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第46話 石原莞爾笑う

日本が対米英(蘭)と開戦して暫く各地の各所より報告が上がって来た。ただの陸軍大臣に何ができると思われよう。私は陸軍を統率する満州派の頂点に立った。陸軍大臣の椅子から幾らでも操作できる。




「シンガポールはいつまでに陥落させられる」




「山下将軍は兵糧攻めに難渋を示しました。しかし、陸軍の大兵力を長期間も置くこと、海軍の大艦隊を長期間も留置すること、どちらも歓迎されることでありません。海上から戦艦が艦砲射撃、陸上から攻城砲が砲撃、空中から爆撃機が爆撃、三方向から攻める」




「すでにシンガポール都市部へ至る幹線道路の制圧に成功しました。敵工兵が橋を爆破して寸断しましたが、上陸兵団を組織して強襲の用意を整えています。敵軍の補給拠点と給水所を奪取すればです。あっという間に落ちる」




「威勢の良い事でも上手くいくかわかるまい。市街地に爆弾を落とせ」




 シンガポールの早期攻略は喫緊の課題に挙げた。ここに大兵力を動員している以上は単に留めるだけでも燃料と食料、水などを消費する。シンガポールは一刻も早く落として次段作戦に転用したいのだ。海軍の連合艦隊に出張してもらって戦艦の艦砲射撃や空母の艦載機の爆撃、等々を駆使して英軍を締め上げる。ここには大量の将兵と市民が避難して備蓄は急速に消費された。人間が生きる上で欠かせない水もすり減っている。英軍の籠城戦が兵糧攻めに遭うことは必然だが意外と持ち堪えた。




 日本軍も頑強に築かれたシンガポール大要塞の攻略は生半可なことでない。幹線道路には幾重にも防御線が敷かれた。野砲と機関銃が多種多様と立ち塞がる。山下将軍の機甲部隊も迅雷戦術を封じられると攻めあぐねた。航空機の支援を受けて一つずつを潰していき、一応は攻城兵器の戦艦級の重砲が到着しており、熾烈な砲撃戦を繰り広げる。




「まだ待ってください。九八式臼砲が奮戦したことで二十八糎砲や十五糎加濃砲などが間に合いました。司令部偵察機の活躍もあって砲撃戦は圧倒しつつあります」




「よろしい」




「石油貯蔵施設に義烈空挺隊の投入をお願い致します。むざむざと焼き払われては勿体ない」




「理解できる。英軍も石油を丸ごと奪われては戦意を失うはずだ」




「ありがとうございます」




 シンガポール大要塞と熾烈な砲撃戦と言うが当初は九八式臼砲に頼った。攻城兵器の重砲は概してマレーの地形に阻まれて地帯を余儀なくされる。九八式臼砲は簡素を極めた構造が功を奏した。最悪は人力で運搬できる絶大な利点を遺憾なく発揮する。渡河を難なく成功させると早速に砲撃を開始した。36cmという14インチ砲に匹敵する大威力は英軍(豪軍を含む)の将兵に冷や汗をかかせる。その秘匿性の高さから何処から撃たれているか分からず、着弾時の猛烈な音に衝撃波は心理的な圧迫を加え、重砲が到着するまでの時間稼ぎを立派に果たした。




 これにダメ押しと言わんばかりに辻主席補佐(便宜的な名前)は石油貯蔵施設の制圧を提案する。敵に貴重な燃料を与えるぐらいなら燃やしてしまえは常套手段のため、守備隊に破壊工作を行わせない程の速攻を打ち込み、石油を丸ごと入手するが最善と評した。敵施設を迅速に制圧できる兵力と言えば空挺部隊以外に何があると問いただそう。オランダ領東インドの石油精製所と石油貯蔵施設を制圧する作戦を練っている中でリハーサルと考えれば絶好機と変わった。




「シンガポールの件は任せるが、にっちもさっちも、どうにもならん時は…」




「よく理解しています。無差…」




「絨毯爆撃の用意は整えています。必要とされるときは今すぐにでも」




「素晴らしい」




(この辻主席補佐も石原閣下も勝つためには手段を選ばない。それが正解なのか)




「どうした?」




「いえ、何でもありません」




 シンガポールなど戦地は一切を問わない。




 苦戦が続いて二進も三進も行かない時は情けも容赦も知らなかった。石原莞爾は中華内戦に介入した時から絨毯爆撃を愛用する。敵軍をピンポイントで撃つことは非効率的と断じた。いわば無差別的に撃滅する策として絨毯爆撃を志向した。実際に共産ゲリラを片っ端から吹っ飛ばすと石原莞爾の名を轟かせる一つの誘因となる。陸軍の高速爆撃機は近接航空支援の思想が色濃かった。例外的に四発の重爆撃機を海軍と共有する。大量の陸用爆弾を抱えさせて重戦闘機の護衛の下で焼き払わせた。




 これに辻を除いて大半が絨毯爆撃に強硬に反対する。大義ある戦闘に限りなくブラックに近いグレーを持ち出すことは歓迎できなかった。いかに強力と雖も世の中には尺度が存在する。誰もが非合法的な手段は採りたくなかった。石原莞爾という男は清廉潔白からかけ離れる。勝つためには手段を選ばないことで有名も有名だった。辻以外の側近は冷や汗が止まらない。




「それよりも」




「はい」




「帝都ないし主要都市の防空体制はどうなっている?」




「帝都など主要都市には高射砲台を数多も建設しています。15cm高射砲と12cm高射砲に加えて海軍さんの10cm高射砲を頂戴しました。ドイツ製88mm高射砲を改良した90mm高射砲が待ち構えています」




「帝都に関しては千葉県と茨城県、神奈川県に大規模な電探基地を建設しました。地上に建設する大型は容易に設置できます」




「陸地の弱点は固定されて融通が利かないこと」




「おっしゃる通りです。我々は航空機に小型の電探を搭載することを目指しました。現段階では百式司令部偵察機に小型の対空電探を装備して一定の成果を上げています。これより順次拡大させていきます…」




「迎撃機も続々と揃っています。流石に高度1万の敵機を落とすことは至難の業です。今は双発の重戦闘機に加えて局地的な防空戦闘に特化した局地戦闘機を配備しました」




「司偵を基に斜め機銃を装備した改造機もあります。石原閣下の仰られる米軍による本土の奇襲攻撃は考えづらく…」




 シンガポール攻略の話題から本土の防空体制に移行した。これまで連戦と連勝を重ねて本土の人間は見事に緩んでいる。これを引き締めるべく若干や誇張して米軍による本土奇襲攻撃の警鐘を鳴らした。もう言わずもがなである。ドゥーリットル空襲を警戒した。史実では満足のいく戦果は得られなかったが、米国市民に反逆の芽を出させ、本世においては厭戦気分を蔓延させて和平交渉をこぎ着けたい。何でもかんでも反逆の芽は摘み取るのだ。ドゥーリットル隊日本本土空襲は未然の阻止では温く、敢えて、本土まで来させて完膚なきまで叩きのめすがよろしい。




「あの米国である。空母に双発爆撃機を載せて来てもおかしくあるまい」




「海軍さんが大規模な空母艦隊を整備しました。米国に出来ないわけがあろうかと言う」




「米国を侮ってはならない。私は米国に何よりも敵愾心を抱くと相応に実力は認めた」




「よく理解することができました。高射砲の増設、帝都防空隊の拡充、早期警戒網の整備を加速させます」




「それでよい」




 陸軍内部でも「米英は弱小なり敵に非ず」という悪い空気が流れた。石原莞爾という男がお灸を据える。大日本帝国の陸軍大臣を超えて東亜連邦を牛耳る男の言うことに疑念を呈してはならず、仮に良くても予備役編入で悪いと監獄に送致され、よく腐敗が生じるが当の本人が優秀ならば関係のないことだ。




「フィリピンはどうだ? マッカーサーの所在は掴めているか?」




「マッカーサーの逃げ足は想像以上でコレヒドール要塞に引きこもりました。しかし、非常に大きな朗報がございます」




「ほう? 何だね?」




「空の要塞ことB-17を無傷に等しい状態で鹵獲することに成功しました。本土に輸送する準備を進めています」




「フフフ…ハハハ!」




 悪魔的な笑い声が部屋に響き回る。



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