14.泣いても、いいんだ。
「え、」
私がその言葉を言うと、月飛くんはそれだけ言葉を零した。
「私は。私は、月飛くんにもそうやって、自分のことを考えてほしい。……私だけにしないでっていうのは、そういうことよ」
月翔くんとのことはもう乗り越えた、と、月飛くんが行った時。私は絶対に嘘だ、と思った。
だって。月飛くんは、過去を話しているとき、月翔くんがいるときは少し柔らかく口元を僅かにほころばせて、声は優しかった。
でも——月翔くんが、亡くなった時のことを。亡くなった、後のことを話すときは、今にも泣きそうで、その涙をなんとかこらえているような声だった。親戚の人たちのことを話すときは、淡々とした、無感情の声で。月飛くんは、本当に月翔くんのことにしか、感情を声に乗せなかった。
「……碧音、さん」
ふ、と月飛くんに目を向ける、と——月飛くんは、まるで捨てられた子犬のような。見捨てられたちいさな子供のような。そんな、泣きそうな目をしていた。声も、今にも泣きそうに震えていた。
「どう、やったら……いいんですか?」
「え?」
「僕は、……僕が嫌いです。親戚の人たちと、もっと僕が上手く付き合えていたら。もっと、豪華で美味しいご飯を食べさせられていたら。もっと、雨も風も寒さも暑さもしのげるような廃墟を見つけられていたら。……僕がもっと、大人だったら。双子じゃなかったら。もっと、もっと、もっと——って、ずっと、いつも、考えて。いつも、僕のせいで月翔が死んじゃった、という考えに至るから。……僕は、僕を好きになる、なんて……無理です」
すぅっと、月飛くんの頬を一粒の滴が伝った。ぽつんっと地面に落ちて、溶けて、消える。
なんで。なんで、月飛くんのせいなの。
絶対に、月飛くんのせいなんかじゃない。悪いのはそう、発端はご両親を奪い、月翔くんを昏睡させた車。そして親戚の人たち。5歳の小さな子供二人がいるのを見て見ぬふりをした、もしくは気づきもしなかった大人たち。
月飛くんは、全く悪くない。
月飛くんは、月翔くんをちゃんと守ってた。ちゃんと愛してた。努力、してた。なのに——なんでそれが、月飛くんのせいになるの?
「月飛くんは……優しいんだね」
「……え……?」
「だって、普通だったら……私だったら、両親を奪って月翔くんを昏睡させた車とか、親戚の人たちとか。大人を、絶対に恨む。でもさ……月飛くんは、違うね。月飛くんは、自分のせいにしてる。そんなの、絶対できないよ。……でも、さ。それ、月飛くんは——寂しく、ない? 辛く、ない? ……泣いてしまいたく、ない?」
「っ、」
「ねえ、月飛くん。今はまだ、突然自分のこと好きになれなんて言わない。段々好きになればいい。だから——今は、おいで。私のところに、おいで。泣いてもいいよ。泣いたって、私はどこかに行ったりしない。私は、月飛くんのこと大好きだから」
「っ、ぅあ……ぅくっ、う……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ……!」
ぽろり、と一滴の涙が白くて滑らかな頬を滑ったかと思うと、月飛くんは止めどなく涙を零した。
月翔くんの前では、多分泣かなかったんだろうな。
月翔くんが亡くなってしまってからも、泣かなかったんだろうな。
そう思って、私はぎゅっと月飛くんの華奢で小さな体をきつく、しかし柔らかく優しく抱き締めて。
月飛くんは、声を上げてちいさなこどものように泣いた。
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