第91話 アッツ島航空戦【前】
「お出でなすったな。アメさん」
米軍はアリューシャン列島奪還のため小規模な艦隊を拵えた。アラスカは死の罠と宣伝するだけ価値は薄い。なぜ日本軍が北方に固執するのか不明だが、敗北続きの中で小規模でも勝利を掴まなければ、市民感情は悪化の一途を辿った。アリューシャン列島で日本軍を撃滅して士気高揚を図る。
ダッチハーバーからB-25やB-24を飛ばした。アムチトカ島など前線拠点の事前無力化は行う。日本軍は想像以上に島嶼部の基地機能を強化した。早期警戒の電探基地はもちろん、飛行艇か偵察機が24時間体制で警戒にあたり、地上は高射砲が所狭しと敷き詰められる。米軍の奪還作戦を知るや否や輸送急行作戦を展開しては増強を続けた。究極的には旧式化した駆逐艦や海防艦を敢えて座礁させる。不沈の固定砲台を設けた。
今日も今日とて、飽きることなく、ダッチハーバーから爆撃機を飛ばす。これを早期警戒の偵察機が察知した。日本の電子技術は欧米諸国に引けを取らない。仮に国力と資源に乏しかろうと創意工夫が埋め立てた。
「敵爆撃隊を探知した! その数は12! 繰り返す!」
「ペロハチが来た。無駄な嗅覚に優れていやがる」
「まぁ、逃げれば何てことは無い。機銃を適当に撒いてくれ」
「あい、いつも通りだ」
「敵爆撃隊はP-38らしき戦闘機を連れている! 敵機はペロハチ!」
「三式司偵を舐めるな。高度を空けて振り切る」
「タービンをブン回してくれい」
アリューシャン列島の過酷な環境下でも飛行できる。最新の司令部偵察機は贅沢にも早期警戒機と運用された。本来は敵地へ堂々と侵入してつぶさに観察する。あまりの高性能に早期警戒機に大抜擢されるだけでなかった。司偵は戦闘機型や爆撃機型、迎撃機型など兄弟姉妹は数多も計画する。早期警戒型は小型の空対空電探を搭載するだけの簡便な改造で済んだ。
三式司令部偵察機は百式司令部偵察機を更に磨き上げる。すでに完成され尽くした百式司偵の大枠は変えなかった。エンジンの換装、自衛兵装の追加、電探の換装、一定程度の防弾など小幅な改良が占める。日本軍最速級の偵察機は高速を思わせる流麗な形状は一層も研磨した。
特筆すべきは最新の空対空電探を装備に置かれる。従来の電探とアンテナでは安定性に欠けたり、空気抵抗が大きかったり、等々より空対空に用いるに不十分が否めなかった。帝国の若き技術者が日夜研究に没頭し、かつ欧米の技術を非合法的に入手すると、先進的なマグネトロンとパラボラアンテナの新型が君臨する。
「あとは任せたぞ。一機残らず平らげないとキリがない」
「ペロハチごときがついて来れるかっての。遊んでやりましょう」
「馬鹿言うな。燃料は無駄にせん。気まぐれな風の流れに乗って離脱する」
「残念」
爆撃機の詳細を暴きたいが護衛機らしきP-38が急接近してきた。アリューシャン方面はP-40を多く確認できる。爆撃機の護衛はP-38がP-40を押し退けた。南方方面でも多数を確認して主力戦闘機の扱いである。日本軍としてはペロハチと呼んでは格好の獲物と認識した。双発機の高速性と重武装は至極当然の脅威となり得る。三式司偵は最大出力で排気タービンをブン回した。連合国軍が「天使」か「悪魔」と両極端の評価を同時に与える。見事な流線形は最速の翼をもたらした。
早期警戒機が急報を発する。各島に空襲警報がけたたましく鳴り響いた。もう慣れた待機組は速やかに避難する。自然の岩盤をくり抜いて作った防空壕は1t爆弾が直撃してもビクともしなかった。最も堅牢な防御とは地球が数千年の歴史を賭して作り上げた自然の防壁である。
各島の飛行場から迎撃機が緊急発進した。敵爆撃機が到達する前に高度優位を確保すべく、局所的な防空に特化した局地戦闘機が登場する。局地戦闘機に限定すると汎用性に欠けた。国内外の工場はもちろん現場を圧迫する。重戦闘機が局戦を兼任した。
(ロケットの噴射が心地よい。いくら使っても変わらない)
「全員聞いているな。敵は本格的にアリューシャンを狙ってきた。我々が爆撃機を叩き落とさねば防衛は覚束なくなる。地上の高射砲に期待しちゃいかん」
(酷い物言いだが、あながち、間違ってない。高射砲は基本的に当たるものじゃな)
「旋風は南方に先んじて配備された。俺たちが初陣を鮮やかに飾るんだ」
(今まで乗って来た戦闘機で一番の出来だ。重戦闘機の究極系と言える)
「まずは初撃で陣形を崩す。そのための三号爆弾だが、当てずっぽうで構わん」
(高射砲以上に当たらないから)
「敵爆撃隊を血眼で探せ! まずは探せ!」
島の上空に強烈な気流が吹こうと上昇力は損なわれない。局地戦闘機に短距離離陸性能と高い上昇力を使い捨てのロケットが付与した。ロケットは周囲の大気に依存せずに完結する。その特性から始動から最高出力を発揮できた。あまりの噴射に空中分解するのではと冷や汗を浮かべる者はいない。この全員がロケットの魅力にとりつかれてしまった。
陣形の右翼側に位置した一機が急加速して先方に躍り出る。バンクを分かりやすく振ってきた。無線で伝えればよいものをベテランは徹底的に無駄を省いて以心伝心を開通させる。隊長も含めた全機が追従した先に見慣れた双発の爆撃機が綺麗な隊形を組んだ。爆撃機は身を護る術として互いが互いを補い合える隊形を構築する。爆撃機の密集隊形を崩すことは困難なんて時代は終わりを迎えた。
「全機突撃! 三号爆弾を一斉発射次第に各自で叩き落とせ!」
「よし来た。三号爆弾の名手を知らせてやる」
「どうやって当てるんで?」
「ヤマとカンさ。めくらの方が当てやすいかもな」
「参考にならんです」
「とりあえず、密集隊形を崩せれば御の字だ」
「B-25のミッチェルちゃんを落としましょう」
新型の重戦闘機(局地戦闘機)に空対空の兵器は鬼に金棒である。高度優位を活かして覆い被さった。当然のことながら、敵爆撃機は防御銃座を稼働して濃密な弾幕を形成する。米軍の中でも堅牢で重武装のB-25ことミッチェルは難敵と認めた。何も恐れる程ではないはず。
「発射後は速やかに退避! 腹に潜り込んで突き上げようとは思うな!」
「従来の攻撃方が通じない。教本は役に立たなくなりましたね!」
「教科書通りに戦うのは最初の1年だけにしておけ!」
「綺麗な花火を見れないのが口惜しい。B-25を粉砕してやれ」
空対空ロケット弾の三号爆弾は嚇かしに最適だ。欧米人が忌み嫌うタコの足のように子弾が放出される。敵機直撃に期待することは荒唐無稽と言われた。基本的に敵の隊形を崩すことに用いられる。自機の上方から子弾が覆い被さってくれば反射的に回避を試みざるを得なかった。
「今だぁ! ぶつかる勢いで突っ込めぇ!」
「特製の30mm機関砲だ。徹甲弾と炸裂弾、焼夷弾の組み合わせ」
「曳光弾が綺麗だねぇ。こいつは絶景なり」
「余裕綽々は結構だが油断するな。旋風は意外とピーキーだ」
「ピーキーに振り回されるから楽しいんじゃ」
自軍からの評価は芳しくないが敵軍からは恐怖の兵器と恐れられる。仮に直撃せずとも自機周辺に降りしきる焼夷弾の圧力はジョークにならなかった。これが僅かでも被弾すれば忽ち穴が開いて人体をズタズタに引き裂こう。特に機銃手の死傷者数が多いことで畏怖を集めた。B-25がアメリカンなタフを押し付けようと一度崩れれば他愛もない。
主翼から突き出る機関砲の口径は戦闘機の割に大きかった。発砲時の音は口径相応の重低音を響かせる。連射自体は低速だが気にすることでないと断じた。なぜなら、大口径の機関砲は少ない機会を確実に我が物とできる。
「突破できるなら突破してみろ。ペロハチもB-25の道連れにする」
「マズい! 一個小隊が抜けていった!」
「ペロハチが邪魔で行けない」
「大丈夫だ。3機ぐらいなら高射砲が撃てる」
米軍の予想以上にアリューシャン列島の要塞化は進んでいるわけだ。
続く




