第130話 覚悟の攻撃は通るか
マーク・ミッチャーは連続する攻撃に辟易しながらも覚悟の一手を打った。ベローウッドが大破大炎上し、レキシントンⅡが飛行甲板が破壊される、等々の無視できない被害を受けている。空母多数が健在なうちに攻撃を出し尽くすのだ。
「各空母から出せる攻撃隊を出せ! トラックは後回しだ! 敵空母艦隊を討つぞ!」
敵艦載機が一時退避する隙をついて各空母から攻撃隊を組織させる。艦隊は纏まりを欠いた。今を逃せば二度とタイミングは訪れない。それ以前に空母の中を可能な限りで空っぽにすることで被弾時の二次被害を防止した。第一次攻撃隊は発進させているが、全体で60機程度で余りが多くあり、艦隊直掩のヘルキャットや予備の攻撃機を考える。総数300機を超える大攻撃隊の発進を決めた。
「帰還が夜になる可能性が…」
「構わん! 兵士が無事であればいい! 責任は取る!」
ミッチャーは漢の空母屋と知られる。スプルーアンスのような計算された冷静さは持たず、ハルゼーのような猪突猛進の突撃精神も持っていなかった。しかし、根っからの空母屋として防戦一方を嫌う。
「スプルーアンスの艦隊と合流を急ぐ! 戦艦の盾を寄越せと言え!」
「はい!」
スプルーアンスの本隊と別れたことは悪手だった。戦艦は空母に追従できてボフォースとエリコンの機関砲を満載している。新型信管も相まって攻撃を一切通さないはずだが、何を誤ったのか、戦艦部隊と空母部隊を切り分ける愚行を犯してしまった。もちろん、日本海軍の戦艦部隊が接近中の情報が引っ掛かる。空母を砲撃戦に巻き込むわけにいかなかった。
「罠に嵌ったんだ! 足掻けるだけ足掻く!」
まだ謎の無人航空機の自爆攻撃に晒されているが、低速の機体はヘルキャットが迎撃し、大半は事前に撃墜することに成功している。特に高速の機体に関しては大半が海面に突っ込んだが一部の巡洋艦と駆逐艦に被害が出ていた。空母を守る防空の盾は削れつつある。一刻も早くスプルーアンス本隊と合流したかった。その間も大量のヘルキャットとヘルダイバー、ドーントレス、アヴェンジャーが発見済みの日本機動部隊へ向かう。
「ここで負けても次がある!」
「レーダーが元に戻ります!」
「やはり敵の妨害だったか! 管制を急いで再開させるんだ! 今すぐ!」
ミッチャーの怒声が尽きることはなかった。
「敵機編隊新たに出現! あまりにも高速! 追い付きません!」
「また無人飛行機か! ナチス・ドイツが開発した兵器とは違うのか…」
「ヘルキャット隊を向けるんだ! 司令の指示を待つな! 馬鹿者共が!」
敵の本拠地と雖も波状攻撃に次ぐ波状攻撃に絶叫が響き渡る。これだけの正規空母をかき集めても基地航空隊と敵数個艦隊を相手することは骨が折れるどころでなかった。各艦の各所からジーザスなど悪態が聞かれる。まるで蜂の巣を突いたようだ。
「敵空母を1隻でも沈めるんだ。それだけでも勝機はある!」
決死の攻撃隊は発見済みにして第一次攻撃隊が攻撃中の敵空母艦隊へ向かう。攻撃の途中経過の中で「敵艦隊は退避を放棄して接近しているかもしれない」と入った。日本海軍も決死の防衛に来ている。彼らの闘志を汲み取って正々堂々と真正面から突入した。彼我の距離は明確に縮まっているため鈍足の攻撃機でも1時間もかからずに衝突するだろう。実際に肉眼で遠方に数多の黒煙と白煙が生じている様子を確認できた。
「見つけた! 敵艦隊だ! もはや言葉は要らない! 全機突撃!」
「ジョージ。お前のために1000ポンドの火の弾を食わらせる。」
「ゼロだ! ゼロが来る!」
「俺たちが抑える! 爆撃機と攻撃機は行け! 攻撃を終えたら退避して構わん!」
「ゼロぐらい。ベイビーをあやすよりも簡単だ。任せろ」
「すまない!」
米海軍も意地の猛攻と大量の艦載機が突入を果たす。敵艦隊上空にはゼロだけでなく未確認の新型機も混じった。基地航空隊らしき局地戦闘機まで展開している。島という不沈空母を擁するのだから難攻不落が当たり前だ。これで怯むようなアメリカのヤンキースピリッツではない。ヘルキャット隊がゼロを必死に抑えた。敵戦闘機は手練れらしい。無線機から撃墜された機体のパイロットが残す遺言が聞こえた。
「あのデカブツに叩き込んでやる。1000ポンド爆弾を食らってタダで済む空母はねぇ!」
「敵機後方!」
「敵艦の対空砲火で引き剥がす! ちょっと無茶だが頼むぞ! ヘルダイバー!」
ヘルダイバーことSB2Cは最後の急降下爆撃機である。急降下爆撃に求められる厳しい性能を大柄の機体と大馬力エンジンが解決した。操縦性は最悪を極めている。その代わりに恐ろしく頑丈で20mm弾を貰っても落ちなかった。敵機がパラパラと機銃弾を撒いてくるが無力化して急降下爆撃の姿勢に入る。
流石に味方艦に撃たれては堪らないと戦闘機は離脱した。あとは1000ポンドの徹甲爆弾を叩きつける。空母の飛行甲板は木製だ。仮に装甲板を張っても貫けるかもしれない。また、貫けなかった場合も一時的に発艦と着艦を不能に追いやった。敵空母から攻撃能力を奪うだけでも十分である。もっとも、脆弱なエレベーターなどを狙って内部からの破壊を試みた。
「なんて対空砲火だ。これが日本の空母かよ」
「しかし、ヘルダイバーなら、地獄の底までも…」
「いけぇ!」
「これはジョージの分だ!」
「もう一発詰めたらな…悔やまれるばかりだ」
ガコンと1000ポンド爆弾が大型空母へ解放される。重量物が失われたことでフワッと浮き上がる感覚を覚えた。そのまま機体を引き起こして離脱に移行する。高速で離脱するヘルダイバーを捉えることはできなかった。機体周辺を機銃弾が通過していくが飛行に支障はない。
「ははぁ! 当たったな!」
「間違いありません!」
「ざまぁみやがれってんだ!」
ヘルキャット隊が戦闘機を抑えている間に母艦に戻ろうと考えた。所属する空母でなくとも受け入れてくれる。弾薬庫から爆弾を引き揚げてもらい、いつでも再出撃する覚悟を有したが、新造空母に手を出したことは見逃してもらえなかった。
「機体後方で大爆発!?」
「なっ! 足の感覚がなくな…」
この2人は急速に意識を失ったことが幸いする。一切の恐怖なく機体は海面に突っ伏した。1000ポンド爆弾が直撃したのは確実でも具体的な戦果は知れない。どうやら、知ることも許さなかった。地獄の底まで急降下する罪人に正義の裁きを下したのは他でもない。彼らが標的とした空母のそのものだ。
高角砲と高角機銃の間に設けられる。本当にちょっとした区画で重装備の兵士たちが忙しなく動いた。いかにも重そうな服装をしている。キビキビと周囲の雑音は聞こえないと言わんばかりだった。金属製の円筒が幾重にも並べられた装置が不届き者を撃ったのである。
「噴進弾はすごい。一撃で爆撃機を木端微塵にした。なんて威力を秘めている」
「それ以上に白鳳が耐えてくれた。普通はここまで爆風や破片が届くもんだが…」
「装甲が弾き返したんだ。爆風も装甲に阻まれている」
「白鳳は不沈だ。俺たちが沈ませねぇ!」
「いよっしゃ。再装填いくぞ!」
「おう!」
ヘルダイバーが狙ったのは新造空母の白鳳と判明した。大鳳型装甲空母の二番艦と建造されている。イギリス海軍イラストリアス級同様に飛行甲板を装甲化して急降下爆撃を無力化してみせた。艦橋から歓声が聞こえる。兵士数名が負傷する被害は出ているが戦闘能力は欠片も損なわれなかった。
そして、不届き者を捌いたのは12cm多連装対空噴進砲とわかる。12cmのロケット弾の中に焼夷榴散弾が詰め込まれた。その仕組みから比較的に小型で軽量に収まる。海防艦など小型艦でも無理なく搭載できるため、新造と既存を問わず搭載が進められた。簡便という絶大な利点に反して致命的な弱点もある。短期間で安価に防空を磨くことに適していた。高性能だが間に合わない兵器に比べて優秀と評価できる。
「いつでも来やがれ。爆弾でも魚雷でも何でも持って来い」
続く




