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第74話 FS同時奇襲上陸作戦

フィジーとサモアは米軍の後方拠点と機能して米豪連絡も担う。ここを無力化と制圧してこそ米豪連絡に痛撃を与えられた。潜水艦の前線基地を建設すれば通商破壊作戦を強化できる。日本から遥か遠方の土地でも確保することが望まれた。




 一部からは「石原莞爾は強欲であれもこれもと欲しがる」と笑われる。本人は至って真面目に制圧を主張して譲らなかった。制圧後の補給に関しては海軍と合同して整備した輸送用の潜水艦を使用する。米軍が直ぐに奪取に訪れると言うがソロモン諸島に前のめりが否めなかった。ここで一挙撃滅すれば最低でも1年は時間を稼げる。敵軍に動揺を強いて小さなミスを犯すことも狙った。




「敵艦隊が空襲に堪らんと出て来た時が好機である。これより奇襲上陸を始める」




「最大の静粛を保って浮上せよ。カチ車とカロ車を先に出してから大発を発進させるんだ。順番を誤ってはならない」




「1秒でもトチれば数百名が海の無屑と消えるんだ」




 フィジーとサモアの遠方まで輸送船や強襲艦を送り込むことは非現実的だろう。米軍の哨戒網に引っ掛かると潜水艦がどこからともなく寄って来た。大量の護衛艦を付けることも第二次ミッドウェー作戦やウ号作戦、各地の哨戒などから難しい。海軍陸戦隊と陸軍海上機動隊の兵力を用意できても安全に運搬する手段に欠けた。




 ここで秘匿兵器の輸送型潜水艦『ヲ号潜水艦(陸軍名は丸湯号)』の出番である。石原莞爾は太平洋の離島という島嶼部の制圧に奇襲兵器を欲した。海軍に深海からの奇襲上陸を提案する。堀悌吉ら有力者の同意を得ると半ば強引に輸送型潜水艦を研究させた。陸軍の大発を満載できる格納庫を有する代わりに攻撃力は捨て去る。ドイツ海軍の補給用Uボートを参考に開発を進めた。この道中に大発の歩兵だけで離島を攻め落とすことは困難と言われると秘めたる私案を繰り出す。




「ヲ1からヲ10、イ121からイ124、ロ21からロ31まで準備よろし」




「これだけの潜水艦が浮上すれば壮観な景色である。満州が生命線とはよく言ったものだが正解だったな。石原莞爾恐るべし」




「ロ21型は機雷潜水艦を基に運搬に特化しました。イ121型が持ち前の積載量を活かすことに触発されています。我らにはあり得ない発想は柔軟さの賜物でしょう」




「あいつは悪魔だな。海軍にまで口出ししたかと思えば勝ちを着実に拾っている」




「稀代の天才。誰が言い始めたのでしょう」




 潜水艦が一斉に静かに浮上すると甲板上は俄かに忙しくなった。潜水艦の中には格納庫を持たない物もあり、甲板上の大発を括りつけるわけにもいかないため、奇襲上陸の切り札たる特式内火艇を積載する。秘匿兵器のために内火艇と称するが実際は立派な水陸両用車両だった。




 戦車を揚陸させるには小型揚陸艦か特大発を使用しなければならない。これでも十分に円滑に揚陸できるが一手間を要した。海上から直接に発進できる水陸両用を欲する。陸軍の戦車を流用することが簡単と九九式砲戦車を素体に大規模な改修を施した。特に車体と一体化した浮舟フロートが大柄を主張する。潜水艦による運搬を考慮に入れて入念な耐圧構造と水密化が採られて母船の浮上から直接発進を可能にした。




 主砲も短砲身の75mm戦車砲と同軸に7.7mm重機関銃を備える。奇襲上陸のために対戦車は考えず専ら対歩兵と対地を想定した。75mmの榴弾か榴散弾を叩きつけるが、一応は穿甲榴弾(タ弾)も用意されており、自衛程度の対戦車戦闘は行える。




「発進始め。大発も続いていけ」




「ヲ号とロ号から溢れるばかりに出てきます。どれだけ積んでいるので」




「そう見えるだけだ。実際の数は大隊が精一杯だが最精鋭の強者ばかり」




「私たちは慣れています。彼らが不慣れで劣悪な艦内生活を耐え抜いたことに…」




「いいや。何も耐えていない。ようやく解放されて潜水艦生活に戻るぐらいなら目の前の敵と刺し違える方がマシとね」




「背水の陣ですか?」




「あながち間違っていないか?」




 水陸両用戦車と水陸両用輸送車が発進を終えると大発の群れが続いた。彼らが目指すはフィジーの砂浜に定められる。米兵が寝静まっている頃にディーゼルエンジンの轟音を以て叩き起こした。せっかくの隠密性が台無しと言われようと構わない。エンジンの出力も調節することで十分に抑えられた。上陸後は最大出力に引き上げて騒音をまき散らす。奇襲攻撃は静かに行うものと思われるが、敵兵に心理的な圧迫を加えるため、目標に降り立った後は盛大に喚き散らした。




「ロ号は砲撃支援に移る。イ121からイ124とヲ1からヲ10は一時退避せよ」




「急速潜航するぞ! 甲板上の人員は直ちに艦内に戻れ!」




「戻れなかった者は自力で島へ向かうかロ号に拾ってもらえ!」




「ロ号の14cm砲が加わればあっという間に落ちましょう。サモアも同様です」




「彼らを回収するためにもジッと身を潜める。これから最も嫌な時間に突入するな」




 ヲ号は輸送能力に特化し過ぎて攻撃能力は機銃しか持たない。イ121型潜水艦は老齢の潜水艦で多方面に限界を抱えた。海軍陸戦隊と陸軍海上機動隊の支援はロ号に一任する。ロ号は輸送能力と攻撃能力をバランス良く備えた。53cm艦首魚雷発射管4門は対地に使えないが、旧式ながら優秀の14cm単装砲を後部甲板に備えており、上陸隊を支援する砲撃にはそれなりに使える。




 彼らはフィジーの砂浜に乗り上げると一気に加速した。水上の航行能力は数ノットでジリジリとした焦燥感に塗れる。これが一度でも砂浜に上がると水を得た魚のように活性化した。水陸両用と称するも地上が最高の環境であることは言うまでもない。米兵をベッドから片っ端から叩き起こさんと主砲と重機関銃を唸らせた。水陸両用の輸送車は後部ハッチから随伴歩兵を輩出しながら機銃掃射を開始する。随伴歩兵は最新式の半自動小銃を携行した。軽迫撃砲と重擲弾筒による簡易的な制圧砲撃も行うことができるが潜水艦の支援砲撃が加われば怖いものなし。




「今夜中に片を付ける! 総員突撃!天皇陛下万歳!」




「お前さん達には悪いが寝かせるわけにはいかねぇのよ」




「フィジー観光と洒落込もう」




 海軍陸戦隊と陸軍海上機動隊は共に最精鋭と知られた。潜水艦の閉塞感が極まりない生活から解き放たれる。その先は火薬に満ちた生活でも彼らの生きるべき場所は戦場と普段以上に闘志を燃やした。内陸部へ砲弾が突き刺さる度に高揚感を覚える。夜間警備の兵士は砲撃に巻き込まれた。穏やかな就寝から叩き起こされた兵士も夢と現実の区別がつかない。小銃を手に取る前に急所を弾丸に貫かれて何が起こったのか理解する余地を与えられなかった。




「ここは俺達の島にさせてもらう!」




「忍耐も知らぬ者どもが!」




「撃つよりも刺した方が早い」




「気を付けろ! 擲弾筒が行くぞ!」




 現地指揮官は冷静に俯瞰する。




「まったく、これだから戦闘狂いはいただけん」




「敵さんが可哀想でありません。我々とは釣り合いがとれておらず」




 日本兵は白兵戦に優れると評価されるが最精鋭の動きは舞踊に等しかった。敵兵が錯乱状態に陥っている隙に銃剣を突き刺す。半自動小銃なんて便利な文明の利器を与えられたにもかかわらずだ。敵兵を撃つよりも刺した方が早いなんて言われる。いくら寝耳に水の奇襲攻撃でも一方的な戦いは頂けなかった。




 敵兵が降伏を申し出る前に殲滅していく故に数時間で小島の大半は制圧される。ソロモン諸島に戦力を集中させたことの裏をかかれた。各地に潜伏した米兵も掃討作戦が始まれば時間の問題である。米兵も武器を地面に捨て両手を上げる者が続出した。




 フィジーは間もなく陥落する。




続く

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