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旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます  作者: 竹本田重郎


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第81話 アイアン・ボトム・サウンド

三本煙突の旧式艦が死地を彷徨っている。




「敵艦が反転していきます!」




「戦意を喪失したとは思えない。きっと本隊と合流するつもりだが逃すな。照明弾を撃て」




「Yes, sir!」




 戦艦と重巡洋艦は副砲に照明弾を装填した。探照灯を照射する方法に比べて自艦を安全に保つことができる。5インチの高角砲でも数を撃てば十分な明かりを提供した。日本海軍の十八番である夜戦を封じる策と使用したところである。照明弾を使わずとも無数の槍が迫った。




「た、大量の魚雷が接近中! 数えきれません!」




「落ち着け! ロングランスではないのか!」




「雷跡が見えます!」




「空気式魚雷の飽和雷撃か。日本海軍も考えたが回避は容易い」




 夜間でも空気式魚雷の雷跡はよく見える。夜戦は必然的に暗闇の中に置かれた。酸素魚雷を常時警戒しなければならない。空気式魚雷は夜光虫の活動と相まって早期発見に成功した。リー司令は酸素魚雷の高速性を逆算している。速度を敢えて落とすことで回避を試みるも低速の空気式魚雷は直撃コースだ。一気に速度を上げる回避に切り替えたが遠方から見えるので容易い。見張り員は絶叫しても艦橋内の人員は冷静に対処した。




「ノーザンプトンに警戒を促すまでもない」




「はい。とっくに回避機動に入っています。照明弾を追加するほどの余裕です」




「誘爆するとは思えんが使い切っても構わない。敵艦を補足し続けろ」




「主砲が使えないことが残念でたまりませんな」




 急加速と急旋回より射撃はできない。老齢艦を蜂の巣に変えようと照準を絞ったがやり直しを強いられた。敵艦は老齢だろうと軽快な動きで退避を続ける。こちらに歯向かうことなく本隊の駆逐隊と合流する選択は正解と認めた。リー以下は空気式魚雷を用いた飽和雷撃に苛立ちを覚えると同時に不利を埋める策と感銘を受ける。酸素魚雷を大量投入することは却って非効率だが、安価で使いやすい空気式魚雷は捨てても出費は少なく済み、敵艦隊を足止めするに丁度良かった。




「魚雷は通過していきます」




「ロングランスが紛れているかもしれない。目を凝らせ」




「ノーザンプトンも無事です。今のうちに隊列を組みなおして駆逐隊と合流を…」




「だ、第二波が来ます!」




「なにぃ! まだあるってのか!」




「回避だ!」




「ここで沈めねばいたちごっこですぜ」




「任務を忘れてはならん。我々はガダルカナル島の敵守備隊を砲撃して海兵隊へ物資を送り届けるための海路を確立する。敵本隊はどうだ!」




「ノーザンプトンを狙っています!」




「孤立した羊を狙うか。奴らは狼だ」




 老齢艦は退避していく代わりに本隊と見た駆逐隊が高速で接近中である。日本海軍の駆逐艦が恐ろしいことは言うまでもなかった。大物食らいと全砲門を開いては高速で突っ込んでくる。彼我の距離がゼロ距離と言って差し支えない程になると必殺の雷撃を敢行した。リー司令は金剛型戦艦よりも駆逐艦が厄介と認識する。幸か不幸か、駆逐隊は孤立したノーザンプトンを狙った。戦艦3隻が固まっては重装甲を押し立てる上に副砲の火力を集中させられる。何の下準備なしに突っ込んでは跳ね返された。まずは孤立した敵艦を叩いて無力化して外堀を埋める。これも懸命な策で臍を嚙んだ。敵本隊を撃退しようにも副砲は照明弾が込められている。




「照明弾を吐き出し、徹甲弾か榴弾を込めろ。敵本隊を撃退することが最優先だ」




「くそったれ。これが海戦だってのか」




「悪態を吐くのは終わってからだ。今のうちに体勢を立て直す」




「ノ、ノーザンプトンが炎上しています! あぁ、ダメだ!」




「彼らの犠牲を忘れてはならん。味方の駆逐隊はまだか!」




「スコールを抜けて来ました!」




「あとは頼んだ。平文で来ています」




「すまん…」




 ノーザンプトンは敵駆逐隊からの集中砲撃を受けて大炎上中だ。敵駆逐艦は小口径砲を多数も装備する。小口径砲は一発の威力自体は劣るが速射性に優れて数を稼ぐことができた。日本海軍の駆逐艦乗りは高練度に裏打ちされた精密射撃を誇る。ノーザンプトンが懸命に主砲と副砲を撃てど一向に当たらないことに対照的だ。5インチかそれ以下の集中砲撃から滅多打ちにされる。一応は浮かんでこそいるが長くは持たなかった。




 彼女が時間を稼いでいると味方の駆逐艦が間に合う。スコールから抜け出せずにいたが遂に突破に成功した。味方の駆逐艦も隊列を組めていないが事態を直ぐに把握すると日本海軍の駆逐艦と真正面からぶつかりに向かう。一方的に粉砕されるだけだが貴重な戦艦を沈ませるわけにはいかないのだ。彼らも勇猛果敢に立ち向かおう。




「第二波もやり過ごします」




「照明弾は吐き出しました。あとはどうします」




「敵駆逐艦を残さずに平らげる。主砲を動員するんだ」




「当たりゃしませんが」




「巨大な水柱は牽制になる。当たれば一発で木端微塵だ」




「急げ! レーダーは使うな! 人力でやれ!」




 ワシントンとノースカロライナ、サウスダコタは第二波の回避も成功した。副砲に込めていた照明弾も一通り吐き出すと改めて徹甲弾か榴弾を装填する。敵艦が軽装甲の駆逐艦である以上は過貫通する恐れが呈された。対艦戦闘に榴弾も選択肢の一つとなり得る。主砲まで動員する始末だが小柄で軽快な駆逐艦に直撃させることは難しいが弾着時の巨大な水柱は敵兵に圧迫を加えた。肉迫雷撃を断念させる牽制球を投げる。




「副砲は射撃を開始! 駆逐艦を見殺しにするな!」




「撃て、撃て、撃てぇ!」




「こんな海戦があってたまるかってんだ。敵味方が入り乱れて汚いったら…」




「駆逐艦複数が突貫してきます! 35ノットは超えている!」




「あれを抜けてきたというのか! 日本海軍の駆逐艦は死を恐れていない…」




「まずい。このままでは食らう…」




 今まで冷静に指示を飛ばしていたウィリス・A・リーから冷静が消失した。彼の額には分かりやすく大粒の冷や汗が流れる。ソロモン諸島が地獄であることは承知したが認識の甘さを思い知らされた。敵艦は小島という小島に隠れて息を潜めて獲物が来ると一網打尽と襲い掛かる。こちらは斬り込む側だったが何時しか兎と変貌した。




「敵艦は砲撃しながら突っ込んでくる!」




「副砲に被弾!」




「後部に被弾!」




「レーダーがやられました! 動きません!」




「弱点を的確に衝いて来る。もはや手練れどころではない」




 ワシントンは重装甲を押し立てるはずが副砲や機銃、艦橋レーダーなど脆弱な部分に次々と被弾している。ノースカロライナとサウスダコタも同様に被弾した。こちらの砲撃が敵艦を包囲するばかりで当たらない中で被弾しては焦燥感を募らせる。いかに優秀な将校も人間の焦燥感は判断力を鈍らせた。次の指示を出そうと必死に思案を巡らせている間に頭を床に叩きつけられる。




「そ、損害を報告しろ。本艦は被雷した」




「司令! ドクターを呼べ! 司令の命が一番だ!」




「私にかまうな。目の前の敵艦を撃て…」




 先頭を走っていた故に肉迫雷撃の餌食となった。己の命は度外視と突っ込んできた駆逐艦はソロモンの鬼神と恐れられる。神の視点から眺めている限りは常軌を逸した動きも計算され尽くされた。海戦というのは一秒どころかコンマ秒の単位で勝敗が行き来しよう。




「ここで沈むわけにはいかんのだ! 主砲を撃てぇ!」




「Fire!」




 ワシントン渾身の砲撃は未だに退避を続ける三本煙突を狙った。レーダーを封じられようと、自艦が大傾斜して真っ当に照準が付けられなくても、司令部が機能不全に陥ろうと、アメリカ海軍の威光は廃れない。リーは意識が薄れる最後まで真っ二つに折れる敵艦の姿を捉えていた。




 いったい誰が言い始めたのか。




 アイアン・ボトム・サウンド。




続く

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