第132話 神風攻撃隊
エセックス級のCICは機能不全に陥った。
「敵機はあまりにも高速! レーダーが遅れます!」
「なんだ! 何が起こっている!」
「ヘルキャットが追い付けないだと! どんな化け物だ!」
レーダーが捉えた反応はあまりにも高速で処理が追い付かない。ヘルキャットのパイロットも早々に引き離された。視力に優れる者は「プロペラがない」と報告する。無人飛行機にしては機動が人間らしさが見えた。明確に対空砲火を回避する動きは有人機である。艦隊防空を嘲笑するように突っ込んできた。
「敵機は少ない! 落とせ! 落とすんだ!」
「ダメです! 肉眼でも!」
「黙れ! やる時はやるんだ! ジャップに技術力で負けているはずがない!」
この直後にエセックス級バンカー・ヒルは右舷に被雷して大きく傾斜する。CICを猛烈な揺れが襲って人員はもちろん機材も傷ついた。米海軍の誇る管制は規格外の新型機に崩される。どんなに堅牢な城と雖も新兵器の前に崩落するものだ。大阪城の戦いでは家康軍が大砲を用いて難攻不落の要塞陥落を招いている。
バンカー・ヒルの甲板のスレスレを通過したがあっという間に豆粒と変わった。戦果確認をしたいがあまりにも高速で自分達もわからない。魚雷が直撃した際の音と衝撃波は微弱だった。まさに神風の一撃である。我々が神風攻撃隊なのだ。
「神電は速すぎますよ。敵空母が見えません」
「そりゃ速くないとグラマンに追い付かれるからな。アメさんに追い付かれるような足じゃない」
「直撃したいと信じたいですがどうでしょう」
「当たっているよ。あれは直撃間違いなしだった」
モートロック諸島を発した特別攻撃隊は米空母艦隊に痛撃を浴びせ回る。源田実の発案により創設された。ドイツから供与と称して盗んできたジェットエンジンと航空機の技術を国産化している。日本の総力を結集して開発した国産のジェット機である神電で構成された。
神電の攻撃機仕様は固定武装を減らした代わりに胴体内部に爆弾倉を設けている。本家のMe-262シュヴァルベとは全くの別物だ。当初から攻撃機と開発されたことが幸いしている。戦艦や空母の大物を仕留めるために徹甲爆弾は不足が否めなかった。一発で確実に沈めるためには航空魚雷が適任である。それも単なる量産型の航空魚雷では足りなかった。本来は陸攻以上の大型爆撃機が用いるM魚雷を素体に小型化したK魚雷を吊架する。
超高速の雷撃に耐えられるように改良の限りが尽くされた。時速800キロから放り投げることを考える。海面に突っ込む際の衝撃の強さ、そのまま海に沈んでいかないか、信管が作動せずに不発になるのではないか、ありとあらゆる角度からアプローチを試みた。弾頭には最上級の高性能炸薬を詰め込み、制御装置も贅沢の限りを尽くし、K魚雷一本で何でも買えそうな金額に膨れ上がる。
「燃料は余裕がある。よっし…」
「やりますか?」
「あぁ、20mm機銃で掃射するぞ」
「はい。魚雷がなくても戦えますから」
バンカー・ヒルを襲った一発は艦尾に直撃した。その威力たるや凄まじくプロペラを吹っ飛ばしている。一気に航行能力を奪い去るだけでなかった。右舷に大破孔を生じさせている。機関部自体は健在だったが火災から黒煙と一酸化炭素が発生して機関科の兵士が中毒に倒れた。これを受けて艦長は直ちにダメージコントロールの開始を命じる。しかし、混乱の最中で冷静を欠かさずに作業を行えるベテランは少数だ。新兵は猛訓練で鍛え抜かれている。実戦という舞台の経験に欠けた。極度の緊張と混乱から注水作業を誤る。
「なんだ、敵空母は大傾斜しているな」
「うちがぶち当てた空母じゃないですか?」
「わからん。機銃じゃどうしようもない。適当な駆逐艦を撃つ」
「お願いします」
「誰か! 魚雷がある奴は大傾斜の空母を狙ってくれ! 確実に仕留めるんだ!」
まさかのヒューマンエラーが生じた。艦長の指示と真反対に注水作業を始めて被雷による傾斜から角度を増しているではないか。エセックス級空母は水雷防御を向上していると言い張った。実際はワスプやヨークタウン級よりも低下して2本被雷すれば転覆しかねない。
「アレを仕留めろってか。やるしかない」
「敵機引き離します! 行けますよ!」
「わかってる。興奮は毒だぞ…」
モートロック諸島に配備された神電は少なかった。ジェット機を安定して運用するために高品質な逸品を選んでいる。すでに大半の神電が各々の定めた標的に航空雷撃を成功させた。源田のT部隊から一層も選別した精鋭中の精鋭が動かしている。
「雷撃補助装置頼むぞ…」
とはいえ、超高速の雷撃に職人技を期待することは酷な話だ。日本軍が職人気質ということは有名である。これに非合理的を呈して最新の電子機器の補助を与えた。補助装置は自機の高度と速度から最適なタイミングを教えてくれる。ランプが点灯した瞬間が絶好機だ。これによりパイロットは操縦に集中できボマーも余計なことに頭を使わずに済む。
あまりの高速にグラマンが豆粒ほどの大きさに変わった。グラマンは意外と低速で恐れることはない。米艦隊の内側に侵入すると猛烈な対空砲火が出迎えると聞くが敵弾は全て後方で炸裂した。レシプロ機の速度を想定してジェット機の速度に電子機器すら追い付けない。
「あれだな…このまま…このまま」
「真っ直ぐ飛ぶぞ。任せる」
「はい…このまま…このまま!」
敵空母は傾斜の最中で沈黙を貫いた。駆逐艦が助けられないかワラワラしているが気にも留めない。人間の錯覚から敵空母の姿がグングンと大きくなり視界を占めた。経験の浅い兵士は恐怖心から魚雷投下ボタンを押す。実際の距離はかなり離れていた。T部隊上がりの精鋭のベテランは己の感覚を信じずに雷撃補助装置を信じる。豆電球ほどのランプが点灯した瞬間にボタンを押した。
「引き上げ!」
「いけぇ! 命中しろ!」
敵空母が傾斜している都合で自機の引き上げは目一杯に行う。彼らの優れた動体視力は米海兵の呆気にとられる姿を捉えていた。日本とアメリカが戦争に入らなければ出会うことはない。そんなことを考えることもなく急速離脱を選択した。ジェット機の燃費は劣悪を極めて鎌鼬の一撃離脱が絶対である。
「戦果確認は知らん! このまま逃げる!」
「えぇ、お願いします!」
「再度飛べるかわからん。機体が重い。エンジンの調子が悪いかもな」
「片方が生きていれば飛べます。お願いしますよ」
トラック島から約300km離れた北東部に勃発した大海戦はカオスだ。昔ながらのレシプロ機が飛び交う中で新時代のジェット機が切り裂く。海は大荒れだ。米海軍の威信を賭したエセックス級とインディペンデンス級の空母群は日本軍らしからぬ飽和攻撃に包まれる。昼間の時点で大損害を被ったが何とか夜に紛れようと逃避行を開始した。夜になれば真っ当に攻撃できない。
ミッチャーは地獄の昼間を「人生で最も長い1日」と残した。
「わが方の攻撃隊はどうなった! 敵空母を沈めたか!」
「敵空母1隻に爆弾数発を直撃と来ています。雷撃隊は全滅しましたが直撃とも」
「その不正確はなんだ! 何をしている!」
「やはりアマチュアの段階なのです。このレベルの兵士達で太平洋に出ることが誤りです。まだナチスと戦う方が良かった。日本海軍はロシアからイギリスを下しました。我々も打倒の最中にいます」
「スプルーアンスの本隊はなんと言っている。ミッチャーの名において作戦中止を進言する。仮に受け入れられぬ場合も独断で退避するが」
「それが本体も空襲を受けているらしく連絡は途絶しています」
「ここは地獄か…」
続く




