第137話 スプルーアンス絶体絶命
スプルーアンスからみても撃ち合いは地獄だった。
「よし! ナガトクラスは沈んだ!」
「しかし、ウィスコンシンは傾斜から復旧できず痛み分けです」
「数で優っている。このまますり潰せ!」
日本海軍が勝手にビッグ7と称したナガトクラス1隻は爆沈している。すでに沈没を始めて胸がスカッとした。しかし、参謀の指摘通り。アイオワ級戦艦ウィスコンシンは大傾斜から復旧できそうもなかった。痛み分けという見方も間違いではない。現在はアイオワ級戦艦3隻とサウスダコタ級戦艦2隻で圧倒していた。
「アラバマ被雷!」
「被雷だと!? 駆逐艦は何をしていた!」
「敵駆逐艦突っ込んできます! 味方の駆逐艦は壊滅!」
「くそっ。フレッチャー級は非力か。日本の特型はモンスターだ」
「副砲を使え。5インチ砲だ」
「はい!」
スプルーアンスは勝利を確実としたい。神様は試練を数多も与えてきた。サウスダコタ三女と四女はナガトクラスに充てた都合で隊列から若干離れている。敵艦隊はナガトクラスで対抗してきた。日本海軍で最も恐れるべき駆逐艦が護衛艦の防壁を突破する。フレッチャー級で固めた駆逐隊で受け止めようと試みた。敵駆逐艦は特型駆逐艦の最終形らしく太刀打ちできない。
アラバマが被雷した。まだ敵駆逐艦と距離があるにもかかわらず直撃させる。日本海軍の酸素魚雷は高威力かつ高速なのだ。遠距離でも狙いを絞れば直撃を見込んだが何よりも操る兵士の質が違う。日本海軍の水雷戦は世界最強を誇った。まさかの一撃に浮足立つ。
「マサチューセッツを呼び寄せろ! アラバマは海域から退避を認める! 残存駆逐艦は煙幕を展開して退避するんだ!」
「それでは駆逐艦を防げません!」
「副砲で撃退するんだ! 主砲は敵戦艦! 副砲は駆逐艦! 数で押しつぶす!」
サウスダコタ級戦艦の水雷防御はノースカロライナ級から向上するどころか低下していた。酸素魚雷は1本食らうだけでも戦艦を離脱させられる。当たり所が悪ければ大浸水を招いて撃沈も狙えた。それを2本被雷してアラバマは一時退避を選択する。砲撃しながらダメージコントロールの応急修理は困難だった。残存のフレッチャー級がピッタリと寄り添うと煙幕を展開して離脱していく。
これでサウスダコタ級戦艦はマサチューセッツのみでナガトクラスとタイマンに変わった。しかし、スプルーアンスは先刻の雷撃から集中的な防御を採用する。マサチューセッツを呼び寄せると数的有利を活かした押し潰しに入った。敵戦艦はナガトクラスとヤマトの2隻だけである。このまま勝てると勝利が近づいていることに胸を躍らせた。
「弾着!?」
「なんだ! 何処にいる!」
「敵戦艦新たに2隻左舷に! コンゴウクラス! コンゴウクラスだぁ!」
「右舷にも出現! コンゴウクラスです!」
「なんだと…これが狙いか!」
「やられた。前のめりになっていたところを挟撃される」
「後部主砲をコンゴウクラスに充てろ! 前部主砲はナガトクラスとヤマト!」
敵戦艦が異様に少ないことに疑問を抱いている。スプルーアンス以下は正規の砲撃戦に踊ってしまった。やはり海戦の主役は戦艦であるという気持ちが否めない。空母が艦載機を飛ばし合うことは海戦と言えないのだ。お互いが目視できる距離で殴り合うことが正真正銘の海戦である。その中で挟み込まれるように弾着を視認できた。カラフルな水柱と16インチに劣る大きさは14インチぐらい。電探よりも先に見張り員が正体を告げた。
金剛型戦艦が2隻ずつ左右から挟むように砲撃してくる。日本海軍の中でも老齢に該当したが巡航戦艦由来の快足は脅威だった。14インチ砲は非力だが快足で有利な場所を取られている。それ以前に正面の長門と大和もいるため、事実上の包囲に遭っており、駆逐艦も肉薄したいと好機を窺っていた。主砲が唸るも命中弾は減っている。米戦艦も電子機器が衝撃により不具合が生じてしまった。
「まずい…このままでは退路も断たれます!」
「前進しろ! 正面の戦艦を潰す! それからコンゴウクラスだ!」
「Yes , sir!」
「それしかありませんな」
「ここで下すのだ! 勝者はアメリカ合衆国でなければならない!」
アイオワ級戦艦3隻とマサチューセッツは加速を開始する。ウィスコンシンは見捨てざるを得なかった。まずは正面の2隻を潰してから左右の4隻を叩く。包囲から脱すべく機関をフル回転させた。30ノットを超えようと機関が壊れるのではないかと前進する。これまでに数多も被弾しているが対16インチ防御が機能して重要区画は無事だが、5インチ両用砲と40mmボフォース、20mmエリコンは全滅しており、ナガトクラスが意外と正確に狙ってきた。
「艦を立てい! 被弾の面積を減らせ!」
「はい!」
「ミズーリ甘いぞ! それでは弾けん!」
「ダメです! ミズーリは操舵系が破損して艦を動かせていません!」
「ヤマトの18インチか…」
アイオワも被弾し始める。多く揺さぶられて艦長が床に叩きつけられた。額から血を流している。意識はハッキリしているが脳震盪の恐れが呈された。スプルーアンスは部下を大切にする。即座に軍医を呼んで搬送するように命じた。
「くそぉ…14インチめ」
「ヤマトがミズーリを向いている!」
「ヤマトを撃て! あれを沈めれば勝機はある!」
左右から14インチ砲弾が落下して焦燥感が蔓延する。主要区画は弾けているが度重なる被弾により電源が寸断され始めた。通路も破壊されてダメージコントロール班の移動に支障をきたす。
「副砲弾薬が誘爆! 火災発生!」
「消火だ! 急げ!」
「それがあまりにも破壊されていて動けません! ダメージコントロール機能しません!」
「進むのだ! 止まるな! 進めば勝てる!」
「ヤマトが砲撃! 狙いは…ミズーリ!」
ミズーリは至近弾から操舵系が破損したせいか挙動がおかしかった。集結して集団的な自衛を試みるが合流できそうにない。半ば孤立したところを大和が狙った。確実に削り取ると言わんばかり、三連装砲は焦げているがゆっくりと旋回し、ミズーリを向いている。奴は18インチの46cm砲を搭載して装甲も対18インチ防御を想定した。16インチでは痛撃を与えられない。
覚悟していたことが現実と現れた。左舷より後方から耳をつんざく轟音が聞こえる。仮に両耳を塞いでいても貫通してきた。見たくないが否が応でも見させられる。ミズーリは火達磨と燃えていた。艦橋まで火に包まれている様子から指揮系統は壊滅している。
「主砲をやられたか…」
「マサチューセッツが落伍! 機関をやられたもよう!」
「アイオワが盾に…」
「ニュージャージー被弾! 炎上!」
「なんだ、どうして燃えている!」
「敵艦は焼夷弾です! 14インチの焼夷弾を撃っています!」
「なんだとぉ! そんな卑劣なぁ!」
金剛型は己の36cm砲が通じづらいことを理解した。そこで、電子兵装を焼き払い兵員を死傷させられる焼夷弾の三式弾を装填している。対空用で時限信管だが信管を調整すれば着弾した際に炸裂に変えられた。もちろん、装甲を貫くことはできないが両用砲と機銃を溶かし、超高温の区画を形成することで砲弾の誘爆も期待でき、悪魔の砲弾と機能している。ニュージャージーは度重なる被弾に大火災が発生した。火災を放置していると主砲弾薬庫が高温に晒された末に自爆しかねない。
「敵駆逐艦40ノットに迫る勢い!」
「コンゴウクラスが砲撃!」
「ヤマトがこちらを向いてくる!」
「ナガト接近!」
「後方新たに戦艦4隻! 高速で接近中!」
「もはやこれまでか…ならばヤマトだけでも討ち取る! 全砲門をヤマトに向けよ!」
距離は2万メートルはおろか1万メートルに入るがお互い向き合った。グングンと距離は縮まっている。スプルーアンスは覚悟を決めてヤマトを討つことに決めた。艦橋と艦橋を相互に視認できる時に敵将を認める。
「アドミラル…ヤマモト…見事だ」
続く




