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旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます  作者: 竹本田重郎


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155/156

第155話 日米講和調印式

=1945年3月=




 サンタクルーズ港に旭日旗とZ旗が翻る。




「日米講和なる。この戦争が終わるのだ」




 ついにアメリカのトルーマン臨時大統領は日米講和に応じた。国内の反戦デモは激化の一途をたどって軍隊が現地単位だが停戦協定を結んでいる。大統領の強権と雖も失墜してはゼロに向かった。これではヨーロッパ戦線を平定することも危ぶまれる。一応でも資本主義国家である大日本帝国と将来の脅威であるソビエト連邦のどちらを取るのだ。トルーマン自身も反共の性格が強く、大局的に判断せざるを得ず、約5年の日米決戦に終止符を打つ。




 政府間交渉が纏まり次第に調印式が開かれた。この間に捕虜交換や平和的撤収が進められる。オセアニア地域とソロモン諸島、ニューギニアからは全面的に退いた。マーシャル諸島とギルバート諸島も米軍は空白地帯と設定して両軍共に展開しない。日本が勢力圏と定めた一定領域は欧州諸国の旧植民地のため、現地指導者の下で独立を予定するが、バラバラに独立しては意味が無かった。創設を予定する国際組織の国際憲章に基づいて一斉に独立する。




 日本が奪取した米領のアリューシャン列島など細々とした島は元来無人島だ。しかし、米国に返還することも癪である。これは苦しい交渉の末に米国側が折れた。戦争が終われば価値は皆無である。常に濃霧が覆って強風が吹き荒れ酷い寒さという絶海の孤島なのだ。資源的にも目ぼしいものはない。日本側も米国の心情を汲み取り航空隊は全面的に撤収した。気象や生物の観測を行う人員を配置して学術的な拠点と決めている。もっとも、ソ連の急襲に備えて即応体制は整えておき、万が一は米軍も利用できる旨で決した。




「それではサインを…」




「失礼する」




「どうぞ、お構いなく」




 調印式はサンタクルーズ港に決定したことも複雑な理由が存在する。東海岸のワシントンやニューヨークで行いたいが、ドイツは未だ健在で新型Uボートを投入しており、日米講和を認めないと攻撃を仕掛ける危険性が指摘された。また、国内のKKKに代表される過激派の妨害も予想される。したがって、米国側は西海岸に出張した。日本側としてはアクセスが容易で助かるが非礼のないように礼節を尽くそうではないか。




 日本から使節団を派遣した中で重役を抽出すると、外務省から幣原喜重郎男爵と吉田茂、海軍から古賀峯一、陸軍から山下奉文が送られた。外務省はともかく陸海軍の人選が謎である。現場単位だが大将級の重鎮でお飾りにちょうど良かった。お飾りでもトラック島防衛戦の総司令官と南方作戦の総司令官を侮ることは許されない。




 しかし、究極的な代表者が大東亜総司令官の石原莞爾だった。本人は「トルーマンが来いと言わなければ」と固辞する。天皇陛下より直に「石原。どうか行ってくれぬか」と言われてしまった。こうなっては固辞のやりようがなくなる。おそらく、天皇陛下の信任が厚い阿南が口添えした。




「これは漢字が良いのかな。それとも私的なサインがよろしいか?」




「どちらでも…」




「それでは漢字だな。私のサインが欲しければ気軽に言ってくれ。色紙を持参してきた」




 この場で洒落を投じる茶目っ気に米兵からも笑いが聞かれる。彼の英語は日本訛りしているがハッキリと聞き取ることができた。こんな人物が日本とアメリカの戦争を指揮している。俄かには信じられなかった。彼は指定された個所にスラスラと流麗な漢字を記していく。一連の所作に美しさを覚えた。何かと噂される人物だが固い芯が通っている。




 日米の代表者が調印式を開く舞台は日本海軍の信濃型航空母艦2番艦『土佐』だ。本当は勇ましい戦艦を使いたい。トラック島を巡る海戦から大半が損傷して未だ修理中なのだ。大和や長門は動かせない。金剛型姉妹は適さなかった。航空戦艦も威容に足りない。したがって、日本海軍を象徴する航空母艦が持ち上がった。その中でも巨大で威容を振り撒く信濃型が採用される。2番艦の土佐は新造艦だが練習航海も兼ねた。搭載機は新型機だが大半が燃料と弾薬を抜いたハリボテで高角砲と高角機銃も同様の措置である。




 しかし、アングルドデッキや蒸気式カタパルト、ジェット艦載機など見た目は立派だった。今日は日米講和の式典で使用されるが、明日には共産主義者を穿つために用いられるかもしれず、これからは過去を振り返らずに未来を志向する。すでに反共政策で一致の調整を急いでいた。




「これで全員分の署名が集まった。大日本帝国とアメリカ合衆国は講和条約を結んだ。我々は資本と自由を守るために新たな敵と戦わなければならない。昨日の敵は今日の友だ。さぁ、握手しようじゃないか」




「まったく…こいつは」




「食えん奴だよ…本当に」




 石原莞爾の暴走が始まったと大きなため息が聞かれる。アメリカ側はドッと笑いが巻き起こった。アメリカの海軍代表チェスター・ニミッツと陸軍代表オマール・ブラッドレーと連続して握手を交わす。もはや止まることはできなかった。両国の代表者は苦笑いを浮かべるが案外と気分の良い。これを聞いたトルーマン臨時大統領は苦笑いしたようだ。




 これにて日米講和の式典は終了する。条約の効力など面倒なことは言わなかった。もう戦争は終わったのである。お互いに交流を深め始めた。水兵同士も言語の壁を超えようと身振り手振りを交えコミュニケーションを図る。これこそあるべき姿なのだ。戦争さえなければと言うが、綺麗事の最終形に過ぎない。両国の利害を超えて人種的な衝突だった。アメリカの白色人種の誇りと日本の黄色人種の怒りが真っ向からぶつかっている。この戦いの勝者は日本だった。




「ドイツの戦いはどうなりそうですか。あぁ、日本は局外中立ですよ」




「正直言って難しい。大西洋の壁の一点を突破して食い広がりたいがな」




「敵前上陸ほど難しいことはありません」




「あぁ、ぜひとも、強襲上陸のスペシャリストの教えを請いたい」




「言ったでしょう? 中立だと」




「手厳しい。ヒントをくれても」




 日米講和により太平洋戦線は幕が引かれる。アメリカは太平洋と大西洋ひいてはヨーロッパの二正面を見ていた。片方が終わればもう片方に集中することができる。あえて言うまでもないことだ。連合国は約1年遅れでノルマンディー上陸やイタリア北上、フランス南部上陸など大作戦を次々と展開する。ドイツは大西洋の壁という要塞線を構築して上陸を阻止してきた。その間にソ連の侵攻を抑えるどころか、最近は局所的に勝利を収めており、連合国の状況は芳しくない。




 これで日本が参戦してくれればであるが局外中立の方針を崩さなかった。ドイツのポーランド侵攻時点から方針は変えていない。一部協力を噂されることはあれど対岸の火事と傍観者に徹した。もちろん、自国民の避難など非戦闘の動きは見せるが事前の通達は徹底している。軍事的には何ら動かなずに勝手にやってくれと言わんばりだ。連合国としては敵前上陸のスペシャリストに助言だけでも欲しいもの。




「それにドイツは落ちるでしょう。時間の問題ですよ」




「まぁ、それはそうだが、ソビエトに盗られるのがな」




「心中お察しします」




「日本こそ大丈夫か。ソ連が南下してくるかもしれない」




「ご心配には及びません。関東軍が張っています。あの男の私兵ですよ?」




「それなら安心できる。もう二度と敵対したくないよ」




 次なる標的がソ連に定まったところで強風が吹いた。帽子を取られそうになって必死に頭を押さえる。その風が日本の旗とアメリカの旗を強く揺らした。風が収まると一斉にカモメが飛び立つ。




「カモメよ。どこへ向かうのだ…世界もどこへ向かうのか」




続く

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