第136話 日米戦艦大激突
米艦隊は高速魚雷艇に翻弄されながらも砲撃戦の体勢を整えた。駆逐艦が魚雷艇を40mmと20mm、12.7mmの銃撃により寄せ付けない。魚雷艇の雷撃は安価な空気魚雷を使用した。夜間に雷跡がクッキリと出る。回避は容易かった。しかし、その間に彼我の距離は約2万メートルまで縮まる。
「敵艦砲撃!」
「狼狽えることはない。当たらんよ」
「長門と陸奥は奥のサウスダコタ級戦艦を狙え。アイオワ級戦艦は大和が引き受けた!」
「あまりにも危険ですがやりましょう。三川中将の金剛と榛名、霧島と比叡が到着します」
山本艦隊は一世一代の大博打に出た。大和と長門、陸奥の数的劣勢にもかかわらず、敵艦隊に突貫する動きを採用して距離を縮めていき、長門と陸奥にサウスダコタ級戦艦2隻を充てる。大和は単騎でアイオワ級戦艦4隻を相手にすると言い出した。大和が世界最強の戦艦というがアイオワ級戦艦4隻を引き受ける。危険どころでなかった。
山本五十六は確実な情報を握っている。というのも、アイオワ級戦艦の3番艦と4番艦は就役間もなくだった。その練度はお話しにならない。微細な課題を見つけて調整する航海もここまでの移動中に済ませる焦りが見えてきた。米海軍はライバルたる米陸軍の失態を見て「今が好機」と太平洋中央部の攻略を開始する。これで主導権を握って日本本土まで一気に攻め込むつもりだ。それに伴いエセックス級やインディペンデンス級、護衛空母を連れ、アイオワ級戦艦も前倒しさせている。
「敵さん庇うようです。長官の読みが当たりましたな」
「やはり…」
「敵弾来ます!」
「外れる。当たらん」
山本五十六は航空畑の人間だが砲術の素人とも言えなかった。戦場特有の空気からスピリチュアルな感覚を研ぎ澄ます。経験豊富な軍人は己の勘より着弾の位置を予想できた。
「全て近弾! 着色料がよく見えます!」
「さすがはアメリカさんだ。良い塗料を使っている」
「やられっ放しではいられません。ご指示を」
「撃ち方始め」
敵砲弾は手前側に落下して水柱を立てる。各艦が識別できるように塗料を混ぜて色鮮やかだった。それもカラフルに手前に落ちている故に笑みがこぼれる。アメリカの確かな工業力に基づいた良質を視認できた。しかし、水柱が一際大きいことから16インチの41cmでも大威力は間違いない。
敵艦に撃たれて何もしない平和主義者はどこにもいなかった。修正を急いでいる隙に叩き込む。こちらは陣形を崩さずに電探を稼働してアナログ式コンピュータもキビキビと働いた。微細な修正も完了している。山本五十六の一声で咆哮をあげた。世界最大の18インチこと46cm三連装砲の2基が火を噴く。艦後部の1基は射角の都合で待機中だった。
「長門も陸奥も続きます!」
「サウスダコタ級戦艦動きあり! アイオワ級から離れます!」
「どうやら汲み取ってくれたようだ。敵将は正々堂々とした勝負を望んでいる。そうもいかない」
「敵弾第二射来ます!」
「流石に早いというより数の差であるか。衝撃に備えろ。今度は当たるぞ」
1対4ではそもそも砲弾の投射量が違う。大和が撃てば数倍以上になって返された。2万メートルの距離は近距離に匹敵する。魚雷艇を振り払うと真剣に狙って来た。今度は外さないと言わんばかり、レーダーと射撃指揮装置、高度なコンピュータの組み合わせはアメリカンである。仮に精度が悪くとも数を撃てば当たるのだ。実に合理的かもしれない。
米海軍が誇るスーパーヘビーシェルのSHSが落下してきた。超重徹甲弾は大和を挟み込む。いわゆる『夾叉』という状態に陥った。砲撃戦では敵よりも早く持ち込みたい。なぜなら、これは照準がある程度正しいことを示した。微調整の微調整だけでよい。どんどん撃てば命中に期待できるのだ。もっとも、直撃したからと喜ぶことも早計である。大和は大きく揺さぶられた。艦長が声を張り上げる。
「損害知らせ! 応急修理班出動!」
「機関に異常ありません! 航行支障なし!」
「電探異常無し!」
「一番砲塔に被弾すれど損害無し! 負傷者もいません!」
「砲塔正面にぶち当たりましたが弾き返している。変なところに水柱が立ちました」
一番砲塔から報告が上げられるも異常無しとあった。あいにく、最も装甲が厚い箇所に直撃している。傾斜もかかっているため、被弾経始が機能しており、見事に滑らせた。そのまま変な方向へ飛んで行き海に飛び込む。
「これぞ大和か。我が方は?」
「遠弾です。修正を進めています」
「三番を撃て。修正を待つな」
「はい!」
三番砲塔は射角を用意されてウズウズしていた。一番砲塔の被弾は知っている。そっくりそのままお返しするんだ。夕食にいただいた必勝の赤飯は腹持ちに優れて集中力を欠かさない。最後の照準を担当する砲撃手は両目をかっ開いた。艦橋から怒声の形で外れの一隻を狙いように指示される。
「一隻が外れそうだ! 逃すな!」
「狙え! よく狙うんだ!」
「わかってます!」
「長門と陸奥も撃っているぞ。負けちゃいかん」
「サウスダコタ級は任せたぜ」
彼らは鋼鉄の中で把握できなかった。外では激烈な撃ち合いが繰り広げられる。すでに大和はアイオワ級戦艦から集中的な砲撃を受けた。前方二隻は手練れのようだが後方二隻は素人同然である。徹甲弾のシャワーを浴びて何度か船体を揺さぶられた。高角砲や高角機銃は吹っ飛んでいるが、担当は内部に引っ込めて、応急修理班に充当している。
「もう少し…もう少し…今ぁ!」
「撃てぇ!」
夜空をビリビリっと切り裂くが如く九一式徹甲弾が撃ち出された。たった3発だが致命傷を負わせるに足りる。そして、この徹甲弾は唯一無二の特性を有した。第一射が後方に落下する遠弾と確認する。前方寄りに修正するが途中で切り離されて中途半端な狙いで撃ってしまった。それでも大まかには陣形から外れたアイオワ級戦艦1隻を捉えている。
「近い! ダメか…」
「いや、九一式なら行けるはずだ!」
「アメさん。大和を舐めるんじゃねぇ」
案の定か手前に落下したが敵艦は回避機動を採らずにいた。このまま待っていれば自然と戦果は上がってくる。再装填を急いでいると各所から歓声が聞こえて来た。鋼鉄の鎧に包まれているが心は通っている。
「見たか! これが九一式徹甲弾の水中弾だ!」
「喜ぶのは終わりだ! 次だ! 次だぞ!」
それは艦橋が一番正しく理解できた。敵艦に突如として被雷したような水柱が生じる。高速魚雷艇の雷撃は完了済みだ。これこそ大日本帝国海軍の秘密兵器である。主力の徹甲弾たる九一式徹甲弾は着水時に条件が揃うと水中弾と機能した。スーパーキャビテーションと呼ばれる物理の力に基づく。46cm徹甲弾に込められた破壊が脆弱な部分に集中する。
「よっしゃ!」
「あれは暫く動けん。一番と二番は手前の二隻を狙え! 三番は後方の一隻だ! 三基で三隻の計算である!」
「大和頼みの戦い。行きましょう」
アイオワ級戦艦4番艦ウィスシンコンだった。彼女は重大なミスを犯したかのように思われる。実際は操舵系の不具合ときた。戦闘の最中で無茶な動きから不具合が生じる。懸命に輪を乱さぬように努めた。九一式徹甲弾の水中弾により大破孔が生じて浸水が始まる。艦長は直ちに排水作業を命じるが戦場の混乱から遅々として進まなかった。実質的に落伍して離脱に等しい。これでアイオワ級戦艦は3隻になって大和の主砲で対応できた。一番と二番を前方組2隻に充て三番を後方単騎の1隻に充てる。なんという力技だが相応に代償を払った。
「電探の出力不安定です!」
「やはり衝撃に弱い。光学的に照準せよ」
「切り替えます!」
電探は極めて強力な手札だが電子的な故に衝撃に弱い。特に戦艦の撃ち合いは極度の衝撃を被り易かった。大事に装甲に守られているが衝撃は阻めない。これからは耐衝撃が求められた。
「陸奥が被弾しました!」
「陸奥と連絡をとれるか! 大和に隠れても構わん!」
「あ、あぁ! 陸奥が!」
「主砲弾薬庫をやられたか…」
砲撃戦は大和とアイオワ級だけでない。長門と陸奥、サウスダコタ級戦艦の撃ち合いも追従した。両者とも16インチ砲搭載のため、いつ吹っ飛んでもおかしくないが、呪いと言うべき事象がある。陸奥が三番と四番の中間から大爆発を引き起こした。三番砲塔は艦橋を超えて飛んで行く程の衝撃である。四番から船体は複雑に折れて大傾斜を開始した。
「長門から通信! 仇を討つと…」
「長門が突っ込んでいきます!」
「追ってはならん! 追ってはならんぞ!」
サウスダコタ級戦艦のSHSが主砲弾薬庫を貫いている。長門型は対16インチ砲の防御力を有したがSHSの破壊力が上回った。アメリカンなパワーは侮れない。一気に形勢は不利と変わった。大和と長門のみで戦艦5隻を抑えることは不可能である。三川中将の金剛型姉妹が待たれた。
「三川はまだ着かんか…」
「敵弾来ます!」
再び被弾する。今度は艦尾の水上機の区画を抉り取った。三番砲塔は無事だが電源が不安定らしい。予備を回して安定の維持に努めて応急修理班が急行した。大和は不沈と信じている。
「サウスダコタ級戦艦が狙って来ます!」
「まずいか…」
その時だった。
また違う塗料の水柱が敵戦艦を挟み込む。
「三川艦隊! 三川艦隊です!」
「よし! たたみかける!」
続く




