第98話 ニュージーランド電撃制圧
誰が1943年は準備期間と言った。
「日本軍の艦隊が睨んでいます。今は小康状態ですが交渉が決裂次第に艦砲射撃を再開すると言って来ました」
「オーストラリア軍は動けんのか…」
「タスマン海は奴らの手中です。空軍しか期待できませんが、沿岸部は中国人に制圧され、すぐにでも撃墜されます。オーストラリアは内陸部に引きこもりました」
「そうか。とにかく、くれぐれも、交渉は慎重に進めろ」
「かしこまりました」
ニュージーランドは対岸の火事と見学することを許されない。オーストラリア東部の主要都市が制圧されると「次は我が身」と身構えた。民兵を組織する徹底ぶりだが所詮は小国である。イギリスとアメリカのお古で最新鋭の日本に対抗できるわけがなかった。
しかし、ニュージーランドの価値は非常に薄い。第一次産業が基幹のため占領しても旨味は薄かった。オーストラリアを完全に包囲する前線基地と構えられるが、すでに東部主要都市を制圧しているため、人員と武器、弾薬を投じる程の価値はない。南太平洋の通商破壊作戦からタスマン海の制海権は掌握済みだ。あえて攻めることは無駄である。
それなのに大規模な攻撃を開始した。日本海軍の異形艦隊はニューカレドニアの米軍を尻目に悠々とタスマン海を通過する。ニュージーランドを構成する北島と南島を寸断した。まずは手始めにウェリントンとオークランドを攻撃する。異形艦隊は航空戦艦を擁して小規模ながら有力な航空隊を運用した。
「我々の要求は日本政府を代表する。どうか、ご留意いただきたい」
「わかっている。何が望みなんだね」
「なんてことはない。ニュージーランドの完全なる離脱を求めたいが、どうやら、風向きが変わったらしく、北島を丸ごと要求する。要は無血開城せよ」
「そんなことが認められるか! まだ戦ってもいない!」
「よろしい。ならば戦争だ」
最初の交渉は十分程度で決裂する。
日本軍はニュージーランド北島の無血開城を要求した。ニュージーランドが小国と雖も戦っていないにも関わらず明け渡すことがあろうか。担当官は当然のように激怒から拒絶を突きつけた。日本軍の担当官は手短に言い残して去って行く。最後に残した言葉は有言実行として翌日を予定した。1日間は市民が避難する猶予に設けられる。北島と南島の海峡は一時的に開放された。ニュージーランド海軍の軽巡と駆逐艦は弾薬の代わりに市民を詰め込んでピストン輸送に従事する。
「オ、オークランドが燃えている」
「分かってはいたが最悪の日を迎えた」
「軍は何もできないのか!」
「できやしない。バカな宗主国と大国に踊らされた」
アメリカ海軍やイギリス海軍から譲渡ないし貸与された旧式の巡洋艦と駆逐艦で戦う術はなかった。彼らは市民の移送を終えると直ぐに弾薬を戻して迎撃に向かう。母なる大地が痛めつけることは見過ごせなかった。勝ち目のない戦でも向かわねばならない。
ニュージーランドという国はイギリスによる植民だった。彼らが祖国と言おうとも先住民族を追い出した上に建設している。時間が解決したと主張しようが歴史は消せなかった。彼らが豊かなニュージーランドを築き上げたことに係る努力と苦労は認めよう。それが植民に始まることは記しておいた。
「そろそろ、良いだろう。上陸開始」
「敵兵はいないだろうが支援砲撃を怠るな。味方の舟艇を撃つなよ」
「ビーチへ突っ込みます。新型水陸両用車の試験です」
「ニュージーランドの制圧は試験だらけだ」
「可哀想な気もしますが、容赦はしません」
航空戦艦は艦前部の36cm砲を派手にぶっ放す。南島に避難した市民に見せつけた。要塞化も何もされていない都市は瞬く間に破壊される。何十年も積み上げて来た歴史が一瞬にして崩れた。水際防御を放棄して内陸部に展開する兵士たちも震える程に艦砲射撃の威力は絶大である。
航空隊の攻撃が始まった。艦砲射撃は面の攻撃で精密性に欠ける。弾着観測機を飛ばしているが、あくまでも、大口径の榴弾による面の破壊だった。艦載の襲撃機が野砲や高射砲、機関銃など細々とした目標をピンポイントに破壊する。100kg陸用爆弾で事足りた。
「砂浜の安全を確保してくれた。戦車を支援しろ」
「弾をくれ! 派手にやる」
「お偉いさんが存分に暴れていいと言っている!」
「圧巻だな。これが日本の上陸作戦であるよ」
艦砲射撃と航空攻撃の中を水陸両用車が突き進む。先遣隊の強襲艦と特大発が戦車を吐き出して上陸予定地点の安全を確保した。ここから先は水陸両用車が道を確保する。海上から砂浜を経由して陸地へスムーズに移動できる機動力の高さは侮れなかった。
水陸両用車も新型に更新される。主砲を対戦車と対地を両立する短砲身の75mm砲に変更した。防御力は浮力の確保から軽装甲に変わりないが、二重構造の空間装甲を採用しており、敵軍の重機関銃ならば耐えられる。従来型から強化された火力と防御力を活かして内部の兵士を守り抜いた。
砂浜に到着するなり後部ハッチが開いて兵士がワラワラと出てくる。大発に比べて兵員と物資の運搬能力は遥かに劣った。しかし、一定程度の自衛能力を有して揚陸後も戦闘に参加できることは絶対の利点と評する。
「着剣!」
「いきなり突撃かよ」
「派手にやると言われているんだ。仕方ない」
「手榴弾用意! 一斉に投擲して突撃する! 軽機も遅れるな!」
「気合が入っているよ。まったく」
「ニューギニアに比べれば楽じゃないか」
部隊単位で合流すると早速の突撃が待っていた。
新式小銃を試す間もない。
三式自動小銃は半自動式のセミオート射撃が可能だ。米軍のM1ガーランド小銃の好敵手となる。日本軍伝統の銃剣を装着できることに苦笑いを覚える者は素人と切り捨てた。この銃剣を装着すると強烈な反動を僅かでも抑えられる。命中精度の向上に寄与した。今日はお手本のような銃剣突撃に用いられる。日本兵の「天皇陛下万歳」をニュージーランドの全土に響かせた。
手榴弾を一斉に投擲する。前日の艦砲射撃と航空攻撃が目ぼしい物を破壊し尽くした。万が一に敵兵が隠れている可能性があったり、ブービートラップが設置されていたり、等々を鑑みて準備を怠らない。銃剣突撃は後方支援を受けられる中で行われるべきだ。
「突撃ぃ!」
「天皇陛下ぁ! バンザーイ!」
「あの建物まで突っ込む! 建物と建物を移動して回る!」
「罠に気を付けろ! ただの放牧民族と侮るな!」
彼らは上陸作戦に慣れているどころの強者に収まらない。なんと、ニューギニア戦線を戦い抜いた。北部に上陸してから休むことなく進軍して山岳地帯も突破したことがある。ニューギニアを電撃的に縦断してみせた。ニュージーランドの北島上陸作戦は生温い。上陸して間もなくの軽火器しかないにもかかわらずだ。過酷な山岳地帯を米豪軍を退けながら突破している。これと比べれば造作も無かった。
平時は行楽客で溢れるビーチを後にして建物に張り付くと一旦は停止する。いたずらに突っ込んでは各個撃破された。彼らは組織的に電撃的な突撃を愛用する。全員が無事であることを確認次第に建物を一つずつ潰していった。敵兵は退いているのか無人だがブービートラップを警戒する。
「なんだ!」
「どうしたぁ! 罠か!」
「いや、生存者だ。民間人だよ」
「なんだって!? この中でか!」
建物をくまなく捜索して安全を確認していると生存者を発見してしまった。それも民間人である。1日あれば南島に避難できるはずだが、何か事情があって残っているのか、日本兵と対面しても穏やかだった。抵抗する気は無いと両手を上げている。さすがに無抵抗の市民を撃つほどに毒されていなかった。
「さっさと政府が降伏を宣言すればいいものを…」
ニュージーランド北島は制圧される。
この後、二度目の交渉が開かれた。
ニュージーランド政府は正式に宣言する。
それは日本との単独停戦だが事実上の降伏を意味した。
続く




