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第71話 米軍上陸開始こそ好機なり

ガダルカナル島から一本の通信が送られた。




「国性爺合戦ハジマル」




 ついにソロモン諸島のガダルカナル島に米軍を主とした連合国軍が上陸を開始する。日本軍が展開していることは事前の偵察から判明していた。飛行場を含めて要塞化されていることを鑑みる。基地航空隊のB-17やB-24が猛爆を行った上に艦砲射撃が行われた。まさに万全を期して上陸が開始される。




 上陸作戦は早々に頓挫の危険を呈した。駆逐艦が触雷したことに始まり舟艇が次々と機雷の餌食となる。PTボートを先行させて掃海作業を入念に行ったにもかかわらずだ。指揮官はイラつきを露わにする。日本軍がドイツ軍の磁気感応式機雷を運用していることは明白だ。全木製の魚雷艇を動員したが全く通用していない。魚雷艇も触雷する始末で怒りがこみ上げた。




「いつになったら上陸を開始できるのだ! 1秒の遅れで壊滅を呼び込むぞ!」




「そうは言いますが、奴らは機雷を数え切れないほども敷設しています。二重と三重に置いているので一個を除去してももう一個が残りました」




「知恵の働く奴らだ…」




 浅瀬から深部にかけて満遍なくと機雷が敷設されている。舟艇の接近を拒んだ。PTボートは浅い所に留まる機雷を銃撃で破壊する。浅瀬の砂に別働隊が息を潜めた。沈底式機雷は感圧式信管と磁気感応式を採用している。それ故に除去は困難を極めた。上陸用の舟艇が近づくと水圧の変化より感圧式信管が作動する。上陸第一波の先遣隊が触雷によって一歩も進めない光景にイライラして当然だ。




「マズイぞ。この時に空襲でも受ければ一網打尽だ。戦闘機は届かない。空母が珊瑚海でやられたことが悔やまれる」




「早すぎたのです。オーストラリアと連絡を維持するために反撃を急ぎ過ぎた…」




「て、敵機襲来! 低空を這って来ましたぁ!」




「対空火器は全て動員しろ! 全ての対空砲を動かせ!」




「あいつら! 俺たちは眼中にないのかよ!」




 まさに米軍は罠に嵌る。




 敵機は上陸船団が機雷によって動きを封じられたところを襲い掛かった。あれだけ爆弾の雨を降らせたのに敵機が訪れる。陸軍航空隊の重爆撃機が怠慢したと言わざるを得ないが、実際にガダルカナル島の飛行場は完膚なきまで破壊されていた。もっとも、日本軍の巧妙な偽装に過ぎずに実際は空っぽである。これと別の単なる草原に簡易的な飛行場を整備しておいた。




「複葉機まで飛ばして来るとは…」




「二戦級の戦力しかない。さっさと落としてしまえ」




「それが敵機の速度が遅すぎます。それに超低空を這われると味方の舟艇に当たります」




「くそったれめ。こちらの事情を見透かしているようだ」




 どこからともなく敵機が現れては上陸船団に襲い掛かる。数多の機雷によってガダルカナル島付近に滞留する最悪のタイミングだった。普通は制空権を確保して戦闘機の護衛をつけるはずだが、ソロモン諸島は両軍の激戦地と制空権は空白に等しく、空母機動部隊は珊瑚海海戦からハワイや本土で修理中である。民間商船を改造した護衛空母が代理を務めた。あいにく、商船改造空母は潜水艦の餌食となる。




 したがって、米軍はガダルカナル島の奇襲上陸を前提に置いた。制空権は後方拠点の基地航空隊を頼らざるを得ない。P-38やP-39、P-40が燃料の限界一杯まで飛行した。片道の直線距離が約1000kmでは無茶が否めない。パイロットの疲労も顕著で交代制も機能不全に陥った。戦闘機が後退のために一時退避した瞬間を見逃さない。まるで米軍の事情を知っているかのようだ。




「もう上陸を開始するしかありません! 海上に安全なところはないのです!」




「仕方あるまい。突っ込ませろ! ステーキをたらふく食わせてやったんだ!」




「前進! 前進!」




「敵機もいずれか島内に逃げるはずだ。偵察機を飛ばして飛行場を突き止める。そこを艦砲射撃するんだ」




 敵機は偵察機や襲撃機に複葉機という二線級が揃い踏み。東洋の貧乏帝国らしいと嘲笑する間もなく次々と舟艇が爆発ないし炎上した。各艦が対空戦闘を開始するが標的が低速過ぎて照準が反対に追いつかない。航空機は恐竜的な進化を続けて高速が主流において、鈍足の旧式機は思い切り逆流して最新装備は悉く通用せず、古典的な肉眼頼りにタイムスリップした。




 日本軍は低空襲撃に特化した機体を掻き集めている。複葉機も抜群の機動性と安定性を誇った。舟艇に対して小型爆弾を投下した後は機銃掃射を与える。ガダルカナル島の砂浜まで赤い海が押し寄せた。あまりの出来事に強行策を採決せざるを得ず、機雷は完璧に除去し切れないが砂浜まで突っ込ませることを命じ、海上で一方的に斃れるよりかはマシと見る。




「やった! 落としたぞ!」




「ジャップめ! アメリカを舐めるからだ!」




「上ばかり見るな! 今は真っ直ぐ!」




「早く上陸してくれ! なんなら泳いだって良いんだ!」




「おい、ばかっ!」




 この緊急事態に交代のP-38とP-39が間に合った。彼我の性能差が著しく旧式機は次々と撃墜される。クルクルと逃げ回れど最後は力尽きた。ある者は主翼を捥がれる。ある者は大炎上の火達磨と化した。ある者は木端微塵に粉砕される。しかし、タダで死するわけにはいかずと最後の攻撃を敢行した。




「て、敵機が突っ込んでくる!」




「あいつら! 自分を爆弾にするってのか!」




「逃げろぉ! 船の上は危険だ!」




「やめろ! その装備で飛び込めばどうなるか!」




 米軍も若い兵士が多いのか大混乱で統制が取れていない。上陸開始の命令に悪態を吐きたいが、頭上から爆弾と機銃弾を投げられる状況であり、冷静に悪態を吐くことは不可能だ。船上で死するぐらいならと海へ飛び込む兵士が後を絶たない。これぞ悪手も悪手に尽きていた。海中には機雷だけでなく金属と木材の障害物が設置される。敵兵の行動を制約した。米兵は小銃に弾薬、携行食料など重装備な上に景気づけのステーキを完食している。こんな身体ではブクブクと沈んでいくしかないわけだ。




「助けてくれぇ!」




「行くな! ミイラ取りがミイラになるだけだぞ!」




「そんな! ここは地獄じゃないか!」




「生意気なことを言う暇があれば島へ向かえ!」




 戦友を見捨てて砂浜を一路と目指す。砂浜まで到達すれば身を隠すことができた。一途の希望を見出す。敵機は味方の戦闘機が蹴散らした。艦隊の支援砲撃が開始されると威勢を取り戻す。厄介な機雷もPTボートが合間を縫って除去を進めた。第一波の上陸は壮絶を極めて大損害を被る。テナルー川の東岸に形だけの橋頭堡を確保して第二波と第三波が到着して重装備の揚陸作業を待った。




 米軍上陸の様子は内陸の山地からよく見える。砂浜が良く見える位置に指揮所を設けた。居残りを志願した航空隊がポツリとポツリと欠けていく様子は慚愧に堪えない。彼らの献身と犠牲を無駄にせんと砲撃の用意を整えた。敵軍が上陸してくるだろう地点に砲口を向けている。




「噴進砲は所定の砲弾を撃ちきり次第に移動せよ。発射機は放棄して構わない。自走砲も同様に退避だ」




「砲撃開始! 繰り返す! 砲撃開始!」




 守備隊長が告げると直ぐに島の各地からロケット弾が発射された。大口径の野砲と重砲を回収する代替に噴進砲ことロケット砲を大量に供給してもらう。簡易を極めた故に弱点は多いが防御的な戦闘に適した。現地調達可能な木製発射台は勝手に燃え尽きる。彼らは砲弾のみ持参して砲弾も所定の弾数を撃ち切った後は補充を待たなかった。手ぶらで次の陣地へ移動する。噴進砲は発射位置を察知され易い欠点を運用法の工夫より補った。




 10cmと15cm、20cmの大口径のロケット弾が着弾する度に悲鳴が響き渡る。たっぷりの炸薬量がもたらす破壊は圧巻だ。上陸用舟艇に直撃すれば一発で粉微塵に変える。米兵が砂浜で安寧を享受できるわけもなく大口径のロケット弾に新たな恐怖を覚えた。




「大場隊は救出の時まで生き抜くことを厳命する」




 ガダルカナル島の魔物が歴史的なゲリラ戦を見せつけよう。




続く

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