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旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます  作者: 竹本田重郎


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第138話 石原の糖分補給

本土に一通の文が届けられた。




「トラック島防衛成功。我が方の勝利」




 これを受け取ったのが石原莞爾である。インドの戦いを終えて輸送機で帰国していた。陸軍の戦いはひと段落してお休みに等しい。インドのイギリス軍は撤退してソ連は中立条約をきっちりと守り(ドイツ侵攻に総力を挙げているだけ)、アメリカ軍の反撃も弱かった。ニューギニアの上陸を恐れていたが、オーストラリアが使えない中では難しく、そもそも輸送船も不足気味で兵士を送れない。




 日米海軍がトラック島を巡って大激突した。陸軍に関係ないことでも緊張はひとしお。海軍が動けなくなれば陸軍が守る島々に大艦隊が迫った。圧倒的な火力により粉砕される。是が非でも殲滅してほしいものだ。仮に勝敗つかずとも遅滞を強いることができればよい。




「そうか海軍は勝ったか。山本さんはご苦労様だった」




「裏は取れておりませんが、スプルーアンス以下の将校も死傷し、少将級が個別に指揮を執っています。ハワイと本国で修理を進めるものと予想されます」




「どれだけだ」




「1年は動けないと」




「結構だ」




 詳細な報告は上がっていなかった。空母機動部隊決戦は大勝利を収めて戦艦決戦は辛くも勝利したらしい。敵将を討ち取ったのか不明だが通信は倍増した。少なくとも、約1年間は太平洋において大規模な作戦を展開できないはず。




「そうなればだ。必然的に大西洋に閉じこもり、ナチス・ドイツに止めを刺したいが、これだけ主力艦が削られれば動けない。イギリスやフランスは激怒してアメリカに停戦を求める可能性が出てきた」




「はい。現にチャーチルは葉巻の消費量が増えていると」




「首相とは大変な職務だよ。陛下に良い報告ができる」




「これからは何を…」




「太平洋を平定した以上は本国を撃つんだ。ハワイでも良いが海軍の仕事であるよ」




「ここでハワイ攻撃ですか…」




「別にあり得んことではない。油の貯蓄は心許ないが油槽船を増やせばどうにかなる」




「しかし、どうやって?」




「輸送船は届きません」




「重爆撃機も同様です」




 石原莞爾は太平洋の動乱が収まったことを受けて次の一手に移行した。太平洋が落ち着いた以上は次に狙うべきは大海洋を超えた先のアメリカ本土に定まる。参謀たちは疑問を抱かざるをえなかった。米本土空襲が真っ先に上がるも重爆撃機の航続距離は届かない。輸送船を投じて上陸することも考えられたが荒唐無稽で自ら振り払った。




「アリューシャンだよ。私がアリューシャンに拘った理由がじきにわかる」




「は、はぁ…」




「なるほど、アラスカから攻め込みますか」




「そんな馬鹿はせんよっと…」




「どちらへ?」




 おもむろに立ち上がると出かけるような素振りを見せる。この後の予定は決まってないが変に動かれては困った。未だに石原莞爾を嫌う勢力は多く暗殺の恐れがある。それ以前に中国人を装った工作員が襲い掛かることも否めなかった。したがって、参謀又は副官、護衛がつかなければならない。




「なんだ甘味を買いに行くだけだ」




「内部で買えるもので…」




「軍隊の食は美味いんだが市民の味を食したい。シベリアでも買いたいが欲しい者はおるか?」




「それならば使いの者を出しましょう。見習い士官でも…」




「馬鹿者が! 未来を担う若者を顎で使うな!」




「も、申し訳ございません…」




 彼は「まったく、やれやれ」と言いながら軍服のままに出かけようとした。もう止められない。最低限の護衛は付けると屈強な兵士が帯同した。参謀たちは海軍との調整や前線の把握、情報戦の対応など多忙を極める。名誉の負傷など前線勤務が難しくとも格闘術に長けた歴戦の勇士が前後左右を固めた。その兵士たちにも「シベリア食いたいか? 甘いものは欲しくないか」と聞き回る。あまりの態度に驚きながら厚意を無碍にできなかった。




「金は心配するな。それに平和な時こそ楽しまないとな」




「一応は戦時中であります」




「そうだ。それだからなんだ。前線の者がと言うことは自由で構わん。しかし、気を張りすぎては疲れる。長生きできんぞ」




 帝都は今も平和気分と賑わっている。多少の物資不足は生じるが十分に生活できた。繫華街を眺めながら歩き馴染みの菓子屋に向かう。変に高級な和菓子や洋菓子の店よりも庶民の小さな店が好きだった。陸軍屈指の甘党と知られる。海軍の菓子職人に頼み込むほどの甘党で奇人変人に拍車をかけた。




 もっとも、それは切れ味鋭い頭脳を維持するため。玄米や白米、パンなど炭水化物だけでは足りなかった。甘みの源泉である糖分を入れなければ働かない。これをよく知る者は賄賂を贈るが、そこの棲み分けはキッチリしており、菓子だけもらって裏から手を回した。




「君は日本で最も高い山を知っているか」




「はい。富士でございます。あれに勝る山はありませんので」




「そうだ。富士ほど美しい山もないな。アメリカの山なんぞ話にならん」




「まったくです」




 何が言いたいのかわからないが同調するが吉である。石原莞爾は突拍子もなくヘンテコなことを言い出した。これを否定すると気分を害する故に同調が絶対的な正解だろう。参謀と副官は本当に大変だろうと思われた。護衛中の他愛のない会話に過ぎないが懸命に耐えている。




「明日の新聞には載るだろうな。トラックは守られた」




「ここで話して大丈夫なのですか。失礼なことを申し訳ございません」




「いや、結構だ。しっかりと情報の意識ができている。その答えは問題ないだ。むしろ、奴らに教えてやる。我々が勝利した。アメリカが海戦に負けた」




 そうしている内に菓子屋に到着した。お婆さんが店番をしているが軍人の集結には動じない。明治期から生きているお婆さんはこの程度では動じなかった。一般客と同じように注文を聞いてくる。副官と参謀、護衛の兵士たちを含めた注文を行うと先に支払いを済ませた。軍で働いているとお金を使う機会が限られる。部下たちに恩を返すことはもちろん、市民に潤いを与えるために自腹を切り、これも石原の配給の一つだ。




「お婆さん。明日の朝刊は楽しみにしていなさい。私から無料で配るようにいっておくからな」




「えぇ、えぇ、そうしますね」




「そうしておくように。急にすまなかった」




 シベリアや饅頭、大福など多めに仕入れて戻る。護衛の兵士は「持ちます」と奪っていった。歴戦の勇士に菓子を持たせることは気が引けたが今となっては慣れたこと。彼らは石原莞爾に余計なことに頭を使わせないことも担当した。その思考を邪魔してはならず、かつ邪魔になりそうな要素を排除することで、日本が勝利する策を講ずる。




「寒空の中を富岳が飛んでいく。シアトルの工場を破壊し、ポートランド海軍基地は消え、サンフランシスコとロサンゼルスは灰燼に帰すのだ。いつかではない。今こそ神聖なる陛下の皇軍が鉄槌を下す」




 護衛の兵士たちは敢えて何も聞かなかったふりをした。5分後には忘れている。これも一つのスキルだ。石原莞爾に最も近い人物な故に不都合な事項を知る機会が多い。その度に記憶を改ざんしていた。皆でたくさんの菓子を提げて戻ろう。




 その頃のトラック島では古賀峯一が島のことを部下に押し付けた。山本五十六を筆頭に各部隊の整理に追われている。本土と精密な通信ができるため、海戦の詳細を1秒でも早く纏めて送らねばならず、その前に無事を祈って仕方がなかった。空母同士の撃ち合いに始まり戦艦同士の砲撃戦に終わる。あまりにも激しく非効率的な戦いだった。まだ断片的な情報の報告しか受けていないが、トラック島を巡る戦いは端的にできる。




「なんて酷い戦いだ」




続く

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