13.私だけに、しないで。
「——そして、僕はその晩、月翔の小さくて冷たい体の傍で寝ました。そんな日々が1年ほど続いて——僕が10歳ほどの時、僕は警察に見つかりました。そして児童養護施設に引き取られ、そこで3年——須磨子さんたちに引き取られるまで過ごしました」
——言葉が、出なかった。
話を聞きながら、思ったことは。
「なんでこんなにも優しい子たちがそんな目に遭わなきゃいけないの?」だった。
月飛くんとその弟さん・月翔くんが送った人生は、本当に信じられないほどに理不尽に満ちていて、しかし2人の中には優しさに満ちていた。
だからこそ。
だからこそ、彼らをそんなにも理不尽な目に遭わせた大人たちに、怒りがふつふつと湧いてくる。
両親と子供は違う。月飛くんたちのご両親のことは嫌ってたって言ったって、どうして子供をそんな目に遭わせることができるんだろう。暴力を振れるんだろう。暴言を吐けるんだろう。——突然いなくなってしまった、まだたったの5歳の幼い2人の子供たちを、どうして放って置けるんだろう。
「……ぁ……」
言葉が、出ない。
月飛くんに。真っ暗で、ぐちゃぐちゃで、理不尽で、哀しくて、辛くて、痛くて、でもそれを和らげていた、たった一人の最愛の弟だった月翔くんを亡くしたという、とても辛い傷つき過ぎた半生を語ってくれた、月飛くんに対しての、言葉を。
紡ぐ糸が、見つからない。
あるいは、紡ぐための糸はないのだろうか。
そんなことを考えていると、月飛くんは困ったような笑みを浮かべ、口を開いた。
「……そんなに、気を遣ってもらえなくても大丈夫、ですよ? もう、僕は月翔との別れは乗り越えてますし」
「……嘘」
「え?」
「嘘よ。そんなの、嘘。だって——」
あなたは。過去を語っているときも。今も。
「とても、哀しくて、泣いてる顔してるもの」
「っ、な……」
「ねぇ。月飛くん」
私は。
「あなたのこと、何だって知ってたい。
あなたのこと、何だって理解してたい。
でも、そんなの無理。だって私は私で、あなたはあなただもの」
「……」
「……綺麗事、言ってるのは分かってるわ。私はあなたの気持ちを分かることが出来ない。私は、恵まれてたから。……でも、ね。これだけは言えるわ」
これだけは。私でも。家族にも、家にも、お金にも、容姿や能力にも、友人にも、学校にも——そして、平穏に恵まれた、私でも。
「——月飛くん。あなたの心は、とても綺麗よ。でも、今あなたの心には雨が降ってる。黒い雲から、ざあざあと大粒の雨がたくさん降ってる。
——私は、あなたのその心の雨を晴らしたい。あなたの心の中に虹があってほしい。きらきら眩く輝く太陽が、心の中にいてほしい」
だから、どうか。
「そう思うのを、私だけにしないで」
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