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旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます  作者: 竹本田重郎


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第94話 暴風が吹き荒れる

1943年の準備期間に政変が吹き荒れた。




 大日本帝国は陸軍と海軍ともに大規模な人事刷新を敢行する。海軍は連合艦隊司令長官が交代するなど大規模な様相を呈した。陸軍はそれを上回る勢いだ。石原莞爾が新設の大東亜総司令官に着任する。




「あとは頼みました。私はこの戦争を片付けに参ります」




「面倒なことを押し付けおって」




「陛下からの親任が厚ければ刃向かえる者はおりません。嫌われ者は事後も考えていますのでご安心ください」




「死ぬな。石原」




「誠におっしゃる通りで返す言葉もございません」




 石原莞爾が辣腕の大鉈をふるってきた。彼による一時代の終焉とは呼ばせない。石原路線が他社線に直通運転するだけだ。彼は日本陸軍最精鋭の関東軍を率いて中華統一を援助してソビエト連邦を叩き出し、内地に戻り次第にクーデターを沈めたかと思えば陸軍大臣に担ぎ出され、ただの大臣でありながら大日本帝国と中華民国を動かす。遂に欧米諸国との決戦に挑むと策略を巡らせて勝利を手繰り寄せた。しかし、石原莞爾による政治も長くは続かない。




 いかに完全無欠の冷血漢の天才であろうと敵を作り過ぎた。海軍にもメスを入れたことで反石原の声は日に日に強くなる。政党から変わった名ばかりの大政翼賛会も苦言を呈した。天皇陛下は手腕を認めながら「もう少しどうにかできないか」と不満を漏らす。彼が陸軍大臣の椅子を降りる時が訪れた。




「私は地獄までついて参ります。どこへでもお付き合いいたします」




「これから参る先は地獄どころでない。この世はもちろんあの世とも思えないぞ」




「まったく結構です。すでに死んだも同然なので怖いものはございません」




「それは良かった。これから本当の戦争を始める」




「楽しみで仕方がありません」




 石原莞爾は心の中で語る。




 やっと面倒な事務作業や人間関係から解放された。天皇陛下のご機嫌を常に伺い、海軍大臣や次官たちと調整に精神をすり減らし、政治家たちを説き伏せる無駄な会議など不要な物事が減る。特に陛下の親任を損なわないことに神経を使った。誰もが敬愛する陛下に見限られては生きることもままならない。




 今まで積み上げて来た「事」と「物」を活用して好き勝手の大暴れを予定した。陸軍大臣の椅子が栄光と言われる反面に職務は地味が占める。いわば工場勤務を続けて来たベテラン作業員が途端に本社へ異動して事務員になるようだ。これが例えになっていないと言った者は例外なくシベリアの国境線監視員を命ずるから覚悟しておくように。




 大東亜総司令官として全ての作戦に口を出すつもりの満々だ。どんなに煙たがられようと知ったことではない。私は日本が勝利するだけでなく亜細亜の民が真の民族自決を得るために欧米諸国へ鉄槌を下さなければ死ぬに死ねなかった。暴虐の巨人を打倒するまでは止まらない。




 なに、この後詰は阿南さんがどうにかしてくれるはずだ。




「海軍の山本長官がお飾りの総司令官と前線指揮を執ります。これも差し金ですか」




「いいや、山本長官なりの責任の取り方だ。ミッドウェーやハワイに固執して柔軟さを失う。先の南方作戦は辛うじて勝利を収めたが、ミッドウェーの戦力を割くことができれば、米海軍太平洋艦隊を一時的でも無力化できた」




「私は山本五十六を名将とは思いません。しかし、何かと可哀想とは認めます」




「上に立つ者の職務である。それを全うできなかった」




「なんと手厳しい」




「当り前だ。い号作戦とろ号作戦を統合したあ号作戦で挽回を狙う。敵将が飛び石作戦を発展させてオーストラリアの救出とニューギニアの無力化、フィリピン、グアム、マリアナを狙ってくる。これを寸断して反攻の芽を完全に摘み取りつつ、北方から飛び石どころか太平洋の渡り鳥を送り込み、アメリカのお高い鼻をへし折るんだからな」




「そこまでわかっているのですか…」




 石原莞爾は陸軍大臣から降りるに際して後任は阿南惟幾大将を推挙する。石原と阿南は蜜月の関係で石原路線の継承と見られた。どこぞのトージョーによるお友達人事ではない。天皇陛下からの信頼が厚く政治に長けた人物は後詰に最適だ。海軍との調整は難航を予期するが海軍も馬鹿の阿保でない。




 海軍は山本五十六連合艦隊司令長官を降ろして同期の堀悌吉を復権させた。石原の差し金と見られる人事でも本人は明確に否定している。古賀や井上、小沢など有力者は数多もいた中での堀悌吉の復権は驚きをもって受け止められた。一度は追放の憂き目に遭った者がカムバックしてリベンジに邁進する。これも陸軍同様に後詰を任せた格好なのかどうか分析が求められた。




 山本五十六を宙ぶらりんにするわけにもいかない。本人も連合艦隊司令長官から脱して自由に指揮棒を振ることを希望した。自身が長官から降ろされたことは自己の責任と認める。彼に明確な失策は見られなかった。先の南方作戦においてミッドウェー島攻撃を強硬に主張して譲らない。ソロモン諸島を巡る戦いに水雷戦隊を送るだけだった。さらに、陸軍と海軍も関係ない基地航空隊と異形の挺身艦隊の活躍が無ければ辛勝はあり得ない。もちろん、山本一人を攻めることも間違っていた。海軍全体で改めなければならない。




「ミッドウェーで変に勝ちもせずに負けもしなかった。おかげで海軍の中心的な戦力は健在である。本年中に新造の空母に巡洋艦、駆逐艦、潜水艦が勢揃いした。我々も新兵器に既存の改良に努めている」




「航空機が目覚ましく大東亜決戦機の重戦闘機と補助戦闘機に加えて爆撃機、攻撃機、輸送機など目白押しです」




「航空機だけでない。小銃と機関銃、迫撃砲、噴進砲の火器もだ。機甲戦力もドイツ製を吸収して一気に置き換える」




「国産が望ましいですが間に合わせるためにドイツ製を輸入した。もう届きません」




「目当ての人と物は手に入った。あとは勝手に負けるが良い」




「ソ連は再三にわたり参戦の意思がないことを確認してきました。背後から襲われることを恐れてのことでしょう」




 太平洋が一時的な膠着状態に陥ったのに対して欧州情勢は逆転の機運が高まった。ナチス・ドイツは破竹の快進撃を続ける。対ソ戦を始めると急激に萎み始めた。モスクワ前面まで迫るも冬将軍の前に敗れる。現在はソ連軍が反撃に転じて大祖国からの追い出しに精を出した。来年にはポーランドを再び奪取してドイツ本国を窺う。これに際して日本に参戦の意思が無いことを何回と何十回と確認してきた。外交官たちは苦笑を余儀なくされる。




「まさかロシア人がイギリス人よりも約束を守るとは思わなかった。イギリス人は何枚の舌を持てば気が済む。ビルマ奪還に大作戦を展開中だがインドを甘く見た」




「インパールからアキャブまで引き込んで殲滅し切る。敵将山閥の首を取りましょう」




「それでは辻がやってみろ。イギリスを抑えてこい」




「お任せください」




「ちょうどいい機会だから、ビルマに新型を持って行け。切り札は使わなければ意味がない」




「ありがたき幸せ」




 アメリカが黙った瞬間にイギリスが喚き始めた。インドを緩衝地帯に事実上の休戦状態にあったが、欧州戦線が落ち着くと約束を破って大戦力を集中し始め、現地の司令官も交代する程の徹底ぶり。アメリカのルーズベルトに突っつかれたのか、チャーチルが東洋のリベンジを臨んでくるのか、イギリスによる世界秩序を構築したいのか不明だ。二正面作戦は非常に厳しいところがあるため、インドに謀略を仕掛けており、イギリス領インド帝国と現地軍を諸共に爆破した。




「まずは北方を鎮静化させることからだ…」




 アリューシャン列島の戦いを解決しなければ次へ進まない。




 島という島に数多の噴煙が生じる。




続く

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