだ。
「勿論!」
「あ、そうだ! なあ月飛くん、僕たちのことどう呼ぶ? 僕たちは月飛くんって呼んでいいかな?」
「……え、あ、はい……」
「やっぱりお父さん、お母さん? いや、父さん母さんの方が親しみやすいな……いや、パパとママか? 親父とお袋? 父ちゃん母ちゃん? いっそお父様お母様呼びか? いや、父様母様も捨てがたいな……」
「えっ、あの……名前呼びか、澄瀬さんじゃだめ、なんですか」
「「えっ」」
だめ、と一瞬言いそうになった。
しかし、彼には本当のご両親がいたのだ。そのご両親がよかったのか悪かったのかは知らないが、いたのはいたのだ。
夫と目を合わせ、アイコンタクトを送る。夫もこくりと同意を示してくれて、私はにこっと安心させるように笑って、言った。
「勿論! 月飛くんが呼びたいように呼んでくれたらいいわ」
「ちなみに、妻の名前は須磨子さんだよ。僕は亮介だ。よろしくね」
「須磨子さんでも、須磨さんでも、すまっこさんでも、すーまさんでも、いやすまちゃんでもいいのよ? 亮介さんとか、亮さんとかあーいやすけさんとかりょーくんとかいいんじゃないかな?」
「……。須磨子さん、亮介さん。今日から、よろしくお願いします。僕を引き取って下さり、ありがとうございます」
「「っ」」
「いいえ! こちらこそ、丁寧にありがとう。これからよろしくね」
「よろしくね、月飛くん」
月飛くんは、もう一度丁寧に、深く頭を下げた。
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